はなまき法律事務所の訟廷日誌

岩手県花巻市の弁護士のブログです。日々の仕事のまとめや法律の話題をアップしています。

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労働災害が発生し、使用者の安全配慮義務違反が認められる場合、これによって生じた損害の賠償を請求することがあります(いわゆる労災民訴)。
その場合、既に支給された労災給付や社会保険給付については、使用者が賠償すべき金額から控除されます。
では、将来に支給されると予想される労災給付や社会保険給付については、どうでしょうか。

最高裁判所第3小法廷 昭和52年10月25日判決 民集31・6・836

 労働者災害補償保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであつて、厚生年金保険法に基づく保険給付と同様、受給権者に対する損害の填補の性質をも有するから、事故が使用者の行為によつて生じた場合において、受給権者に対し、政府が労働者災害補償保険法に基づく保険給付をしたときは労働基準法八四条二項の規定を類推適用し、また、政府が厚生年金保険法に基づく保険給付をしたときは衡平の理念に照らし、使用者は、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れると解するのが、相当である。

 そして、右のように政府が保険給付をしたことによつて、受給権者の使用者に対する損害賠償請求権が失われるのは、右保険給付が損害の填補の性質をも有する以上、政府が現実に保険金を給付して損害を填補したときに限られ、いまだ現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても、受給権者は使用者に対し損害賠償の請求をするにあたり、このような将来の給付額を損害賠償債権額から控除することを要しないと解するのが、相当である(最高裁昭和五〇年(オ)第四三一号同五二年五月二七日第三小法廷判決(民集三一巻三号四二七頁登載予定)参照)。

というわけで、いまだ現実の給付がない以上「たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても」将来の給付額を損害賠償債権額から控除することを要しないとするのが確立した判例です。

労災民訴を受任する際には、この確立した判例の存在に留意しましょう。

(続き 2015.2.24)

それだけだと、こういう判例ありますよだけで終わりなので思ったことを。

賠償責任者側(ひいては保険会社側?)は、「どうせほぼ確実に給付を受けるじゃないか!なんで差っ引かないんだ!二重取りじゃないのか!」と思ったんでしょうね。というか、いまだに思っているのかもしれませんが。

最高裁判所判事は、損害の填補衡平の理念という概念で納得しろと言ってます。

まず、責任論のレベルで、賠償責任者側は不法行為責任(自賠法3条責任)を負うことが確定していると。
そして、賠償責任者に要求されるのは、あまりに明白ですが損害の填補であると。
ただし、損害の填補も、衡平の理念にしたがってなされるべきであると。

なので、現実に保険金を給付して損害を填補したときは、それこそ損害の填補の二重取りになるので衡平の理念に反しているから、認めませんよと。
他方で、いまだ現実の給付がない以上、損害の填補の二重取りは生じていませんよ、衡平の理念に反していませんよと。

そこで賠償責任者側は、いやいや将来にわたり継続して給付されることが確定しているんだから、結局は将来において二重取りになるでしょ、と反論したいのでしょう。

でも、そこで賠償責任者側から衡平の理念を持ち出すのは決定的におかしい。
本来であれば賠償責任者は、責任論のレベルで確定した損害の填補自ら履行しなければならない。
もともと、将来において他人(国)が損害の填補を履行することを、期待し援用できる法的地位に居るのではない。
あくまで衡平の理念という高次の法原理から反射的に現実に給付された限度で、責任を免れえたに過ぎない。

賠償責任者側は、そもそも、将来における損害の填補の二重取りを論難できる法的地位に居なかったのです。

ここまでこの判例を読んで思ったのですが、こういった思考は、人身損害賠償を扱う場合の最高裁判所にとってはごく当たり前の感覚と思うほかありません。
有名な貝取り判決(最高裁判所第一小法廷 平成8年4月25日判決 交民集29巻2号302頁)を知らないで人身損害賠償を扱う人はいないと思います。
ま、実はこのアクロバットな法的擬制を採用した判例も、衡平の理念という全く同じ高次の法原理を論拠にしていたのですが。

生命及び身体の完全性を尊び最大級の法的保護を与える、それが最高裁判所に一貫した思考なのかもしれません。

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