今昔映画館(静岡・神奈川・東京)

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今回は新作の「記憶探偵と鍵のかかった少女」を109シネマズ川崎8で観てきました。ここは予告編が始まるところで、「これから予告編、本編の上映です」という画面が出るのは、ダラダラ始まるTOHOシネマズよりマル。

ジョン(マーク・ストロング)は他人の記憶の中に入りこんで、それを目撃することができるという能力を持っていまして、そういう能力を持った人間が集まったマインドスケープ社で数々の事件を解決に導いてきました。しかし、彼は妻が自殺してから、他人の記憶の中にいるとき、妻の死の記憶が混濁するという事故を起こして、仕事を控えていました。金に困ったジョンに、上司のセバスチャン(ブライアン・コックス)が肩慣らしの楽な仕事ということで、拒食症の少女の原因を見つけて解決するという案件を紹介してきます。その16歳の少女アナ(タイッサ・ファミーガ)は、母ミシェル(サスキア・リーブス)と継父ロバート(リチャード・ディレイン)と森の中のお屋敷に住んでいて、最上階の部屋に監視カメラに囲まれて監禁状態でした。それまでに自殺未遂をやっていて、刃物類は彼女の手に届かないようにしているんですって。ジョンが話しかけてみれば、アナはなかなか博識で、そして頭の切れる女の子であることがわかります。ジョンはアナとのセッションを行い、彼女の記憶に入り込むことにします。彼女の過去の記憶に遡ってみると、幼少から、継父からの虐待、そして彼の家政婦との浮気、母との事故による刃傷沙汰、学生時代に受けたいじめなどの記憶が見えてきます。そして、セッションが終わった後、彼女は食事を取るようになります。しかし、看護婦のジュディス(インディラ・バルマ)が階段から突き落とされて、それがアナがやったことになっていて、両親はアナを施設に入れようと言い出します。アナはこれは母親の財産を狙う継父の仕業で、ジョンに施設に送られないように助けてくれといいます。そして、再度彼女の資料をチェックしてみれば、意外なアナの過去が判明してきました。果たして、ジョンはアナを救えるのでしょうか。

スペインのホルヘ・ドラド監督がガイ・ホームズの脚本を演出したSF風ミステリーの一編です。スタッフはスペイン人が多く、演技陣はイギリス人が多いという不思議な編成による英語の映画です。他人の記憶の中に入り込むというのは、私にとってはなかなかそそる設定で、結構期待してスクリーンに臨みました。他人の記憶を引き出すというと、催眠状態で時間を遡る逆行催眠というのが現実にも存在します。本人が無意識に抑圧していた記憶を引き出す効果があるということで、幼児期のトラウマとかUFO誘拐の記憶を呼び戻すということで結構有名になりましたが、その催眠状態での質問の仕方や誘導のより、偽の記憶が作られてしまうことがわかってきて、逆行催眠によって導かれた記憶は裁判など公式の場では有効ではないということになったのだそうです。催眠状態での会話から導かれる記憶は、その質問者と当事者の会話の中から共同作業で作られた物語である可能性が高いんですって。それでなくても、記憶というのは意外と当てにならないものでして、ある事件に遭遇した複数の目撃者が違う発言をするというのは、模擬実験で証明されているようです。私も、自分の過去の記憶なんてあてにならないなあって思ってるところありますもの。

そんな、当てにならない記憶の中に入って、過去を目撃しようというのが記憶探偵なんですって。ところが映画の冒頭のセッションで、ある事件の記憶の中に、ジョンの妻の自殺の記憶が入り込んできて、セッションは失敗しちゃいます。主観的に考えて当てにならない記憶を、客観的に目撃する記憶探偵のセッションの中だって、観察者である記憶探偵の記憶が入り込むことがあるというかなりあやふやな世界なんですよ。そういうかなり精度の低い記憶探偵ではあるのですが、自殺癖のある少女を救うくらいのお役には立てそうというか、カウンセリングの技術の一つとしてはありかなって感じなんです。映画では、記憶探偵の精度とか限界といったものは描かれないのですが、結局、記憶は意思の力で変えられるというお話になっているのは、面白いと思いました。それって、記憶探偵の前提を揺るがせるものでして、ミステリーとしては反則だとは思うのですが、記憶の持つあやふやさへ話を落とし込むのは、不思議発見的なお話だと言えましょう。ただ、論理的なミステリーを期待すると、「え、それで終わり?」という印象を持ってしまうかもしれません。

