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チェギョンをシンの側室にと言うヘミョンにガンウは困惑するしかなかった。 だが目の前の女性は真っ直ぐにガンウを見詰め、その真剣さを伝えてくる。 ならば、こちらもその真意を聞かなければと、彼もまたヘミョンの目を真っ直ぐに見詰めた。 「太子殿下は近々明国の姫様と婚礼を行なうとか。なのに、何故その娘を側室に迎えようとするのですか?」 その問い掛けに、『ふっ…』と一瞬だけヘミョンは悲しげに微笑む。 「明国のヒョリン姫との婚姻は国と国を繋ぐ民を守る為にも大切な事…私達、国を治める者にとって、それは果たさなければならない義務…想いを寄せる相手がいたとしても、その想いを叶える事は出来ない…けれど、離せない想いをどうにかして叶えてあげたいと思うのは、私の我儘かしら…?」 そのヘミョンの言葉は、その華やかな暮らしとは裏腹の、自由に自分の想いを貫けない虚しさと苦しさ、そして、どうにかしてシンの想いを叶えてやりたいと思う、姉の思いが痛いほどにガンウ達に伝えてくる。 その思いに彼は口を閉ざす理由がなくなってしまっていた。 「どうか、会わせてもらえないでしょうか?」 「ヘミョン様!?何をなさるのですか!?ヘミョン様がそのような事をされてはなりません!!」 そして、懇願し、頭を下げるヘミョンの姿に皆が驚くと同時にソン武官が声を荒げる。 皇女にあるまじき行為だと、ソン武官が頭を上げるように説得するが、ヘミョンは依然として頭を上げようとはしなかった。 「ヘミョン様!お止め下さい!!」 「じゃあ、あなたはあのままのシンでもいいの!?あの姿を見て、胸は痛まないの!?」 その言葉にソン武官が一瞬言葉を飲み込む。 「胸が痛まないはずがありません…あのような殿下のお姿を見ているのは私も辛いのです…」 「なら、私が頭を下げるくらい大した事ではないわ。それでシンが救えるのなら、安いものよ」 「ヘミョン様…」 ―ヘミョン様なら、二人を守ってくれるかもしれない…― 二人のやり取りを見守っていたガンウの中にそんな思いが湧いてくる。 「…ウナは…」 ガンウの口から呟かれたその名前に、ヘミョンが弾かれたように顔を上げる。 「ウナと、その女性の名はウナと言うのですね!?」 「はい、その子の名はウナと言います…ですが、この村にはもう居りません…」 安堵の表情を見せたヘミョンの顔が一瞬にして険しくなった。 「居ないとは…?どう言う事です?」 「あの子は、元の、自分の居た場所に戻るのだとこの村を出て行ったのです…」 「そんな…だめよ、二人を会わせないと、シンの心が持たないわ…」 「ハヌルの…太子殿下の心が持たないとは、一体どう言う事ですか!?」 嘆くヘミョンにガンウが詰め寄る。 顔を覆う手を下ろし、ヘミョンは宮中でのシンの姿を思い出す。 苦しみと悲しみ、その姿から見えるのはそれしかなく、瞳は映る物全てを拒絶しているかのようだった。 「弟は、生きる気力を失くしています。だから、私は二人を会わせようと…なのに、もう居ないなんて…」 シンを助ける為にと望みを賭け、ここまで来たのにとヘミョンの瞳が涙で揺らいだ時、ソン武官がその重い口を開いた。 「殿下が…殿下がそうなられたのは皇帝陛下のお言葉の所為にございます…」 「それは、一体どういう事なの?」 「陛下は、私に殿下がその者の為に再び宮を出る事があれば、その者を殿下を誑かし国を揺るがした重罪人として捕らえよと…」 「お父様がそのような事を!?」 「はい、それで私は殿下にその事を申し上げました。殿下が宮から出れば、その者は重罪人として極刑が与えられると…その後です、殿下があのようになられたのは…」 「そんな…」 それを告げられた時のシンを思うとヘミョンの胸が痛んだ。 その所為で追い詰められたシンの心。 会う事も伝える事も出来ずにシンの心は悲しみの中に沈んでいった。 葉を落とすむくげの木の前で悲しげに笑ったシンの顔は無力な自分を嘆いていたに違いない。 「ウナを捕らえるつもりなのですか?」 皇帝の意思を知ったガンウがソン武官にチラリと視線を向けた後、ヘミョンへと問い掛けた。 その問い掛けにシンの心痛を思い、涙を浮かべていたヘミョンはその涙を拭うをきっぱりと言い切る。 「いいえ、そんな事、私がさせません」 そう言い切ったヘミョンの瞳は嘘を吐いているように見えない。 「今、追い駆ければまだ間に合うかもしれません…」 その瞳を信じガンウはヘミョンに二人を託す事を決めた。 