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捨て猫のネコタンは、ゾウパンの家に拾われました。

ゾウパパは、おおらかで呑気だけど働き者のパパ。

ゾウママは、お節介だけど優しいママ。

小さな兄弟の名前は「パオ」。

初めてネコタンがゾウパン家に連れて来られた日、ゾウママはネコタンに兄弟を紹介しました。「うちの子供たちよ。」

「オレ、パオっていうんだ。よろしくな。」兄のパオが言いました。

「ぼくは、パオ。よろしくね。」弟のパオが言いました。

「…?」

ネコタンの猫耳には、どちらも同じ「パオ」に聞こえます。しかし、兄も弟も「発音が全然違うじゃないか!オレ(ぼく)は『パオ』。あいつは『パオ』だよ。」と主張して譲りません。

ネコタンは心の中で「兄パオ」「弟パオ」と区別をすることにしました。



ゾウパン家の食事はボリュームたっぷり。

リンゴ、バナナ、みかん、木イチゴ、ブドウ、ココナツの実、じゃがいもetc...。

魚がないのがネコタンには少し不満でしたが、よその家に厄介になっているのだから文句は言えません。

「さぁさぁ、たくさん食べなさいね。」ゾウママがすすめてくれますが、ネコタンのお腹には多すぎます。でも、パオ兄弟には少し足りないみたい…いつも兄弟喧嘩ばかり。「おにちゃんの方が多いよ〜。」「うるせぇ!」バコッと音がして、見ると兄パオが弟パオを鼻先で叩いています。

「こらっ!」いつも穏やかなゾウママですが、怒ると恐いのです。パオ兄弟はビクンと背筋を伸ばし、すぐ静かになります。

ネコタンがゾウパンの家に引き取られてから3年の月日が過ぎました。

…そして、今日もゾウパン一家の食卓は賑やかです。



そんなある日。

ゾウパン一家が楽しく賑やかに食事しているところへ、ドアの陰から覗く細長い影…。

「あっ!ドアの後ろに誰かいる!」目ざとく見つけた弟パオが叫びました。

「誰だ!出てこい!」兄パオは、テレビドラマの探偵気取り。

ドアの陰からぬうっと現れたのは、トレンチコートに帽子の黒豹。「ふふ。見つかったか。私の名前は…」言いかけた言葉が終わらないまま、弟パオが水鉄砲で顔面攻撃。

「ぶひゃっ…やめろ。」黒豹は帽子とコートを水浸しにされながら「まいった、まいった。」と降参のポーズ。「私はパンサー探偵社から来た者だ。名前はニック・ジャガー。」

「何の用ですか。肉じゃがさん。」と弟パオ。

「白状しないと痛い目を見るぜ!」テレビの台詞を真似してご満悦の兄パオ。

「わかった、わかった…。用件を言うよ。」困り果てたジャガー氏。

「まぁまぁ、とにかくお座りなさいな。お腹減っているんじゃないの?あなたもお食べなさいな。」ゾウママは誰にでも自分の手料理をふるまうのが趣味のようです。

「はぁ…」予想外の展開に困惑しながらジャガー氏も食卓に腰掛けました。

ゾウパパは、何も気にせず新聞を読み続けています。

ネコタンは、珍しいお客をしげしげと眺めました。すると、ジャガー氏が用件を語り始めました。

「実は…」ネコタンをじっと正視しながらゾウパパとゾウママに話しかけるジャガー氏。「こちらでお世話になっているネコタン君なのですが。」

ネコタンは、思いがけず自分のことが話題になってビックリ仰天。(な、なんだろう…いきなりボクのことを?!)

「ネコタン君を…」とジャガー氏が続けます。「ネコタン君を、3年前からずっと探し続けているニンゲンの女の子がおりまして…。」

ジャガー氏は一息ついて、お茶をずずっと飲み干しました。

「…その女の子の母親から、私が依頼を受けたというわけです。ネコタン君を見つけたら、連れて帰ってくるように…と。母親が言うには、もうお金の心配もないし、猫を飼える家に引っ越したのだとか。」



ネコタンは、何と答えたら良いのか言葉に詰まりました。

「一度、捨てられた家だろ?」兄パオが怒って言いました。「そんなとこ行くなよ!」

「でも…だめだよぉ。」と弟パオ。「ネコタンはその女の子が大好きなんだから、やっぱり戻らなきゃ…」

「そんな薄情な奴ら。もういっぺんネコタンを捨てるに決まってるさ。」「でも何か事情があったんだよ…許して戻ってあげるのもいいかもよ。」「何ぃっ。オレの意見に刃向かうのかよっ!」兄弟喧嘩が始まりそうな気配。

