宮 Forever Love

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PrincessHoursDay

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贈り物 5

明かりが灯る庭園、ソウルの中にありながら宮は静けさに満ちていた。
一人で歩くには寂しく不安になる夜道にチェギョンはシンの腕にしっかりと自分の腕を絡ませて離れる事無く歩いた。
どれだけ歩いたのか、灯りは数を減らし気付けば闇一色の世界となっていた。
何も見えない状況に、チェギョンはギュッとシンの腕を握り締め不安そうな声を漏らした。

「シン君、ここどこ?真っ暗だよ…」

怯えたように自分の腕をしっかり握り締めるチェギョンにシンは「大丈夫だ」と声を掛けてポケットの中で到着を知らせるメッセージをコン内官に送った。

「チェギョン、目を閉じて…」
「目?閉じるの?」

暗闇の中から聞こえるシンの声に素直に従う。
ギュッと握り締めたシンの腕を離さないまま、チェギョンは目を閉じた。

「開けてもいいよ…」

耳元で囁かれる声にチェギョンはゆっくりと目を開けた。
そして、目の前に広がる景色にチェギョンは驚き、両手で口許を押さえた。

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暗闇だったその場所に広がる光の海。
広い宮の庭園に数多くのイルミネーションが作られていた。

「綺麗…」

感嘆の声を上げ、光の海へとチェギョンは歩き出す。
振り返ってシンに向けられた微笑は至極の微笑み。
苦労が一瞬にして報われた瞬間だった。

「シン君、来て、凄く綺麗だよ!」

自分を手招くチェギョンにシンは微笑みながら歩み寄った。
光の海の中、チェギョンはくるくると回りだす。
その危なっかしさにシンはチェギョンの手を握れば、チェギョンは嬉しそうに微笑んだ。

「これもシン君の企画?」
「企画もそうだけど、設営もしたぞ」
「これ、シン君が準備したの?!」
「全部…と言いたいところだけど、一人で準備するには無理があってコン内官やキム内官、翊衛士の何人かにも手伝ってもらった…」
「そっか、それで、あんなに疲れてたんだね…」
「お前がなかなか寝てくれないもんだから、苦労したけどな」
「だって、マフラー編みたかったし…」
「分かってる。夫婦揃って同じ事考えてるんだから可笑しいよな」
「でも、凄く嬉しいよ。こんなプレゼント他にはないもん」
「本当に嬉しいか?物じゃないんだぞ?」
「これ以上の贈り物って何があるの?こんな素敵なプレゼントは今までもらった事ないよ」

チェギョンはそう言って爪先立ちし、シンの耳元に唇を寄せた。

「シン君、ありがとう…」

そう囁いて、シンの頬にキスを落とす。
頬から唇を離し、恥ずかしそうに微笑むチェギョンの細腰を抱き寄せ、シンは深く口付けた。
唇を離せば熱したチェギョンの唇に白い粉雪が舞い落ちて溶けた。

「雪…?」
「初雪だな…」
「初雪の日に恋人と過ごすせば、その相手と永遠に結ばれるジンクス、夫婦にも効くのかな?」
「そんな儚いものに頼るなよ、お前はこの手を信じればいいんだよ」

繋いだ手を上げ、シンは口角を上げる。

「俺様シン君だ」

くすくすと笑い、チェギョンは空からの贈り物に手を伸ばした。

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BGM 東方神起/Silent Night

贈り物 4

他愛もない会話も今日は特別に思えてくる。
身振り手振りで会話を続けるチェギョンに笑みを浮かべ、シンは話に耳を傾ける。
そんなチェギョンが不意に黙り込んだかと思うと、急に椅子から立ち上がりテーブルの中央にスペースを作ったかと思うと、食堂へと駆けて行く。
暫くして食堂から姿を現したチェギョンは箱を抱え、慎重にそれをテーブルの中央に置いた。
そして、また靴音を鳴らし今度は自室へ駆け込む。
背中に何かを隠し、椅子に座ってそれを膝の上に移した。
一連の行動を見守り続けたシンがチェギョンが椅子に座ったのを見届けてテーブルの上に置かれた箱を指差した。

