宮 Forever Love

初めておいでになられた方。必ずTOPを読んで下さいね。

第二章(帰国)

[ リスト | 詳細 ]

 http://img.blogs.yahoo.co.jp/ybi/1/bc/19/enacchi78/folder/1007181/img_1007181_25764035_19?1240527918
記事検索
検索

全4ページ

[1] [2] [3] [4]

[ 次のページ ]

(帰国)17

夢を見た。
チェギョンが帰って来る夢。
実際何度も見てきた夢でもあった。

でも、それはいつも途中で終わってしまう。
幸せで終わるのではなく、それは苦しみで終わる。

「ただいま!シン君!」

東宮殿のパビリオンで立つ自分
その自分の目の前に、チェギョンが現れる。
零れんばかりの笑顔で、自分に駆け寄り、腕の中に飛び込んで来る。
そして、嬉しそうに僕を見上げ、話し掛けてくる。

「帰って来たよ!」
「あぁ、お帰り…」
「私が帰って来た事が嬉しい?」
「あぁ、嬉しいよ…」

夢の中の自分はやけに素直だった。
現実でもこんなに素直ならどれだけいいだろうか。
夢の中の自分に嫉妬しているなんて可笑しな話だ。

「ほんとに嬉しい?」
「あぁ、嬉しい…だから、もう、いなくなるな…」

そう言って、チェギョンの頬に触れようと手を伸ばす。
後、数ミリ。
数ミリ先にチェギョンの顔があるのに、そこから自分の身体は動かなくなる。
そして、声さえ出なくなる。
必死で自分の身体を動かそうとしていると、あいつの身体が煙のように消えかかる。

止めろ!行くな!消えるな!!
そう言いたいのに、言葉も発せられない。
全てが消えてしまった途端、身体は動き、そして悲鳴を上げる。

「うわぁぁぁ!!!」

目を覚まし、跳ね起きる。
体中に酷く嫌な汗を掻いている。
闇の中、膝を抱えうずくまった。
何度も同じ夢を見ているのに、この夢には未だに慣れない。

自分は一生こんな夢を見続けなければならないんだろうか?
きっと、あいつが戻らなければ一生、自分はこの夢から逃げられない。
それは、予感でもなく、確信だった。
一生そうなる確信。

でも、今日は違った。
夢の中、確かに自分はチェギョンの頬に触れていた。
大きな瞳を輝かせ、チェギョンは嬉しそうに笑う。

「もう、いなくなったりしないよ。ずっと、シン君の傍にいる」
「あぁ、いなくなるな、絶対にいなくなったりしないでくれ…」

切な思いがチェギョンを抱き締める腕を強くする。
それに応えるかのように夢の中のチェギョンも抱き締める手を強くしてくれていた。

この夢はチェギョンを取り戻したから見れた夢。
目を覚ましてもチェギョンは自分の隣にいる。
だから、安心していいのだと、言われているような気がした。

そして、夢から目覚める。
嫌な汗も、叫ぶ事もなく目を覚ます。
隣に、自分の腕の中にいるはずのチェギョンの存在を確かめようと手を伸ばす。
でも、その存在は跡形もなく姿を消していた。

「チェギョン…?」

嫌な汗がどっと噴き出す。
途中で消える事がなかったはずなのに、あいつに触れる事も抱き締める事も出来た。
それに、昨夜、確かにあいつを抱き締めて眠ったはず。
眩暈と吐き気に似た感覚の中、僕は堪らず寝室を飛び出し、あいつを探していた。

(帰国)16

「はぁ…」

シャワーを止めると、シンは壁に手を付き、溜息を漏らした。
シャワーと髪から落ちる雫が床に落ち音を立てる。
シンは湯気で曇った鏡を手で拭うと自分の顔を鏡に映してみた。

余裕があるように見えていただろうか…?

