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”腐った奴を正しい奴が引き裂いてやるのは良いことなんだろう
神様だってそうするはずさ 神様だってそうするはずさ。。。”
身を切り裂くようなヒステリックなギター、どす黒い感情の中で低音で唸るベース、無軌道に暴れまわる太鼓の音。。。
振り絞るようなギリギリの声で”だから殺してやるのさ 美しく光るナイフをくれてやるぜ”と歌われる「★★★★★★★★★」
腐ったいまの世の中を切り裂きたいと願う正義の刃なのか?それとも自制を失った狂人の戯言なのか?
”何が正しくて何が間違いなんてこの世の中には存在しないはずなのに
ボクの両肩に舞い降りてきた黒い星はそのまま張り付いたままで
悪魔に心を売ったわけじゃないのにいくらこすったってとれやしないんだ。。。”
毎日のように心凍らせる残酷な出来事が報道されている。光と闇の境目で何が正しくて何が間違ってるのか?判らなくなるのは私たちもまた一緒ではないだろうか?
心の中で罪と罰が交錯する震える心、混乱する引き裂かれた感情が歌われている。。。
一体ここはどこで一体何が正しいんだろう?
ブランキージェットシティの2枚目のアルバムにして最高傑作『BANG!』
個人的にはミッシェルと共に”日本のロックとして”なんて逃げ口上を全く必要としない唯一無二の個性を持ったバンドだと思っている。そんな彼らの活動歴にあって決定盤と言える1枚。
郷愁を誘うメロディに、突き刺すような剥き出しの浅井の詩が時に内省的、時に能動的に乗せられる
人の心の闇、弱さや醜さ、繊細な少年の心の中の街を”JUSTICE”とロゴを彫った想像力の羽根を付けたバイクを刹那なまでにフルスロットルで走らせる。。。そんな作品だ。
冒頭に紹介した曲は★で伏せられてるが原題は「人殺しの気持ち」。ピート・タウンジェントは”説明できない感情”をビートといかしたリフに乗せて若者らしく快活に不機嫌に鳴らした。
それが無邪気に思えるほど”説明できない黒い感情”を荒れ狂うビートの嵐の中で地獄の番犬に追い立てられるような焦燥感とともに歌いきった問題作。
今の時代に問われるべき箴言であると同時に、不道徳の極みだと忌み嫌われる歌なのかもしれない。。。
もっと身近な心情で人の心の醜さや弱さにについて触れた代表作「ディズニーランドへ」
「ディズニーランドへ」
ベンジーこと浅井健一の少年のようにナイーブな叫びが心を打つ。
主人公はノイローゼになってしまった友達からディズニーランドへ一緒に行こうと誘われる。心優しい主人公は”勿論”と約束してしまうが心の底では行きたくない。
気の狂ってしまった友達と一緒にいる所を人に見られたり知られたりすることが辛くて、恥ずかしくてたまらないからだ。
そして彼はその約束を自分が破ってしまうことを知っている。そしてそれを友達に告げた時どれほど悲しむだろうと心を痛める。。。
最後の一節はこうだ
”そしてボクは冷たい人間の仲間入りさ”
文学の世界なら珍しく無い主題だろう。しかしこれを5分余りのロックで簡潔な言葉で歌いきるのは容易ではないと思う。その出来上がりはどこにも文句のつけようがない。
ここでもまた感情が交錯している。彼の好意と優しさに端を発した偽善的な行為は結果的に友達を更に傷つけてしまう。それに心を痛めながら自分が冷たい人間だと嘲る行為もまた欺瞞であり偽善という袋小路に陥っている。
誰にも似たような経験がひとつやふたつあるのではないだろうか?その愚直なまでに真っ直ぐなメッセージはそのシンプルさゆえに心に刺さったまま抜けない棘のようだ
静かにリズムを刻むアコースティック・ギターのイントロから音が徐々に厚みを増しドラムのビートが雪崩れ込んでくると繊細な世界は沸点に達し暴力的な感情をほとばしらせながら暴発する。。。
アルバムの幕開けはアルバム中もっとも激しく粗野なサウンドで噛み付き、喰い散らかすような「レインドッグ」。。。
雨の国道を車で走っていると道路沿いに無表情に濡れながら立つ”地上に落ちてきた天使”と出会う。彼はみんなが自分の歌う歌を気に入らなくて下界へ追放したのだと言い彼にその歌を聞かせる。。。