「これは?」

訊ねるシンにチェギョンが恥ずかしそうに笑う。

「シン君へのプレゼント…」
「プレゼント、用意してくれてたのか?」
「うん、開けて見て…」

そっと蓋を開けると小さなケーキが姿を現す。
中央には「Merry Christmas」のプレートを持ったアルフレッド似のサンタクロース。

「一応、手作りデス…」

小さく呟くチェギョンにシンは何度かチェギョンから甘い香りがした事を思い出す。
こっそりと練習を重ねていたと思えば愛しさが増してくる。

「今度は食べてくれる?」

窺うように訊ねるチェギョンに高校の時を思い出す。
シンが拒んだケーキはギョンに当たり無残な姿となった。
それを思い出せば後悔が襲う。
「食べるよ」とチェギョンに返せば、チェギョンは嬉しそうに笑ってケーキを切り分けた。
シンのフォークの行方をじっと見守り、ケーキがシンの口に消えるとゴクリと喉を鳴らした。

「おいしい…?」

弱気な声のチェギョンにシンは笑って頷く。
実際、チェギョンの作ったケーキは思った以上にシンの口に合った。
それ程甘くなく、スポンジに挟まれた苺の酸味もほど良い。
自分に合わせて作られたケーキだとシンはその味で気付いた。
そして、自分の返答にホッとした顔をしたチェギョンがようやくケーキを口にする。
チェギョンにしてみれば甘さの足りないケーキ、それでも彼女は幸せそうにそれを口に運ぶ。
食べ進め、幾分安堵したチェギョンが唇を尖らせ、高校の時のケーキ事件の不満を漏らす。

「あの時、シン君に食べてもらおうと思って持って行ったのにシン君は「いらない」だもんねー。酷いよね、あの時どれだけ私が傷付いたか…無残な姿になったケーキのように私の心もズタズタに傷付いたんだよー」
「あの時は…悪かった…」
「深く反省してるようだから、この心の広〜いシン・チェギョン様が許してあげよう!」
「心が広い?直ぐ拗ねて怒るくせに」
「怒んないもん!」
「じゃぁ、僕が他の女性と楽しそうに話をしてても大丈夫なんだな?」
「そ、それは、やだ…」

それまで強気だったチェギョンが肩を落とし、小さくなる。
「そんな事はしない」とシンが頭を撫で、頬に手をやるとチェギョンは微笑んだ。
そのままシンはテーブルに置かれたチェギョンの手を取って立ち上がると、チェギョンは不思議そうにシンを見上げる。

「チェギョン、散歩に行かないか?」

シンがそう誘うとチェギョンは嬉しそうに頷いて立ち上がった。
膝に置かれたままの箱が立ち上がった事で床に落ちる。
チェギョンは慌ててそれを拾い上げると、シンの前に差し出した。

「もう一つのプレゼント…」

差し出すチェギョンの表情は夫にプレゼントと言うよりは告白の手紙を渡す時のように必死に見える。
箱を受け取ると、チェギョンは祈るかのように手を組んで箱が開けられていくのを見つめていた。
深い緑のリボンを解いて丁寧に包装紙を剥がして箱を開ける。
グレーのマフラーの上には小さなメッセージカードが置かれ、チェギョンの似顔絵と共に「Merry Xmas」の文字。
「これも手作りデス」とチェギョンは照れたように笑い、マフラーをシンの首に巻きつけた。
優しい温もりが首元から体中へと広がる。

「ありがとう…凄く温かい…」
「ほんと?嬉しい!これ作るのに時間が無くって間に合わなかったらどうしようかと思ったの。シン君が寝てから編もうと思ったんだけど、シン君最近なかなか寝てくれなかったでしょ?だから、大学まで持って行って、空いた時間に編んでたんだ」