チェギョンには余裕があるように見せていたが、実際、余裕など一つもなかった。
チェギョンに見られていないところで情けないほどうろたえる自分がいた。
何度も一緒に寝た仲だ、今更、何を動揺していると、何度も自分に言い聞かせ、冷静になろうとしていた。
チェギョンをからかっていたのも、余裕のない自分を気付かれない為。
チェギョンがバスルームに入った後、どうしていいか分からず、部屋をウロウロしてしまった。
それでも、なんとか落ち着こうと本を開いてみたが、内容など一切、頭の中に入って来なかった。
それどころか、ページさえ進まなかった。

チェギョンの帰国を認めてもらう。
その事だけで頭が一杯だったから、自分達の寝室がどうとかなんて、そんな事は一つも考えていなかった。
だが、お祖母さまの指示とはいえ、一緒の寝室でこれから毎日、チェギョンと一緒に眠るのだと思うと、合房の時のように我慢できる自信は一つもない。
出来る事なら今直ぐにでもと思ってしまう。
皇族とはいえ、一人の男に変わりない。
以前とは状況が違うし、愛する女を目の前にして理性が働くだろうか…?
無理、だな…。 

さっきだって、柔らかな頬と唇、そして洗い立ての髪から漂う甘い香りの所為で、高く積み上げた理性の壁が一瞬にして崩されそうになった。
それに『もう一度一緒に入るか』なんて、言ったが、自分でも冗談なのか、本気なのか分からなくなっていた。
あいつが、万が一にでも入ると言えば、ここに引っ張り込んでいたに違いない。
あれだけからかっておいて今からそうしたいなんて言ったら、軽蔑されるか?
本気だと言って押し倒せば良かったか…?

ここまで来て自分の思考に驚き、シンは慌てて首を振った。

押し倒すなんて、なに考えてるんだ…。 

自分の考えに呆れてしまう。

「なるようにしかならないだろう!」

鏡に映る自分に言い聞かせ、シンは両手で自分の顔を叩いた。




バスルーから出たシンは、ソファーでブランケットに包まって寝ているチェギョンを見て驚いていた。

「どこで寝てるんだよ、そこはベッドじゃないだろ。まったく、風邪を引いたらどうするつもりなんだよ」

溜息混じりにチェギョンの肩を揺らすもチェギョンは起きる気配が一向にない。
空いたソファーに座り、チェギョンの寝顔を見つめた後、シンは頭を抱えた。

これじゃあ、素直に言える訳もない。
はっきり言って一緒に寝る事を嫌がられてるじゃないか、これって、結構傷付くぞ…。

かと言って、このままにしておく訳にもいかず、シンはチェギョンを起こさないようにそっと抱き上げた。

「ん…」

小さく声を漏らし、チェギョンはシンの胸に顔を擦り寄せる。
チェギョンのあどけない寝顔を見ながらシンは溜息を漏らした。

これは拷問に近い。
抑えていた本能を誘い出す。

ベッドに横たえた身体が無防備に寝返りをうつ。
白い首筋が誘うように目の前に現れる。
口付けたくなり、顔を近付けて、途中で思い留まる。

さすがに今日はまずい…。
ソファーで眠るという拒絶をされたのに、口付けてる最中に起きられでもしたら、襲ったと言われる。
そうなれば、一生、けだもの扱いだ。

仕方なく、シンはベッドに入り、チェギョンの寝顔を見つめ、髪をそっと撫でた。
その手に反応するかのようにチェギョンがシンへと身体を寄せる。
薄いパジャマは直ぐにチェギョンの温もりをシンへと伝える。

「誘うな…」

そう言いながらもシンの手は柔らかな頬へと寄せられた。
愛おしそうにシンはチェギョンを見下ろす。

やっと、連れ戻せた。
二度とお前を放したりしない。
これからは、ずっと、一緒だ…。

シンはチェギョンの頭の下に自分の手を差し入れ、両手で包み込むように抱きしめた。
温もりを感じながら目を閉じる。

チェギョンがいなくなってから、ぐっすりと眠った事がなかった。
夜中に目を覚まし、思い出したようにチェギョンの部屋に行く事が何度もあった。
それは東宮殿に居た時ばかりでなく、昌徳宮に移ってからも同じだった。
チェギョンがいない部屋を見る度に、言いようのない寂しさがシンを襲っていた。