浅井が得意とする映像的な妄想を喚起する歌でハードでゴリゴリしたギターのリフに絡む暴れるドラムスの激しいフィルがスピードを加速する。。。ロードムービー風の歌
狂気と繊細さを合わせ持つ天才マッド・ドラマー中村達也の歌うようなドラムと対照的に、派手さは無いが武骨で芯の太いラインでバンドのボトムを支える照井利幸の重厚なベースが印象的
日本ロック史上最強のロックトリオと呼ばれるのも納得の轟音アンサンブル。
「レイン・ドッグ」
続く「冬のセーター」も彼らの代表作でハードなブギーのリフにマシンガンのようなスネアの音が炸裂する、独特な表現とイメージのカットバックで聞き手の想像力を刺激する
ひとりぼっちのベッドルーム。モデルガンで主人公は一人で遊んでいる。映画”タクシー・ドライヴァー”の主人公を思わせる孤独なシチュエーション
テレビの中のニュースキャスターに向けて引き金を引くところでイメージが飛翔する。。。”核爆弾を搭載したB52爆撃機が北極の近くで行方不明になった”そうニュースキャスターは喋り続けてる
孤独な一人遊びに興じる主人公の心を描写するように”今年の冬はとても寒くて長いからおばあさんが編んでくれたセーターを着なくちゃ”。。。外は吹雪、吹雪、氷の世界だ。。。
独特のリリシズムをヘヴィなリズムに乗せて場面を一見脈絡無く転換させながら収束させてく展開は見事。あくまで激しい轟音の中で少年のような甲高い叫び声でベンジーが歌い続ける
”モデルガンを握り締めて僕は自分の頭を撃った そのままベッドに倒れこみ 死んだふりをして遊んだ”
孤独と狂気の寸前を感じさせるシークエンスは更に増長する。”今にも泣き出しそうなピエロが俺の頭の周りをグルグルと回り始めた”と金切り声で叫ぶ。。。「スーン・クレイジー」
デヴィット・リンチの映像表現を思わせるようなシュールで訳の判らないユーモアを交えた狂気を孕んだイメージが次々に聞き手の脳裏に直接焼き付けるように飛び込んでくる
”キミはもう知ってるかい?この宇宙はもうYesって言うのを止めるらしいんだ キミはもう知ってるかい?”
爆発寸前の小宇宙のコーダで”早く家に帰ってトム&ジェリーでも見ようぜ!”とアドリブのようにつぶやく台詞がチャーミング。
ドラムのブラッシングで刻むラテン風味のリズムに乗せちょっといかれた恋人達のエキゾチックな逃避行を歌う「ヘッドライトの枠のとれかたがいかしてる車」
ハンディの8mmで取ったフィルム映像のようなイメージでロマンチックでワイルドな恋人達のスナップが描かれる。。。安ホテルへ向かう坂の途中に誰かが乗り捨てた車があり
そのヘッドライトの枠のとれかたがいかしてる車の前で気取って写真を撮らないか?ってそれだけの歌なのだが言い知れない独特のムードに包まれてる。
『レインドッグ』辺りのトム・ウェイツを思わせる異色のナンバーでクリーンなトーンの美しい異国情緒漂うギター・ソロもこの曲のムードにぴったりだ。
続く「絶望という名の地下鉄」は発車する列車の如き勢いで爆発するサビメロからスタートする照井利幸作曲(作詞は浅井)の作品で
マッカートニーの「心のラブソング」を思わせるベースラインを効果的に使っている。タイトルは勿論エリア・カザンの映画”欲望という名の電車”をもじったものだろう
不穏な雰囲気を醸し出すAメロはマイナーに転調し、近未来を思わせるどこかの街のダウンタウンを描き”ブレードランナー”や”時計仕掛けのオレンジ”を想起させる視覚的なイメージをカットインする
メジャーとマイナーの転調がダイナミックな展開を生むカッコ良いナンバーだ。
「とけちまいたいのさ」はレゲエのビートを使いつつアコースティックに仕上げた不思議な空虚感を漂わせる小品。虚実が溶け合った世界を彷徨う主人公はこのまま青い空にとけちまいたいのさと願い歌う。
「クリスマスと黒いブーツ」は印象的なギターのイントロで始まる浅井独特のせつないメロディと世界観が合致したロックナンバー
太陽とか冒険とかクリスマスとか黒いブーツがこどもの頃からただ単純に好きなだけさと歌われる。賛成に一票!
