今昔映画館(静岡・神奈川・東京)

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今回は新作の「グリーン・ブック」を、日本橋のTOHOシネマズ日本橋7で観てきました。ここはTCXという通常よりも大きなスクリーンサイズになっていて、その分、迫力が出ると言うのが売りみたい。追加料金はなし。これって昔の70ミリ上映に近いものがあります。70ミリっていうのは、フィルムがでかいので、その分、大きな画面に上映しても、画面が鮮明です。TCXは上映するメディアは普通のDCPなので、昔で言うなら、35ミリフィルムだけど、70ミリサイズの画面で上映する70ミリ方式上映が該当するのかしら。でも、TCXには70ミリほどのありがたみとかうれしさを感じないのが残念な感じ。

1962年のニューヨーク、ナイトクラブで用心棒をしているイタリア系のトニー(ヴィゴ・モーテンセン)は、店の改装のために一時的な失業状態。妻と二人の子供を食べさせるために職探しをしていた彼が、紹介された仕事は、ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)というリッチな黒人ピアニストの運転手でした。黒人に対する差別意識を持っていたトニーは一度は断るのですが、それでもドンは、彼のトラブル解決能力を買い、給料増額の要求をのんだ結果。8週間のドンのツアーの運転手となります。彼のツアーは差別意識の色濃い南部の州を回るというもので、確かに色々と厄介なことが起こりそうな予感はありました。それでも、ドンは自らの意思でそのツアーに臨んでいるようです。腕っぷしと口先は達者だけど知性に欠けるトニーと、インテリでアーチストだけど黒人というドンが、アメリカ南部への演奏ツアーに出かけることになるのでした。

2018年のアカデミー賞で、有力候補とされ、最終的に作品賞と脚本賞と助演男優賞を受賞した人間ドラマの一品です。実在したクラブのマネージャと黒人ピアニストを題材にしたお話で、モデルとなったトニーの息子、ニック・バレロンガと、ブライアン・カリー、そして「メリーに首ったけ」「愛しのローズマリー」のピーター・ファレリーが共同で脚本を書き、ファレリーがメガホンを取りました。えげつない下ネタや差別ネタで過剰な笑いをとってきたファレリー兄弟の片方が黒人差別をネタに実録映画を作ったということで、尖った笑いの映画になっているのかなと思ったのですが、世間の評判はストレートに心温まる映画らしいというので、ちょっと「?」の気分でスクリーンに臨みました。で、これが本当にストレートな映画で、尖ったところがまるでない映画に仕上がっていてかなりびっくり。ラブコメの体裁の「愛しのローズマリー」でさえ相当な毒を盛り込んだファレリー監督、どうしたのかしら。

要は、黒人差別意識をもったイタリア系のトニーが、インテリ黒人ドンに雇われて、一緒にアメリカを巡るうちに、二人の心が通い合うようになるというお話です。行く先々で差別的な扱いを受けるのですが、最初はトニーが腹を立て、それをドンがいさめるのですが、最後の最後でその関係が逆転したところで二人の絆が深まる、とそんな感じ。未見の方には何のことやらでしょうけど、まあ色々あって二人が親友になりましたってことです。これまでの人生でまるで接点のなかった二人が一台の車で一緒に旅することで心を通わせるようになるという、よくあるロードムービーの定番の作りになっています。そのロードムービーの上に黒人差別をトッピングした感じ。メインはバックボーンの異なる二人のロードムービーでして、あくまで黒人差別はトッピングの扱いなんです。そのせいか、この映画がアカデミー賞取っちゃったものだから、黒人差別の描き方が表層的とかきれいごと過ぎると言う批判が出たんですって。

トニーとドンの二人のいい話なんだから、そんな本質的でない批判なんかどうでもいいやんというのももっともなのですが、私はこの批判にも一理あるなって思っています。それは、私が「私はあなたのニグロではない」を観ていたからです。この映画の中で、ハリウッド映画は白人のヒーローを祭り上げる一方で、ハリウッド映画の黒人は、白人にとって都合のいいものとして描かれてきたのだと言います。今回のドン・シャーリーも知的で、粗野なトニーにもやさしい、よくできた黒人として描かれています。特に白人にとって都合がいいところは、ドンが差別する白人を悪く言ったり、戦おうとしないこと。それどころか、南部アメリカでツアーをすることで黒人の地位向上を図っているようなのですよ。これって、差別する白人を変えようというのではなく、白人の価値観に寄せて行こうとしているわけで、白人からすれば自分の「差別感情という悪意」と向き合わずに済む、すごく都合のいい黒人さんなわけです。白人を悪く言わないどころか、他の黒人から浮いてる存在の自分を責めちゃったりもするわけで、白人の優等意識を突いてくることもない、謙虚で優秀な自虐黒人が、白人から「よい黒人」の称号をもらってハッピーエンドになる映画は、黒人差別意識を腹の中に抱えていると思われても仕方ないと、私は思うのですが、そこまで言うのは、うがち過ぎなのかしら。

さらに気になったのは、ドンがゲイで、それを引け目に感じているところ。どうも、トニーとドンの関係は、お金の上では、ドンが主で、トニーが従なんですが、実際の人間的な関係は、家族がいて世知に長けたトニーの方が優位に立っているのです。インテリ黒人ということで、アイデンティティが不安定で、孤独を酒で紛らわせるドンは、トニーのような存在の安定感がありません。ドンは、映画の冒頭では、黒人の頂点のような威厳のある存在なのですが、物語が進むにつれて、どんどんその地位が後退していくのですよ。純粋に、トニーとドンの二人の個人的な力関係を描いたお話なら、それでよいのですが、黒人差別をトッピングしてしまうと、個人的な力関係が、白人と黒人の力関係のサンプルのようになっちゃうのですよ。この映画、黒人差別を取っ払って鑑賞するのがいいように思います。差別する白人と差別される黒人の物語と考えると、これ白人に都合よすぎるんじゃない?って突っ込みが入っちゃうのですよ。

