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子猫のネコタンは、捨て猫です。
毛布の敷き詰められた小さな段ボール箱の中から
「ミャア、ミャア」
と細い鳴き声を出して、道行く人に
「ボクを拾って」
とお願いしています。
「あら。可愛いわね。」
と女の人の声。ネコタンが見上げると、優しそうな白い手が伸びてきます。けれど隣に立つ男の声。
「やめとけよ。うちのアパートはペット禁止だろ。」
「そうね…うかつに可愛がると情が移ってしまうわね。」
と、男女は立ち去ります。女の人は名残惜しそうにネコタンの入った段ボール箱を振り返りながら。
他の人々は、ほとんど誰もが自分のことで忙しいのか、ネコタンの前をただ通り過り過ぎていくだけです。
ネコタンは、それでも精一杯「可愛い声」を作って鳴いてみせるのです。
「ほら。こんなに可愛い子猫でしょ。だからボクを拾ってよ。」
ネコタンは、赤ちゃんの頃、一度だけ人間の家で育てられたことがあります。
小さな女の子がネコタンを拾って可愛がってくれたのです。
女の子は母親に内緒でネコタンを子供部屋に隠し、毎日こっそりミルクを冷蔵庫から運び飲ませてくれました。
「ネコタン」と名付けたのも、この女の子。
「ねこたん、ボールで遊ぼう。」
「ねこたん、いっしょにお絵かきしよう。」
女の子はネコタンをたくさん可愛がってくれました。
「ねこたん、ドレスを着ましょうね。」
と言って、お人形さん用の服を無理矢理着せられたこともありました。
「ボクはオスなんだけどなぁ…」
と思いつつも、女の子が嬉しそうにキャッキャッと笑うのでネコタンも楽しかったのです。
夜寝る時は、いつも一緒。
「ねこたん、おやちゅみなさい。」
と言ってギューッと抱きしめてくれた温もりをネコタンは今でも覚えています。
けれど…
ネコタンは思い出しています。女の子がネコタンを段ボール箱に入れて捨てた日のことを。
女の子はネコタンに、こう言ったのです。
「もう、ねこたんなんか大嫌い!お皿からミルクをこぼすし、汚すからお掃除だって大変なんだから…」
ネコタンは必死で女の子に、
「ごめんね。もうミルクはこぼさないから。ちゃんとおりこうさんにするから捨てないで。」
と訴えました。けれども、女の子の耳には「ミャア、ミャア」という鳴き声にしか聞こえなかったのです。
ネコタンは人間を信じないことにしました。どんなに可愛がられても、やがて気が変わり捨てられるに決まっているからです。
そこでネコタンは、思いきり可愛い声を出して、なるべくお金持ちの人間に拾ってもらうことを考えました。しばらく経ったら家中の高価な品物を持って逃げるという作戦なのです。自分を捨てた人間に仕返しするために…。
「ミャア、ミャア」
と、つぶらな瞳でネコタンが可愛らしい鳴き声を上げていると、また1人、段ボール箱の前で立ち止まる人がいました。
「あら、捨て猫よ。可愛いわね。」
高価そうなコートに身を包んだ中年女性がネコタンを抱き上げて頬ずりしました。
「やれやれ。」連れの紳士が言います。「じゃあ、うちに連れて帰ろうか。」
ネコタンは内心小躍りしました。(しめしめ。お金持ちそうだし、うまく騙せそうだ!)…しかし、女性が言いました。「やっぱりやめとくわ。小さな毛がいっぱいコートについて台無しだわ!」
ネコタンは香水でぷんぷん臭くなった自分の体に我慢しながら思いました。
「人間はなんて勝手なんだ!もう…。」
その時でした。目の前を通り過ぎた若い女性のバッグに印刷された「JUN」という文字を見て、ネコタンは
「あっ…」
と声を上げました。もちろん人間の耳には「ニャッ!」と聞こえたはずです。
ジュン…。それは、ネコタンを可愛がってくれていた女の子の名前でした。
遠い記憶がよみがえります。