これからはそんな思いはしなくて済む。
目を覚ませばいつでもチェギョンが隣にいる。
今なら眠れそうな気がすると、シンは思った。

やっと取り戻したチェギョンの温もりを確かめるように、チェギョンが消えてしまわないように、シンはチェギョンを抱き締め、眠りについた。

イメージ 1

(帰国)15

シンが寝室に入ってから、チェギョンはパビリオンに置かれたソファーに腰を下ろしてこれからどうすればいいかを考えていた。

やっぱり、一緒に寝るしかないのかなぁ…。
かと言って、他にベッドもないとなると寝るとこないし…。
このままここにいる訳にもいかないし…。
取りあえず、中に入って様子見るしかない?
部屋の中にはソファーだってあるし、最悪ソファーで寝ればいいか…。
朝になったら、お祖母さまにお願いして部屋を別にしてもらえばいいんだし、とにかく、今日一晩を乗り越えればなんとかなる、はず…たぶん…。

一応の結論を出したチェギョンは、ソファーから立ち上がると胸に手を当て、2,3度深呼吸を繰り返す。
なんとか気持ちを落ち着かせ、チェギョンは寝室のドアを開けて中に入った。
意識のし過ぎの所為なのか、大きなベッドに自然と目が行ってしまう。
ソファーには上着を脱いだシンが座ってこちらを見ている。
どうにも出来ずに、部屋の入り口で固まってしまっているチェギョンにシンが声を掛けてきた。

「おい、お前も座って食べろよ」
「え?あ、はい…」

おずおずとソファーまで行き、シンから離れたソファーに座ったものの、夜食用にと用意されたサンドイッチまで手が届かない。

「そんな所に座って届くのか?」
「届くもん…」

そう言って手を伸ばしたがやっぱり届かず、その手をシンに握られる。
そのまま引かれ、シンの隣に腰掛ける羽目になってしまった。

「短いのは足だけかと思ったが、手も短いんだな」
「だから、短くないんだってば」
「いいから食べろ。ほら」
「ありがとう…」

差し出されたサンドイッチを受け取り、口に入れるも緊張している所為か、味も分からなければ、引っ掛かって喉も通らない。
ミネラルウォーターで引っ掛かったサンドイッチを流し込もうとするが、水さえも引っ掛かる。
なんとか飲み込み、この場を切り抜く策を探すが隣のシンが気になって頭が回らない。

ドサッと音がしてシンがソファーの背もたれに身体を預ける。
その音でチェギョンは思わずシンを見てしまい、ぶつかった視線に慌てて目を逸らすも、逸らす前に一瞬、シンがにやりと笑ったような気がしていた。

「おい」
「…なに…?」

視線は前に向けたまま、チェギョンはなるべくシンを見ないように努める。

「バスルーム、向こうだから先は入れよ」
「バ、バスルーム?!!」

思わず立ち上がり、シンから離れるように、2、3歩後ずされる。

「えっと、あの…」

思考回路がぐちゃぐちゃで、もう、どう考えていいか分からない。
私はこの場合、どう返事をすればいいの?!

答えないチェギョンに痺れを切らしてシンが立ち上がる。

「入らないのか?じゃあ、先に入るぞ」
「待って!先に入る!入らせて!!」

ワイシャツのボタンに手を掛けたシンを慌てて止めると、チェギョンは急いでバスルームに向かった。
閉めたドアに寄り掛かったまま、チェギョンはへなへなとその場に座り込んだ。

シン君は一体どうしたいんだろう?
やっぱり、そうしたいって思ってるのかな…。
我慢しないって言ってたし…。
今しか考える時間はないし…どうしよう…。
こうなったらいっその事…ダメよ!すぐOKなんかしたら、軽い女だって思われるかもしれないじゃない!
でも、夫婦だし…とは言っても、心の準備が…。
あぁぁっ!もうこうなったら寝たふりよ!さすがにシン君も寝てる女に何かしようなんて思わないだろうし、そうよ、寝たふりよ、寝たふり。それしかないわ!

