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   *映画やドラマを見る楽しみ

 今、私たちは、どこの家にでもあるテレビの画面を通して、いつでも映画やドラマ、スポーツを見ることができます。ビデオやDVDを使えば、自分の都合のいいとき、一人きりで映画を楽しむこともできます。
 しかし、60年以上前の時代には、そんなことはできませんでした。テレビが普通の家庭で見られるようになったのは1950年過ぎ、ビデオが一般的になったのは、またそれから十数年たってからのことです。それまで、普通の家ではラジオを楽しみにし、ときに映画や演劇を楽しんでいました。

 ところが、日本が世界を相手にした本格的な戦争が始まりました。人々の間にも、日増しに戦争の影響が強くなってきました。こんなとき、戦争をしているときの国の指導者たちは、映画とか演劇というものが、その国の人びとの気持を変えていくのにたいへん役立つことを知っていました。映画や演劇を通して、戦争がどんなに日本にとって役立ち、世界全体のためになっているかということを、教えられると考えていたのです。

 実際、私たちの考えることの多くは、新聞やテレビ、映画、雑誌、本などから得た知識が元になっています。戦争が悪いことだという批判が多くなれば、「確かに戦争は悪いことだ」と思う人も増えるわけですし、戦争がいいことだと言いふらす人が増えれば、多くの人が戦争に賛成するようになってくるのです。その頃の日本は、戦争を始めた軍部の力が強く、戦争に反対する声を消し去ろうとしていました。そうした考えを実行に移すため、1940年に、大政翼賛会という組織を作ります。

 大政翼賛会というのは、国民すべてを同じ考えに立たせて、国の進めている政治を助け、協力させるための組織でした。もちろん、それを批判することは許されません。こうして、日本中が戦争に賛成する意見一色に染まっていきました。
 劇団ももちろん、それに巻き込まれていったのでした。


   *移動劇団

 その頃、映画や演劇の俳優たちは、国からもらった「俳優鑑札」というものを持って仕事をしていました。この鑑札がなければ、俳優の仕事ができないのです。演じる内容も国の規制を受け、戦争に反対するような内容のものは上演することができないばかりでなく、国とともに戦争を推し進めようとする気持を高めるものでなければならなくなっていました。それを守らない者は、俳優でも、映画監督でも、仕事を許されないのです。こうした体制の元で、多くの映画、演劇関係者たちも、国に従っていきました。

 こうした中で、二つの大きな劇団が、国によって強制的に解散させられてしまいました。この劇団は、社会主義的だからという理由で、ずっと目を付けられていたのです。そして1941年、大政翼賛会の元に、映画、演劇などを、もっと強く国の体制の中に組み込むための「日本移動演劇連盟」という組織が作られました。国の政策に反対しそうな劇団は、すでにつぶしました。これで、日本の演劇に関わるすべての人々は、日本移動演劇連盟の決めた通りにしなければ、生活することができなくなっていったのです。

 ところで、移動演劇とはいったいどんなものだったのでしょう。
 私たちがこの言葉から思い付くのは、劇団が地方を回って公演することで、今でも普通に行われていることです。しかしそれは、劇団が自主的に行う地方公演とか地方巡演とか言われるもので、このときの移動演劇とは全く内容の違うものでした。前にも書いたように、国の都合の良い内容のものだけを上演させ、人びとが戦争を推し進めようとする気持を高めることを目的としていました。ですから、自分たちの好きな劇をするわけにはいかず、国が用意したものを上演したのです。
 国の意見に従い、大きな映画会社も移動劇団を作りました。そして、歌舞伎なども含め、日本中の劇団が協力をしたのです。

 移動劇団は、劇を上演しながら全国を回りました。こうした国の政策で作られた組織でしたが、戦争のために楽しみを失っていた人々は、劇団を喜んで迎えてくれました。会社の講堂や集会室、また、神社の境内などにできたインスタントの劇場のむしろを敷いた席はいっぱいになり、みんな夢中で、目の前の俳優の演技を見つめました。何しろ、映画や舞台での有名な俳優たちが、小さな村にまでやって来てくれるのですから。<続く>

(小峰書店・近野十志夫編「子どもノンフィクション8・戦争の悲劇」『象のいなくなった動物園』から加筆して掲載)

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