今昔映画館(静岡・神奈川・東京)

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今回は新作の「大統領の執事の涙」を丸の内ピカデリー3で観てきました。原題は「the butler(執事)」なのですが、「大統領の」をつけるのはまだしも、「涙」をつけるセンスは何だか田舎くさいよなあ。

1920年代の綿花畑で両親と働いていた少年セシルは、農場主に母親を犯され、父親を殺されますが、女主人の口添えでハウスニガー(家内召使)となりますが、年を経て、そこを出て、流れ着いた先のホテルのボーイとなります。そこでの働きがホワイトハウスの人間に認められ、セシル(フォレスト・ウィテカー)はホワイトハウスの執事として働くようになります。そのころには妻グロリア(オプラ・ウィンブリー)と二人の息子を持つ一家の主となっていました。彼は政治に興味を示さないように努め、歴代の大統領に仕えていきます。しかし、長男のルイス(デヴィッド・オイェロウォ)は、そんな白人に仕える父親に反発し、黒人の権利獲得の政治運動に積極的に参加します。何度も逮捕拘留されるルイスですが、セシルはそんな息子との壁を作ってしまっていました。家庭を顧みないセシルに、一度は酒に溺れることもあったグロリアですが、年を経て、夫婦の絆は強くなります。次男のチャーリーはベトナム戦争に志願し、帰らぬ人となります。そして、セシルがホワイトハウスを去る日、ルイスとの確執が消える時が来るのでした。

1950年代から80年代に8期の大統領に仕えた黒人執事がいたという事実に基づいて、テレビで実績のあるダニー・ストロングが脚本を書き、「プレシャス」「ペーパーボーイ」のリー・ダニエルズが監督しました。事実にインスパイアされた物語と冒頭に出るところから、セシルの生涯はフィクションなのでしょう。一人の黒人執事に人生を描くことで、黒人差別、公民権運動といった、アメリカの負の歴史にスポットライトを当てようとしているのが伺える構成でした。そこに、父と子の確執のドラマを据えて、人間ドラマとしても見応えのあるものになっています。

冒頭、綿花畑で働くセシルと両親が登場し、農場主によって母親が小屋に連れ込まれ、出てきた農場主に声をかけた父親は、即座に射殺されてしまいます。それを不憫に思った農場主の母親が彼を屋敷勤めのハウス・ニガーにするところから物語は始まります。ドラマは、ホワイトハウスに職を得たセシルが淡々と職務をこなしていく一方で、世界が劇的に変化していく様子が描かれます。その揺れ動く世界の側に、セシルの息子ルイスが身を投じていくことで、自由を得ようとする黒人と、それを陰で支える黒人という構図が見えてきます。歴史の描き方としては、表層をなぞっていくレベルでしかないのですが、30年に渡るアメリカの現代史を2時間強にまとめようとしたら、そうなるのも致し方ないというところでしょう。映画の中で、「アメリカは、他国の歴史を叩くのに、自分の負の歴史から目を背けている」と語られますから、この映画の観客がアメリカの負の歴史にも目を向けてくれることを、作り手は期待しているのだと、私は解釈しました。シットイン運動、ブラックパンサー党、フリーライド運動といったキーワードに観客が興味を持って、より深く調べて、アメリカの歴史をより理解するためにこの映画を作ったというのは、うがちすぎでしょうか。

制度としての黒人差別から、それに否を唱える黒人や白人がいて、その行動が不当に弾圧されたのだと、この映画は描いています。最初は先鋭的な活動だったのが、だんだん多くの人の支持を人種を超えて集め、それが大きな力になってくると、より大きな弾圧として跳ね返り、その大きな動きと怒りが政府を動かすまでになっていくという過程がわかりやすく描かれています。公民権運動は、キング牧師暗殺がピークであったかのような描き方をされていまして、その後、より攻撃的なブラックパンサー党が登場すると、ルイスは最初は参加しているものの、その攻撃的な姿勢についていけずに去っていくという見せ方になっています。これは、いわゆる大衆の支持がキング牧師までは得られていたのが、マルコムXやブラックパンサー党まで行くと、大衆が離れて行ったということを現しているのか、それともそれがいわゆるリベラルの価値観なのか、アメリカにくわしくない私には判断がつかなかったのですが、白人との共存という前提を否定するような主義主張には、支持がつかなかったという見せ方になっています。

ルイスのように、白人政府に対決を挑む運動をする黒人がいた一方で、白人に仕える形で、白人にその有能さを知らしめ、黒人の地位を向上してきたセシルのような黒人もいました。この映画では、そういうセシルのような黒人を称賛する立場をとっていますが、それだけでは、黒人大統領は生まれなかったでしょうから、この映画が、黒人からどの程度の支持を得られたのか興味あります。ラストで、ルイスは議員となっていますから、公民権運動の延長で政治活動を続けたということになるのでしょう。その一方で、執事としての仕事を勤め上げたセシルが黒人大統領の誕生を心から喜び、オバマに会いに執務室へ向かうところがラストショットとなります。親と子の対照的な歴史への関わり方、その両方を肯定的に描いて、お話をまろやかにまとめたのは、賢明な結末だと思いました。どちらからも、学ぶべき歴史があるのでしょうから、どちらにも肯定的な興味をひくような作りは正解なのでしょう。アメリカの現代史への入門編として、楽しむ映画として、この映画はお値打ちあると思いました。