トニーを優位に置いた見せ方をしているのは、脚本にトニーの身内(息子)が参戦しているからかもしれませんが、やはり白人目線の映画を感じさせるところありました。それでも、主演の二人は与えられたキャラクターを熱演しています。自信満々のドンが時々見せる心細そうな感じとか、トニーの子煩悩な感じとか、タイプキャラにならない奥行きを感じさせるもので、二人のリアルな存在感がドラマを盛り上げました。それだけに、黒人差別というセンシティブな題材を扱いきれなかったところが惜しいと思ってしまいました。黒人差別を背景に押しやってしまうか、これまでのファレリーの映画みたいに差別ネタとして笑い飛ばしてしまった方が、不完全な二人の絆にドラマが集約されて、素直に楽しめたような気がします。作り手が黒人差別を描き切れると思って、正面から取り組んだものの、やはり白人目線から目をそらすことができなかったと言ったら、アカデミー作品賞に向かってひどい言い方かしら。

1950年代から、人種差別問題は色々と形を変えて、それでも良い方向へ進んできていると思うのですが、まだ完成形ではない現状を捉えた時代を象徴する映画として、存在価値のある映画ではないでしょうか。数十年後、黒人差別の歴史の中の一つのイベントとして、この映画のアカデミー賞受賞が語られるとき、この映画がどういう位置づけ評価されるのかが気になるところです。なぜ、そう思うのかというと、この映画と前後して、やはり黒人差別を題材にした「ブラック・クランズマン」という黒人監督による映画を観たからでして、この両者の関係が、未来でどう語られるのかなって。



この先は結末に触れますのでご注意ください。



ドンと、二人の白人弦楽奏者を加えたトリオによるコンサートは南部の観客にも拍手で迎えられるのですが、その一方で、ドンは南部の常識的慣習として差別的な扱いを受けます。警官からも、コンサートの主催者側からも、黒人に対する無造作な差別を受けることに、トニーは憤るのですが、ドンは彼をたしなめ、ツアーの無事な進行を優先させます。ドンがYMCAで若い白人と一緒にいた時に逮捕されてしまうと、トニーは警官を買収して何とかその場を切り抜けます。一方、警官のあまりにひどい職務質問にトニーが手をあげて逮捕されてしまったときは、ドンがケネディに直接電話をかけて、知事へ手を回して釈放にまでもっていきます。しかし、最後のコンサートの地のホテルで、レストランへ入ることを拒否されると、トニーの説得にもドンは譲らず、最終的にそのコンサートをすっぽかしてしまいます。そして、トニーの家のクリスマスディナーへ間に合うように、二人はニューヨークへむかうのですが、大雪のために車は遅れ、トニーもグロッキー状態で運転を続けられなくなっちゃうのですが、ドンがハンドルをとって、何とかトニーをクリスマスディナーに間に合わせるのでした。そして、トニーの両親兄弟も揃ったディナーの場に、ドンがワインを持って訪問します。ドンを暖かく向かい入れるトニー。ドンを見て一瞬は驚きながらも、歓迎するトニーの家族。そして、彼らの後日談と実際の二人の写真が出て、暗転、エンドクレジット。

途中のエピソードで、トニーが家族へ手紙を書くのですが、子供の絵日記みたいな文面に、ドンが文章を考えてやるというシーンがあります。届いた手紙を見て、トニーの兄弟両親が、その文才に驚くというのが笑いを取る一方で、最後に家を訪れたドンを迎えたトニーの妻がドンの耳元で「手紙をありがとう」と告げるシーンがいい感じでした。そういう意味で、この映画、すごくいい話なんですよ。きれいごとだとしてもいい話。それだけに黒人差別を正面突破しようとしたおかげでツッコミの入る余地を作っちゃったのは惜しいなあって思ってしまったのです。とは言え、コミカルな味わいもあり、誰が観てもいい話として楽しめる映画なので、オススメできる一編です。

閉じる コメント(4)

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笑えるシーンも多いし、確かに良い話なのですが、アカデミー作品賞取るほどでもない気はしました。
まだ他の候補作を観られていないので、言いがたいところもありますが。
TBさせてくださいね。

2019/3/24(日) 午後 8:58 木蓮 返信する

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もくれんさん、コメント&TBありがとうございます。いい話だとは思うのですが、結構ツッコミ入ってしまいました。私もオスカー関連の映画は之しか見ていないので何とも言えないのですが、後世の評価を待った方がいい映画かも。

2019/3/25(月) 午後 7:38 [ einhorn2233 ] 返信する

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単細胞なせいか、とても良かったです。トニーの妻が初めから凄く好感度大で、最後の手紙へのコメが最高でした。
TBさせて下さいね。

2019/3/25(月) 午後 10:08 アンダンテ 返信する

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アンダンテさん、コメント&TBありがとうございます。私もこの映画、すごくいい話だと思います。いい話だけど、主人公二人の関係に突っ込みどころが出ちゃうところは、シュバイツアーの伝記みたいなものでしょうか。

2019/3/30(土) 午後 9:23 [ einhorn2233 ] 返信する

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