ジョンは「私を助けて」というアナにだんだん感情移入していきます。彼女の資料によると、学生時代、3人の同級生の殺人未遂を起こしていました。アナとの再度のセッションで、アナが3人の同級生にいじめられ、そして、アナの目の前で紅茶を飲んでいた3人が血を吐いてのたうちまわる記憶がよみがえってきます。彼女の記憶では、その犯人はマウシーというニックネームの友人だったというのですが、そんな生徒は存在しなかったらしいのです。また、アナの半裸写真を撮って、誘惑したという教師が淫行で刑務所に入れられていました。教師は面会に来たジョンに「あの女は悪魔だ」と言い切ります。アナの本性は結構怪しいところが多いのですが、ジョンは幼少時の彼女に同情的になっているのか、何とか彼女が施設に送られるのを阻止しようとします。しかし、ジョンの周囲に謎の男が現れ、彼を監視しているようなのです。さらに上司のセバスチャンまで、アナの記憶に登場して、周囲の人間みんなが怪しく思えてくるのでした。また、自分の周囲で、邸に閉じ込められている筈のアナを目撃するようになり、謎がますます深まっていきます。

アナの記憶を遡ることを重ねるにつれて、ジョンはだんだんアナに感情移入していきます。少女にはまったという表現がしっくりくるという感じです。そのあたりのちょっとアブなげな感じを、マーク・ストロングが好演しています。「ワールド・オブ・ライズ」「キック・アス」「裏切りのサーカス」などで脇役として印象的な演技を見せてきたストロングですが、この映画で、主演を張れる役者さんだと再認識させました。脇役の時のインパクトキャラとは違う、繊細なおっさんぶりがうまくはまりました。いや、ホントに繊細なおっさんなんですよ、このジョンという男。そんなおっさんを翻弄するアナを演じたタイッサ・ファーミガはつかみどころのない少女を巧みに演じてみせました。どこか存在感が希薄な感じもするし、ものすごいキレ者にも見えるサラという少女が、ジョンと観客を最後まで翻弄するのです。シネスコサイズの映画ですが、映像がフィルムの粒度を感じさせるのが、最近の映画では珍しいなと思っていたら、フィルムで撮影されているのですって。そんなところが気になるようになってきたところは、私もデジタル映像になじんじゃったんだなあ。



この先は結末に触れますのでご注意ください。



結局、アナの記憶から、彼女の潔白を引き出せなかったジョンは、彼女の両親に「閉じ込めるのはオススメしない」という助言するのが精一杯で、アナの仕事を終えることになります。その夜、ジョンにアナから電話がかかってきます。ただならぬ様子で「すぐ来て」。ジョンは急いで彼女の家に向かうと、アナの部屋のドアは開いており、邸の監視ルームに入ったジョンはそこに閉じ込められてしまいます。監視画面には、アナの両親が倒れている姿と逃げ出すアナの姿が映り、ドアを蹴破って、彼女を追うと、アナはジョンを抱きしめて「ごめんなさい」とつぶやくと姿を消し、そこへ現れた警察によりジョンは逮捕されてしまいます。容疑はアナの両親に毒を飲ませた殺人未遂と、アナを殺した殺人罪。ジョンが邸に着く前に、アナは「ジョンに殺される」と警察に電話していたのでした。それきりアナは消息不明となります。そして、画面が変わって刑務所になり、ジョンとジョンの記憶をたどっていた記憶探偵ピーター(ノア・テイラー)が映し出されます。これが、事件に関わる記憶の全てだとジョンが言います。ピーターが言うには、アナはジョンとのセッションを逆用して、ジョンにアナの作り出した記憶を目撃させ、さらにジョン自身の記憶も操作していたようなのです。そして、ジョンを監視していた謎の男とは、ジョンの記憶を目撃していた記憶探偵のピーターだったのです。そして、アナはジョンに花と手紙を贈ります。ジョンは、何となくいい雰囲気になっていた看護婦のジュディスの部屋を訪れると暗転、エンドクレジット。

