環境問題補完計画

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今までのおさらい

武田邦彦氏による「ふたたび、森林はCO2を吸収するか?」に関して、今までの一連の記事において、
▼1 多すぎる間違い
 事実にもとづく考察が重要であり、ウソのデータ、古い資料、ご都合引用という「事実」では正しい結論は導き出せない事を述べた。

▼2 IPCC SARとの記述対比
 森林がCO2吸収源でないとの意見は、20年前ほどの見解であること、IPCCは今やAR4の時代であり、第2次報告書を用いた論議は古すぎて意味がないことを示した。また、同報告書の都合のよい数値を用いて、無意味な引き算をしているだけである事を示した。

▼3 引用されている福田論文関係
 引用しているとする福田(2005)論文は、火災特異年の値であり、それを普遍的に適用するのは適切ではないこと。また、武田氏が用いている値は原論文には無かったり、不適切な値であるうえに、行っている「引き算」も適切ではないことを示した。


 今回は、そのような間違いだらけの記述で騙された人も多いであろうから、IPCC第4次報告書(AR4)を参照し「森林はCO2を吸収するか」について説明していきたい。
読者の方も、AR4の7章を是非参照して欲しい。

各年代の炭素収支

下記の表が分かりやすい(Table 7.1)。
イメージ 1

(なお、脚注は省いた。図表と同じくらいの分量が細かい字で書いてあるため。もちろん、不都合な記述を隠すためではない。)

 一番下の"Residual terrestrial sink"は、かつて"Missing sink"(不明な吸収源)とされていたもの。
大気中のCO2増加量(Atmospheric Increase)が、人為排出量(Emissions)から海洋と大気での収支(Net ocean...)と土地利用変化(森林伐採)を差し引きした差異が生じてしまっていた。一方で、森林はCO2を吸収しないのだといわれていた時期であったので、ナゾの吸収源とされていた。

 そして、森林が吸収しているのではないかと言うことで、トップダウン、ボトムアップの両アプローチから、精度向上を図って研究が進められてきている。

 AR4の段階では、陸上へのCO2吸収収支は、"Net land-to-atmosphere flux"として表されている。
1990年代で、1.0±0.6GtC/yrが、2000〜2005年では0.9±0.6GtC/yrが陸上に吸収されたとなっている。

 いい加減、森林は吸収しない、という古い話から脱却する時期ではないか?

地域ごとの土地利用変化による排出量

 さて、武田氏は「北方」「南方」というよく分からない定義で、これまたよく分からない値を載せているので、表7.1に掲載されているLand use change fluxの内訳となる表を掲載しておく(Table 7.2)。
イメージ 2

(同じく、脚注省略、また、上との話の対応のため1990年代のみを表示した。実際の表には1980年代も載せられているので、気になるのなら、確認のこと。)

土地利用変化による収支が、ここでも熱帯林全体(Pan-tropics)で、1.6±0.6の排出。また、それ以外では、不確実性の幅が大きいが-0.02(-0.5〜+0.5)となっている(中国やヨーロッパでの植林による)。

これは、決して「自然の森林が吸収する・しない」という論議に直接関係するものではない。念のため。
むしろ逆に、土地利用の改変、つまり森林の減少によって1.6Gt/yr相当のCO2が排出されることを示しており、森林破壊がCO2の排出に重要な役割を担っていると言える。

(ロンボルグは森林は大して減少していない、としているが、石油燃焼やセメント生成にかかる人為的排出量6.4GtC/yr(1990年代)と比べると、森林破壊による排出量は決して少ない値ではない。むしろ森林破壊を含む人為活動全体の排出(8.0GtC/yr)の1/5を占めることになっている。)

…人為的破壊と、自然の収支とを混同してもらっては困る。

「森林火災」はどうなっているの?

 これに関しては、"Net land-to-atmosphere flux"の内訳(というか要因検討)として、AR4にも掲載されている。すなわち、
The net exchange of carbon between the terrestrial biosphere and the atmosphere is the difference between carbon uptake by photosynthesis and release by plant respiration, soil respiration
and disturbance processes (fire, windthrow, insect attack and herbivory in unmanaged systems, together with deforestation, afforestation, land management and harvest in managed systems).(p.526)
(大意:陸−大気の全体の炭素収支は、光合成と炭素の放出要因の差異である。放出要因とは、植物の呼吸、土壌の呼吸、攪乱プロセス(火災、風、虫害など管理外のシステムと、森林伐採、植林、土地利用、農業などの管理システム))

 火災に限らず、気温の変動による収支の変化、CO2濃度の変化による影響、CO2以外の栄養分による光合成量の制限、火災、人為が与える影響などが記されている。
 武田氏の記事を読むと、今の収支に加えて、さらに火事による放出が上乗せされるのでは無いか?と誤解する人も多いと思われる。火事などの要因を含んだ上で、"Residual terrestrial Sink"の値があることは注意して欲しい。(おまけに、人為による森林火災を自然の森林収支として語るのは無理があるだろう)