「やめなさい!」ゾウママの一言。シャキッと姿勢を正すパオ兄弟。

「ネコタン自身は、どうしたいと思っているのかな?」新聞から目を上げ、優しくネコタンを見つめるゾウパパ。

「ボクは…」ネコタンは、何かを言おうとしましたが声になりません。その代わりに目からジワッと温かい水が。

「その涙が語っているよ。」とゾウパパ。「わたしたちに遠慮はいらないよ。懐かしいその女の子の家に戻ってあげなさい。ネコタンが喜ぶだけでなく、その女の子も大いに喜ぶんだから。」

「もし、寂しくなったり困ったことがあったら、いつでもこの家に戻ってらっしゃいね。」とゾウママ。

「ホントに…いいの?」涙声のネコタン。ゾウパン一家の1人1人の顔を見ながら尋ねました。「時々、ご飯を食べに来てもいい?」

ゾウママは、(バカねぇ。当たり前のことを!)という感じでウィンクして、ネコタンに言いました。「3年も一緒にご飯を食べていれば、もう家族でしょ?」

ネコタンは堪えきれずに泣きました。



その夜はネコタンにとって、ゾウパン一家で食べる最後の晩ご飯でした。

いつもより塩辛かったけれど、とっても幸せな味でした。

流行屋さん

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高い塀に囲まれた小さな国がありました。

この国で一番人気のお仕事は「流行屋さん」です。

流行屋さんの仕事は、もちろん、その日の「流行」を作ること。

流行屋さんは、時々、国中の人々に大切な「お知らせ」をします。

いろんな所に設置されたスピーカーを通して、新しい流行をアナウンスするのが仕事なのです。

「みなさん、今日から緑色を流行色にします。昨日までの流行色ピンクは、もう時代遅れですよ!ピンク色のシャツやスカーフを身につけている人は気をつけてください!」

こうして親切に、流行屋さんは最新の流行を国民に伝えるのです。

「みなさん、今日からシャツは『イン』が格好良いです。シャツは必ずズボンの中に入れましょう!シャツを外に出している人は、これからは『ダサイ』と笑われますので注意しましょう!」



さて。そんなある日の朝。

いつものように流行屋さんが拡声マイクを使って、今日の流行を知らせようとした時。

高い塀の向こう側から、拡声マイクを通した声が遠く聞こえてきました。

「国民の皆さん、今日の流行色は青です。間違わないようにしましょう!」

あれっ?!

