|
シンの住まいは東宮殿から昌徳宮の宮殿へと移された。 移り住んだ宮殿にはチェギョンとの思い出は一つもない。 寂しいと思いながらもシンはどこかホッとしていた。 チェギョンがそこにいるような錯覚に囚われずにすむ。 そう思いながらもシンは時々、東宮殿に足を運んでいた。 どうしても寂しくなりチェギョンの部屋を覗いてしまう。 こんなに情けなくなった自分を見たら、チェギョンはどう思うだろうか…。 苦笑いを浮かべ、チェギョンには言えないとシンは自嘲気味に笑った。 移り住んだ宮殿にはチェギョンの部屋も用意されていた。 チェギョンの部屋と言っても、チェギョンの物が置いてあるわけではなく、暖かな色の壁紙と女性らしい調度品がチェギョンの部屋だと物語っていた。 シンはこれが姉の仕業だと気付く。 姉さんだな…。 思わず笑ってしまう。 姉なりの配慮なのだろうと、シンは主の居ないその部屋を眺めた。 この部屋の主はいつ帰って来るとも分からない。 そがいつになるのか、自分でも分からない。 それでも、愛しいその存在を一日も早くこの腕に抱ける日を願ってしまう。 この宮殿が明るく温かな声に包まれる事をシンは切に祈った。 シンは王立大学に進学せず、芸術大学に進学した。 そして、入学早々に飛び込んだ面白くない話。 新入生の中に自分の他に皇族がもう一人いると言う話だった。 自分の他に皇族が入学して来た。 ただそれだけなら、それ程気にする事でもなかった。 だが、それがシンの又従兄弟で男だという事、そしてなにより、美術科だという事がシンには面白くなかった。 イ・ヒス。 それが問題の又従兄弟の名前だった。 王立中学までは一緒だった又従兄弟、だが近い関係だと言ってもそれほど会話をした事がなかった。 自分は他人に興味がない。 それは近親者に対しても同じだった。 中学を卒業しても誕生日パーティーなどで時々顔は合わせていたが気にする事さえなかった。 気にしていなかった存在を今、気にしなければならい。 チェギョンが韓国に戻った場合、自分と同じ大学に通う事は間違いないだろう。 チェギョンの専攻は美術、同じ美術科となると接触する機会も多いはず、そうなればあのチェギョンの事、仲良くするのは目に見えている。 鈍感な我が妻は自分の意識しないところで男を惹き付けるのだから性質が悪い。 ユルの時と状況が似ている気がしてシンは机の上に置かれたチェギョンの写真を指で弾くと溜息を吐いた。 大学が始まり、シンは高校の時と変わらぬメンバーで毎日を過ごしていた。 廃妃が囁かれる中、大学でもシンに近付く女性は少なくはなかった。 民間出身のチェギョンが皇太子妃になった事もあり、自分の容姿を武器に近付いて来る女性もいたが、シンはそれらの女性を相手にする事はなかった。 ただ一人しか見えていないその瞳は虚ろにそれらの女性を映すだけだった。 講義が始まる前、騒いでいる友人達の輪の中に入らず、シンは一人、窓の外を眺めていた。 階下に見える学生達をぼんやりと眺める。 楽しそうに笑う恋人達の姿を無意識に自分とチェギョンに重ねて見ていた。 あんな風に歩ける日はいつ来るのだろうと溜息ばかりがシンの口から漏れる。 「シン…」 ぼんやりと窓の外を眺めるシンにファンが声を掛けたが、シンは聞こえていないのか何の反応も示さない。 「まただ…」 こんな風にぼんやりとするシンを三人はこれまで何度も見てきた。 以前のシンは隙がなく、張りつめているようにしていた。 だが、チェギョンが居なくなってからと言うもの、こんな風になる日が多くなっていた。 最初は驚きもしたが、今は特別な事がない限りそっとして置く事もしばしばだった。 相変らず自分が呼ばれた事に気付きもしないシンは窓の外を眺め続けている。 三人はシンに気付かれないようにそっと額を寄せ合うと、小さく話し始めた。 「なぁ、あの事はシンには言わない方がいいよな…?」 「あの事?」 「ネットで流れている噂だよ…」 「本人は知らないみたいだし言わないほうがいいだろう。シンが知ったら何をするか分からないしな。宮家も放って置かないだろうし大丈夫だろう…」 「だな」 「『だな』ってギョン、お前が一番心配なんだよ」 「何だよ…俺ってそんなに信用ないのかよ…」 「「あぁ、ないね」」 インとファンに同時に言われ、ギョンは不満そうに頬を膨らませた。 ぶつぶつと文句を言い続けるギョンを軽く受け流したインはシンの前の席に座る。 それでも気付く様子のないシンの机をコツンと叩き、インはチェギョンの事を訊ねた。 「シン。チェギョンは元気にしてるのか?」 「チェギョン…?」 チェギョンの名前に窓の外を眺めていたシンの視線がようやくインに向けられた。 チェギョンの名前には敏感に反応するシンに三人は苦笑いしてしまう。 「ああ、元気にしてるよ。向こうの生活にもだいぶ慣れてきたみたいだ…」 頬杖をついていたシンがゆっくりと体を起こし、僅かに笑うと溜息を吐いた。 そして、また視線を窓の外へ向け、空を見上げる。 自分の事などもうどうでも良くなっているのかもしれない…。 明るい声を聞く度に不安になっていく。 韓国に戻って来たとしてもチェギョンは宮に戻る事を拒むかもしれない。 外の世界での自由な暮らし。 窮屈な宮廷での暮らしをもうしたくないと言うかも知れない。 宮は翼を広げるには狭すぎる。 空を自由に飛ぶ事を思い出したチェギョンは地上に居る自分を見ないかもしれない。 自分の傍に、隣に降りて来ないかも知れない…。 そう考えてしまい、シンは眠れぬ夜を何度も過ごしていた。
|
全体表示
[ リスト ]




今日で別れ編終わりです。
明日からは帰国編になります。
2008/6/26(木) 午後 9:06
こんばんは。
チェギョンって言葉に敏感なシン君がかわいいですね。
大学生のシン君達はどんな服装なんでしょうね?シン君は皇族らしく、スーツなんでしょうか?
