今昔映画館(静岡・神奈川・東京)

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今回は新作の「天才作家の妻 -40年目の真実ー」を、有楽町の角川シネマ有楽町で観てきました。以前、シネスコサイズの映画をビスタサイズの画面のままで上映していて、もうここは来ないと思っていたのですが、この映画はあまり上映館がなくて、仕方なく足を運んだのですが、シネスコサイズの映画は、きちんとシネスコサイズの画面で上映するように戻っていて一安心。渋谷のル・シネマや恵比寿のガーデンシネマはどうなってるのかなあ。

有名な作家ジョゼフ・キャッスルマン(ジョナサン・プライス)はスウェーデンからの電話に起こされます。そして、寝起きの彼にノーベル文学賞受賞の一報が届きます。妻のジョーン(グレン・クローズ)と共に受賞を喜ぶジョゼフ。二人は息子のデビッド(マックス・アイアンズ)を伴って、授賞式のためにストックホルムへと向かいます。行きの機中で記者のナサニエル(クリスチャン・スレーター)が声をかけてきますが、ジョゼフは伝記を書かせるつもりはないと追い返します。息子のデビッドは小説家なんですが、偉大な父親からきちんと認められていないのが不満みたいです。もともと、妻子持ちの教授と生徒の関係だった、ジョゼフとジョーンですが、恋に落ちた二人は結婚し、その後、ジョゼフの小説が売れて、一躍、現代文学の第一人者と呼ばれるようになったんですって。もともと物書き志望だったジョーンですが、当時の女流作家がまともな扱いをされない時代だったということもあって、ジョゼフの妻としてずっと彼を支えてきたのです。でも、ジョゼフは女癖がよくなく(そもそも、妻子がいたのにジョーンにちょっかい出したし)、ジョーンとの結婚後も何度も浮気を繰り返していたのですが、それをジョーンは耐えてきたのでした。それでも、ジョゼフはジョーンを必要欠くべからざる存在として認めていて、彼女も夫を愛していました。一人でホテルを出て行こうとしていたジョーンにナザニエルが声をかけ、バーへ飲みに誘います。伝記を書きたいナザニエルはジョーンに色々と聞き出そうとしますが、核心をはずして、うまくやりすごすジョーンですが、ナザニエルはジョーンにとんでもないことを言い出すのでした。

アメリカの作家メグ・ウォリッツァーの小説を、テレビの脚本で実績のあるジェーン・アンダーソンが脚本化して、スウェーデンの舞台・映画の監督であるビョルン・ルンゲがメガホンを取りました。文学者であるジョゼフとその妻ジョーンが、ノーベル文学賞の授賞式でストックホルムに行き、そこで起こる事件を描いたドラマでして、何年も連れ添ってきた夫婦の会話を中心に展開するドラマは、夫婦の間の秘密を軸にして、ミステリアスに、そしてスリリングに展開していきます。これが、大変面白くて見応えのある映画でした。主演の二人、特にグレン・クローズの演技がすごくて、色々と想像の膨らむラストまで、一気に観客を引っ張っていきます。一応夫婦愛はあるんですが、その先の想いの部分の見せ方はスリラーのようでもあり、クライマックスなんてゾクゾクするものがありましたもの。

映画の冒頭では、二人の関係は長年連れ添った夫婦として、そこそこ良好のように見えます。ノーベル賞受賞にはしゃぎ気味の夫に対して、冷静な妻ではあるんですが、あくまで夫を立てる妻のポジションであり続けます。それはストックホルムについてからも同じで、特には折り合いのあまりよくない夫と息子の間に入ったりといった良妻賢母ぶりを見せます。夫のジョゼフは、文学者としては立派なんでしょうけど、妻のジョーンが一緒でないとどこか心細く感じるところがあるようで、そんな夫にジョーンはうまく合わせているようです。若い頃は調子こいていたダンナが、年を取ったら、何だか頼りなくなって奥さんに依存しちゃうなんてのは、日本だとありがちな気がしてたのですが、アメリカの夫婦もそういう感じになるのかなってところが面白いと思いました。そこには夫婦の力関係みたいなものがあって、すごく社会的に立派な夫ではあるんですが、夫婦間でのステータスは実はそんなに高くないみたいなんですよ。そのあたりを、説明的にならずに、普通の日常会話のレベルから垣間見せるルンゲの演出は見事でして、その演出に応えたプライスとクローズの演技も素晴らしかったです。

