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もう説明するまでもなく、笑福亭鶴瓶さんは70年代から芸能界の第一線を走り続ける国民的スーパースターです。僕も子供の頃から「ヤングタウン」や「わいのわいの90」(以上、MBS)、「ぬかるみの世界」(OBC)といったラジオから、「突然ガバチョ」(MBS)「鶴瓶・上岡PAPEPO TV」(YTV)、最近では「つるぴん」「きらきらアフロ」(以上、TVO)などのテレビ番組を通じて、すっかり鶴瓶さんに毒されてしまった一人です。
そんな鶴瓶さんの古典落語に初めて触れたのが、平成14年9月1日、上方落語の熱心なファンが集まる彦八祭りでの奉納落語会でした。生國魂神社の参集殿の広い座敷もぎっしり満員、熱気むんむんで行われるこの落語会で、鶴瓶さんは「子は鎹」をかけました。
まくらで我が子のことをいつもの鶴瓶ばなしの調子で語り、会場を大きく沸かした後、川柳をひとつ挟んでネタに入りました。
「子は鎹」は、別れてしまった夫婦が子を切っ掛けに復縁するという人情噺ですが、鶴瓶さんのは、母親の方が家を出ていって、寅ちゃんは大工の父熊五郎と2人暮らしの設定でした。鶴瓶さんは実に情緒的に語り、満員の聴衆の大きな笑いと涙を誘いました。
寅公は学校の帰りしなに実の母親と出会う。いつも寅ちゃんのことを心配していたといい、その後の事を聞く。「お母ちゃん出ていった後、次のお母はんが来はって、でもそのお母はんは家の用事なんもせんとお酒飲んで寝てばっかり。なんかいうたらキセルでコツンコツンとわいの頭叩きはるんや。」という寅公の言葉はとても不憫でした。
仕事もせず酒ばっかり飲んでいた熊五郎もすっかり心を入れ替え、仕事に打ち込んで今では立派な大工の頭領になったということ、そして今も独り身だということまで聞いて、母親は寅公に「内緒やで」といいながら五十銭の小遣いを渡す。家に帰った寅は、きっちり五十銭玉を熊五郎に見つかってしまう。「これ、どないしたんや。人のものに手を付けるような奴に育てた覚えはない。」と激高した熊五郎は玄能(げんのう)を振り上げる。「そんなんで叩かれたら、ほんまにあほになってしまう」といって、寅公はその五十銭は母親から貰ったもんやと白状する場面の緊張感。
鰻屋で親が再会する場面。熊五郎がすべてを謝り、「今は心入れ替えたんや。こんなこと言ぅても何の埋め合わせにもならんけど、どやろ、これも縁やと思て、もういっぺん、わしと」と復縁を申し入れるクライマックス。
どこをとっても申し分のない人間ドラマに仕上がっていて、不憫な境遇にも逞しく生きている寅ちゃんの愛らしさ、職人らしい熊五郎の気っ風、それから母親の温かい情、そんなものが本当に良く出ていたように思います。きっと鶴瓶という人がなせる業なんでしょう。今、この「子は鎹」を胸に響くほど聞かしてくれる名手はそんなにいないのではないでしょうか。そして何よりその大本命が鶴瓶さんであるということに、一寸の疑う余地もありません。そう思える落語に生で触れることが出来たのは、幸せの極みだと思います。
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