今昔映画館(静岡・神奈川・東京)

やっと書き込み再開します。本年もよろしくお願いいたします。

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今回は川崎の川崎チネチッタ9で「家へ帰ろう」を観てきました。久しぶりに来たら、パンフレット売り場がサンドウィッチ屋になっていて、パンフレット買いたきゃ、外のショップに行けってことになっちゃってました。何だかむっとしたので、ショップのお姉さんに不愛想になっちゃいました。お姉さんは悪くないんだけどね、

ブエノスアイレスに住む仕立屋のアブラハム(ミゲル・アンヘラ・ソラ)は、かつてのホロコーストの生き残りです。老人ホームへ行くことになった前の晩、荷物をまとめ、一着のスーツを持ってヨーロッパへ旅立ちます。行先は、かつて少年の自分が住んでいたポーランドのウッチという都市。でも、アブラハムにとってポーランドはその国名を口にすることすらはばかられる遺恨の土地です。直接、ポーランドへ行く航空便のチケットが手に入れられなかったアブラハムは、とりあえずスペインへ向かい、そこから陸路でポーランドまで行こうとするのですが、マドリッドで泊まったホテルで持ち金全部を盗まれてしまいます。途方に暮れる彼ですが、スペインに住んでいる娘を頼り、そこで1000ユーロを借りて、列車でパリへ向かいます。でも、その先のドイツはどうしても通りたくない。パリの駅で知り合ったドイツ人の文化人類学者が彼のことを気にかけてくれます。彼女の真摯な態度にドイツに対する頑なな気持ちがちょっとだけ揺らぐアブラハム。彼が会いに行こうとしているのは、終戦時、収容所から逃げてきたアブラハムを、家に入れて介抱し、アルゼンチン行きの金を渡してくれた幼馴染ピオトレックでした。もう70年も音信不通だった友人に、アブラハムは再会することができるのでしょうか。

アルゼンチンのパブル・ソラルスが、彼の聞いた実話をもとに脚本を書き、メガホンを取りました。ブエノスアイレスに住むユダヤ人の老人が、老人ホームに入れられることになるのですが、その前日に、彼は自分がかつて住んでいたポーランドへ旅立つのです。ポーランドは、ナチスドイツに侵攻された被害者側の国である一方で、ドイツのホロコーストに加担したという加害者の顔も持っています。ポーランドに住んでいたアブラハムの家族は収容所送りになり、彼らの家は、使用人だった男のものにされてしまいます。命からがら自分の家に逃げ帰った18歳のアブラハムですが、使用人だった男に追い出されてしまうのですが、その息子のピオトレックは自分の部屋に彼をかくまい、アルゼンチンに住んでいたアブラハムの叔母の手紙といくばくの金を渡して、彼を送り出してくれたのです。ドイツもポーランドも口に出すのもはばかるアブラハムですが、幼馴染のピオトレックに、自分の仕立てたスーツを持って会いに行こうと思い立ったのでした。

第二次世界大戦を扱った映画が、記録映画、劇映画含めて、最近よく見るようになりました。当時を知る人が年齢的に限界がきているってことがあるのでしょうけど、この映画も現在を舞台にして、ホロコーストの傷跡を描いているという点では、「手紙は知っている」と通じるものがあります。主人公がホロコーストの生き残りの老人という点でも同じですしね。この爺さん、結構いけすかないところもあるし、老いから来る頑固さみたいなのもあるし、あんまり同情を誘うタイプではありません。病魔に侵された右足は切断するように医者から言われているし、そんな足を引きずって、アルゼンチンからポーランドまで一人で旅をしようというのですから、なかなか大変。でも、この映画では、自分の娘はともかく、たまたま出会った3人の女性が、彼を助けてくれるのですよ。旅の中で、そういう人に一人でも出会えたら、現実世界ではものすごく幸運なことだと思うので、立て続けに3人もの親切な人に出会って、旅を助けてもらえるというところが、映画の魔法という感じなんです。そうなるとファンタジーっぽいお話なのかと言うと、これが70年もトラウマを引きずってきた主人公のヘビーなドラマということになります。

映画のストーリーだけ言うと、老アブラハムが過去のトラウマのある土地ポーランドに旅をするというだけというシンプルなもの。その間にお金を盗まれたりといったトラブルや、過去のフラッシュバックに悩まされたりするという展開です。ストーリー的には、展開はあまりなくって、淡々としているのですが、脚本、監督のソラルスは、70年前のホロコーストの傷に悩まされる人がいるということ、そういう人たちのトラウマの深さを見せるのがメインという感じなんです。ですから、自分の命の恩人である友人に会うという部分は割と淡泊に描かれています。でも、ポーランドという言葉を口に出すことも拒否、ドイツを通過するのも絶対やだという頑ななじいさんの心の傷は、日本の戦争を生き延びた人の証言ドキュメンタリー映画には見られなかったもので、私には発見がありました。一方で、今の若い人々は、戦争やホロコーストを恥ずべき歴史としてある程度客観的に捉えているので、アブラハムの頑なさにはついていけないものがあり、旅先で孤立してしまうのですが、そこに前述の3人の女性が彼の痛みを受け入れて、助けてくれるのです。まあ、そういう人がいなかったらアブラハムはポーランドまでたどり着けなかったでしょうから、そのあたりが映画にファンタジーの味わいを加えていると言えましょう。