…流行屋さんはビックリしました。「今日の流行色はレモンイエローなのに…。」

なんと。隣の国の大きなスピーカーから、塀を越えて声が聞こえてきたのでした。

そとて、さらに…別の隣国からも、その国の流行を知らせるアナウンスの声が聞こえてきました。

流行屋さんは困りました。「ああ、一体どうすればいいんだ!」



その後…

流行屋さんが姿を消してしまったのか。それとも、拡声マイクの音量を上げて隣国に対抗するようになったのか…さだかではありません。

捨て猫のネコタン

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子猫のネコタンは、捨て猫です。

毛布の敷き詰められた小さな段ボール箱の中から

「ミャア、ミャア」

と細い鳴き声を出して、道行く人に

「ボクを拾って」

とお願いしています。

「あら。可愛いわね。」

と女の人の声。ネコタンが見上げると、優しそうな白い手が伸びてきます。けれど隣に立つ男の声。

「やめとけよ。うちのアパートはペット禁止だろ。」

「そうね…うかつに可愛がると情が移ってしまうわね。」

と、男女は立ち去ります。女の人は名残惜しそうにネコタンの入った段ボール箱を振り返りながら。

他の人々は、ほとんど誰もが自分のことで忙しいのか、ネコタンの前をただ通り過り過ぎていくだけです。

ネコタンは、それでも精一杯「可愛い声」を作って鳴いてみせるのです。

「ほら。こんなに可愛い子猫でしょ。だからボクを拾ってよ。」



ネコタンは、赤ちゃんの頃、一度だけ人間の家で育てられたことがあります。

小さな女の子がネコタンを拾って可愛がってくれたのです。

女の子は母親に内緒でネコタンを子供部屋に隠し、毎日こっそりミルクを冷蔵庫から運び飲ませてくれました。

「ネコタン」と名付けたのも、この女の子。

「ねこたん、ボールで遊ぼう。」

「ねこたん、いっしょにお絵かきしよう。」

女の子はネコタンをたくさん可愛がってくれました。

「ねこたん、ドレスを着ましょうね。」

と言って、お人形さん用の服を無理矢理着せられたこともありました。

「ボクはオスなんだけどなぁ…」

と思いつつも、女の子が嬉しそうにキャッキャッと笑うのでネコタンも楽しかったのです。

夜寝る時は、いつも一緒。

「ねこたん、おやちゅみなさい。」

と言ってギューッと抱きしめてくれた温もりをネコタンは今でも覚えています。

けれど…

ネコタンは思い出しています。女の子がネコタンを段ボール箱に入れて捨てた日のことを。

女の子はネコタンに、こう言ったのです。

「もう、ねこたんなんか大嫌い!お皿からミルクをこぼすし、汚すからお掃除だって大変なんだから…」

ネコタンは必死で女の子に、

「ごめんね。もうミルクはこぼさないから。ちゃんとおりこうさんにするから捨てないで。」

と訴えました。けれども、女の子の耳には「ミャア、ミャア」という鳴き声にしか聞こえなかったのです。



ネコタンは人間を信じないことにしました。どんなに可愛がられても、やがて気が変わり捨てられるに決まっているからです。

そこでネコタンは、思いきり可愛い声を出して、なるべくお金持ちの人間に拾ってもらうことを考えました。しばらく経ったら家中の高価な品物を持って逃げるという作戦なのです。自分を捨てた人間に仕返しするために…。

「ミャア、ミャア」

と、つぶらな瞳でネコタンが可愛らしい鳴き声を上げていると、また1人、段ボール箱の前で立ち止まる人がいました。

「あら、捨て猫よ。可愛いわね。」

高価そうなコートに身を包んだ中年女性がネコタンを抱き上げて頬ずりしました。

「やれやれ。」連れの紳士が言います。「じゃあ、うちに連れて帰ろうか。」

ネコタンは内心小躍りしました。(しめしめ。お金持ちそうだし、うまく騙せそうだ!)…しかし、女性が言いました。「やっぱりやめとくわ。小さな毛がいっぱいコートについて台無しだわ!」

ネコタンは香水でぷんぷん臭くなった自分の体に我慢しながら思いました。

「人間はなんて勝手なんだ!もう…。」

その時でした。目の前を通り過ぎた若い女性のバッグに印刷された「JUN」という文字を見て、ネコタンは

「あっ…」

と声を上げました。もちろん人間の耳には「ニャッ!」と聞こえたはずです。

ジュン…。それは、ネコタンを可愛がってくれていた女の子の名前でした。

遠い記憶がよみがえります。

母親が女の子を叱る声。

「ジュンちゃん!子猫なんか拾ってきちゃダメでしょ!早く捨ててらっしゃい!」

そして女の子の泣き声。

「やだもん。ねこたんはジュンの友達なんだもん!」

朝日が部屋に射してから夕暮れの間まで、二人はずっとそんなやりとりを続けていたような気がします。そして大人の男の人が家に帰ってきて、女の子は男の人と何やらボソボソと話し合っていたようですが、やがて

「うん…わかった…」

女の子の寂しそうな声。…そんな光景をネコタンは思い出しました。

「でも…」ネコタンは頭をブルブルッと振りながら考えました。「結局、ボクは捨てられたんだから…誰も信じないもん!」



やがて風が冷たくなり、ぽつぽつと雨の水滴が落ちてきました。

「寒いにゃあ〜。でも毛布があるからいいや。」

ネコタンの(猫の額ほどの)狭い額にも雨粒が当たりました。

「あれっ?…」

顔に当たった水滴の感触で、ネコタンは急に思い出しました。ジュンちゃんがネコタンを段ボール箱に入れて、ここに捨てに来た時のことを。

「もう、ねこたんなんか大嫌い!お皿からミルクをこぼすし、汚すからお掃除だって大変なんだから…」

あの時、確かにジュンちゃんはネコタンにこう言ったのでした。

けれど…顔中を涙でぐちゃぐちゃにしながら、まるで、まるで…自分に言い聞かせるように。



その夜。降り始めた秋の小雨。

でも、ネコタンは穏やかな気持ちで眠りにつきました。

毛布が敷き詰められ、ビスケットとミルクの入った皿でいっぱいの…暖かい段ボール箱の中。

ネコタンはジュンちゃんと遊んでいる幸せな夢を見ました。

花瓶に挿す花

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あるところに、足の不自由なお婆さんと、小さな男の子が2人きりで暮らしていました。

