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第六話

「ん……」

ズボンのポケットの中で、スマートフォンのバイブレーションが作動している。
頭は真っ白の状態だが反射的に取り出すと両親からの電話だった。
そのまま指でタッチして応答する。

「もしもし!?ユウヤ?」
「あ、うん……」
「こんな時間まで連絡もしないで、一体どうしたの!?」
「え?」

何が起きているのかよく理解ができない。
―――周りを見渡すと街灯の光と、静まり返った町が目に映る。
それを見て大体の事を察した。

「あ、ああ。今から帰るよ」
「何か変な事に巻き込まれてないか心配したのよ!」
「ごめんごめん、まだ頭がボーッとするから切るね」
「待ちなさい!話はまだ――――」

心配してくれてるのは嬉しいが、寝起きだからかまだ頭痛や吐き気がする。
それにしても何故道端で眠ってしまったのだろうか。
いや、壁にもたれかかるように倒れて気を失ったという方が適切か……。

「どうしちまったんだ」

殺人を食い止めたという事に達成感を感じる余裕もなく、今の出来事が気になった。
能力を使いすぎたのか?
何も考えずに使ってきたが、見えない所で何らかしらの負荷があった……?

一歩一歩と徐々に回復していく体を感じつつ、自宅へ向かってゆっくりと歩いていく。
その姿は重傷の人間にも見えるような弱々しく痛ましい歩き方だった。
見掛けた人間がいれば、救急車を必要としていないか尋ねられるかもしれない。
だが、そんな歩き方とは反対に、ユウヤの頭の中は自分の能力の事で一杯だった。

―――やっぱりこんな力は使うべきじゃ無いんじゃないか?
特別な力があるからといって、特別な事を成そうというのはとんだ自己陶酔。
得体の知れない力を無闇に使った事そのものが大罪なのではないか。

そんな事が頭に浮かんでいる。
結局、今も昔もこの力を手に入れてから、この苦悩を定期的に繰り返している。
決断できない軟弱者だと蔑視されるかもしれない。
だけど、凡人の自分には背負いきれないんだ……。

アメリカでは脳の研究機関に力を入れているという噂をネットで見掛けた事がある。
試しに行ってみようか?
そういう機関なら信じてもらえるかもしれないし、力の解明もしてくれるかもしれない。

しかし、思い留まる理由も出てくる。
過ぎた力は恐れられ、何も出来ないように監禁されるかもしれない。
ひょっとしたら解剖される事になって絶命するかもしれない。
存在自体を隠蔽されて何らかしらの組織に貢献させられるようになるかもしれない……。

考え始めたらキリがない。
ただの創作物の見すぎによる無駄な心配なのかもしれない。
だが、特別な力を持ってしまったが故に慎重に慎重を重ねるようになってしまう。

こんな力があるという事は神や悪魔も存在するのだろうか。
答えが出てこない問答を一人で繰り返す内に話が逸れて行く。
無意識に逸したのかもしれない。
現実逃避は時として必要なこともある。

頼むよ神様……仏様でもいい……。
この俺をどうにか昔のように普通に戻してくれ……。
虚しい嘆きだった。
こんな事をしていても何も解決されない。

幼児が駄々をこねているのと何ら変わらない。
疲れた……今日はもうよそう。
切羽詰まった状態で良い打開案が浮かぶとは思えない事から、今日はもう考えない事にした――――



「ただいま」
「ちょっと!途中で電話を切るなんてどういうつもり!」
「ごめん、手が当たっちゃって」

さっさと自室で眠りにつきたい……気を失ってただけでは疲労は回復しないようだ。
靴を脱いで家に上がろうとする。

「待ちなさい」
「なに?」
「訳を言いなさい」
「どうして?」
「どうしてって……当然でしょ!」

鬱陶しい。
疲労仕切った表情が分からないのだろうか。
普段なら何も思わない事も、今だけは苛立ちの原因になる。

「ちょっと気を失ってただけだよ。もう疲れたから寝させて……」
「え?気を失ってた?」

母はキョトンした顔をしていた。
その隙きにさっさと階段を登り自室へ入った。

「やっと眠れる―――――――――



「よう、ユウヤ」
「……?」

気がついたら周り一面何もなく不気味なほどに真っ白な空間になっていた。
そして目の前に立っているのは……ボクだ。

「その力は面白いか?」
「何の話?」
「分かるだろ?時間を巻き戻せる力だ」

僕に話しかけている"ボク"は少し高圧的な話し方だった。

「考えなくていい事まで考えないといけないから、何一つ面白くないよ……」
「何を考える必要がある?なんだって出来るじゃないか」
「例えば?」
「一々言わないと分からないか?殺人に強姦、金も幾らでも手に入る」

絵に描いた悪役が言いそうなセリフだ。
それも、どちらかというと小物……。
そんな事を自分の姿で口にされる事に少しの怒りすら覚える。

「下らないよ」
「おいおい、善人気取りか?」

明らかに怒らえるように煽ってきている事が分かる。
だからこそ、かえって苛立ちも起きないものだ……冷静でいられる。

「世の中の腐敗具合は知ってるだろ?力がある人間がそれを最大限に活かして何が悪い?」
「それは実際に目に見た出来事じゃない。ネット上や記者が言った真偽が不明な情報」
「だが、全部が嘘だとも思わないだろ?」
「そりゃあね」

愚か者には二種類いる。
全てを信じる者と全てを疑う者……だ。
この二つは世の中を楽に生きたいなら行使する事をオススメする。

「じゃあ何故?」
「今の生活に十分満足してる」
「"つもり"が抜けてるぞ」
「僕の姿の割には随分と安っぽい煽りしかしないんだね」

こちらも適度に煽り返す。
言われてばかりなのは流石に気分が悪い。

「それじゃあ、数年前に"親を殴り飛ばしてから巻き戻した"のは?」
「……」
「記憶にないか?」
「……ある」

一瞬、背筋が寒くなった。
反省は十分にしたが、人としてやってはいけない事をしてしまった。
相手に非があるならば問題ないが、その時は完全に自分の逆上だった。

「人は時には過ちを犯す生き物って言うだろ……僕は完璧じゃないだけ」
「本当は巻き戻して何事もなかった事にした時に"快感"を感じただろ?」
「……そんな事はない」
「言葉に詰まったな?」

どうして夢の中ですら責められなければならないのか。

「悪いけど熟睡させてくれない?」
「質問に答えろよ」

実に無駄な会話だ。
付き合う気が失せてくる。
なんなら一旦起きてから、寝直したい気分になる。

「消えろよ……」
「なんだ?消えて欲しいのか?」
「消えろ!!」
「お〜怖い怖い!この調子だと殺されちまいそうだ!」

どれだけ強く消えろと念じても消えない。
これだけ意識がはっきりとしているのに操作できない明晰夢なのか?

「へへ……その調子だといつか人を殺すな」
「勝手に言ってろ」
「口調がついに冷静じゃなくなったな!」
「ああ、別に僕は聖人じゃない。お前の態度にはうんざりしてきた」

自分でも冷静じゃないのが分かる。
だけど、夢の中で位ならストレスを発散したい時もある。

「今日はこの辺にしておいてやるよ、またな」
「おい!待てよ!まだ話は終わって―――――――



朝か……あの夢は一体なんだったんだ?
ベッドから体を起こして考える。
寝起きなのに妙に頭が起きている感覚だ。

まさか夢じゃない……なんてことはないよな?
―――まあいいや。取り合えず一階に降りよう。
昨日の着たまま寝てしまった服から新しいのに着替え、一階へと階段を下った。

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