結論(かなぁ)

話を武田氏の結論(であろう)部分に戻す。
 私が「森林は二酸化炭素を吸収しない」と説明するのは、
1) まずはCO2と生物の体(C)、大気中の酸素(O)の関係をハッキリさせること、
2) 現実に、森林のCO2収支は「放出」になっているのだから、CO2の削減には森林は役に立たないことをハッキリしておきたい、と思うからだ。
と書いておられる。しかし、
1)に関しては、これを支持する根拠が述べられていない。「…体(C)と空気中の酸素(O)が結合して元のCO2に戻るからだ。基本的にはこの原理原則…」というのは、炭素を蓄え込んできた自然界の状態から見ても、原理原則ではなく、単なる理想状態(仮定条件)でしかない。
2)に関しても、今回のようにまともに事実検証すれば、根拠が無いことがわかる。

森林の吸収は「せいぜい」程度か?

さて、森林吸収の重要性に関して、
 最後に、付け足しておきたい。森林によるCO2の吸収とか放出は、増えるにしても減るにしても、せいぜい年間3億トンのレベルだ。これに対して世界各国のCO2排出量は2000年に60億トンで、森林の寄与はプラスにしてもマイナスにしても5%だから、「森林がCO2を・・・」ということ自体が見当外れである。
と言われている。が、どうだろうか?

 上記掲示資料のように、世界の排出量は、2000〜2005年で7.2±0.3GtC/yr(武田氏の単位にあわせると72億トン)であり、陸上への吸収総収支は、-0.9±0.6GtC/yrである。つまり世界の人為排出の12.5%の吸収量に相当する。

 そして、例え氏の主張の5%だとしても、「せいぜい」と言う値だろうか?(この値は、文脈からして、伐採による人為的排出もいれているのだろうから、不適切な事には違いない)

 武田氏は、京都議定書にもとづいて日本だけが6%削減しても無意味だ、と言われる。現状として、日本の6%削減でさえ困難な状態である。むしろ、世界全体で言えば排出量は増加している。排出削減どころではない現状は誰しも認めるところだろう。

 そんななかで、森林は12.5%分も黙々と固定してくれるのだ。もちろん、植林の増加による、森林マスの新規純増でも、固定量は増えることは、説明不要だろう。

 ……というか、こんなに真面目に講評するようなものではなくて、これは、大きなものと比べて、小さく些細なものに見せかけるトリックの一つだ。「地球の大きさと比べて人は小さいのだから」「戦争とくらべて殺人なんて一人の命なんだから」「地球の億年の歴史に比べれば君の人生なんて」…些細なものに見せたいという感情にもとづけば、このへん何とでも言える。


あえて言っておこ。日本の削減量目標6%相当は、0.0195GtC/yrであり、それと比べると、なんと46倍もあるんですよ!(笑)



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閉じる コメント(10)

う〜ん。つまり 疑似科学に近いってことなのかなぁ。

話は変わるけど 最近テレビでちょくちょくやってるジョセリーノ。
さすがに最近では信じてる人がいないと思ってたら そうでもないんだね。
いくら視聴率が稼げるからって もう 都合のいい内容は やめてほしいんだよなぁ。
あれって ニセ科学にも達しない ただの事後予言なんだから・・・

2008/10/11(土) 午前 5:32 飛鳥 返信する

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疑似科学でしょうね。引用がまともでない、総合的な判断をしていない時点で。

ジュゼリーノ、けっこう予言を信じている人がいるみたいですね。しかも、科学と並列で考えている人もいるみたいで驚きです。
http://blogs.yahoo.co.jp/eng_cam_fld_tgs/35972335.html
まぁ、ご本人が「科学」を標榜していないので、私も相手にする気はありません。適当に言っとけ、って感じ。

テレビは、正直終わってますね。人が犬をかめば、何でもかんでもあり。(ってアフリカで、ホンマに人が犬にかみついた、ってニュースをこの前やってた。面白かったよ〜)

2008/10/11(土) 午後 5:22 [ 綾波シンジ ] 返信する

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お久しぶりです。
森林が二酸化炭素を吸収しない=吸収してこなかったということでしょうかね。もしそうなら、森林が固定している二酸化炭素がすべて放出されても、単純に二酸化炭素のことだけ考えた場合、問題ないということになるのでは。