お婆さんは、ガラス製の細い花瓶を大切にしていました。

ある日。

お婆さんは男の子に言いました。「この花瓶に挿す花を探してくれるかい?」

男の子は、足の不自由なお婆さんの代わりに、お婆さんが大切にしている花瓶に挿す花を探すため、家を出て西の方角に向かいました。

「どんな花があの花瓶に似合うかなぁ…」と考えながら。

ガラス製の繊細な模様。細くて長い口。…花瓶を思い浮かべながら、男の子は近所の庭先や畑の中、道ばたで風に揺れる花々に目を向けながら歩きました。

でも残念ながら、花瓶のイメージに合う花が見つかりません。

それに…他人の庭先や、畑の中に咲いている花を勝手に摘むのは悪いことだし…

道端に咲いている花は、人や動物に踏まれて無惨な姿になっているし…

男の子は、もう少し歩いてみることにしました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その頃。

独り家の中でお婆さんは、花瓶を机の上に置き、物思いに耽っていました。

「ああ、この花瓶は、娘がまだ生きていた頃、カルチャーセンターに通って作り上げたのだったなぁ。私の60歳の誕生日にプレゼントしてくれたっけ…」

目に光る水を拭いながら、お婆さんはいつまでも思い出を追いかけていました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

山の麓まで歩いてきた男の子は、小さな山小屋を見つけました。

山小屋の庭先には、子ども用の小さなブランコがありました。

「ここに誰か小さな子どもが住んでいるのかなぁ」と男の子は思いました。

そして、山小屋の入り口ドアとブランコの間には、目の覚めるような小さく可愛い白い花が咲いて、風に揺れていました。

男の子はそれを見て、お婆さんが大切にしている花瓶にぴったり似合うような気がしました。

すぐにでも白い花を摘み取りたい思いを抑え、男の子は考えました。

「この山小屋の人に、ちゃんと断ってから花を持って帰らなきゃ。」

ちょうどその時でした。山小屋から、熊のような大男がヌッと現れたので、男の子はビックリしてしまいました。「こんにちは…おじさん…この花をもらって帰ってもいいですか?」

熊のような大男は、なぜか寂しそうな目をして小さな声で呟きました。

「坊やがその花を気に入ったんなら、その花もきっと、坊やのことを気に入ったんだろうな…。よし、わかった。根っこを切らないように気をつけて。用心して持って行きなさい。」

男の声は身に似合わず優しい響きでしたが、哀しそうな声のようにも聞こえたのでした。

ふと見ると、開けっ放しのドアから山小屋の中が丸見えでした。

山小屋の中には、女の子が遊ぶような人形とウサギのぬいぐるみが、木箱の上に大切そうに置かれていました。そして、その木箱は、ちょうど男の子と同じ年ぐらいの子どもが入りそうな大きさの細長い形だったので、男の子は何となく悲しい気持ちになりました。

気がつくと、男の子は自分でも何故だか分からないまま、大男さんにこう言っていたのです。

「この花は、もらわないで帰ります。そのかわり、この花をブランコの見えるこの場所で、いつまでも大事に育ててくださいね。」

男の子が山小屋を後にして家路に向けて歩き始めた時、その山男は無言でした。

男の子はしばらく歩き、一度だけ振り向いた時、山男さんは、あの白い花に水をやるため小さく屈んでいる姿が見えました。…男の子は、なんとなく幸せな気持ちになりました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

