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「スキマ相続法」 このシリーズは、普段の遺産分割、遺言書作成、相続財産管理人の業務のなかで発見した相続法に関するスキマに挟まっているような情報を小出しにするシリーズです。 第1回は「清算型遺言」です。 Aさん(80代・女性)は、昨年長年連れ添った夫を亡くしました。
二人の間には子どもがおらず、夫の遺言もなかったので、Aさんは、疎遠であった夫のきょうだいや甥姪と遺産分割協議をしなければなりませんでした。 弁護士に依頼して、夫のきょうだいや甥姪に代償金を支払って、Aさんは、ようやく夫の遺した自宅を単独相続することができました。 ひと安心したAさんでしたが、今度は自分が亡くなったときのことが心配になり夜も眠れません。 自分が亡くなったときに、この自宅や自分が働いて貯めた預貯金はどうなるんだろうか。 遺産分割を依頼した弁護士に聞いてみると、今度は自分のきょうだいや甥姪が遺産分割協議をしなければならないことが分かりました。 Aさんは、疎遠な親族どうしの遺産分割協議にはうんざりさせられましたし、特に親しくしている親族もいなかったので、自分の遺産を慈善団体に寄付したいと思いました。 このAさんの希望を叶える方法としては、慈善団体への遺贈が考えられます。 しかし、Aさんの遺産のなかには自宅不動産が含まれていますので、慈善団体が受け取ってくれるかどうかが心配です。 もしも、遺言執行者を指定し、自宅不動産を売却してもらい、諸費用を清算した残余の遺産を慈善団体へ遺贈してくれるのであれば、その心配も無用というものです。 このように、遺言執行者に対し、相続財産中の残余金額を一定の範囲の者に一定の割合で分配するように指示する遺言を「清算型遺言」と呼びます。 そして、このような遺言の効力を認めたとされる判例もあるようです(大判昭和5年6月16日民集9巻550頁、松原正明「全訂判例先例相続法V」189頁)。 このような「清算型遺言」の遺言執行にまつわる問題の一つとして、「遺言執行者が単独で売買を原因とする所有権移転登記手続を行いうるか」という問題が挙げられます。 登記実務では、「清算型遺言」がなされた場合、当該不動産を他に売却し買主名義に移転登記するには、まず遺言執行者が単独で相続を原因とする法定相続人への移転登記をし、遺言執行者と買主が共同で売買を原因とする移転登記をするとされています(松原正明「全訂判例先例相続法V」190頁)。 つまり、遺言執行者が単独で売買を原因とする所有権移転登記手続を行いうるというのが結論です。 しかしながら、問題はこれだけでは解決しません。 まず、上記のように遺言執行者が単独で売買を原因とする所有権移転登記手続を行うためには、登記済証(又は登記識別情報)が必要なので、あらかじめ預かっておくなり保管場所を把握しておくなりしておかなければなりません。 さらに厄介なのは課税の問題です。ここで問題となるのは不動産売却に伴う譲渡所得税です。 この点については、文献にもなかなか記載がないので、ネット上の弁護士の執筆記事などを参照するしかありませんでした。 それによると、まず遺言執行者が譲渡所得税を計算して売買代金から控除しておき納税時期まで保管することは当然必要となるとのことでした。 そのうえで、遺言執行者としては事前に管轄税務署と協議し、売買代金の管理と納税を遺言執行者が責任を持つので、法定相続人には申告書の送付をしないよう要請しておくべきとのことでした。 そうしないと、法定相続人には一銭も入らないのに税金の申告書が送り付けられる事態となるとのことです。 「清算型遺言」はたいへん合理的にみえますが、遺産に不動産を含む場合には上記のような厄介な問題が避けられないところです。
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