「ここから少し先に、むくげの花が咲く丘があります。ウナが殿下への想いを断ち切れないでいるなら、まだ、そこにいるかもしれません」 次の、花咲く頃にその丘に二人で行く約束をしたのだと、嬉しそうに話してくれたチェギョンの笑顔がガンウの脳裏に思い出された。 自分の元居た場所に戻るのだと言っても、そう簡単に人の想いは断ち切れるものではない。 その想いが残っているのなら、あの丘にきっとまだ居るはず。 「ヘミョン様、お待ち下さい」 ガンウからむくげの丘に居るかもしれないと聞いたヘミョンが立ち上がり、戸口へと急ぐ。 その背中にガンウが声を掛けた。 「今もウナはハヌルがこの国の太子殿下だとは知りません」 「誰もその事を言わなかったの?」 「はい、村の者は皆あの子を思い言いませんでした。告げれば、また苦しむと…ですから、あの子がその事実を知り、その上で側室を望まないのなら、無理強いはしないで欲しいのです」 ハヌルは李国シン太子だった。 知らずにいた事実をウナが知れば傷付くのは目に見えている。 その上、側室になれと言われれば彼女の心は混乱し、また苦しむだろう。 だが、二度と会えない苦しみを一生、彼女に与えるのはそれでいて酷な事なのだと。 別れを選ぶか、それとも側室という道を選ぶか、それはチェギョンの意思に任せるしかないのだ。 「彼女がどんな道を選ぶか…私にも分からないし、選んだ道を変えろと無理強いはしない。けれど、その道を彼女一人ではなく、シンと一緒に選んでもらうわ」 「殿下と一緒に?では、二人を会わせるのですか?」 「ええ、そうしなければ、二人の心は今の場所から一歩も動けずに、ずっと後悔と苦痛だけを抱えて生きていかなければいかない…」 そう答えたヘミョンはソン武官を従え、外へと走り出した。 むくげの丘、チェギョンの許へと―。
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恵那さん、お帰りなさい。
更新ありがとうございます(*^^*)
はじめてコメントさせて頂きますが、かげながらお待ちしました。あなたのお話また、読ませていただけるなんてとっても嬉しいです(^.^)
これからも、あなたのペースで頑張ってくださいね。
2012/6/25(月) 午前 1:19 [ aju*k*mo* ]
恵那さん こんばんは〜
更新ありがとうございます。嬉しい・・シクシク,,,(つω・`)。o.゚。
ヘミョン様の弟を思う心・・チェギョンのもとへ・・・
むくげの丘に間に合うのかしら・・どきどき
続き楽しみにしています。
2012/6/25(月) 午前 1:29
恵那さん こんばんは
「どうなさっているのかな?」
ってね…ある方と心配していたんです。通じたかな(^_^;)?
千年恋歌…ず〜っと気になっておりました。
続き読めて…嬉しいです…。
どきどき|コッソリ|・ノω・)見守らせていただきます。
2012/6/25(月) 午前 2:30
こんばんは。
嬉しい驚きです!
更新ありがとうございます。
やっと二人の一歩が始まるかもしれない…
でも、辛いです。
想いあう二人が…幸せなって欲しい。
2012/6/25(月) 午前 2:53 [ sinn ]
恵那さん、おはようございます。
本当にお待ちしていました、お話の更新。
シン君、チェギョン二人の為に、姉へミョンが行動を。
チェギョンがいるであろう、ムクゲの丘に。
どうか間に合って欲しいです。
今はただ、そこにいることを祈ります。
お話の世界へ戻ってきていただいて、感無量です。
ありがとうございます。
2012/6/25(月) 午前 4:46
恵那さん おはようございます
再びお話読ませていただけて朝から
とても素敵なプレゼントをいただけた気分で
気の重い月曜日を乗り切れそうです。
ムクゲの丘でチェギョンにヘミョン様が会えますように
お祈りしています
2012/6/25(月) 午前 6:48
恵那さん、おはようございます
更新有難うございます シン君とチェギョン再び会えるでしょうかヘミョン様どうぞ二人の為にお力を
続き待っていますね
恵那さん、お話が読めて嬉しいです
2012/6/25(月) 午前 7:03
恵那さん更新ありがとうございます。
また恵那さんのシンチェの世界を楽しめるなんて最高です。この続き楽しみに待っていますね。
2012/6/25(月) 午前 8:27 [ non ]
おはようございます。
更新ありがとうございます!!