2008/10/14(火) 午後 5:56 しげさん 返信する

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お久しぶりです。

その辺、論理破綻をしているのでしょうね。
人為的な排出量(森林伐採)と自然「排出量」は混同されているし、火災が、IPCCの炭素収支量の内訳でどう扱われているかも曖昧、火災年の扱いを全部に適用している、シベリアの森林面積を間違えている、政治的吸収量の取り決めと自然吸収の値を混同している…などなど、正直、どこから添削(?)していこうか、悩みました。
森林の収支を、長期的に考えた場合、確かに全体量と比べれば「少ない」と言えなくもないですけどね。比べるものが間違っているような……
近年の状況は、CO2増加など各要因により変わっていますし、研究の進展により理解が変化してくるわけですから、古い理解で、今したり顔で話されるのが何より困ります。

2008/10/14(火) 午後 6:47 [ 綾波シンジ ] 返信する

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トラックバックを引用いただいたものです。返事が遅かったのは、首のヘルニアで手術するため、病院で禁電波生活をしていたためです。プログの更新に大きな穴が開いているので、おわかりかと。
まず、結論を申し上げますと。全くあなたのおっしゃるとおりです。我が論訂正の上、貴記事をトラックバックさせてもらってもよいでしょうか?
ただ一つ、言わせていただくと「武田 邦彦」なる人物は初耳です。たまたま、父と話していたら意見が一致したので、誤論を書いたまでです。ですから、さんごの吸収まで手広く書いています。←こっちの方はこれでいいのですか?つまらない、きれいでないサンゴなら安価に種付けできます。こちらが、論の主旨だったのですが・・・?スルー?その後、退院後、この元記事を拝見し、「人間の考えることは、にるなあ。」とおもったしだいです。あと一言だけ、おそらくここ数年がCo2が安価に対策できる境界線。農業を中心に被害が急拡大きそうなので、1年遅れるごとに負担は重くなるでしょう。費用のかかる前の一手が大事だと思います。正しい知識を世に広げ、正しい行動を考えましょう。

2008/12/26(金) 午後 1:31 [ 八兵衛 ] 返信する

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>sil**rkn*ght*p さん
>我が論訂正の上、貴記事をトラックバックさせてもらってもよいでしょうか?

よろしくお願い致します。森林・サンゴあわせて、炭素循環に関する記述とお見受けしましたので、若干の見解をそちらにコメントさせて頂きました。海洋をスルーしている訳ではありません。

2008/12/26(金) 午後 5:17 [ 綾波シンジ ] 返信する

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どうも、さつきです。
いろいろとお教えいただきありがとうございます。
一つ分からないことがありますので、お尋ねします。
森林が二酸化炭素を吸収しているとすると、樹木が枯死した後、分解されずに残るフラックスが無視できないほどあって、それらがどこかに蓄積されているということですね。
それは、現在どこにどのような形で蓄積されているでしょうか?
確かに土壌中にはいくらか残されていますが、湿地帯で泥炭として残される以外は、通常の山地、丘陵地、平地の土壌は必ず遅くとも数百年以内に流出して更新されてしまいます。流出した先で海洋へ至り、最後には主に泥岩中に固定されることは確かですが、これ以外にあるでしょうか。
泥岩中とは、石油の元となる有機物(動物性を含む)などを含んでの意味です。

2009/1/16(金) 午後 6:43 [ さつき ] 返信する

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>現在どこにどのような形で蓄積されているでしょうか?

微妙な収支のバランスでしょう。
炭素量は、大気750Gt、植生610Gt、土壌中には1580Gt、海洋表層水1020Gt、海洋有機炭素700Gt(化石燃料は含まない)とされています。そのうち、1Gt/yr前後のフラックスの差を見ているわけです。
(基本的に億年スケールの長期で見れば微減するのは、説明不要ですよね?化石燃料・炭酸塩岩として)

「何か一つ」としてお答えするのは適切では無いと思いますし、またその定量評価は今現在も難しいところです。

>確かに土壌中にはいくらか残されていますが、湿地帯で泥炭として残される以外は、通常の山地、丘陵地、平地の土壌は必ず遅くとも数百年以内に流出して更新されてしまいます。

ごく簡単に言えば、そのさつきさんの言われる「流出」も含めたフラックスが、「もともと」ほぼ釣り合いがとれた中で、CO2濃度が上がれば、貯蓄量プラスになる、ということでしょう。フラックスの微妙な変化であると言えます。

2009/1/16(金) 午後 7:11 [ 綾波シンジ ] 返信する

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あと、森林土壌中の炭素固定量に関する論文等読まれてみてはいかがでしょうか?
釈迦に説法なのかも知れませんが……

2009/1/16(金) 午後 7:27 [ 綾波シンジ ] 返信する

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ご指摘の趣旨がわかりました。

吸収のフラックスが極わずかでも、総量にすると無視できない量になるということですね。
それで、私のブログのコメント欄にこちらのブログの紹介がてら、上記の点を捕足説明として書き込みます
お読みになって不都合があれば、遠慮なく御指摘下さい。

いずれにしても、ありがとうございました。

2009/1/16(金) 午後 11:56 [ さつき ] 返信する

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