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―正殿、皇太后の間― 蕾が膨らみ始めたばかりの初春、中等部の入学式となったこの日、皇太后の部屋では真新しい制服に身を包んだ少女が零れんばかりの笑顔で家族の前に立っていた。 「チェギョン、良く似合ってますよ」 「本当?お祖母様♪」 くるりと一回りしてスカートの裾を少し持ち上げたチェギョンはちょこんとお辞儀をして兄、ユルの隣に腰掛けた。 既に慣れ親しんだ中等部の制服に身を包んだユルと中等部の制服を来たチェギョンが並んで座るのは今日が初めてで、嬉しくて仕方ない。 数日前までは初等部の制服だったせいか、ユルが随分と大人に見えた。 置いていかれたような気分だったが、今日は同じ制服という事もあり、兄に近付けた事も嬉しかったが何より自分が大人になれた様な気がした。 両親の話題が今日の公務に移ったところでユルが笑顔の耐えないチェギョンの顔を覗き込む。 「そんなに嬉しいか?」 そうユルが訊ねると、チェギョンは人差し指を立てて‘勿論!♪’と答えた。 「兄様達にいつでも会えるもの♪」 ‘お兄様よろしくね♪’と付け加えられた言葉にユルは苦笑いするしかなかった。 自分達にも責任が無かったとは言えないが、初等部の頃はチェギョンが心配でシンと二人、何かにつけてチェギョンの様子を見に行っていた。 それが、自分達が中等部に進んでからそれが一切無くなったのだから、チェギョンがそう言うのも分かる気がするが、理由はそれだけじゃないように思えた。 「そう言えば、さっきシンを見掛けたな…」 その言葉にチェギョンの身体がピクンと動くと、ユルの膝に手を掛けて揺さぶり、大きな瞳でチェギョンはユルの顔を覗き込んできた。 「シン兄様が?どこに?」 「イ内官に渡す物があると言ってたから、イ内官の部屋じゃないのかな」 そう答えたユルにチェギョンが今日一番の飛びきりの笑顔を見せた。 中等部に上がる一番の嬉しい理由が彼なのだと、内心悔しい気もしないでもないが嬉しそうにする妹を見ると嫌味も言えない。 「シンに制服姿見せたいんだろ?」 「うん!」 そう言って立ち上がったチェギョンは準備が整っていなかったと、退室の挨拶もそこそこに皇太后の間を後にした。 呆気に取られる両親に苦笑いしつつ、ユルは嬉しそうなチェギョンの後ろ姿を見送った。 「チェギョン様、もっとゆっくりお歩きになって下さい」
シンの元へと急ぐチェギョンに後ろから付いて来るチェ尚宮が苦言を呈す。 そんなチェ尚宮の言葉に頬を膨らませながら、チェギョンは歩くスピードを緩めた。 「お姉さん厳しすぎ」 「チェギョン様の為です」 ピシャリと言われチェギョンは‘うぅっ’と唸って肩を落とした。 ―やっぱりお姉さん厳しいよ。 チェギョンに付いているチェ尚宮は宮に対する忠誠心が厚く、若い尚宮の中でも優秀だった為、皇后付きの尚宮に取り立てられたほどだ。 だが、そのチェ尚宮を皇后は落ち着きのないチェギョンの為にと二年程前から教育係として付けていた。 普段は厳しいチェ尚宮もチェギョンが悩んだ時などは親身になって相談に乗ってくれ慰めてくれる。 チェギョンにとってチェ尚宮は歳の離れた姉のような存在になっていた。 そんなチェ尚宮を気にしつつ、チェギョンがイ内官の部屋の行くと、ユルの言っていた通り部屋の前にシンの姿があった。 「シン兄様?こんな朝早くにどうしたの?」 嬉しい気持ちを抑え、偶然の装ってチェギョンはシンに声を掛けた。 「お前こそ、こんな場所に来るなんてどうしたんだ?」 チェギョンの声に気付きシンは壁にもたれていた身体を起こすと、長身の彼が一層大きく見えた。 中等部に進学してからシンと会う機会は極端に減り、宮で見掛ける事はあっても声を掛ける事がなかなか出来ずにいた。 そんなシンと話したのはもう一ヶ月前の事で今の彼は一ヶ月前より大人に見える。 知らない間に低くなった声や覚えのない仕草するシンにドキドキして、なかなか答えられないチェギョンにシンは首を傾げその顔を覗き込む。 「んとね、みんなに制服のお披露目しようと思って…」 シンに見つめられ、ドギマギしながら咄嗟に出した言葉だったが、シンが注目してくれるには充分だった。 シンも中等部の制服を着たチェギョンを見るのは今日が初めてで、頭のてんぺんから爪先までまじまじとチェギョンの制服姿を眺めた。 一ヶ月前声を掛けて来たチェギョンはまだ初等部の制服に身を包み、髪は高い位置で二つに結っていた幼い女の子だった。 今、目の前にいるチェギョンは髪を下ろし、少し大人に見える制服を着ている。 あどけない笑顔は変わらないけれども、彼女も少しずつ大人になっているのだと思わずにはいられなかった。 「どう、かな?似合う、かな…?」 自信無さげに訊ねるチェギョンの頭を優しく撫でた後、腕組みしてもう一度チェギョンの制服姿をチェックする。 「似合うけど、スカートが短過ぎ」 「指定通りの長さだもん…」 パン女官とチョン女官に指定された長さよりちょっとだけ短くしてもらったけど、それをシンが知るはずがない。 バレたのかとドキドキして目を泳がせたチェギョンに気付き、シンは後ろに控えているチェ尚宮に声を掛けた。 「チェ尚宮さん」 「はい、何でしょうか?」 「あーっ、だめっ!シン兄様言っちゃやだー!」 