チェギョンがなかなか眠らなかった理由はこれを作る為だったのかと、お互い同じ気持ちで相手が眠るのを待っていたんだと可笑しくなる。

「僕がなかなか眠らなかった理由、今から教えるよ…」
「シン君が眠らなかった理由?」

コートを羽織ったチェギョンはシンの導きで夜の庭園へと向かった。]

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贈り物 3

少し長めの薄いグレーのマフラーが完成したのはクリスマスの一週間前、我ながらいい出来だとチェギョンが友人達に見せると彼女達は笑って「上出来!」と答えてくれた。
チェギョンはそれを綺麗に箱に詰め、包装紙とリボンをかけて自室の奥に隠した。
後はケーキと水刺間の料理長のところへチェギョンは足を運んだ。
12月に入ってから何度か水刺間に顔を出し、チェギョンは料理長に何度かケーキ作りの手順を教わっていた。
運良くクリスマスの日は午後に数時間の公務が入っているだけで午前中は何もない。
何度かの練習の甲斐もあり、なんとかその午前中にケーキが作れそうだと、チェギョンは水刺間へと向かいながら笑みを浮かべた。

「こんにちは!また教わりに来ました!」

元気な彼女の声が開けられた扉から水刺間に響く。
料理人達は微笑んで彼女を迎え入れた。


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シンの準備が終わったのもクリスマスの一週間前、全ての準備が終わりホッとしてシンはベッドに体を投げ出した。
上から自分を覗き込むチェギョンの髪から彼女の香りとは違う別の甘い香りがして、シンはチェギョンを引き寄せてその香りを吸い込んだ。

「甘い、お菓子みたいな匂いだな。何か付けてる?」
「へっ?べ、別に何も付けてないけど、おやつに食べたお菓子の匂いが移ったかなぁ…?」

宙に飛ばした視線が気になりつつも、それを深く追求するほどの余力は今のシンには残っておらず、甘い香りと抱き締めたチェギョンの温もりに癒されるかのように目を閉じた。
規則正しい寝息が聞こえ始め、チェギョンは「ゆっくり眠って」とシンの頬に唇を寄せた。
そして、チェギョンはサイドテーブルの引き出しを開け、ペンとスケジュール帳を取り出した。
彼女の手でカレンダーに赤い斜線が引かれる。
クリスマスのハートマークまであと少し、チェギョンは隣で眠るシンに視線を向けて小さく微笑んだ。

「シン君が喜んでくれるように楽しいクリスマスに絶対するからね」

チェギョンがそう呟くとシンが微笑んでくれたように見え、チェギョンはペンと手帳を引き出しに戻すと眠るシンの胸に擦り寄った。


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「連絡するまで絶対にシン君がこっちに戻らないようにしてね」
「はい、妃宮様」

クリスマス当日、朝の挨拶と朝食を済ませたシンは正殿のヘミョンの執務室に向かった。
幾つかの雑用を済ませ、シンの所へ向かうコン内官をチェギョンは引き止めるとシンが宮殿に戻らないように足止めして欲しいとコン内官に頼み込んだ。
自分が居ないと何処へ行ったとシンは探すに違いない。
クリスマス当日に気付かれては今までの努力も水の泡と何度もコン内官に念押ししてチェギョンは水刺間へと向かった。
既に準備が整えられた水刺間に髪を高く結い上げ、ピンクのエプロンを付けたチェギョンが姿を表す。
料理長とチェ尚宮、二人の女官に見守られながらチェギョンは真剣な眼差しでケーキを作り始めた。
その姿を仕事の合間に料理人達がチェギョンの様子を窺う。
沢山の人達に見守られながら、チェギョンのシンへの想いが詰まったケーキが形となっていった。