「なんだか、疲れた…」

なんとか逃げ道を見つけたチェギョンは重い体を起こすと溜息を吐きながら浴室へと向かった。


イメージ 1

バスルームから出てきたチェギョンの目にシンの姿が映る。
シンは何事もなかったかのようにソファーに座り、本を読んでいた。
逸らせばいいのに、そのシンの姿をチェギョンは見つめてしまう。
シンは読んでいた本から顔を上げると、僅かに口角を上げた。

今、なんか、フッって笑ったような…。

そう思うチェギョンの耳に勢いよく閉じられた本の音が響く。
異常なほど反響したように思えた音にチェギョンは驚き固まってしまう。
シンは本をテーブルの上に置くと、立ち上がり、チェギョンへと歩み寄って来る。

絶体絶命。
何故かそんな言葉が浮かんだ。

自分から目を逸らす事無く、ゆっくりと近付いてくるシンを見ながら、チェギョンはどんどん緊張して行く自分に気付く。
心臓は飛び出しそうなほどに大きな音を立て始め、耳に響くほどになっている。
動けばいいのに、その足は言う事を聞かず、まるで根が生えたように動かない。

もう一歩で身体が密着するというところでシンの足が止まる。
思わず身を竦めたチェギョンの後ろのドアに手を付いたシンは、これでもかと言うほど、チェギョンに顔を近付けてくる。

「ね、ねぇ、ちょっとシン君…」

ドアとシンの間に挟まれ、身動きが取れない。
それでもこれ以上シンの顔が近付かないようにチェギョンは両手をシンの顔の前に出し、必死に防いでみるも、両手首を軽くシンに掴まれ、下ろされてしまった。

意味ありげにシンは微笑み、空いた片手がチェギョンの頬に触れる。
長い指がゆっくりとチェギョンの輪郭をなぞり、チェギョンの唇の上で止まる。

シンの理解できない行動に、硬くなったチェギョンの身体が更に硬くなる。
唇から指を離し、シンの顔がチェギョンの耳元へと近付いた。

「おい、退いてくれないと中に入れないだろ。それとも、もう一度、僕と入るつもりなのか?僕はそれでも構わないが…」

囁く声に一瞬、崩れ落ちそうになる。
が、シンの言葉にチェギョンは自分がドアを塞いでいる事に初めて気が付き我に返った。
まるで呪縛が解けたかのようにチェギョンの身体が動き、逃げるようにその場を離れる。

「わ、態とやった訳じゃないんだからね。ドアを塞いでたなんて気付かなかったの!それに、一緒に入る
だなんて、そんなつもりある訳ないじゃない!変な事言わないで!!」

慌てふためいた否定に思わず笑ってしまう。
どうやら、こいつは本気に取ったらしい。
青くなったり、赤くなったり、お前は可愛すぎるんだよ…。

可愛いと思うのに、口ではつい、意地悪を言ってしまう。

「本気にしたのか?冗談に決まってるだろう」
「シン君、また私をからかったのね!」
「シン・チェギョン、やっぱりお前といると退屈しない。これからは、いい退屈しのぎが出来るよ。言っただろ?僕は暇が嫌いだって。おもちゃが帰ってきてくれて嬉しいよ」
「なっ…?!私はシン君のおもちゃじゃない!!」
「お前は僕を楽しませてくれるおもちゃだよ」
「シン君!!」

退屈しのぎに、おもちゃですって?!!