妻のジョーンからしてみれば、過去の経緯から色々とたまっていたものがあったようで、そのイライラがノーベル賞の受賞で爆発しそうになるというお話なんですが、それまで夫婦関係はそこそこうまく続いてきたみたいなんですよ。何度も浮気を繰り返すダンナにそれを許してきた妻みたいな関係があったんですが、そこにずっと溜まっていたものが両方にあったらしいってことが後半わかってきます。奥さんが主人公の映画なので、お気楽なダンナだよなあってイメージが強いのですが、ダンナにはダンナなりの鬱屈があったということも見えてきます。だからって、浮気の言い訳にはならないから、やっぱりダンナに分が悪いのかな。ともあれ、長年ずっと当たり前のように続けてきた関係が、ノーベル賞受賞というビッグなイベントをきっかけに堰が切れてしまうのです。ノーベル賞受賞式までの数日間というドラマの中で、二人の積み上げてきた人生を垣間見せるという構成が成功していまして、要所要所に挿入される回想シーンも含めて、舞台劇を見るような濃密なドラマに仕上がっていて、見応えがありました。映画館でじっくり腰を据えて観て楽しむ映画だと思いますので、できるだけ劇場で鑑賞することをオススメしちゃいます。

ルンゲの演出は、主演二人の演技を捉える時、妻のジョーンを画面の中央に置いたり、ライトを強めにあてたりと、舞台劇のような演出をしているのが面白く、また文学者としての苦悩とか葛藤といったものを一切見せずに、回想シーンも含めて夫婦間の関係だけで映画を見せ切ることに成功しています。また、「アイズ・ワイド・シャット」の秘密クラブの音楽を手掛けて、一部の人に知られているジョスリン・プークがイギリス室内楽団を使って、マイケル・ナイマンを思わせる現代音楽で、画面を支えているのも印象的でした。



この先は結末に触れますのでご注意ください。



もともとは生徒と教師の関係だったジョーンとジョゼフだったのですが、実際に文才があったのはジョーンの方だったのです。ジョゼフは着想はいいのだけれどそれを文章に組み立てるのが苦手。才能もあるし、物書きとして身を立てたいと思っていたジョーンですが、1950年代は女性が作家として名をあげることが難しい時代でした。そして、ジョゼフの書いた小説に、ジョーンが感想のありのままをぶつけたら、ダンナ意気消沈。そんなジョゼフを励ます意味も込めて、彼の小説を自分がリライトすることを提案、するとその小説が売れ、その後もずっとジョーンがダンナのゴーストライターになっていたのでした。着想はいいけど、その先をものにできないダンナに替わって、ジョーンはずっとタイプの前で執筆活動をしていたのです。ジョーンとジョゼフの過去の小説を読み、記者のナサニエルは、ジョゼフの作品がその妻の手によるものだということを見抜いていました。ダンナの浮気への怒りこそが彼女の執筆のエネルギーであったのですが、ジョゼフの方も、自分のものでない作品で、文学者としてあがめたてまつられることに負い目を感じてはいました。でも、ジョゼフはいつしかその関係に慣れてしまい、ノーベル文学賞の受賞を素直に自分のことのように喜んでしまっていました。それもあって、スピーチで妻へ謝辞はやめてくれと、ジョーンはジョゼフに頼むのですが、晩餐会のスピーチでジョゼフは、ジョーンの内助の功を褒めたたえるスピーチをしたものだから、ジョーンは切れて、会場を去り、それを追ったジョゼフとホテルで大喧嘩となります。その喧嘩の最中にジョゼフは持病の心臓が悪化し、そのまま帰らぬ人となってしまいます。スウェーデンからの帰りの飛行機で、ジョーンはナサニエルに「あなたの思っているようなことはなかった。勝手なことを書くと只では済まさない。」ときっぱりと告げます。そして、息子に「家に帰ったら全てを説明するから」と言います。一体、彼女はどんな物語を息子に話すのでしょうか。飛行機の座席、一人ほくそ笑むジョーンから暗転、エンドクレジット。

後半の怒涛の展開が大変面白かったです。ジョーンが、スピーチで自分への謝辞は言わないでと何度も頼んだのに、ダンナは妻がいたから作品を書くことができたとしゃあしゃあと言ってのけます。このスピーチの最中のジョーンの憎悪に満ちた顔が最高でして、グレン・クローズの名演技が光りました。ダンナだって、妻がゴーストライターであること、自分が妻ほどの文才がないことを引け目に感じていたことは事実なのですが、その一方で妻がどういう思いでこれまでいたのかについては、まったく無頓着だったようなのです。そこへもたらされたノーベル文学賞のニュースに、我がことのように浮かれるダンナに、ジョーンの堪忍袋の緒が切れたというふうに見えました。こういう関係で夫婦やってたら、どっちかに無理がきて、いつかは破綻しちゃんだろうなあ。この夫婦の場合、最初は妻にゴーストライターをさせることに負い目や葛藤もあったのでしょうが、長年やってるうちにそれが当たり前になってしまって、とりあえず世間的には自分が文学者なんだと、ダンナ自身が信じ込んでしまったみたいなんです。それはなぜかと言えば、そう信じた方が、周囲にちやほやされても、無駄に劣等感に悩むこともないし楽だから。さらに、世間のくれる文学者というステータスがあった方が、女性にももてるから。そんな楽な方向へ流されて行ったとき、妻がどういう気持ちでいるのかは考えたくないというエゴイズムは、不愉快だけど理解できるものがあります。妻のおかげで、いい暮らしができて、女にもてて、ノーベル賞もらえる。それを素直に受け入れてどこが悪いのか?という感じは、凡人の私には何かわかるんですよね。でも、妻の方は、浮気性のダンナへの怒りを文学に昇華してきたわけで、それを当たり前のように扱われ、さらには物書きを支えるよき妻としての謝辞を言われたら、そりゃブチ切れるわな。そのあたりの長年に渡る夫婦の機微を、数日間のドラマで見せちゃうあたりは脚本のうまさでしょう。ダンナに対して愛情もあるし、だからこそゴーストライターもやり、よき妻を長年に渡って演じてきたのですが、さすがに今回は忍耐の限度を超えてしまったようです。