どうしても、想像のシン君は制服です(;^_^A
明日からの帰国編を楽しみにしています(*^_^*)
2008/6/26(木) 午後 9:20 [ chunchun ]
chunchunさん こんばんは
大学生のシン君はジフン君みたいにラフな格好なのかな?
私も制服とスーツのシン君ばかりが頭に浮かびます(^o^;)
2008/6/26(木) 午後 10:00
恵那さん、こんばんは〜
何か、ちょっと怒りそうな予感がしてきました、ドキドキ!
どんな噂が流れてるの?きっと良くないんだね、シンチェのふたりにとっては?
えなさん、ちょっと心配になってきました。
チェギョンは無事帰れるかな?
2008/6/26(木) 午後 10:06
naohahaさん こんばんは。
別れ編の最後で布石を置きましたが いつそれが出てくるかはまだ内緒です。
どうやってチェギョンが韓国に戻るか楽しみに待っててくださいね。
2008/6/26(木) 午後 10:16
えなさん、こんばんは。
私のブログにも遊びに来て頂いて、本当にありがとうございます!
この作品のシン君って、本当に”恋愛”してるって感じですよね!
や、もう夫婦なんですけど。。。
何もかもがチェギョンに影響されているところが、何か凄く良いな〜と
思います!
友達の声は聞こえないけど、チェギョンっていう言葉には反応する。
何て言うかもう、行くとこまで行って!って感じです♪
今後は帰国編とのこと!何かが起こるんですね、きっと!
新しい皇族の存在も気になるし…楽しみに待っています♪♪
2008/6/27(金) 午前 2:28
kisaraさん お返事遅くなりました。
私のシン君は思い切りチェギョン中心です。
チェギョンが帰ってきたらシン君がどうなる事かと心配です。
どうなるか分かりませんが 本当 行くとこまで行っちゃって下さいって感じです。
書くのは私ですが…(^o^;)
2008/6/27(金) 午前 8:47
はじめまして
別れ。すごく泣いてしまいました
辛すぎです。
2010/2/7(日) 午前 1:13 [ sassy ]
恵那さん あんにょん〜♫
昨日から、おはなしを読みかえしています。
この「別れ」のお話は本編とかぶっていて涙なくしては読めませんでした。
恵那さんワールドが一杯の素敵なお話でした。<m(__)m>
2010/5/1(土) 午後 1:35
大丈夫だよ。
チョギンは絶対に宮に帰ってくるよ。
だってシン君、好きなんだもの。
2010/9/11(土) 午後 9:19 [ はまちゃん♪ ]
恵那さんおはようございます!
こんな素敵なお話をありがとうございます。
本編と重なって、1話1話止めても止めても涙で・・・切なくなりました。
こんな恵那さんワールド大好きです。
2010/11/30(火) 午前 9:53 [ mikina ]
おはようございます!『別れ』1〜17を読みました…何度、ティッシュに手が出たか!?☆2人の周りは良い人達が多くて良かったんです。☆ドラマの場面『チェギョンがシン君を追う』を思い出しました…涙です。
2012/4/19(木) 午前 8:27 [ Mi〜ko ]
こんにちは。
久しぶりにお話し読み返してみました。
「別れ」すべて涙をながしてしまいました。
素敵なお話し読ませていただきありがとうございます。
「帰国」も多分、涙を流すと思います。
引き続き読ませていただきます。
2016/10/16(日) 午前 11:36 [ berukunn ]