チェギョンはシンを睨み付けると、近くにあったクッションを掴み、シンに向かって投げ付けた。
が、クッションがシンに当たるより先に、バスルームのドアが閉まる。
クッションはドアに当たって空しく床へと落ちていった。

閉じたドアを見つめ、チェギョンは大きく溜息を吐いた。
肩を落としながら、ベッドの中からブランケットを引きずり出した。
ソファーに行き、チェギョンはブランケットに包まるようにしながら横になった。

ドキドキが治まらない胸に手を当て、チェギョンは暫く考え込む。

シン君は平気なんだ…私はドキドキしてるのに…。
一人で慌てふためいて、一人で騒いで…私ってば、なにしてるんだろう…。
シン君はきっと、慌てふためく私を見て楽しんでたんだ。
そう思うと、なんだか腹が立ってきた。
あぁぁっ!もう、シン君なんて知らないんだから!!
なんだか、今日は色々な事があり過ぎて疲れちゃった…。

ブランケットを引っ張り上げ、頭まで被ったチェギョンは、慌ただしく過ぎた一日の疲れが出たのか、いつの間にか深い眠りに落ちていった。

(帰国)14

気まずい…。
後ろにシン君がいるけど、振り向けない。
少しでも動いたら何かが起きそうで動けない。
東宮殿なら『じゃあね』って言って自分の部屋に行けるけど、同じ部屋で寝るんだからそういう訳にもいかないし…。
確かに何度も一緒に寝た事あるけど…これからずっと一緒だなんて無理だよぉ…。


“カツン…”

シンの靴音がパビリオン内に響く。
その音に反応して思わずチェギョンはシンへと振り向いてしまった。
視線がぶつかる。
さすがにお互い気まずく、どちらともなく視線を外してしまう。

「シン君…」
「なんだ?」
「まさか、この事知ってたんじゃないよね?」
「知る訳ないだろ。こっちだって驚いてるんだ」
「ほんとに?」
「なんだよ、信じられないのか?」
「そういう訳じゃないけど…」

シンも一枚噛んでいるのではと疑いの目を向けてみるも、シンも本当に知らなかったらしく、疑いの目を向けるチェギョンに不機嫌になる。

「あのなぁ、態々お祖母さまに『一緒の寝室にして下さい』なんて頼むかよ。そんな事言える訳ないだろ」
「確かに、そうだよね…ごめん…」

と、言うもののこの状況は打破したい。
第一、帰国早々に一緒の寝室って、心の準備ってものができる訳ないじゃない!心の準備が!
そりゃぁ、いつかこんな日がって思ってたけど、お膳立てされて出来る事じゃないでしょ、これって…。
それにこの状況って、甘い雰囲気なんて全然ないじゃない。
映画やドラマみたいに甘い言葉を囁いて、なんて事、望まないけど、少しぐらいはそんな雰囲気が欲しいし…。
このまま流れに乗るってのも嫌だし…。

「おい…おい、チェギョン…シン・チェギョン!」
「は、はい!」
「なに一人でぶつぶつ言ってんだ?」
「へっ?なんか言ってた?」
「あぁ、大きな声でぶつぶつとな」
「なにか、聞こえた?」
「甘い雰囲気がどうとか」
「きゃぁぁ〜!言わないで!それ以上言わないで!」
「あーうるさいな!それ以外はなに言ってんのか分からなかったよ」
「と、とにかく、私、今からお祖母さまの所に行って、部屋を別にして欲しいと頼んでくる。シン君もそのほうがいいでしょ?」

くるりと向きを変え、チェギョンはパビリオンを出て行こうとするも、その足はシンによって止められた。
腕を掴まれ、後ろへ引かれる。
腰に手を回され、ぐいっと体がシンへと引き寄せられた。

「わっ!シ、シン君…?!」
「その必要はない…」

一気にシンの顔が近付く。
数センチ先のシンの顔にドキッとして、チェギョンは慌てて離れようとするが、腕と腰に回されたシンの手は思ったより強く逃げ出せない。

「必要ないって…でも、シン君…」
「どうして部屋を別々にする必要があるんだ?夫婦が同じ部屋で寝るのは当たり前だろう?それに、僕はもう我慢をするつもりはないからな…」
「我慢って、なに?」