家の暖炉の前で、男の子の帰りを待つお婆さん。

60歳の誕生日の朝に、お婆さんの娘が花瓶をプレゼントしてくれた時のことを思い出していました。

…いつも元気で明るい娘。、お婆さんの自慢の娘。

「これ、初めて私が作った花瓶なの。お母さんにあげるから好きな花を飾ってね。」

手先の不器用な娘が、生まれて初めてくれた、一生懸命な手作りの贈り物。

娘は、少し膨らんだ自分のお腹を指さしながら、「実はもうひとつ…」と、大切な報告をしました。

お婆さんは思わず言葉を失い、娘はお婆さんにニッコリと微笑んだのでした…。

その日以来、お婆さんは、なんだかもったいない気がして、花瓶に花を挿すこともせず大切に机の上に飾っていたのでした。

でも今日は、あの娘の大切な子が、花を選んで運んできてくれる。

そうなんだわ。この大切な花瓶に挿す花を選ぶ人間として、これ以上ふさわしい者はいないでしょう…。

そんなことをぼんやり考えているうちに、玄関からパタパタと元気よく走り込んで来る音が聞こえました。

「おばあちゃん、遅くなってごめんね。」

ペロリと舌を出しながらも、申し訳なさそうに男の子は居間の入り口で佇んでいます。

「ぼくは、この花が一番いいと思うんだよ。」と言って差し出したのは、少しくたびれた赤い花でした。花びらも少し欠けて汚れています。

男の子は、懸命にお婆さんに訴えます。「道端に咲いてたから、ちょっとクタクタになってるけど…この花が絶対良いよ。誰にも迷惑をかけないし…」

男の子の声は、だんだん自信なさそうに消え入りそうです。「…で見つけた花なんだけど。」

「えっ?」

その時、お婆さんはハッとして男の子を眩しそうに見返しました。

「今、なんて言ったの?…どこに咲いていた花だって?」

男の子は、ある交差点の地名を口にしました。そこは車の交通量と事故が多いので、お婆さんからいつも「近づいちゃいけない」と言われていた場所だったので、男の子は後ろめたい気持ちでそぉーっと顔を上げました。

すると…思いがけないことに、お婆さんは目に涙を貯めていました。

そして、なぜだか幸せそうに何度も何度も頷いて、「ありがとう、ありがとう…」と、いつまでも繰り返すのでした。

こども王子

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あるところに、子どもしかいない国がありました。

この国で唯一の大人は、国王だけ。

しかし、その国王が死んでしまったので、次に大人になるのは王子の番です。

大臣が言いました。「王子さま。どうか早く大人になってください。そうしないと、この国が滅んでしまいます。」

まだ幼い王子は、困った顔で答えました。「どうすれば大人になれるのか教えておくれ。」

大臣や家来たちは、お互いに顔を見合わせましたが、誰もその方法を知りませんでした。

家来の中で一番年寄り(と言っても少年ですが)の門番が言いました。「西のはずれの森に住む魔女が、ひょっとしたら大人になる方法を知っているかもしれません。」

王子は、早速その助言のとおり、西の森へと向かいました。



森の中に住む魔女は、まだ幼い少女でした。魔女は王子にこう言いました。「大人になりたいんだって? それは無理だね。」

あまりにもしょんぼりとうなだれている王子を見て可哀想になった魔女は、こう付け足しました。「ああ、そういえば。ここより西の果てに、大人だけが住む村がある。そこを通り過ぎると、『大人への階段』という不思議な階段があるから行ってみなさい。」

明るい可能性が見えたので、魔女の「上から目線」の物言いも気にせず、王子は「はいっ!」と目をキラキラさせて出発しました。

「あ〜あ。」魔女はため息をつきました。「あんな純真さで、はたして大人になれるのかねぇ…。」



王子は、大人だけが住む村に着きました。



まず最初に会った大人は、占い師でした。

「すみません、大人になるにはどうすれば良いですか?」

物腰低く王子に、占い師はこう答えました。「東へ行けば良いだろう。ただし焦りは禁物。確実に願いを叶えるなら北へ向かうべし。そのかわり災難にも遭うだろう。」

「えっ。じゃあ、どうすればいいんですか?」と不安になる王子に、占い師は答えました。「安全なのは南の道である。でも中途半端に願いが叶うおそれがある。したがって西へ行くのが最も良い…かもしれないが、ひょっとしたら…」

「結局、どの方角へ行けば良いんですか?」王子は占い師の曖昧な態度に少しムッとしました。

「まあ、落ち着きなさい…」占い師は困った顔で白状しました。「実は…お前さんが子どもだから種明かしをするんじゃが…どんな結果が出ても『当たらなかったじゃないか!』と怒らせないように、どうとでも取れる返事をするんじゃよ。これが『大人の知恵』なのさ。」