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その日唯一の公務、クリスマスチャリティーコンサートが終わった午後8時過ぎ、欠伸とお腹が鳴るのを堪えるのが大変だったと乗り込んだ車の中でチェギョンは苦笑いした。
それでも眠らなかったのは偉かったとシンに頭を撫でられるとチェギョンは嬉しそうに微笑んでシンの指に自分の指を絡めた。
こんなにドキドキするクリスマスは初めての事だとチェギョンは薄暗い車内に見えるシンの横顔を見つめる。
そして、シンもチェギョンの笑顔が見れるだろうかと不安な気持を何度も絡めた指に力を込めて拭い去った。
宮に着いたのは9時近く。
宮殿前には主の帰宅連絡を受けたチェ尚宮とコン内官が二人を出迎えた。
扉を開き、中に足を踏み入れたチェギョンが僅かに首を傾げてその足を止めると、一歩前を歩くシンの服の裾を引っ張りシンの足を止める。
薄暗く、仄かな灯りに不安そうにチェギョンはシンの横に寄り添った。
エントランスを抜け、パビリオンに着くとチェギョンは無数に揺れるキャンドルに気付いた。
驚いてシンを見れば、シンは微笑んでチェギョンに手を差し出す。
彼の手に誘われて足を進めれば、パビリオンのほぼ中央に白いクロスが掛けられたテーブルが用意されていた。

「これってシン君が?」
「企画は僕だけど、用意してくれたのは彼女達だ」

シンの言葉にチェギョンが後ろを振り返ればチェ尚宮、チョン女官とパン女官が優しく微笑む。
嬉しさに瞳を潤ませるチェギョンの頭を撫でてシンはチェギョンを椅子に座らせた。
グラスにシャンパンが注がれ、キャンドルの炎がシャンパンの気泡を美しく照らす。
幾つもの料理がテーブルを彩り、最後の料理をテーブルの上に置かれると、チェ尚宮は「控え室に居ますので」と二人の女官を連れ、下がって行った。
パビリオンに二人きり、言葉のないチェギョンに少し不安になったシンがチェギョンの頬を撫でると、チェギョンは眉根を下げて微笑んだ。

「気に入らない?」

窺うようにしながら、シンがそう声を掛けると、チェギョンは「違う」と小さく呟いて首を振った。

「素敵過ぎてどうしようって…」
「そう感激されると企画した甲斐があったよ」
「うん、凄く嬉しい…」
「では、奥様、パーティーを始めましょうか?」
「「Merry Xmas!」」

微笑む彼女とグラスを合わせ、シンは二人だけのクリスマスパーティーの開始を告げた。

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贈り物 2

―クリスマスを楽しんだ事がないのなら、楽しんでもらおう!―
そう決めたら即実行と、それから直ぐ、チェギョンは父親にお願いして実家に保管されていたクリスマスツリーやオーナメントをシンに気付かれないように持って来てもらい、揃わない物は友人達に購入を頼み用意してもらった。
そして、シンが一人の公務の日を狙い、チェギョンはそれら用意した物を宮殿内に飾り付けていく。
少しでもシンに楽しんでもらえるように、クリスマスを迎えるドキドキとワクワクを味わって欲しくて寝室のみならず、パビリオンにも彼の執務室にも小さなクリスマスツリーやリースを飾り、彼の親友であるアルフレッドにもサンタクロースの衣装を着せさせた。
装飾を終えた宮殿内を見回し、さっきまでの威勢の良さを無くしたチェギョンが自信なさ気に後ろに控えていたチェ尚宮に問い掛ける。
『シン君喜んでくれるかな?』
『きっと、お喜びになりますよ』
チェ尚宮の言葉に励まされ、チェギョンは期待と不安でシンの帰りを待った。
帰ったシンが驚きながらも嬉しそうに微笑んでくれる姿にチェギョンも安堵と嬉しさを隠せず、シンの手をギュッと握り締めた。
プレゼントも用意したくて、チェギョンは友人達に相談しながらマフラーとクリスマスケーキを手作りする事を決めた。
知られないようにするのは結構難しい。
恋人ではない夫婦だから夫に気付かれないようにするには神経を使う。
シンに気付かれないように大学にそれを持ち込み、空いた時間に使われていない教室に友人達と籠り、会話を楽しむ友人達の隣で黙々とマフラーと格闘した。
長くなるマフラーにシンへの想いが込められていくようで、チェギョンは自然と口許を緩ませた。
でも、大学だけではなかなか捗らず、シンが眠ってから編もうとチェギョンは考えていたが、最近の彼はチェギョンが起きている間は絶対に眠らなかった。
それでもシンが眠るまでと、チェギョンは頑張ってみたが、結局は睡魔に勝てず気が付けばシンの腕の中で朝を迎えていた。
自分以上に数多くの公務をこなすシンの疲労は想像以上のもの、これまでも疲れたシンがチェギョンより先に眠る事が何度かあった。
見える疲労にもシンは決して眠ろうとしない。
色濃く見える疲労にチェギョンも心配になり、ソファーにもたれ、長く息を吐き出すシンの隣に腰掛けた。

