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森の集落の老人とエリスの問答は続く。
「メーマックの民衆が・・・暮らしぶりが豊かではなかったのは政策のせいだったんですね?」 「もともと小さな国が独立権を保持したまま存続する事自体が無理な話だったのです。結果取り返しのつかない事に」 エリスたちの話をじっと聞いていたシーナがそこで初めて口を開いた。 「じいさん、今の話を聞いていて腑に落ちない事がいくつかある。聞いてもいいかい?」 「もちろんです、どうぞ」 「じゃあまずひとつ。あんた達は国王の政策に反対はしていたが愛国心はあると言ったな?どっちでも構わないから同盟をしていればよかったと。だけどロードニアもフジャールも単にケンカをしていたわけじゃない、このメーマックの土地と民衆が欲しかった。仮に同盟が組めたとしたってそれは事実上の植民地になるだけだぜ?それでも構わなかったっていうのか?」 「たとえそうなったとしてもメーマックの名がなくなるわけではなし、私達の暮らしが安定すればそれで良かったんですよ。最悪辿ってゆく経過の中でやがてメーマックという国がなくなったとしてもそれは結果として受け入れてもいい。そう考えるほどに私達の暮らしは逼迫していたのですよ。愛国心を捨ててまで安らかに豊かに暮らしたいと願うほどに・・・。食べ物が無い、栄養が足りない。それで真っ先に犠牲になるのは生活弱者・・・老人と子供達です。解りますか?最愛の小さきものが弱って死んでゆく様を、ただどうする事も出来なく見ているだけしか出来ない親の気持ちが。あなた方に想像ができますか?」 老人の見てきたであろう辛い過去、経験を想像するだに言葉を失うエリス。どんな慰めの言葉も、同情の言葉も差し挟む余地などない。それはローハース姉弟も同様のようで、俯き考え込んでいる。 「メーマック自体小さな国だ。収穫を始めとした産業には限界がある。それを献上品として没収されちまっちゃ無理も無い話しだ。そいつは気の毒だったとしか言い様がねえ。残念だがな」 「いえ、・・・もう昔の事です。・・・昔のね」 「質問の続き・・・いいかい?」 「ええ、どうぞ」 「じゃあ、ふたつ目。あんたたちは復権団に所属していないんだろう?よくやつらから“非国民”扱いされずに生きてこれたな。フジャールでは復興同盟が一般人から略奪してるって話も聞くが・・・、それは?」 「もちろん彼らは私達を非国民扱いしてますよ。王の無念を理解しない軟弱者めってね。おかげでこんな森の奥深くで暮らすことを余儀なくされている。しかし一応同じメーマック人だからでしょうか、乱暴な真似まではしてきません。弱者扱いしているのでしょう。乱暴はしないが助けもしない。“勝手に生きて勝手に死ね”というところなんでしょうな。私達のほかにも復権団に所属していない一般人はたくさんいますが、どこも肩を寄せ合ってつつましく、そして彼らを刺激しないようにして生きている。復権団もそんな私達を相手にするようなことはしません。私達はただ早くこの内乱が終わるのを祈るばかりです」 「それじゃ最後にもうひとつ。復権段のやつらは何故殊更ロードにア人を目の仇にして襲ってくるんだ?国を滅ぼしたっていうならフジャールだって同じだろうに。それについては?」 「さあ・・・そればかりは。最初にメーマックを制圧したのがロードニアだからとも考えられますが」 そこへ飲み物のお代わりを運んできた先ほどの女性が入室してきた。どうやら話をきいていたようで水を汲みながら眉間にしわを寄せて語りだした。 「それなんですが、長老。噂なんだけど復権団はフジャール復興同盟と協定を結んだらしいって話があるんですよ」 「なんだって!?」 「いえね、あくまで噂なんですよ。復権団らしき連中とフジャールのゲリラが何人かで話をしているところを見たって人がいるらしいんです。それもウチの集落だけじゃなく他のところでも。お客さん、私達は集落同士互いに足りない物を交換し合ってるんですよ。その時に聞いた話らしくてウチの若い男衆が噂しているんです。まあ私達には直接関係ないんで特にそれでどうこうするようなものじゃないんですが」 「ただそれだけで手を組んだって考えるのは早計だが・・・それが事実ならかなりヤバいな」 「なんでだよ、シーナ?ヤツラが手を組んで何がヤバい?ヤバさならどこ行ったって同じだろ?」 「いいか、アール。ゲリラ連中が制圧部隊に追いやられて弱体化してるって話は前にもしただろう?しかしやつらはなんとしてでもこのまま活動を続けて巻き返したいんだ。その為に一時休戦協定を結んで一緒にロードニアをたたくってのはあり得ない話じゃないんだ。今のところ俺達は復権団しか遭遇してないが、万が一ヤツラが手を組んでいてまとめて掛かってきたら俺達4人なんかひとたまりもねえ」 「そうか・・・この先の危険度は倍々に跳ね上がったってことよね。あ、でもシーナ、軍の制圧部隊ってそこかしこで駐留してるんでしょ?いざとなったらそこへ逃げ込めばいいじゃない。それに先生って偉い人なんだからもしかするとポートフォーサイスまで連れて行ってくれるかもしれない」 「そう都合よく制圧部隊が駐留してる所ばっかりにいければそれでもいいんだがな。ただ今回のこの旅はスポンサーがたまたまアヴァロって軍人なだけで目的はごく個人的なことだ。だからアヴァロもエリスをダスカニアへ送るのに軍人を使うわけにはいかなかった。