スペイン・ロマネスク美術

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ロマネスク修道院の装飾(1)―ベネディクト派とシトー派

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Abadía de Viaceli, Cantabria
Monasterios cistercienses en la España medievalイスパニア中世のシトー派修道院)』より   P8
 
 
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Santa María de Sandoval(León)
(Monasterioscistercienses en la España medievalイスパニア中世のシトー派修道院)』 より)     p.52
 
 

 
これから4回に亘ってロマネスク(就中修道院)の装飾について、とくに体系的ではありませんが私の基本的な考えを綴っていきたいと思います:−
 


“装飾とは何か”と云う問題には種々の見解があります。

分かり易いものとして、デコレーションdecoration()とオーナメントornament()と云う語があります。

前者はラテン語decorare、後者もラテン語ornare由来の語で、夫々“美化する”及び “形を与える”の意です#。
 
      #若宮信晴『西洋装飾文様の歴史』、文化出版局、19938




一般論ですが、所謂芸術作品を鑑賞するとき、我々は普通その作品の線の律動と調和、形態の場合は空間を光と影や色彩などに留意しながら眺めます。

作品として「装飾」も立派に芸術作品であり、その理解のためにはこれらの諸観点が重要になります。
 


今回のテーマの本筋に入る前に、ロマネスクの原点について少し振り返っておきましょう:
 
 大まかに言って古典ギリシャ時代における絵画の手法は「写実」、古代ローマ時代及びその直後の初期キリスト教時代も「写実」、イスパニア・モサラべ、ロマネスク時代は「抽象」、後期・ゴシック時代は「写実」といった具合に美学的手法を区分できると思います。
 

 西欧の抽象美術であるロマネスク美術は、周知のごとく1112世紀、前後の経過期間を入れても約2百数十年間、西欧を風靡したキリスト教美術です。


 この美術は奥深いものがあり、いまだわが国では知られていない要素がたくさんあります。

  上記の如く中世の一時期の宗教美術は、教会や修道院の主としてキリスト教美術ですが、その領域は単に宗教的なものだけに留まらず、世俗的な分野にも及んでいます。

 この中でも、修道院という特殊な共同体の中に咲き誇った美術は私にとり特に魅力的で、私がこの美術に開眼したのも丁度2000年1月イスパニアのシロス大修道院の回廊でした。


 
さて、前置きはこの辺にして本筋に入りましょう:

修道制がガリア地域(現フランス)を中心に西欧に根を生やし、クリュニー大修道院を根拠にして、修道士たちの日常生活は「聖ベネディクトの戒律」(73章からなる)によって律せられ、その中には修道院と修道士たちという共同体において、福音書の教えをいかに実践に移すかという指針が細かく示され、また修道士たちの日常生活の厳格な規則が定められました。

(古田暁訳『聖ベネディクトの戒律』、2000年、すえもりブックスという格好の邦訳と解説書が刊行されています。)
 


当時のガリアの地(フランス)では、クリュニー大修道院がベネディクト派の総本山です。

かの地のロマネスク美術は、このクリュニー大修道院の強大な影響力のもとにキリスト教の勢力が飛躍的に拡大し、ガリアの地を核としてイベリア半島においては幾何級数的にその傘下に修道院が増大していく中で、特にカタルーニャ地方及びサンティアゴ巡礼路周辺の半島北部中心に隈なく広がっていったことはご承知のとおりです。
 


一方シトー派の修道士たちは、元々修道制の創設者である聖ベネディクトが定めた当該戒律を忠実に守っていこうとする質素で厳格な一派で 、“祈りを通じて死者へのとりなし、また労働”を大事にしていわゆる世俗への関心を持たずに修道生活を守っていたため、上述のベネディクト派のクリュニー大修道院の賑々しい装飾と世俗迎合姿勢を快く思いませんでした。 
 

このシトー派の姿勢をまとめて大きな動きに指導したのがかの有名な聖ベルナルドでした。

結果として、このシトー派の修道院集団がイベリア半島にも及び、装飾芸術に対する考え方もベネディクト派の修道院とは異なり、後者の華美で多彩な装飾手法に対し、感覚的なものを否定し地味なものを志向しつつ別の派を形成していったのです。

つまりこの動きは装飾的なものをも否定することにつながり、建築物は外装の彫刻装飾を削ぎ落し、修道院回廊(特に柱頭彫刻)もベネディクト派の修道院と比べ、派手なごてごてした植物彫刻を忌避し、幻想的な動物も姿を消していったのです。

一例としてここにカンタブリア地方のAbadía de Viaceli, 大修道院の外観を載せておきます。ベネディクト派のものと違い、装飾もない扁平な外観であり、また内部の回廊の装飾も御覧のとおり極めて簡素で厳しいもので、巨大な塔や高い屋根、また感覚的なもの、無駄なものは否定されています。

しかしそれらも芸術的ではあるのです。
 

 ―次は6月5日に、ロマネスク修道院の装飾2)を掲載します―
 
2017.05.16

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