「ふぅ…」
「シン君、大丈夫?」
「ん…?あぁ…」
「最近無理してない?」

心配そうにシンの顔を覗き込むチェギョンの抱き寄せてシンは自分の胸に収めた。
温かなぬくもりと甘い香りに癒されて疲れさえも消えていく。
シンは「大丈夫」と笑ってチェギョンの髪に唇を落とした。
ここ暫くのシンは睡眠時間を削る忙しさだった。
そうしたのは自分だと言われれば元も子もないのだが、流石に疲労が溜まる。
通常の公務の他に大学の授業、一緒に居る事が多く一人になれないのだから睡眠時間か彼女と自分の講義が重ならない時間帯を使うしかない。
だが、重ならない時間にシン一人の公務が入る事も多く、結局は睡眠時間を削るしかなくなっていた。
なのに、チェギョンは最近なかなか眠ろうとしない。
放って置けば早々と眠りに付く彼女が眠い目を擦りながらでも起きようと頑張っている。
ベッドに誘っても「まだ眠たくない」と頬を膨らます。
それでも早く眠って欲しいと思うシンとしては強行に彼女をベッドに運び腕の中に閉じ込めてチェギョンの眠りを誘う。
「まだ眠たくないのにぃー!」と抗議の声を上げながら、直ぐに小さな寝息を立てるチェギョンに苦笑いし、彼女の眠りを確かめる。
起きそうにない彼女の様子にホッとして、ようやくラフな格好に着替えたシンはチェギョンを起こさないように寝室を後にした。
パビリオンではコン内官とキム内官、そして数名の翊衛士がチェギョンに気取られないように、静かにシンを待っていた。
そして、万が一にでもチェギョンが起きて自分を探し回る事もあるだろうと、残るチェ尚宮にチェギョンの事を頼んでシンは宮殿の外へと足を運んだ。
冴えた空気に一気に冷えた掌を擦り合わせる。
吐き出した白い息は闇に溶けて消えていった。

「夜遅くに手伝わせてすいません」
「殿下とんでもございません、私達も妃宮様が喜ぶ姿を拝見したいのでございます」
「ありがとうございます。では、行きましょうか」

自分一人で全ての準備をしたいが、時間があまりにもなさ過ぎて、シンは彼らにこうして手伝ってもらっていた。
夜遅くに手伝わせる事を悪いと詫びる度に彼らは笑って首を振る。
シンは後ろに控える男達に感謝と謝罪の声を掛け、静かな庭園を歩き出した。