そんなダンナが、ポックリと逝ってしまったことは、ジョーンにとっては大変なショックではあるのですが、それは長年の、自分とジョゼフが共犯関係で作り上げた呪縛からの解放でした。単に一方的被害者であったなら、もっと早くにこの関係を終わらせることもできたんでしょうけど、自分から提案してゴーストライターになってしまったので、自分からそれを暴露することもできない、でも、そのことに夫は無頓着で女性と見ればちょっかいをだしている、そんなフラストレーションをため込んでいた状況から、彼女は突然自由になりました。ラストで、彼女は自分の人生を自分の言葉で生きていく決心を決めたように見えます。自分のついた嘘によって、身動きが取れなくなっていた彼女が、新しい一歩を踏み出すことは喜ばしいことではありましょう。もともとが正直者なのでしょうね、ジョーンは。だからこそ、自分のついた一世一代の嘘に人生を食いつぶされそうになっちゃったのではないかしら。これが、根っからの嘘つきだったら、自分のついた嘘をあっさり裏切って、ジョゼフのもとから去っていくこともできたでしょうに。そう考えると「ロースの秘密の頁」と同様の、すごく気の毒な人生を送った女性が、晩年に入ってやっと救いが見えてくるというお話なのかも。

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さぁ、これから離婚して…という時にあっさりと逝ってくれて、ある意味ホッとしているでしょうね。彼女への副賞みたい 彼女から言い出した事なのでおいそれとは真実は話せないですし、死んでくれたのが何よりかな、と。
これは舞台になりそうだし面白そうですね。グレンは見事でしたからアカデミーを貰えると良いなぁと思いました。
TBさせて下さいね。

2019/2/10(日) 午後 4:58 アンダンテ 返信する

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アンダンテさん、コメント&TBありがとうございます。ジョーンは夫がことをどう思っていたのでしょう。それなりに愛していたから、夫婦であり続けたとも思うのですが、いなくなってスッキリしたのだったら、それまでの夫婦生活が否定されるようで、それはそれで悲しいかも。でも、そこを割り切らないと人生やり直しはできないでしょうし、何か悩ましい結末だと思っちゃいました。

2019/2/11(月) 午後 8:33 [ einhorn2233 ] 返信する

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彼と知り合った時は学生と指導者、彼が既に妻に愛想を尽かされていても、まだ彼の本質は見えなかったでしょう。でも、それから段々と見えてきてしまい、まぁ共依存の部分もあったとはいえ、ストックホルムに来てからはホトホト嫌になっていたと思います。その辺りは女性の方が分かるかも。彼女は本当に離婚したかったでしょうから、その煩わしさから解放されたのは嬉しかったと思います。

2019/2/12(火) 午前 0:24 アンダンテ 返信する

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アンダンテさん、コメントありがとうございます。このダンナ、そこまで嫌われていましたか。私はこれほど客譚な秘密を抱えてなくても、共依存の夫婦って結構いると思ってまして、ジョーンがそこまで嫌になっていたとすると、熟年男性にとっては身につまされるホラー映画ってことになるのかも。うちの女房も不満を何十年も隠してきて爆発寸前だなんて思いたくないですもの。(まあ、私は生涯未婚率の人なので、大きなお世話かもしれませんが)

2019/2/14(木) 午後 8:05 [ einhorn2233 ] 返信する

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これ面白そうだなと思ってました。
グレン・クローズが悲願のオスカー受賞なるかも気になるところですね。
観るのは先になりそうですが楽しみにしています。

2019/2/18(月) 午後 11:48 pu-ko 返信する

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pu-koさん、コメントありがとうございます。この映画、グレン・クローズが演技のやりたい放題をぶち込んだという感じで見応えがありました。(←ほめてることになるのかな?)ラストカットなんて、歌舞伎の見得のようであり、見方によってはヒッチコックの「サイコ」のラストカットのようでもあります。機会があれば是非ご覧になって感想を教えてください。

2019/2/19(火) 午後 6:49 [ einhorn2233 ] 返信する

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