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●ヨハン・シュトラウスII:歌劇『こうもり』全曲

■トーマス・アレン(アイゼンシュタイン) パメラ・アームストロング(ロザリンデ) ホーカン・ハーゲゴール(ファルケ) マレーナ・エルンマン(オルロフスキー) リュボフ・ペトロヴァ(アデーレ) ペール・リンドスコーグ(アルフレード) アルトゥール・コルン(フランク) ウド・ザメル(フロッシュ)他
□ヴラディーミル・ユロフスキ指揮 ロンドン・フィルハーモニックo グラインドボーンcho
□演出:スティーヴン・ローレス

 収録:2003年8月17日、グラインドボーン歌劇場(ライヴ)


 知っている歌手はアレンとハーゲゴールだけで、正直言ってほとんど期待せずに見始めたのですが、大変興味深い舞台でした。

 スティーヴン・ローレスの演出は特に奇抜ではありませんが、凝っています。いろいろな仕掛けがあり、大変豪華。
 時代設定は20世紀初頭のよう。アイゼンシュタインの部屋には大きな「朝顔」のついた蓄音機がありますし、クリムト風の衣装が登場、刑務所長フランクの事務室にはオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフの肖像が飾ってあります。

 セリフ部分はとても長く、通常よく聞くセリフを踏襲しながらも、新たなキャラクター設定や、さまざまな創作的エピソードを挿入しています。

 この公演のキャラクター設定で最も特徴的、かつ重要なのはファルケ。
 アイゼンシュタインは、歌手トーマス・アレンの実年齢 (当時59歳)くらいに設定されているようで、白髪混じりの頭髪もそのままに、ほとんどメイクをしていません。
 必然的に友人ファルケも、同じような年齢となります。ファルケを歌うホーカン・ハーゲゴールも当時58歳。
 ところがこちらはアレンとは違って、なぜかかつらや髭、そして丸眼鏡で「変装」しています。アイゼンシュタインの昔の遊び仲間だったというのが不自然に感じられるほど、生真面目で冴えないジジイに設定されているのです (ちなみにファルケの職業は本来公証人ですが、この演出では医者。オルロフスキが彼の患者という設定になっています)。
 第1幕、ファルケがアイゼンシュタインをパーティに誘う二重唱。後半アイゼンシュタインがパーティ行きを決め 踊りだす場面でも、このファルケは一緒に踊らず、はしゃぐアイゼンシュタインを まるでうしろから操る感じ。
 また第2幕では、ところどころでファルケの無表情な顔が 不気味にクローズ・アップされています。

 つまりこのファルケは復讐の鬼として描かれているわけです。
 本来ファルケの復讐のきっかけは、アイゼンシュタインのいたずらによって、真昼間にこうもりの仮装のまま家まで帰らなければならなくなり 恥をかいたというだけですが、この演出では、それによって風紀を乱す者として逮捕され、名誉を失ったことになっています。
 かつてアイゼンシュタインから受けた 度を越した冗談を、遺恨として長年腹に溜めていて、仇討ちの機会を伺い続けていた男のドラマ。
 つまり、このオペレッタの「ファルケによる復讐劇」という要素を強調し、言わば『トロヴァトーレ』のアズチェーナのような役割をファルケに与えることこそ、ローレスの演出の根幹なのでしょう。
 オペレッタに、オペラのようなドラマを吹き込むという試み。

 ということになると、第2幕後半で挿入されるバレエは、かつてのクライバーと同様、ポルカ・シュネル「雷鳴と稲妻」のみで (ワルツでドラマを弛緩させない)、その他の余興もないのも当然ということになりますね。
 他方、アルフレートがオペラの一節を歌ったりすることもありませんし、ブリントの喜劇的要素もすっかり取り払われています。

 ただ楽屋落ち的なギャグは1箇所あり。
 第1幕、ファルケがアイゼンシュタインに「結婚前、君は大変なドン・ジョヴァンニだった」と言うと、アイゼンシュタインは「われわれふたりはね」と返します。
 これは表向きには、ふたりのかつての盛んな女遊びを、伝説のナンパ師ドン・ジョヴァンニに喩えているのですが、実はここでこの2役を演じるアレンとハーゲゴールは、かつてモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」のタイトル・ロールで鳴らした歌手だった。つまりふたりが全盛期の頃を回顧する、という裏の意味があるわけですね。とてもしゃれています。

 指揮のヴラディーミル・ユロフスキは若く黒く濃い髭をたくわえた精悍な顔つき。オぺレッタよりもヴェルディの悲劇が合っていそうに見えますが、まさにその通り、ウィーン情緒などくそ食らえとばかり、速いテンポを基調とした、それこそ精悍な、イキのいい音楽を作っています (歌うところは歌っていますが)。ローレス演出の意図に合致した演奏ということになるでしょう。

個々の登場人物・歌手については省略しますが、18歳で「急性病的退屈症」という病気という設定のオルロフスキについてだけひと言。
 わたしはこの役は強烈な個性の男声で歌われる方が好きなのですが(なかなかありませんが)、マレーナ・エルンマンは中性的なセクシーさを持つ、個性的なオルロフスキを演じていて秀逸です。第2幕のクプレでは2番で、装飾をつけて歌っているのも新鮮。
 ただこのオルロフスキ、第3幕最後でかつらと口髭を取り、長く美しい金髪を披露するのです。オルロフスキ、実は女だったの???? この演出、どういう意図があるのでしょうか。

 この公演、最後の最後に、お祭り的な楽しい演出があります。
 オペラが終わって幕が下りたのち、なぜかフロッシュが指揮台に上がり、やおら指揮棒を振り下ろします。

 ラデツキー行進曲。
 それに乗せてカーテン・コールが行われるのです。

 サーヴィスはあくまでもドラマが終わってからというわけですね。

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この演奏は2006,1,7にNHK衛星で放映されていて、面白く鑑賞した記憶があった。勿論DVDに焼いて今手元にある。「こうもり」全曲を鑑賞したのは初めてであり、へえ!こういう話だったのかと思ったが、演出家の解釈で如何様にも変えられるのを迂闊にも失念していたので、また別の演奏もひも解いて楽しまないといけないね。

2009/9/17(木) 午後 10:28 [ kijibato ]

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近年はいわゆる「読み替え」のオンパレードです。意味がわからず頭を抱えてしまう演出が少なくないですよ。最初に見るなら、常識的な演出を続けている(今もそうだと思いますが)メトロポリタン歌劇場の公演がいいかもしれませんね。

2009/9/19(土) 午後 0:45 fal*t*ffa*


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fal*t*ffa*
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