チェ尚宮に怒られると慌ててシンの口を塞ごうとチェギョンは手を伸ばしたが、長身の彼の口になかなか届かない。 「スカートの丈、多分指定されたものより短いと思うので調べてもらえませんか?」 隠していた事がチェ尚宮に知られたと、恐る恐る後ろを振り向けば厳しい表情のチェ尚宮が自分を見ており、チェギョンはガックリと肩を落とした後、シンを睨み上げた。 「シン兄様の意地悪!黙ってくれててもいいじゃない」 「生徒会副会長兼風紀委員長の俺に嘘を吐けって言うのか?」 「うぅっ…シン兄様の鬼!悪魔!」 「なんとでも言え」 声を上げて笑っていたシンが不意に表情を固くして俯く。 訝しげな表情で彼が表情を固くする直前に自分の肩越しに目を向けていた事を思い出したチェ尚宮が振り返ると、そこには険しい表情をした彼の父、イ内官の姿があった。 「イ内官様、おはようございます」 「あぁ、チェ尚宮おはよう」 二人のやり取りに気付いたチェギョンが振り返り、イ内官に笑顔を向ける。 「イ内官のおじさん、おはようございます!」 「チェギョン様、おはようございます。このようなところにおいでとは何かございましたか?」 「えっとですね、今日から中等部なので、新しい制服をみんなに見てもらおうと来ました」 「左様にございましたか」 「制服、似合ってますか?」 「えぇ、とてもお似合いですよ」 「ありがとうございます♪」 チェギョンに対し柔らかな眼差しと口調で挨拶するイ内官だが、その後ろに立つ息子シンに向ける眼差しは変わらず険しい。 自分に向けられる父の目に居心地の悪さを感じたシンは、ここに来た目的を早く果たすべくA4サイズの封筒をイ内官に差し出す。 「頼まれていた物です…」 「あぁ…」 封筒を受け取ったイ内官が中身を確かめる間、シンは床に視線を落とし、イ内官からの視線を避けていた。 「チェギョン様、そろそろ登校の用意をなさいませんと」 親子の間に漂う微妙な空気を感じたチェ尚宮がチェギョンに声を掛け、この場から彼女を遠ざけようとする。 「あ、そうだね。じゃぁシン兄様学校でね♪」 何も気付かないチェギョンは素直に頷き、チェ尚宮の言葉に従った。 「あ、あぁ…」 チラリと視線をチェギョンに向けたが父の目が気になるのか、シンは直ぐに視線を逸らした。 手を振るチェギョンに一礼し、二人を見送ったイ内官は、二人の姿が見えなくなると溜息を吐き出した。 「僕も学校がありますので…」 父に何を言われるか見当がつくシンは一礼して立ち去ろうとしたが、イ内官はそんなシンの背中に彼が幼い頃から言われ続けてきた言葉を再び彼に浴びせた。 「シン、分かっているとは思うが、我々と宮家の方々とは住む世界が違うのだ。特にチェギョン様とは距離を置きなさい」 「…はい、父さん…」 振り向かずにシンは父の言葉に頷くと再び一礼してその場を後にした。 振り払いたいのに頭の中では先程の父の言葉がリフレインする。 ―身分違いだということは、言われなくても分かっている…。 ‘異性であるシンがチェギョン様の傍に居れば、悪い噂を立てられる可能性がある。そうなれば、宮家に迷惑を掛ける事になる。’ 散々言われ続けてきた言葉に従い、中等部に上がってからは必要以上に宮中に来ないようにしたし、ユルに用がある時はチェギョンに会わないように東宮殿に行っていた。 偶然に会う事があれば、自分の気持ちを押し殺して兄に徹した。 言われ続ける事で悲鳴を上げそうになる自分の心を抑えるようにシンは唇を噛んで拳を握り締めた。 |
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恵那さん、アンニョン☆
チェギョンは、中等部になったんですね。
きっと可愛い制服姿だと思います〜^^
シン君がドキッとするくらいね・・・
でも、好きという想いは、お互いに芽生えていっても、取り巻く環境が許してくれないと思ってしまうんですね・・・
抑えようとすれば反発して余計に想いが募るかもわかりませんね・・・
まだ幼い二人をそっと見守りたいと思います。
2011/5/23(月) 午後 11:39
恵那さん こんばんは
中学生か〜チョット大人の仲間入りでしょうか?
韓国も電車とか大人料金になるのかな?
シン君 無邪気なチェギョンを見るのは
辛いんだろうな〜
シンパパは忠誠心から出る言葉だけど
シン君の心には、鉛となって堕ちていくんですね***
まだまだ試練は続きそうですね
更新 ありがとうございます
2011/5/23(月) 午後 11:46
恵那さん、おはようございます。
更新ありがとうございます。
シン君へ、中学生になったから制服姿を見てもらおうと、チェギョン
勢い込んで会いに行ったら、スカートの長さをチェックされましたね。ウフフ、シン君と来たら。
シン君の方も、チェギョンと親しくしたいのでしょうが、それが
出来ないのですね。
ここで、立ちはだかる身分の違い。
いくら、チェギョンのことを好きになっても、どうしょうも
無いと言うこと。
シン君、本当に辛いですね。
陰ながら、見守る事しか出来ないのですね。
2011/5/24(火) 午前 5:37
恵那さん、おはようございます
更新有難うございます チェギョンの制服姿
可愛いでしょうね シン君は辛いですね
続きお待ちしています。
2011/5/24(火) 午前 6:32