母親が女の子を叱る声。
「ジュンちゃん!子猫なんか拾ってきちゃダメでしょ!早く捨ててらっしゃい!」
そして女の子の泣き声。
「やだもん。ねこたんはジュンの友達なんだもん!」
朝日が部屋に射してから夕暮れの間まで、二人はずっとそんなやりとりを続けていたような気がします。そして大人の男の人が家に帰ってきて、女の子は男の人と何やらボソボソと話し合っていたようですが、やがて
「うん…わかった…」
女の子の寂しそうな声。…そんな光景をネコタンは思い出しました。
「でも…」ネコタンは頭をブルブルッと振りながら考えました。「結局、ボクは捨てられたんだから…誰も信じないもん!」
やがて風が冷たくなり、ぽつぽつと雨の水滴が落ちてきました。
「寒いにゃあ〜。でも毛布があるからいいや。」
ネコタンの(猫の額ほどの)狭い額にも雨粒が当たりました。
「あれっ?…」
顔に当たった水滴の感触で、ネコタンは急に思い出しました。ジュンちゃんがネコタンを段ボール箱に入れて、ここに捨てに来た時のことを。
「もう、ねこたんなんか大嫌い!お皿からミルクをこぼすし、汚すからお掃除だって大変なんだから…」
あの時、確かにジュンちゃんはネコタンにこう言ったのでした。
けれど…顔中を涙でぐちゃぐちゃにしながら、まるで、まるで…自分に言い聞かせるように。
その夜。降り始めた秋の小雨。
でも、ネコタンは穏やかな気持ちで眠りにつきました。
毛布が敷き詰められ、ビスケットとミルクの入った皿でいっぱいの…暖かい段ボール箱の中。
ネコタンはジュンちゃんと遊んでいる幸せな夢を見ました。
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今晩は♪ 辛いお話やった・・・・・・。
最後に幸せな夢を見たというのが・・・つらいよのぉ〜。涙
2009/9/15(火) 午後 10:29 [ koyuki ]
わたしも ネコタンみたいな夢みたいな…。
ネコタンは。。。とっても優しい強く純粋なココロの子ネコですね。
捨て猫になって。人のコト信じないって決めても。
大切なジュンちゃんのこと 嫌いには ならない・・・。
切なくって 胸が痛いけど。素敵なお話☆
何か 色々 考えちゃいました☆
ジュンちゃん 幸せでいてくれると いいな〜☆*゜
2009/9/16(水) 午前 0:14
ポチ☆
2009/9/16(水) 午前 0:16
こゆきさん>
ネコタンは夢の中で呟きました…「ボクは世界で一番しあわせな猫だにゃ〜。」と☆☆☆
だから大丈夫♪
2009/9/16(水) 午後 7:34
姫さん>
ありがとう!
人もまた、数ある悪意の中には、本当は置き忘れた大切な何かを思い出すこともある…といいなぁ♪
なんて考えながら。
2009/9/16(水) 午後 7:38
そうかぁ〜〜、大丈夫かぁ。
ええのんか〜ネコタンは・・・ええのんか〜涙
大丈夫なんやな ^^
2009/9/16(水) 午後 10:44 [ koyuki ]
こゆきさん>
そう、そう♪大丈夫☆
2009/9/19(土) 午後 9:00
遠い遠い記憶を思い出してしまいました。最近は捨て猫もあまり見なくて捨てる人がいないって事はとってもいい事なんだけどこういう苦い経験って今の子ども達にはあまりないんだろうなぁ〜とか考えると何かさびしい気もしますね。
2009/9/22(火) 午前 1:46
たとぅるりさん>
そうですね…。捨て猫が入ってる箱は、土管のある空き地(これも今は見ない風景)にありそうです。のび太やジャイアンがいる空き地に…。
最近の子ども達の「苦い経験」というのは、どんなこのなのでしょうね。もっと残酷で陰湿なものだとヤだなぁ。…などと思ってしまいました。
2009/9/23(水) 午後 10:11