ミゲル・アンヘラ・ソラは、頑固で金にこだわるユダヤ人のアブラハムを飄々と演じています。個人的にはあまりお近づきになりたくないじいさんなのですが、そのじいさんの過去がわかってくると、恩人に会えるといいなあって思わせる演技が見事でした。後半はすっかり感情移入しちゃいましたもの。後、フェデリコ・フシドのオーケストラによる音楽がすごくいいのですよ。淡泊な展開のドラマをぐっと盛り上げるのですよ。ラストなんかは、半分は音楽のパワーで心揺すぶられて泣かされちゃいました。でも、サントラCDは出てないみたいなのが残念。



この先は結末に触れますのでご注意ください。



ドイツ人の文化人類学者の女性は、着るものを駅のホームに並べて、アブラハムがドイツの土地を直に踏まないように気遣ってくれます。そんな彼女のやさしさに、自分の足でドイツの土に足を踏み入れるアブラハム。そして、ポーランド行きの列車に乗るのですが、そこで過去の記憶がフラッシュバックして倒れてしまいます。気がつけばポーランドの病院のベッドの上にいたアブラハムに、看護婦の女性は、医師の進言で足を切らないようにしたことを伝えます。そんな彼女にこれまでの経緯を話して、恩人の町まで連れて行って欲しいと言うと、彼女は彼を車でその街まで連れて行き、恩人の住んでいた家を一緒に探してくれます。何とか路地の奥のその住所にたどり着くのですが、ドアホンを押しても答える人はおらず、近所の人も良く知らないみたい。アブラハムはかつて住んでいた家の地下室の入り口を見つけてそこへ行くと、上の窓の向こうにミシンを操る老人がいました。二人は目が会い、お互いが誰かを認識します。外に出てきた老人は幼馴染で恩人のピオトレックでした。抱き合って再会を喜ぶ二人。ピオトレックはアブラハムに「家へ帰ろう」と言い、家の中へ入っていく二人。路地奥からカメラが段々と引いていって、暗転、エンドクレジット。

ラストはどう処理するのかと思ったら、幼馴染が健在で、感動の再会というのは、かなりベタなんですが、そこに至るまでに、アブラハムに感情移入しちゃってるので、ああ会えてよかったと素直に泣かされてしまいました。(前述のように音楽の力も大きいのですが。)ホロコーストという過去があって、その過去が70年もその人の人生に影を落としているというヘビーなテーマを持った映画だけに、後味くらいはよくしないと、観客の心を惹きつけらないってところもあるんでしょう。やはり、これでアブラハムを放り出しちゃったら映画そのものの評価が変わっちゃいますもの。そういう意味では、エンタメ度を増したことで、現代につながるつらい過去を知ることができるけど、とっつきのいい映画に仕上がっています。ホロコーストについての映画は色々ありますが、こういう切り口もあるんだということで発見もあって、オススメしたい映画です。

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失礼しますよ

加害者は、臭いものに蓋
被害者は、声が届かない状況、あるいは、逆に強硬な大声
アブラハム世代の歪みが、子供世代の無知とネオナチなど生んだと思います

それでも負の遺産を封印せず語り続ける事で
実感無いものの他人事じゃないと考える理解力持つ孫世代以降が生まれるんでしょうね
実際、ベルリンの壁崩壊以降でしょうけど
ドイツが子供をポーランドまで修学旅行に行かせたり
ドイツと周辺国の共同で歴史教科書作ったり
完全無欠は難しいながら努力が見られますから

2019/1/27(日) 午後 9:41 mathichen 返信する

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mathechenさん、コメントありがとうございます。この映画も負の遺産を語り継ごうとするドイツ人も登場しますけど、その人でさえ、主人公の頑なさには困ったなあって感じになるあたり、当事者感を語り継ぐのは難しいんだろうなあって思わせる映画でした。

2019/1/27(日) 午後 10:03 [ einhorn2233 ] 返信する

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戦後70年となり、現存の被害者を描くのも限界に近くなってきましたけど、やはりホロコースト関連の映画には食指が動きます。
音楽がいいとなると余計に観たいです。

2019/1/31(木) 午後 10:57 pu-ko 返信する

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pu-koさん、コメントありがとうございます。ホロコーストも大東亜戦争も、それを直接知る人がいなくなっていくことで、政治的、意図的な修正が発生する可能性が出てきたと思ってまして、この映画のように頑なにドイツやポーランドを否定する人生を送った人がいたということも、歴史に記録されないところで風化しちゃいそうだなあって気づかされる映画でした。

2019/2/3(日) 午後 9:03 [ einhorn2233 ] 返信する

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実体験をした人にしか本当の痛みはわからないとは思います。でもそれを伝えよう、理解しようと思うことでしか後世には残していけないです。様々な手法で伝えるとしたら本作もとても意味があると思えました。
TBさせて下さいね。

2019/2/4(月) 午前 11:06 アンダンテ 返信する

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アンダンテさん、コメント&TBありがとうございます。こういう映画を作っておくというのは、確かに意味があると思います。ドイツがポーランドに侵攻したとか、アウシュビッツで何人殺したということは歴史として明文化されやすいのですが、こういう老人がポーランドという言葉を使いたくない、ドイツの領地に足を踏み入れたくないなんて感情はなかなか記録に残りにくいと思いますもの。日本だって、終戦直後の「戦争は二度とごめんだ」という感情が、明文化されずに何となく消え去ろうとしているのと同じようなことなのかも。

2019/2/4(月) 午後 8:06 [ einhorn2233 ] 返信する

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