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彼女への贈り物を考えるのは難しい。
彼女の親友達に相談をしてみたものの「あの子には物欲がない」となんとも困った返答が返された。
そして、あるのは食欲と夫に対する独占欲だけだと彼女達言われ、こちらとしては当たってるだけに苦笑いを返すしかなかった。
物じゃなくて心、思い出になるクリスマスを演出するべきだと、最後には済州島の誕生日の事まで持ち出された。
夫婦となって初めての夫の誕生日に元恋人と嫌味な御曹司軍団に心を込めたプレゼントをバカにされたあの子の気持ちを考えなさいと言われ、その嫌な思い出を消してあげるべきだと責められた。
何をすればいいのかと問い掛けても「そんなのは自分で考えなきゃダメ」だと返された答えに、思い付くプレゼントがなく、シンは宮に帰ると同時に自分の執務室に籠って頭を抱え込んだ。
溜息と共に顔を上げると親友のアルフレッドがサンタクロースの格好でこちらを見ている。
シンはアルフレッドを手に取り「どうすればチェギョンが喜ぶプレゼントが見つかる?」と問い掛けて、机の上に置かれた小さなクリスマスツリーを指で弾いた。
小さな鈴が弾かれた振動でチリンと音を立てて揺れる。
甘くなったスイッチが揺らした振動で入り、小さなライトが点くと同時に音楽を奏で始めた。
不意に頭の中に何かが閃く。
ポケットの携帯を取り出しシンは急いで姉ヘミョンへと電話を掛けた。
数回のコールの後に「何?」と問い掛けられたヘミョンの声は既に楽しそうな声だ。
訳を話せば必ず彼女は笑うだろうと思いながらも、女王である彼女の許可は必須。
シンが覚悟して話をすると、彼女はシンの予想通り豪快に笑った。
笑うヘミョンに許可の催促をすれば、彼女は「あはは…ごめん、ごめん、いいわよ、その件了解、頑張んなさい」とまたもや笑う。
若干不機嫌気味に電話を切ったが、ヘミョンが笑うのも仕方がない事だとシンも自嘲気味の笑みを漏らした。
かつての氷の皇子はどこへやら、気が付けば彼女の喜ぶ顔見たさに必死になっている自分がいる。
チェギョンが喜ぶ事が第一だが、あの零れんばかりの笑顔が自分への最高のプレゼント。
それが自分に与えられるのなら、多少の苦労は厭わない。
シンは閉じた携帯を再び開いて思い当たる人達へ協力要請の電話を掛けた。
掛けた全ての人達がシンへの協力を快諾してくれる。
「チェギョンのお陰で人間らしくなった」と笑う友人達に苦笑いを返してシンのチェギョンへのプレゼント作戦が始まった。

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贈り物 1

妻からの最初の贈り物は高校の上履きだった。
汚れた水を彼女に掛けられ『捨てておけ』と言い放った上履きを彼女は捨てる事無く取って置いた。
妻となってからの初めての誕生日、あの上履きに彼女は宮家の紋章と青龍の絵を描いてそれを僕に贈ってくれた。
あの頃の自分は嬉しいくせに素直になれなくて『ありがとう』の言葉さえ言えず、大勢の前で彼女を庇う事もせずに恥を掻かせ辛い思いをさせた。
それから彼女から贈られた沢山の物は何一つ捨てる事が出来ないでいる。
一言だけ書かれた小さなメモや離れている間に送られて来た長い手紙、絵葉書。
『シン君が好きそうだったから』根拠もない理由で、彼女は翊衛士の目を盗んで買って来た空と海の写真集。
呆れたと同時に、そんな彼女に嬉しさが込み上げて『もう二度とするな』と彼女の頭を軽く叩いた。
彼女がマカオに旅立つ時に置いて行ったスケッチブックは数多くの自分の似顔絵が描かれ、彼女の愛で溢れていた。
それら全てが彼女のいない間の自分を慰めてくれた。

