JELANDEAR

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花盗人

雨のそぼ降る夕刻。あたりはすでに薄暗く帰宅途中の人々が足早に去ってゆく。
私はといえば勤務先の店の前で空を見上げて、黒い雲が風に流されてゆくのを見ていた。
「そろそろ始めないとね」
副店長の上田さんが私を仕事に戻るように軽く促したので、言われるまま店内へと戻った。
そうだ。
今は仕事中なのだから余計な感傷に耽っている場合ではない。
「今度の報告書のテーマに沿って成功事例を挙げなきゃいけないんでしたっけ?」
私の問いに面倒そうに頷いた上田さんは机の上に開いていたPCを覗き込んだ。
「パートミーティングの取組状況なんてテーマにしちゃったからなぁ。“上”が納得する報告にしなきゃいけないし。頼むよ」
上田さんの報告書のデータ作成の為に私はなんとしても成功事例を挙げなくてはならない。
いささか納得できる内容の物ではないが、こうした事を頼まれたり聞いたりするのは慣れていた。
私が奉職する店ではまず「結果ありき」でそれに付随して取り組みを行うのが半ば通例化していた。
今さらぼやいても仕方ない。
「じゃあまず・・・。ありきたりだけど売り場のディスプレイでも考えましょうか」
私が発注を担当するカテゴリーは“米飯”である。
米飯ケースをいかに客の目を引くディスプレイで飾り立てようか私は思案にくれた。
その時、ふと先ほどの夕方の空の風景を思い出した。
見上げた空の風景の中には、満開をとうに過ぎていくばくかの遅咲きだけが残る桜の木もあったのだ。
「上田さん、本物の桜を飾ったらどうでしょうね?」
一瞬きょとんと目を丸くした上田さんだったが、即座に賛成の意を表してくれた。
となれば早速実行である。私はバックルームから脚立を取り出し、手には鋏を持って外へ出た。
既に雨は止んでいる。
露が滴り街頭の明かりを受けてきらきらと輝く桜の枝に向けて、私は脚立に登って鋏を差し出した。
ところが下から見上げるよりも若干高い位置にある桜の枝にはわずかながら届かない。
何度か向きを変えて試したもののやはり無理である。私は店内にいる上田さんを呼んだ。
上田さんは決して背が高い人ではないが少なくとも私よりは大きい人だ。きっと彼なら届くだろう。
思ったとおり、彼は難なく数本の桜の枝を切り下で待ち構える私へと投げて寄越した。
しかも気の利いたことに、彼は木に残ったわずかばかりの花をつけた枝を選んでいた。
私の手の中には春が到来した事を確かに報せる遅咲きの桜が、冷たい雨の雫を滴らせて咲いている。
脚立から降りてきた上田さんはその桜を見ながらこう言った。
「それだけじゃなんとなく寂しいからもう少し飾れそうな花を探そうよ」
そうは言っても木の上に残った桜はもう私達の手には届かない遥か上のほうにいくつか残っているだけである。
「何も桜だけにしなくてもいいじゃない。咲いてる花なら他にまだあるよ」
すっかりその気になった上田さんは鋏を手に歩道を歩いてゆく。店の並びには垣根のある家や寺などもある。確かに彼の言うとおり探せば他に花はいくらでもありそうだ。私はすぐに彼の後を追った。
沿道には名前も知らぬ花が見事に花をつけている。可憐なもの、豪華なもの、色とりどりで美しい。
目につく花を手当たり次第に摘んでゆく上田さんは次々と私に寄越した。あっという間も無く私の両手は花で一杯になった。さらに上田さんは鋏を私に差し出して、私にも好きなものを摘めと言ってきた。
店から歩いて順々に摘んできた私達は寺の前にいる。石畳の参道の横には植え込みがあり花も咲いていた。
手に一杯の花をなんとか片手で持ち、もう一方の手だけで鋏を花の茎にあてがい切ってみた。
意外にも茎はしっかりしており、片手では容易に切れそうも無い。握力の全てをつぎ込んで思い切り鋏み切ると、茎は数本の繊維を切れ残しぐんにゃりと折れ曲がった。
仕方がないので私は鋏をポケットにしまい、折れ曲がった茎を力一杯ねじ切った。花の美しさとは対照的に醜く切れ残った繊維を垂れ提げた茎を見て私はなんとも言えない罪悪感に苛まれた──

最近やけに疲れ気味の私ですが、昨晩は微熱を発して早々に寝床に潜り込みました。
この夢はそんな状態で見た夢なのでなんだか夢とも現実ともいえない微妙な内容ですね。
でも今改めてこうして夢の内容を振り返ってみると心当たりがあったり、簡単に自己分析が可能です。
公開できる範囲で以下に自己分析を含めたこの夢の註釈をしてみたいと思います。

「副店長の上田さん」
誰だよ?(笑)今私がいる店の副店長は違う名前ですし、夢の中での見た目も違いました。ただし、夢の中で彼が言っている「報告書のための成功事例」とは本当の話です。言い出しっぺは店長で、どうして成功事例を出さなければいけないのかなどの理由もほぼ現実と合ってます。私、よっぽどイヤなんですねぇ(笑)

「桜の木」
この桜は本当にあります。店の前の車道は延々と沿道に桜が植わっています。もちろん今は葉桜です。
いやぁ、今の店に移動してきて(異動に非ず)夢に今の店を見るのは初めてかもです。遅い(笑)

「寺の植え込みの花」
実際には店のそばにお寺はありませんが、夢の中で見たお寺は今の家に引っ越す前の家の隣だったお寺でした。季節感が違うので本文中には敢えて花の名前を出しませんでしたが、夢の中で私が手折ろうとしていたのはあじさいです。この寺の花のくだりは今夢を振り返る段階で一番脳裏に残っているシーンです。
剪定用の鋏で必死に茎を切ろうとする行為は今私が現実に置かれてる状況をはっきり暗示しているようです。
「切りたいのに切れない」というもどかしさと切れた後の罪悪感。そしてこの夢の一連の作業に対する後ろめたさ。良かれと思ってしている事でも、心のどこかで「いいんだろうか?」という罪の意識。
詳しくは申せませんが今まさに現実の私が感じている事でもあります。
夢に見るほど深刻に悩んでいたとは思いたくありませんが、体と脳は正直なようです(苦笑)

最後に。
この記事のタイトル「花盗人」は「はなぬすびと」では無く「はなぬすっと」読んで下さい。夢の中で私がしていた行為は明らかに窃盗です。「はなぬすびと」なんて情緒あふれる風雅な行為では決してありませんので(笑)私はただの「ぬすっと」ですよ。

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