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昨日、“麗君”やホジュノ達と歩いて横断した時に開いていたゲートは閉まっていたので
ターミナルを迂回して店に入る事になった。
日本とは質の違う暑さだ。
店に入ると、あの“レン”がいた。
香港での社員旅行以来、久し振りの再開。
彼女はこれ以上無い満面の笑みだ。
ありがとう。軽く握手した。
と、昨日とは少し違うその変化に俺は気付いた。
店には先程のポーターによく似た“麗君”と同い年位の男がいた。
彼の名はケン。本名は李観林。
この後、すぐに行ったランチの際に分かったんだけど。
“麗君”は荷物を持って出てきた俺に、驚きを持った表情で出迎えた。
話をよく聞くと、どうやら今夜シンセンに来るKAZの為にも、
彼女は大きめの部屋で連泊の手配をしてくれていた様だ。
どおりで一人では大きすぎると思ったよ。
取り合えず、戻ってきた300元を返すと、“麗君”は相変わらず“my god!”の連発だ。
この旅行中、もう既に何度となくこのフレーズを聞いている俺だったが、
俺ももうお金を受け取る事なんて出来ないし、店のレジ近くに置いといた。
突然、「あなたはタバコを吸ってる」と、“麗君”が言う。
?
何故分かる?
昨日の俺は、機内や日本を起つ前に「タバコをやめるよ」って、軽々しく彼女との電話のやりとりで
守れもしない禁煙宣言していたのもあり、“麗君”の前では吸えなかったし、吸わなかった。
が、その反動も激しく、ホテルの部屋ではいつもより早いペースで吸っていたのも事実だ。
今朝もだが、歯は念入りに磨いてきた筈だぜ。
ばれてる筈が無い。
確かに、今日の俺は昨日買ったマルボロを持ち歩いていて、
しかしトイレで一本吸う度にその都度、
これは関空で購入したガムを噛んでタバコの臭いを誤魔化そうとしていたが、
この朝の重たいジャブ以降、“麗君”は俺がトイレに行きたいと言う度に
「あなたはタバコを吸ってる」
とズバリ指摘してくる。
このフレーズは俺がトイレに行く度に暫く言われる事となる。
お腹も減っていたので“観林”、“麗君”、“家能”、俺の4人で
商業城内3Fのレストランでランチだ。中は人でごった返している。
“麗君”に何か頼みたいものはあるかと言われたが、
メニューの品数が半端無く、俺は二人がいつもの様に食べているものが食べたい、
と通じてるのかどうなのか分からないがリクエストをした。
オレンジジュースだけは自分で頼んだ。
グアバっぽいジュースを飲んでいる“家能”。
昨日よりも幾分も俺に打ち解けてきたみたいだ。
今日の彼は昨日よりも威勢が良くって、落ち着いて座っている暇などありゃしない。
でも可愛いなぁ。
“観林”は、俺が昨日アンから見せて貰った写真を見ていくつ位かと聞かれた時、
「35」と言ってしまった男だった。
職業は警察官だとの事。
実際は21。“麗君”よりも若い。
“麗君”曰く“情場殺手”との事。要はプレイボーイって事か。
結局はそれも冗談らしく、失恋の真っ最中の様な事も言ってたっけ。
“麗君”とは仲の良さそうな感じに見えて微笑ましかった。よくわからんけど。
飯は青菜の炒めにダック、ライス、塩スープに魚の餡掛け、ミートボール入りスープ。
ミートボールは香港の食堂でのそれと同じで、やっぱり美味しくない。
ライスもいつものって感じだ。
中国の公安の男=李観林はゲストにも明るく振る舞ってくれる。
だが、同時に何だか俺の中に違和感が満ちてきた。
飯も腹八分にとどまらせていると、“麗君”は「何か好きなもの頼みなよ」と言わんばかりに
何度かメニューを差し出して来た。
が、俺はライスの追加以外は全て丁重に断った。
ご馳走様です。
うっ、またか。
“観林”がテーブルチェックをしだす。
いつもの光景が繰り広げられる・・・結果はご存知の通り。
“The killer of love”に支払いをさせた“ジャップ”なんだろうか、俺は。
店に帰ると一度だけ“観林”に「ジャップ」と言われたが、俺が反応するより早く、
“麗君”がものすごい勢いで憤っていたので、俺はすぐに、もうそんな事どうでもよくなった。
ちらっと彼を見やれば“観林”はげんこつを掌で覆う、中国式の謝りのポーズで、ニヤリとした。
俺はちょっとだけ一人になりたくなった。
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