ライ麦畑的な大人になることへのためらいと心の芯にあるいつまでも変わらないものの狭間で揺れる思春期的な感情が歌われる
タイトル曲の「BANG!」はロシア民謡みたいなユーモラスなリズムでストーンズの「マザーズ・リトル・ヘルパー」にインスパイアされたような佳作。
「冬のセーター」のように指をピストルにして恋人の頭を撃つ真似をして遊ぶちょっといかれた主人公もライ麦畑を思わせるような男の子
霧の深い街で離れ離れになってしまえばもう二度と会えないから、そばから離れないで綺麗な丘を目指そうと歌うロマンチストだ。
マイナーなメロのフォークバラッド「2人の旅」。どことなくマカロニウェスタン風な荒涼としたクールなメロに幸せな恋の詞が載り今日は二人でピクニックだよ、などと明るく歌われる。もしかしたら「BANG!」のカップルかもしれない。
しかし二人の旅の先に待ってるものは希望に溢れた青空ではなく暗い雲が立ち込める空かもしれない。。。それでも二人で歩いていけるとしか今の俺には言えないという少年の潔い決意が歌われている。
「小麦色の斜面」メジャーなコードで展開するスキッフル風のアッパーなナンバーでブランキー史上もっとも明るい曲だろう。
”見渡す限り小麦色の斜面の途中に止まってるトラックの荷台にワラをしきつめてその上に寝転んで息を吸うのさ”。。。ロマンチックな逃避行を夢想する少年の話だ
たおやかで美しい余韻の中、”想像力のカプセルを一つ飲み込んで目をつぶるだけさ”と歌われる、無邪気で罪のない現実から逃避した夢の中。。。
ヘヴィな内容のアルバムの最後を優しく温かい気持ちで締めくくり、救いを感じさせるが最後の言葉で残酷な現実に引き戻される。。。
主人公が新宿の雑踏の中で目をつぶって想像する。。。コーダ部分で繰り返される”目をつぶるだけさ”という歌詞の一番最後にさらっと歌われる”目を潰すだけさ”という歌詞
現実という狂気から逃れ無邪気な想像力の草原に逃げ込むには目をつぶるだけでは足りないのだという現実。
浅井健一・・・確かに彼はいかれたロマンチストかもしれない。。。
「絶望という名の地下鉄」
絶望と言う名の地下鉄に乗り込んで鼻歌まじりで行くぜ、この世界を。。。I LOVE YOU
BANG!
/BJC
01. レイン・ドッグ
02. 冬のセーター
03. スーン・クレイジー
04. ヘッドライトのわくのとれかたがいかしてる車
05. 絶望という名の地下鉄
06. とけちまいたいのさ
07. ★★★★★★★
08. クリスマスと黒いブーツ
09. バン!
10. ディズニーランドへ
11. 2人の旅
12. 小麦色の斜面
/1992年発表
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