シンなりに、かなりの勇気を持って言ったつもりが、当のチェギョンは我慢の意味に気付かず、逆にシンに訊ね返す。
が、チェギョンはその言葉を言った途端に我慢の意味に気付いてしまう。

私ってば、なんて事を訊いたのよ!これって絶対、まずいわよ、どうしよう…。

自分が大変な事を言ってしまった事に気付き、チェギョンは慌ててシンから目を逸らしたが、シンは真っ赤になったチェギョンを見て笑い出してしまった。

「おい、我慢の意味をはっきり言って欲しいのか?それとも、お前は期待をしてるのか?」
「ち、違うもん…そんな意味で言ったんじゃなくて…」
「じゃあ、どんな意味だ?」
「だから、そんな意味でも、どんな意味でもないんだってば!」
「ふぅん…」

冗談なのか、本気なのか、さっぱり分かんない。
からかわれてるだけ?
どっちにしても、なんとか逃げ出さないと…。

「おい」
「はい…なんで、しょうか?」

焦りと緊張で声が上ずってしまう。
ぐいっと引き寄せられ、益々シンの顔が近付く。
十分近い距離にドキドキしているのに、シンは更にチェギョンへと顔を近付ける。
シンから逃げるようにチェギョンは身体を反らし、顔を背けた。

「で、お前としてはどうして欲しい?」
「どうもして欲しくないです。お願いだから、からかうのも冗談も止めてよ…」
「本気だと言ったら…?」
「シ、シン君、まさか…今日…」
「なんだ?やっぱり期待されてるのか?それじゃあ、お前のその期待に応えないとな…お祖母さまも待ってる事だし、な…」

そう言って見つめる目にチェギョンの顔が赤くなる。
自分の腕の中で赤くなったり、青くなったりするチェギョンをシンは面白がるように見ていた。

いつも静かで、帰って来ても誰とも話す事もなく書斎か寝室に閉じこもった。
なのに今は騒がしく、そして、楽しい。

「ち、違うわよ…期待なんかしてないし、したくもないわよ。いいからその手を放してよ!」

そう言った途端にシンの手が緩む。
バランスを崩し、よろよろと壁にもたれ掛かったチェギョンをシンは面白そうに見つめ笑う。

「ほら、部屋に入るぞ」
「ちょっと、シン君、部屋は…」
「諦めろ、この宮殿にベッドは一つしかない」
「どうにもならない?」
「どうにもならない」
「じゃあ、やっぱり一緒に…」
「そうなる」
「そんなぁ…」

がっくりと肩を落とすチェギョンにシンは余裕の笑みを浮かべ、寝室のドアを開けた。

(帰国)13

さっきまでフラフラと歩いていた長い回廊を今度は感慨深くチェギョンは歩く。
韓国を発った日、一人で歩いた回廊を今はシンと二人で歩いている。
もう二度とシンと一緒に歩けないだろうと、諦めかけていた。
そう思っていたのに、こうして手を繋いで二人で歩いていると涙が溢れそうになってくる。

夢ではなく、本当に戻ってきた実感を噛み締めるかのように歩くチェギョンにシンも歩調を合わせる。
ゆっくり、ゆっくりと歩く二人を気遣い、チェ尚宮はそっと声を掛ける。

「殿下、妃宮様、確認をする事がありますので、私は先に宮殿の方へ…」
「あぁ、すまない」
「では…」

一礼をし、先を行くチェ尚宮を見送ってから、二人はまたゆっくりと歩き出す。

「なんだか、変な気分…」
「変な気分って、まだ気持ち悪いのか?」
「あはは、違うよ、違うの…」
「じゃあ、何だよ」
「…あのね、もうシン君と一緒に歩けないと思ってたから…一緒に歩いているのがなんだか不思議で…」
「これからは毎日一緒だ」
「じゃあ、これからは一人で先に歩いたり、置いてったりしない?」
「短い足に合わせるのは結構疲れるんでね。今日だけ特別」
「相変らずの意地悪だ。それに、前も言ったけど足、短くないもん」
「僕に比べれば短い」
「当たり前じゃない!これだけ身長差があるんだよ…」