歴代の大統領が実名で登場しますし、名前の知られた俳優が多数登場する、最近の映画では珍しいオールスターキャストともいうべきメンツが顔を揃えています。顔出し出演的な登場が多いのですが、そんな中では、主人公の執事仲間を演じた、レニー・クラヴィッツ、キューバ・グッディングJrの好演が光りました。主演のフォレスト・ウィテカーは、いつものような人の良いキャラとは一線を画す、頑固な執事ぶりを熱演しています。

リー・ダニエルズの演出は大河ドラマの総集編のようなつくりの映画にきちんと主人公のキャラを作りこむことに成功しています。歴代の大統領役にロビン・ウィリアムズなどの有名どころが登場しますが、これはドラマの印象を少々散漫にしちゃった感がありました。大統領の執事なので、大統領が登場するのは仕方ないですし、それによって、当時の政策が明確にもなったのですが、執事の日々がすごく華やかに映ってしまったのです。ホントはすごく地味な仕事だったでしょうし、縁の下の力持ち的な意義があったと思うのですが。

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長い期間をかけて変わっていった黒人差別の歴史を父子の違った立場から見ているのが凄く面白かったです。
個人的には、働く黒人の立場の向上に尽力したという以外の、セシルの仕事ぶりも見たかった。
ま、見終わってみるとそこは監督の主眼ではなかったと気づくところですけど。
TBさせてくださいね。

2014/3/4(火) 午前 11:18 pu-ko 返信する

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pu-koさん、コメント&TBありがとうございました。この映画、黒人の歴史はあくまで表層をなぞっただけで、メインは父と子の確執だったというのが意外でした。私ももう少しセシルがホワイトハウスでどういう仕事をしたかったのか見たかったのですが、そこはどう見せても退屈になっちゃうからはぶいちゃったのかなあ。給仕するシーンしかないんですものね。

2014/3/4(火) 午後 8:04 [ einhorn2233 ] 返信する

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>「涙」をつけるセンスは何だか田舎くさいよなあ。
には笑わせていただきました。(笑)確かに涙はいらないような。。^^;
いろいろな意味でアメリカ現代史の一角が垣間見えて面白かったです。
キャストもサプライズ的だったし。(笑)
しかし、やはりアメリカという国は大変ですね。日本人にはわからない苦悩がたくさんありますよね。
遅くなりましたがTBさせてくださいね。

2014/3/6(木) 午後 11:24 choro 返信する

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Choroさん、コメント&TBありがとうございます。確かにアメリカは色々なものを抱えていますよね。でも、ネイティブ・アメリカン、南北戦争、黒人差別と、国の中で対立する歴史は、日本でも蝦夷や琉球征伐、戦国時代、朝鮮人差別など似たようなものがあります。そうは違わないと思うのに、どこかが違うところはどこから来るのかなって思うところあります。

2014/3/7(金) 午後 8:21 [ einhorn2233 ] 返信する

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ほぼ同時期に黒人を主人公にした作品が公開され、違う視点からアメリカの差別を垣間見ることができました。
国の中枢であるホワイトハウスでもつい最近まで人種間での格差があったのですね(小さいことが気になってしまいました)
ケネディ辺りからは見知った大統領でしたから、それも興味深く観ることができました。
TBさせてくださいね。

2014/3/18(火) 午後 2:52 アンダンテ 返信する

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アンダンテさん、コメント&TBありがとうございます。人種差別を扱った映画が続けて出てくるのは、ある意味ブームなのかもしれませんね。1970年代の黒人ムービーがたくさん作られた時期がありましたけど、あれも社会の流れの一つだったようです。今は、アメリカが保守化しているようですから、黒人層も保守層に取り込もうとしているのかなって気もしちゃいました。

2014/3/18(火) 午後 11:21 [ einhorn2233 ] 返信する

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黒人執事の目線でアメリカの激動の時代と人種差別問題を描いた設定が興味深かったし、これが実話というのも知っていましたが振り返ると素晴らしいなって思いました。
キャストが豪華でしたね〜!
TBお願いします!

2014/5/17(土) 午前 0:23 かず 返信する

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かずさん、コメント&TBありがとうございます。豪華キャストで描かれたアメリカ現代史として見応えがありました。主人公の立ち位置が白人を意識しすぎているような気もしたのですが、白人と対立しない一つの生き方ということになるのでしょうね。

2014/5/18(日) 午後 0:28 [ einhorn2233 ] 返信する

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