とてもうれしいです♪
恵那さんからはじまったわたしの宮2次小説の旅…
あっという間に1年が過ぎていました。
帰ってきてくれてありがとうございます。
お話は辛いシーンですけど私はうれしくてたまりませんよ〜
2012/6/25(月) 午前 10:35
恵那さん、あんにょん♪
お話の更新ありがとうございます。
ヘミョン姫が動いて二人の関係も前進するのかな・・
チェギョンがまだムクゲの丘に佇んでいるといいな・・・
2012/6/25(月) 午前 10:48
お帰りなさい
お待ちしておりました
もう一度、最初から読んでもう一度来ます。
ご子息様災難でしたが、よくなって本当に良かった
これからもよろしくお願いいたします。
2012/6/25(月) 午前 11:13 [ twente ]
恵那さん、こんにちは。
更新ありがとうございます。
ヘミョン様が二人の、シン君の為に頭まで下げてのお願いですね。
でも、チェギョンは、もう此処には居ませんね。ヘミョンはチェギョンに逢えるかしら?チェギョンの出す答えは?
とっても気になる続き、楽しみにお待ちしています。
2012/6/25(月) 午前 11:37 [ - ]
恵那さん こんにちは(^。^)y-.。o○
更新情報を開いたら恵那さんの文字が。
「えっ ホントに!」
こんな嬉しい驚きは、ホントにホントに久しぶりです。
実は、昨晩社会人になった息子と喧嘩して(いつものことですが)、
萎えていたんです。
恵那さんの文字を目にした瞬間
気分は一変しちゃいました(*^。^*)
ありがとうございます。
2012/6/25(月) 午後 3:09 [ ぺろ ]
更新本当にありがとうございます。
うれしくてうれしくて・・・・・。恵那さんのお話、どれも大好きですが一番気になってるのが、この千年恋歌です。感激です。
二人には絶対幸せになってほしい…。
続き楽しみにしてます。あわてずゆっくりでいいので、お願いしますね。
いつも心癒されるお話、ありがとうございます。
2012/6/25(月) 午後 8:56 [ ri ko ]
恵那さん、こんばんは〜
更新ありがとうございます!
千年恋歌、ずっと続きが気になっていました。
また読めるなんてすごくうれしいです。
こえからもよろしくお願いします。
2012/6/25(月) 午後 9:40 [ のら猫 ]
恵那さん、はじめまして。
最近こちらを知って、ほぼ1日で作品全部に目を通して、
どの作品にも引き込まれて、この「千年恋歌」で本当に泣いています。
一気に読んだせいか、チェギョンの気持ちになってしまいました。
切なくて、たまらないです…
どうか二人の未来に幸せがあるように祈っています。
これからもどうぞ無理のないように創作活動頑張ってください。
(でも、早く先が知りたいのですが…ごめんなさい)
これからもよろしくお願いします。
2012/7/3(火) 午前 0:54 [ シエロ ]
恵那さん、今晩は

千年恋歌、更新ありがとうございます
ご挨拶コメ以来、初コメです(ゴメンナサイ)
続きが気になっていた作品だったので、とても嬉しいです。
焦らず、急がず、恵那さんのペースでいいので創作活動ガンバって下さい
2012/7/4(水) 午後 8:30 [ sbp*s*99 ]
恵那さん、今晩は。
千年恋歌、更新ありがとうございます。恵那さんのお話でシンチェの世界を知りました。待っていました。 また、幸せな時間をお願いします。
2012/7/16(月) 午後 11:57 [ tomokoreiko ]
更新ありがとうございます。
すごくうれしいです。特にこの千年恋歌が大好きです。
ご自分のペースで、これからもご自身が楽しんでお話をお願いします。
2012/7/21(土) 午後 0:47 [ kab*o*ha*a3 ]
はじめまして。千年恋歌とても続きが気になっていて久しぶりに2回目を読ませていただきました。二人があえることを楽しみにしています。
2014/9/29(月) 午前 8:40 [ suuさん ]