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街の犬だった、コロ
子供の頃、海外ドラマにはよく名犬が登場
していた。ラッシー、ロンド、リンチンチン
などなど。画面に登場する彼等の物語は楽し
みつつも、所詮しこまれた演技をこなしてい
るに過ぎないと、冷めた目で見ていた。私が
素直でなく、かわいげのない子供であった事
もあるが、本当に賢い名犬を真近かに見て、
触れて暮していたのが最大の理由である。
その名犬は街の人々にコロと呼ばれていた。
飼い犬ではなく、自由に暮す野良犬だった。
その頃多くの家庭で飼われていたスピッツか、
その系統の雑種だったと思われる。スピッツ
はよく吠えるため、番犬向きだったそうだが、
コロは違った。
毎日自分なりの巡回コースを通って、我が
家界隈にやって来て、静かに休憩していた。
人はおろか、他の犬や猫に対しても、吠えた
り唸ったりした事は無かったし、当然、ケン
カや縄張り争いなどしている所なんて見た事
ある筈も無い。そんなコロだから、ご近所を
始めとする、街のみんなから大事にされる、
まさに街の犬だった。
たまの日曜日、デパートでの昼食が唯一と
いえる一家の娯楽だった時代、タイミング良
くコロがやって来た時は一緒に出かけ、店内
もエレベータも共に入った。何せ街の犬だも
の、ウチの家族の誰よりも名前も顔も知られ
た有名犬。誰一人、とがめる人はいなかった
し、コロは足元から離れず、行儀良くふるま
った。テーブルについても、邪魔にならない
よう、我々の足の先で丸くなっていた。
また、ご近所界隈の夕飯の準備時にやって
来たら、味見がてら、おかずの食材をひとか
けら、あげてもいた。たまたま夕方に出かけ
る用事があって何も準備してない時にやって
来たら、どこかのお宅に電話して確認した上
で「◯◯さんちで唐揚げあるって、行ってご
らん」とコロに話してみると数分後、間違う
事なく、コロはそちらのお宅に現れた。
本当に街の犬だったコロ。何度かの四季を
過ごした後、コロが突然街から消えた。年老
いていたのは間違い無かった。どこかで己の
寿命を悟り、その身を隠して命を終えたのか
も知れない。急激に増えつつあった自動車に
よって事故に遭ったのかも知れない。最悪の
場合は、野良犬として収容され、殺されてし
まったのかも知れない。コロに会えなくなっ
たのは悲しかったけれど、私を含め街の人々
も時の流れに置いて行かれないよう、コロを
忘れてそれぞれの最善を尽くして日々を送り、
世紀を越えた。
改めて思い起こすと不思議な事に、街の犬
コロが消えたあたりから、我が岩手県花巻市
の隆盛を支えた、カリスマ経営者が一代で興
した大きな会社の経営に暗雲がただよう最初
の時期を迎え、街全体が少しずつ輝きを失い
始めた気がしてならない。何しろ、こんな田
舎の小さな街の会社が、東京オリンピックの
情報を世界に伝えるテレプリンターを製造し
いていたのだから。現代で言うIT企業の、
はしりだったのだ。
昭和30年代から40年代の、街にも人々にも
活気と向上心がみなぎりつつも、優しさやい
たわりの心を互いに抱き合って生き抜いてい
た時代と、その終焉。コロは街の犬として生
き、街の犬として時代の移り変わりを人々に
教えてくれた、どこからかの使いだったので
はないか、と思えてならない。そうであれば、
テレビ番組の主人公達より賢い事も何の不思
議もないのだから。
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