|
暗闇を疾走する列車。 周りの空間には何も無い。ただ闇が広がるだけ。 たったひとつの明かりは列車内の電灯のみだ。ぼやけた視界に眩しい。 上昇しているのか、下降しているのか。列車は速度を測る景色の無い空間をひた走る。 クラスメートはなぜこんな怪しげな空間を走る電車にああも楽しげなのか理解に苦しむ。 笑いながら窓の外を指差してなにやら嬌声をあげていた。解らない。 だってそうだろう。窓の外にはなにもない。いや、闇しかないのだ。 窓に映るのは煌々と明るい車内の風景。 指を指して笑う自分達の姿が可笑しいのか。それとも闇の中になにかあるのか。 なんとなく置き去りにされたような寂廖感が私を苛む。 私に見えていないだけなのか。この空間を楽しめば、この列車の旅を楽しめば見えるのか。 期待と諦めのない交ぜになった複雑な心を押し込めて眼を凝らす。 何か見えないかと視線を飛ばす。ない。ない。ない。無い無い無い無い無い無い無い。 汽笛が鳴る。 こんな妙なところで汽笛も何もないだろう。 投げやりに先頭車両のほうに目をやる。どうやらカーブを走っているようである。 曲がった先に遠く先頭車両とその後に続く車両の明かりが列を成す。 いや。 見えたのはそれだけではない。 私はここにきて初めて列車以外のものを窓の外に確認した。 あれほど焦がれた「目に見えるもの」 明かりを発して私達の列車の進む先に茫と現れる。 やっと列車のスピードが解る時が来た。相対的なものがないと自分達の走る速度も解らないのだ。 しかし私達の乗る列車は相当スローなペースで走っているようだ。 明かりの源を確認するのにさほど困難なことは無かった。 なんのことはない。明かりは対向列車が発する物だったのだ。 息を呑む。 なんだ「あれ」は。 あれは。あの窓の外を見ている人物は。 私だ。私とクラスメートだ。 相変わらず楽しげに過ごすクラスメートたち。驚愕の表情を表す私の貌。 なぜあんなものが見える。鏡なのか。いや違う。私が動いても窓の向こうの私は動かない。 大きく手を振る。応えてくれ。鏡だと解らせてくれ。 凍りついたように驚きの顔をしたまま私は動かない。 視界がぼやける。何故だ。痛い。頭が痛い。なぜあんなものが見えるのだ。解らない。 解らない。 どうやら気を失っていたのか。 頭がぐらつく。硬い車両の椅子に身を沈めていた私は大儀な仕草で起き上がる。 クラスメートたちは何事も無かったように歓談していた。 ありがたい。私のことなど眼中に無いようだ。それでいい。 このような気色ばんだ様子を見られたくはなかった。相当動転したようだ。 あんなものが見えるとは。余程私はこの列車に馴染めないでいるらしい。 不意に汽笛が鳴った。 先ほど聞いた汽笛からどのくらい時間が経っているのか。今にして思えば夢だったような気もする。 そう。列車が汽笛を鳴らすにはちゃんとした理由があるはずなのだ。 自分が乗っている列車が奇しいものだなどと何故思っていたのか。 おそらく対向列車が来るのだろう。窓の外に目をやる。 対向列車には私がいた。 驚愕の表情を浮かべて私を見ている。 そんなはずは無い。あのような奇妙な体験を2度もするなど。私はまだ夢を見ているのか。 体が固まる。凍りつく。動けない。なんだこの恐怖感は。 私の視線はゆっくりと進む対向列車に乗った自分に注がれる。 驚いている。信じたくないのだろう。そうだ。その気持ちだ。解る。 懸命に手を振っている。自分の目に映る自分が信じられないでいるのだ。 しかし私は動けない。今見ている自分が恐ろしくて体が言うことを聞かないのだ。 だってそうだろう。今見ている自分はさっきの自分だ。 鏡に映った自分だと信じたくて手を振り回したさっきの自分だ。 私はさっき「未来」の自分を見たのだ。 そして。 今私は「過去」の自分を見ているのだ。 暗闇の空間に浮ぶ二つの窓枠。 そこに過去と未来が交差している。 ********************************************** こんな夢でした。印象的です。今もふとこの夢の感覚が体を過ぎります。
|
全体表示
[ リスト ]