だが、ふと思う時がある、自分は彼女にどんな贈り物をしたのだろうか…と。


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全ての者が下がった午後10時の宮殿。
寝室のソファーに座ったシンは読みかけとなっていた本を開いた。
キングサイズのベッドにはパジャマ姿で足をバタつかせ、鼻歌まじりのチェギョンが雑誌を捲っていた。
調子外れの鼻歌をBGMに少し口許を緩ませてシンは本を読み進める。
不意に止まった鼻歌にシンは顔を上げて視線をチェギョンに移すと、チェギョンは雑誌を枕に眠りに落ちていた。
ゆっくりとシンは立ち上がりベッドの傍に行くと、眠りに落ちたチェギョンの隣に腰掛けた。
表情を隠す艶やかな髪を退かし、穏やかな寝顔を確かめて、柔らかな頬を撫でた。

「ん…シン、くん…」

擽ったそうにしながらも、自分の名を呼ぶチェギョンに自然と口許が緩む。
少しだけ寒そうに縮こまる体に、シンは起こさないようにとチェギョンの頭を持ち上げ枕となっていた雑誌をそっと、引き抜いた。
温かな布団の中にチェギョンを移し、シンはもう一度その頬を撫でてから先程引き抜いた雑誌に目をやった。
少しだけ皺になった雑誌に、チェギョンにこの本を貸した彼女の顔が目に浮かぶ。
怒るより、呆れた彼女の表情が見えるようで、シンは苦笑いしながらその雑誌を手に取った。
裏向けに置かれた雑誌を表に向けて、シンは溜息を吐く。
傍らで眠るチェギョンに視線を向けて、シンはもう一度長く重い溜息を吐いた。
溜息の理由、雑誌の表紙にはこの時期に当然のように聞かれるクリスマスの文字が躍っていた。
恋人と過ごすクリスマスと題されたその言葉に気持ちが落ちていく自分の様が見えているにもかかわらず、指はその特集ページへと動く。
辿り着いたそこに書かれていた記事を眺め、シンは天井を見上げて自嘲気味の笑みを浮かべた。
車で行けば10分程度しか掛からない夜景の見えるレストラン、決して遠くない距離にある店にすら彼女を連れて行けない自分が情けなく思えてくる。
窓際に飾られた1メートルにも満たないクリスマスツリーはチェギョンが父親に頼み実家にあったの物を持って来てもらい飾り付けた。
その他にも宮殿内に飾り付けられたクリスマスグッズは全てチェギョンが用意し、シンの不在中に飾り付けた。
それら全てはチェギョンがクリスマスを楽しむ為に用意した物ではなく、シンに楽しんでもらう為に用意された物。
自分の不在中に飾り付けられた事や、帰宅して驚く自分の表情にチェギョンがとても嬉しそうにしていた事が何よりの証拠だった。
街の姿が徐々にクリスマスへと移り始めた頃、公務帰りの車の窓からその姿を眺めて、チェギョンはシンに楽しそうに思い出話を語った。
子供の頃は両親がプレゼントを置いていた事など知らず、無理なお願いを何度もした事があったと話すチェギョンにシンは少しだけ寂しそうに笑って皇太孫になってからクリスマスを楽しんだ事はなく、サンタクロースも信じなくなったと話した。
シンの言葉に悲しげな表情を見せるチェギョンの頭を撫で、『大丈夫』と言ったシンをチェギョンはずっと気に掛けていた。
そして、それから直ぐに宮殿内がクリスマス一色にチェギョンの手で変えられた。
彼女の優しさと温かさで胸が熱くなると同時に、それに値するものを彼女に返せていない自分に気が付く。
自由の利かないこの体を何度恨めしく思ったか分からない。
結局、「ごめん」と「ありがとう」の言葉を繰り返す事しかシンは出来ないでいた。
『マカオから帰って来て、本当の夫婦になって初めてのクリスマスだから、特別なものにしたいの…』
飾り付けられた宮殿を眺めていたシンにチェギョンは、はにかむように笑い、ポケットに納まる事のなかったシンの手をギュッと握り締めた。
『楽しいクリスマスにしようね』
そう言って微笑むチェギョンの握り締めた手から伝わる温もりにシンは「ごめん」と「ありがとう」ではない、何かを彼女に返したいと思い始めていた。

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