そう言ってシンの頭へと伸ばした手を掴まれる。

深く吸い込まれそうな瞳に身動きできなくなる。
ドクンドクンと大きく音を立て始めた心臓が今にも飛び出しそうになってくる。
暗い回廊でなければ、自分の顔が真っ赤になっている事に気付かれていたはず。
逃げるようになんとか言葉を発し、チェギョンは見つめる瞳から顔を逸らす。

「そ、そういえば、東宮殿に向かってないよね。どこ行くの…?」
「あぁ…」

掴んでいたチェギョンの手を放し、シンは気まずそうに俯き黙ってしまう。
沈黙を破るかのように風が木々を揺らし音を立てる。

「東宮殿には行かない…」
「行かないって…」
「今は東宮殿に住んでない。昌徳院近くの宮殿に住んでる…今まで使ってなかった宮殿にな…少し不便な場所にあるけど…」
「どうして?もう皇太子じゃないから東宮殿を出なきゃいけなかったの?」

理由を訊ねるチェギョンにシンは少し困ったような顔を見せる。

弱い自分を呆れるかもしれない。
寂しさに耐え切れなくなったと言ったら、笑うだろうか…?

「いいだろ、別に…」
「よくない、教えてよ」
「ヤダね」

訊ねるチェギョンを置いて、先を歩き出したシンの背中にチェギョンの核心を突く言葉が当たる。
その言葉が先を歩くシンの足を止めさせた。

「私がいなくて寂しくなって出ちゃった…なんて、そんな事シン君があるわけないか…」

振り向くシンにチェギョンは自分が言い当ててしまった事に気付く。

「もしかして、当たっちゃった、とか…」

ずんずんとこちらに向かってくるシンの顔は怒っているようにも見える。
腕を掴まれ、チェギョンは柱へと押し付けられた。

「痛い!痛いよ、シン君!」
「悪いか?あそこはお前との思い出が多すぎるんだ。何度振り払ってもお前は僕の目の前に現れ、心を乱して寂しくさせる。だから、姉さんに頼んで東宮殿を出たんだ。情けないと、言いたければ言えよ、笑いたければ笑えよ」

チェギョンを掴んでいたシンの手が力なく下がる。
顔を逸らしたシンの頬に手を当て、チェギョンは自分へと向かせた。

「情けないなんて言わないよ。どちらかと言えば嬉しかったりもする…私がいない事をシン君も寂しく思ってくれてたんだって…」

自分がいなくなって寂しかったと言うシンの言葉が素直に嬉しかった。

「でも、シン君、いつからそんなに感傷的になったの?」
「たぶん、お前に逢ってから…」

あぁ〜っ!!なんでこんな事、言ってんだ?!

ちらりと視線をチェギョンに向けるとチェギョンは大きな瞳をゆらゆらと揺らし、瞬きを何度も繰り返す。
柔らかく温かな微笑みに心臓が大きく音を立てる。

「そっか、私に逢ってからなんだ…」
「なんだよ…」
「なんでもないよ。ただ嬉しかっただけ」

そう言ってチェギョンは笑い、放していた手を繋ぎ直す。
その姿に目を細め、シンは僅かに笑みを浮かべた。
そして、シンはその手が離れないようにと強く握り返した。
 


新しい宮殿は正殿から遠く離れていた。
シンが結婚の条件として出した昌徳宮近くの宮殿は確かに干渉を受けにくい場所にあった。
その宮殿に、見慣れた姿を確かめる。
従事長であるコン内官と、チェギョン付きの女官達が二人を待っていてくれた。

