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「each and every one」 each and every one 「ねぇ湖に行きたいんだけど・・・」受話器の向こうから聞こえてくる彼女の声は森の泉から唐突に現れた妖精の予言のように深いエコーがかかって僕の頭の中で反響した・・・ 「OK判った10分で行く」と一言だけ言って僕は電話を切った。余計なことはなにも考えたくなかったから 頭は耳から食パンを一斤詰めこんだみたいににボーッとしてた。その辺に脱ぎすててあるTシャツを適当に頭から被り、カーテンを開け外の天気を見ながら少し迷ってフード付きのパーカーを無造作に羽織って外へ出る。 初夏を前にした穏やかな日差しと少しまだ寒い5月の風がボクを無感動に迎えてくれた 家の前にある自販機でラッキーストライクを二箱と缶コーヒーを2本買って車に乗り込みキーを回す。アズテック、フリッパーズ、スタカン・・・ダッシュボードに突っ込んだカセットを物色し彼女のお気に入りのEBTGの『エデン』を選んでカーステレオのデッキに突っ込んで車を出した。 ボッサのリズムが流れ出しトレーシー・ソーンの物憂げな声が軽快なホーンのアンサンブルの海を漂うように歌っていた。誰もが抱えているそれぞれの愛の問題について。。。 bittersweet http://media.imeem.com/m/khosWX8UfE/aus=false 約束通り10分で家の前に着きリクライニングを倒してタバコに火をつけながらコーヒーのリングプルを開ける。一口飲むとコーヒーのビターな香りが口に広がりどこかに出かけてた僕の頭の中身が地上に降りてきた。 とりとめない考えに思いを巡らせながら彼女を待っていると車のウインドウをコツコツと叩いて彼女が覗き込んでいた。いつもより随分早い。少年みたいに短く切った髪が日差しを浴びて初秋の草原みたいに輝いていた。桜を思わせる淡いピンクのカーディガンもよく似合っていた 「おはよう。あなた酷い顔してる。まるで10分前に突然叩き起こされて大急ぎで家を飛び出してきたような顔してるよ」 「だろうね。きっと」とボクが笑うと「ハイ甘いものでも取って機嫌を直して。爽やかな朝なんだから」そういってチョコレートをひとかけらボクの口に突っ込んだ。今度は甘い香りが口の中に広がった ブルーなラテン調のリズムを刻んでいた音楽がフェイドアウトしていく。。。 「このアルバムが好き。でもいつももうちょっと聴いていたいと思うところでみんなフェイドアウトしてくんだよね」彼女はそう不服そうに言ってチョコをほうばった。 tender blue ここ数日僕らはちょっとしたトラブルを抱えていた。一言では言えないけどそれはなんてことのないささいなことのようにも崩落を予兆させる亀裂のようにも思えた。 彼女は知らない顔をしてるしボクもなにも気にしない顔をしていた。スプリングスティーンがリバーで歌っていたように。。。ベン・ワットが憂鬱な声でジャズを歌ってる。チェットベイカーみたいな甘い声で。。。 「今朝はなんとなく早く目覚めたの。窓の外を眺めてたら湖へ行きたくなった。天気も良いし小鳥も鳴いてるし・・・ねぇあなた酷い寝癖よ(笑)自分で判ってる?」ボクは聞こえないふりをした 「ねぇお腹すかない?」確かにそう言われれば朝から口にしたのは小さな缶コーヒーとチョコレートの欠片をいくつかだけだった。 「確かになにか腹に入れたい。天気も良いし小鳥も鳴いてるしね」僕らは目についたセブンイレブンに車を止めて店に入った。酷い寝癖のついた頭のままで another bridge 「桜まだ咲いてるかな?」「どうだろ?多分まだ残ってると思うよ」ハムカツの入ったサンドウィッチを頬張りながらボクは答えた。 爽やかなアコースティックギターの厚いシンコペーションが心地よく流れている。穏やかな春の日のドライブにピッタリな心弾むような素敵な音だ。 緑のトンネルから零れ落ちてくる木漏れ日を受けながら車は湖をめざしていた。彼女は真っ赤な林檎を齧りながら車の窓から新しく芽吹いた木々の緑を見上げていた。しかしなんだってこう恋の終わりみたいな歌ばっかりなんだろう? ぼくらはこの先ずっとこの新緑のように新しい瑞々しい葉を茂らすことが出来るのだろうか?。。。爽やかなリズムにそぐわない憂鬱な男女関係の歌と彼女の横顔を見ながらそんなことを僕はぼんやり考えていた the spice of life 去年の今頃もこうして二人で湖に出かけた。あの頃は朝から晩まで両手に収まりきらないぐらいの幸福感を抱えそれを惜しげもなくポロポロそこら中にこぼしながら無邪気に笑ってた。それが二人の永遠の権利だとさえ思ってた。 車の中で大きな声で歌ったり、信号待ちしてる間に僕の首筋をストローで吸ったり・・・春を待ちわびていた小熊の兄弟みたいに僕らは飽きることなくじゃれあって時を過ごした この一年でいろんなことが少しずつ変わったんだと思う。僕らはその中で新しい関係について準備し避難場所を用意しバランスを取りながらまだ距離を測りかねていた。 今日一日を楽しく過ごすこと。今はとりあえずそれだけを考えよう・・・そう思った the dustbowl http://media.imeem.com/m/A0j55Brb3X/aus=false 湖に着くと思ったより風が強くて肌寒かった。ボクはフードを頭に被って、先を歩いてく彼女を追って小走りに桟橋に向かった 桟橋の先に立って恨めしそうに彼女は湖を見てた。湖面に立つ波は高くモーターボートやウェットスーツに身を包んだ水上バイクが幾つか走っていた「ボートを出すのは無理そうだね」 去年は二人で手漕ぎのボートに乗った。僕らは適当なとこまでボートを漕ぎ出しそこでオールを置いて仰向けに寝転んだ。 彼女の華奢な肩をしっかり抱き寄せた。その頃まだ長かった彼女の髪は柔らかくしなやかだった。流れに身を任せ僕らは目を閉じた。鳥の声だけが響く静けさの中で僕達の上を雲や鳥が通り過ぎていくのを感じていた。 僕らは空に浮かぶ不安定な小舟だった。バランスを崩して地上に落ちないようにそっと静かにカラダを起こしゆっくり彼女を抱きしめた。時々聞こえる水鳥の跳ねる音がボクらを現実にかろうじて繋ぎとめていた。 「遊覧船にでも乗る?」彼女は首を横に振った。「・・・そろそろ行こうか?」ボクが声をかけると「うん」と答えながらまだ桟橋の端から湖面を見つめていた。 そこに待っていれば何か答えのプラカードを用意した妖精でも現れるかのように。。。 crabwalk ジャジーでクールなインストゥメンタルパートが挟まれる・・・ Part2に続く。。。Part2はこちら
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