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(つづき) 1.川崎市水道局(いじめ自殺)事件 <控訴審 東京高判H15・3・25労判849・87> (事実的因果関係) 「一郎に対するいじめと精神分裂病の発症・自殺との間には事実的因果関係が認められる。」 「この点につき第1審被告は、精神分裂病は内因性(目覚し時計がひとりでになるように、内から起こる意)の精神疾患であり、何らかの原因(出来事)によって発症するものではないから、いじめと一郎の精神分裂病の発症との間には事実的因果関係がない旨主張する。」 ⇔ 「しかしながら,第1審被告が引用する「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(平成11年9月14日付け労働基準局長通達)においても,業務の強い心理的負荷(職場における人間関係から生じるトラブル等,通常の心理的負荷を大きく超えるものについて考慮するものとされている。)により精神障害(ICD−10の分類によるもの)を発病する場合があるものとされ,業務による心理的負荷によってこれらの精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定し,原則として業務起因性が認められるものとされているのであって,上記主張を採用することはできない。」 (過失相殺の類推適用) 「もっとも,健常者であればそのほど心理的負荷を感じない他人の言動であっても,精神分裂病等の素因を有する者にとっては強い心理的負荷となり,心因反応ないし精神分裂病の発症・自殺という重大な結果を生じる場合があり,この場合に,加害者側が被害者側に生じた損害の全額を賠償すべきものとするのは公平を失すると考えられるが,その点は,後記のとおり,過失相殺の規定を類推適用して賠償額の調整を図るべきである。」 (相当因果関係) 「また,第1審被告は,第1審被告の職員の言動によって一郎に精神分裂病等が発症することは予見不可能であったから,仮にいじめがあったとしても,その行為と一郎の死亡(自殺)との間には相当因果関係がない旨主張する」 ⇔ 「前記認定説示のとおり,乙山ら3名の言動が一郎に対するいじめ(不法行為)であり,その行為と一郎の心因反応ないし精神分裂病の発症・自殺との間に事実的因果関係が認められる以上,不法行為と損害(一郎の死亡)との間に相当因果関係がある(損害論の問題)というべきである。」 (検討) 控訴審は結論として第一審の判断を支持した。 事実的因果関係については、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」という行政通達も引用して肯定した。 また、相当因果関係については、「事実的因果関係が認められる以上,不法行為と損害(一郎の死亡)との間に相当因果関係がある」と断言した。ただし、相当因果関係を要することは前提としているので、これが予見可能性さえも不要とした趣旨かどうかは不明である。 第一審にみられなかった「過失相殺の類推適用」についての説示がある。
これによれば、「精神分裂病等の素因を有する者」の場合には、「過失相殺の規定を類推適用して賠償額の調整」が図られることになる。 したがって、被害者に素因があることが使用者側の抗弁となる。 控訴審があえてこれに言及したのは、被害者の素因は、相当因果関係(=責任の有無)の問題ではなく、過失相殺の類推適用(=損害の公平な負担)の問題であることを明らかにするためではなかろうか。 |
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