制圧部隊の駐留ポイントに保護してもらうのはともかくポートフォーサイスに送ってもらうってのはまず無理だな」 「そうか・・・そう、・・だったわよね」 「まあしょげたってはじまらねえ。ヤツラが手を組んだってのはまだ噂の域を出ない。確証がないならこれ以上どうする事も出来ないし、今は前に進むだけだ。もちろん用心に越した事はないがな」 一行の話を黙って聞いていた老人は一息入れましょうといって立ち上がった。 「とりあえず復権団がこの森に侵入してくる事は無い。皆さんここで休んでいきなさると良い。この森は深い。不案内な者では出られなくなる。明朝ポートフォーサイス側の森の出口まで送らせましょう」 まだ立ち上がっていなかったエリスは目を丸くして長老を見上げた。 「え?よろしいんですか?私達、ここでお世話になっても・・・」 「構いませんよ。内乱は続いているが今では同じ国の人間です。当方にはなんの異存もありません」 「あ・・ありがとうございます!良かった・・助かります」 すっくと立ち上がったエリスは深く頭を下げて礼をした。つられて他の3人も立ち上がる。そのまま今を出ると長老宅の玄関には興味本位で集まってきた集落の人々が群れを成して中を覗いていた。長老が事情を話すと我先に子供達が飛び込んできてサイやアールの手を引いて外へと連れ出した。思いも寄らない歓迎振りである。よそ者というより外部の者が珍しくて仕方がないのだろう。はしゃぐ子供達に悪い気はしないローハース姉弟は苦笑して連れられていった。そこへエリスたちを連行してきた男の1人が歩み寄り、シーナの前に来ると皮で包んだ3人の武器を手渡した。 「ほら、あんた達のエモノ、返すぜ。歓迎するよ」 受け取ったシーナはサイたちを呼び戻しそれぞれの武器を渡すと、自分の愛用の銃をくるりと回転させてからいつものようにパンツの中に差し込んだ。落ち着いたのかそのままタバコに火をつけ一服する。 再び子供達に連れられていったローハース姉弟は珍しげにたむろする子供達に囲まれて遊んでいる。どうやら武器を見せてくれとせがまれているようで、アールは鞭を、サイは投げナイフを取り出して抜群の技を披露する。それには子供達だけではなく大人も感嘆したようで歓声が上がった。 長老宅の玄関横にはデッキが設えてあり、エリスはそこへ先ほどの女性に案内されて椅子に座った。あのエメットが言っていたようにこのメーマックは織物が特産だというのは本当だったようで、綺麗な模様の織物が掛けられた椅子は座り心地もよくエリスはふうと息をつきくつろいだ。 そこへ長老がやってきてエリスの隣に座ると、広場で子供達の相手をするローハース姉弟や、その脇で野次をとばすシーナを遠く見渡してからエリスに話しかけた。 「お嬢さん、あなたのお連れさんたちは大層な腕前をお持ちのようですね」 「ええ、そのおかげで私の様な者でもなんとか無事に旅が続けられています。すべて彼らのおかげです」 「特にあの長身の銀髪の男性。彼は随分と博識ですし世情にも詳しい。洞察力も鋭い。頼もしいですね」 「はい。彼は私達の中でも特に強くて頼りになる人です。何度も何度も、私達は彼に助けられてきました。私達には無くてはならない・・・・大切な存在です」 「そうですか。・・・しかし水を差すようで悪いが、あなたは彼がロードニア人と思っていなさるか?」 「!!!何故です?何故彼がロードニア人ではないと・・・・??」 「いや、髪を染めるなど簡単な事ですし若い人ならよくする事なのでしょうから、確かな事は言えませんが・・・。彼の髪が染めたのではなく本物だとしたら、これは・・・」 「何です?はっきりおっしゃってください!!」 「皆が皆そうとは限りませんが・・・。フジャールの北東部の者はその多くが銀髪なのですよ。彼のように青み掛かったね。もしや彼は、フジャール人なのではないかと思いましてね」 「シーナが・・・・フジャール人・・・・??」 「お嬢さんは彼のご出身をご存知ないのですか?」 「ええ。詳しい事は話せませんが私を始め、彼ら姉弟も・・・シーナ、彼の出身や過去を知りません。本人もあまり話したがらない様子なのでこちらからは特に聞いたりはしませんが」 「そうですか。なにやら事情がおありの様だが気を許さない方がよろしいのでは?」 「いいえ!私は彼を信じています。それはサイさんやアール君・・かれら姉弟も同じです。彼がいなくては私達はここまで辿り着けなかった!それはこれからだって・・・!!」 「ああ、気分を害されたようで申し訳ない。ただこの森を抜ければそこは元フジャール領です。くれぐれもお気をつけになられた方がよろしいかと存じますが・・・・」 「心配ありません。彼は必ず私達を助けてくれます。私達も彼の助けになれるよう努力して行きます」 「そう信じてゆけるのなら心配は無用ですな。いや、申し訳なかったです。年寄りの要らぬ世話と聞き流し下さい」 それだけ言うと長老は幾分うな垂れて建物の中に入っていった。エリスの胸にかねてより抱えていた影がむくむくと膨れ上がり、それは長老の言葉と共に満ちてゆく── |
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この55話だけ読んだだけですが、沖縄の状況とだぶって昔議論されていた復帰談義を彷彿とさせました。5/15は沖縄の復帰記念日です。私のHNにさせてもらってます。
2009/1/1(木) 午後 11:03 [ uthb515 ]
uthb515さま>
私自身沖縄の事にはまったく無知なのでそんなご感想が聞けるとは驚きです。
ありがとうございました。
2009/2/12(木) 午後 11:18