「大人になることって、いい加減になることなのかなぁ…」王子は少し複雑な気持ちになりながら、さらに歩き続けました。



次に会った大人は、錬金術師でした。

透明のフラスコに緑色や黄色の液体を入れてかき混ぜています。

「おじさん、何の実験をしてるの?」

王子が興味津々で尋ねると、錬金術師はこう答えました。「ある物質と別の物質を混ぜ合わせて、金を造り出すのさ。それが私の仕事だよ。」

「へぇ〜!」王子は感心して見とれました。「すごいね。それじゃあ、すぐにお金持ちになれるね!」

「いやいや。そうではない。」錬金術師は意外な答えを返しました。「色んな物質を混ぜ合わせて実験を繰り返しているが、まだ一度も成功したことがないのだよ。」

王子は目を丸くしてビックリしました。「えっ…それじゃあ、おじさんはどうして生活していけるの?」

錬金術師は王子に優しく答えました。「大勢の人達が、私に研究資金を注ぎ込んでくれるのさ。もし成功したら大金持ちになれるんだからね。でもね…」と、少し声を低くして、錬金術師は周囲を窺いながら、こっそり秘密を打ち明けました。「実はね…絶対に成功しないようにしてるんだ。だって、成功しちゃったら私のやることがなくなるからね。…これは内緒だよ。」

「うーん…。さようなら。」王子は頭を抱えて再び歩き始めました。

大人になると、どうしてこんなに複雑なことをしなくちゃならないんだろうか。



最後に会った大人は、エンターテイナーでした。

この人は…年齢も性別もよくわかりません。

「おじ…おば…ええっと…」

王子が呼びかけに戸惑っていると、その人は言いました。「おじさんと呼ぼうか、おばさんと呼ぼうか迷ってるんでしょ?ふふふ。じゃあ、おゆさんとでも呼んでちょうだい。」

「はい。おゆさん。」素直すぎる王子の返事に、彼(彼女?)は少しドギマギし、「いや…冗談なのに。まあいいわ。」と気を取り直して、「私のお仕事、わかるかしら?」と王子に挑発するように質問しました。

「わかりません!」リターンスマッシュのような王子の即答に、彼女(彼?)は再びたじろぎましたが、大人の威厳を失わないように「コホン」と咳払いをした後、「仕方ないわね。じゃあ、答えを教えるわ。あたしの仕事はエンターテイナーよ。…って、わかるかしら?」

王子はさらりと答えました。「人を楽しませる仕事。芸人。演芸家。」

思わぬ博識ぶりを披露する王子に、年齢性別不明のエンターテイナーは目を丸くしました。「すごいわね…。あんた、チビのくせに意外とやるじゃん。」

王子は、さきほどからのエンターテイナーさんの横柄な口ぶりが、次第に不愉快になってきました。本当は「僕は王子だぞ。ええい、頭が高い!ひかえよっ!」と怒鳴りたい気持ちで一杯なのですが、いつも大臣達に「他人に偉そうにしてはいけません。威張ってはいけません。」と教えられているため、目の前の大人の横柄さに耐えることにしました。

そのかわりに、王子はエンターテイナー氏に1つだけ疑問をぶつけました。「あなたはテレビの中では愛想が良いし、ニコニコ笑っているのに、どうして今はそんなに無愛想で失礼なんですか?」

こんな質問をしている自分こそ失礼だなと恥じながら、王子はどうしてもこの質問をしたくてたまらなかったのです。

エンターテイナーさんは「ふん」と馬鹿にしたように鼻で嗤いました。「当たり前じゃない。誰がテレビカメラの回っていないところで営業スマイルなんか振りまくのよ。」

「ありがとうございました。さようなら。」王子は、再び歩き始めました。そして、村のはずれまで着き、さらに西を目指しました。



王子は、目の前の1本道をずっとずーっと歩きました。

やがて空にまん丸い月が昇った頃、ようやく王子は道の脇に標識が立っているのを見つけまた。

その標識には、こう書かれていました。「この先、大人への階段があります。」

やった!…と王子は心の中で小躍りしました。森の魔女が言っていた階段がようやく見つかったので、嬉しくてたまりませんでした。

わくわくする気持ちを抑えきれず、王子は喜び勇んで階段へと走りました。

と…。

トトトトトト!

あまりに慌てていたものだから、王子は階段をスッテンコロリン真っ逆さまに転げ落ちてしまいました。



少年は、気がつくと、長い長い階段の下で横になっていました。

「あれっ…ここはどこだろう?」「僕は誰?」「どうしてこんなマントを羽織っているんだろう?」

様々な疑問が頭に浮かびましたが、とりあえず少年は人がいる近くの町まで行きました。

その町で、記憶を失った少年は温かく迎え入れられ、王子だった記憶を取り戻すこともなく、幸せに一生を過ごしました。

もちろん…どうすれば大人になれるのかという疑問も、すっかり忘れたまま。

でも、大人になる方法を探していたことを忘れたおかげで、どうやら無事に(?)大人になれたみたいです。

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