「妃宮様…お帰りなさいませ。お元気そうでなによりです」
「コン内官さん、ただいま…お姉さん達も元気そうで良かった…」
「はい、妃宮様」
「妃宮様もお元気そうで…」
「これからまたお世話になります」

ぺこりと頭を下げるチェギョンにその場にいた皆が微笑む。

涙を浮かべる女官達に気付き、チェギョンは二人の傍に行くと優しく二人を抱きしめる。

「やだ、お姉さん達泣いてるの?私は帰って来たんだから、泣かないでよ…」
「「はい…」」

そんなやり取りを見ながら、シンは微笑むコン内官に声を掛ける。

「何かと迷惑を掛けると思うが、よろしく頼む」
「はい、殿下…」
「シン君、今のなに?それじゃあ、私が迷惑を掛ける事が決まってるみたいな言い方じゃない」
「掛けるから、掛けると言ったんだ」
「シン君こそどうなのよ、私がいない間に我が儘とか一杯言ってみんなを困らせたんじゃないの?」
「なに?!」

何も変わらないやり取りに苦笑いすると同時に、それが安心できる。
いつまでもこのやり取りを見ていたい気もしながら、コン内官は二人に声を掛けた。

「殿下も妃宮様も今日はお疲れになられたでしょう。どうか今日はゆっくりとお休み下さい」

その言葉に二人の言い合いが止み、チェギョンはプイとシンから顔を背ける。

「そうします。シン君と喧嘩していても疲れるし」
「それはこっちのセリフだ」
「あ〜っ、何も聞こえませ〜ん。早くこのうるさい人から離れてのんびりしよう」
「あぁ、こっちも早く静かに眠りたいよ」
「どうぞ、どうぞ、早く自分の部屋に行って寝てください。コン内官さん、私の部屋、どこですか?」

東宮殿なら、自分の部屋がどこか分かるのだが、この宮殿はさっぱり分からない。

プイとシンに背中を向けて、チェギョンはコン内官に訊ねるも、コン内官は困った顔をして黙ってしまう。
不思議そうに見るチェギョンに、コン内官の隣に立ったチェ尚宮は顔色一つ変えずに答えた。

「妃宮様、太皇太后陛下より、殿下と妃宮様の寝室を一緒にするようにとご指示が出ております」
「「えっ?!」」 

チェ尚宮の言葉に二人同時に驚いて声を上げる。

「ちょ、ちょっと、待って…お姉さん、それって…つまり、シン君と同じ部屋で寝ろって事?」
「はい、その通りにございます」
「いや、それは無理…」
「そう言われましても、これは太皇太后陛下のご指示ですので」
「でもね、あの…」
「私達の一存では変えられません。ここは納得していただかないと」
「そうかもしれないんだろうけど…」
「軽いお食事は寝室の方にご用意してありますので…それでは、殿下、妃宮様。私達はこれで下がらせていただきます」
「あぁ、すまない…」
「いや、シン君、すまないじゃないとか言ってる場合じゃないよ!あの、ちょっと、お姉さん、話はまだ…」

恭しく一礼をし下がるチェ尚宮達をチェギョンは慌てて止めようとするが、チェ尚宮が止まるはずもなく、取り残された二人の間には、言いようのない気まずさが漂い始めていた。

全4ページ

[1] [2] [3] [4]

[ 次のページ ]


.
恵那
恵那
女性 / O型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

ブログバナー

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

過去の記事一覧

友だち(74)
  • パンジ
  • bli**er_c*ess_*42*
  • ひーさん
  • kyon
  • charmama
  • りん
友だち一覧

Yahoo!からのお知らせ

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
お米、お肉などの好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!
話題の新商品が今だけもらえる!
ジュレームアミノ シュープリーム
プレゼントキャンペーン
ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!
コンタクトレンズで遠近両用?
「2WEEKメニコンプレミオ遠近両用」
無料モニター募集中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事