ラスト近くで、卒業アルバムを見ていたジョンは、アナが言っていた友人のマウシーの顔を発見しますが、それはマウシーではありませんでした。結局、マウシーという友人はアナが記憶の中に勝手に作りこんでいた架空の女性だったのです。また、ジョンを監視していた謎の男は、ジョンの記憶を監視していたもう一人の記憶探偵だったのです。でも、実際の過去には記憶探偵がいるわけではないのですから、この映画でそれまでの物語がジョンの過去(記憶)であったことがわかると、ジョンの記憶はすごくあやふやで不確かなものだとわかってきます。つまり、この物語がジョンの過去だとわかった時点で、矛盾が生じ、ジョンの物語の信憑性はメチャクチャ下がるのですよ。本当の過去なら、謎の監視者なんていないわけですから、監視者の存在に気付いて、周囲を疑ってかかるジョンの行動は、もう歪められた過去だということになります。つまり、理詰めに駒を進めてきた筈のドラマが根底から覆っちゃうのですよ。アナは本当に邸に閉じ込められたとしたら、ジョンの周辺に現れたアナは何者なのかという問いも、どっちかの記憶が作られたものかもしれないということになれば、もう何でもありのお話になっちゃうわけです。(何か理屈っぽくて、かつ読みにくい文章になっちゃってすみません。言いたいところが伝わっているかしら)ミステリーのように駒を進めてきたら、実はゲーム盤が壊れていましたという結末は、ミステリーを期待した観客をうっちゃったと言われて仕方ないでしょう。でも、それくらい記憶というのは、詳細まで完全に復元するのは難しい、人の記憶なんて当てにならないよというお話だと思えば、結構いいところ突いてる、面白い映画ということもできます。

過去を再現する手段として、記憶ってのはかなり弱いツールで、これに頼るってのはリスクが高いってのが伝わってくる映画です。ジョンはアナを信じて救おうと奔走するのですが、信じる根拠が彼女の記憶だったところに足元をすくわれてしまったようです。結局、ジョンは目撃した他人の記憶を疑ってかかることを怠った結果、騙されてしまったということになります。それって、手の込んだ手品を目撃して、それを魔法だと信じ込んじゃうというのと似たところがあります。「自分のこの目で見たら信用する、それまでは信用しない」とか「百聞は一見にしかず」とか言うのは、慎重なように見えて、実は結構危ないのかもしれません。「自分が記憶に騙されるわけはない」という、ある意味、思い上がりがジョンにはあったようです。

閉じる コメント(6)

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記憶は確かなものではなく、本人の希望的観測(過去に対しても)に左右されるのは、凄く判ります。でも、それを操れるというのは、お話の世界ですね。
全てが計算されていた・・・でも、アナが最後に仏心を見せたのが救いだったかも。
TBさせてくださいね。

2014/10/19(日) 午後 10:25 アンダンテ

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アンダンテさん、コメント&TBありがとうございます。記憶というのが本人の意思で左右されるということは、他人によって操作される可能性もあるということで、記憶ってのはずいぶんはかないものだなあって印象でした。

2014/10/20(月) 午後 7:02 [ einhorn2233 ]

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あ〜、なるほど、なるほど!
コレを読んでやっと理解出来た気もします。
結局アナは自由になりたかっただけなんでしょうかね〜。
学校の同級生達については、お気の毒としか言いようがないですね(;´Д`)
TBさせてくださいね。

2014/11/8(土) 午後 7:57 木蓮

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もくれんさん、コメント&TBありがとうございます。基本的に記憶が真実だというところがすごく怪しいので、この記憶探偵という商売は結構危ない橋を渡る商売なんだと思います。特に、記憶探偵が相手の記憶を信じ込んじゃいけないんですよね。その記憶のあやふやさにもっと突っ込んでくれるとよかったと思いますです。

2014/11/11(火) 午後 6:03 [ einhorn2233 ]

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納得。その「記憶のあいまいさ」が主題だったとしたら、確かに面白映画だったと言えますね。
頑強な印象のマーク・ストロングを起用したのも正解だと思います。
TBさせてくださいね。

2014/11/30(日) 午前 0:26 pu-ko

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pu-koさん、コメント&TBありがとうございます。この映画、観終わって思い返してみると、隅から隅まで(映画としての)ホントかどうか怪しいんですよね。その怪しさからすると記憶探偵という商売がものすごく胡散臭いというか、設定がそもそも怪しいような。このお話、記憶探偵というアイデアで作り始めたはいいけれど、出来上がったら、「こんな筈じゃなかった」ってものに仕上がっちゃったのかも。

2014/11/30(日) 午後 5:24 [ einhorn2233 ]

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