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第七話

あの夢を見てから一ヶ月が経過していた。
妙な違和感を覚える夢で不気味だった事から、今でもハッキリとあの時のやり取りが蘇るが何事も起きなかった。ストレスによる情緒不安定か何かだったのだろうか?

母親には気を失った事や様子が変だった事を何度か追求されたが適当に流しておいた。
軽度のもので心配するような事でないという風に。

……そんな事よりも朝ご飯を食べにいこうか。

布団から体を起こし、寝間着から部屋着に着替えて部屋を後にした。
階段を降りていくと父親と顔を合わした。

「おはようユウヤ」
「おはよう」

いつものように挨拶を交わしながら二人揃ってリビングに行く。
気の所為かもしれないが、やや表情が曇っているようにも見えた。
でも、何ら不思議な事はない。どんな人間でも気分のいい時や悪い時はあるものだ。

「おはよう」
「おはよう」

リビングに着くと珍しく母が椅子に座っていた。
いつもは朝食を作りながら最後に席に着いていたのに。

「なんだか珍しいね、一番最初に席に着いてるの」
「そうでしょ?大事な話があるから」

大事な話?
これといった心当たりはないが、自分に何らかしらの問題がないか記憶を辿っている。

「家族全員揃ったし、始めましょうか」
「そうだな……」
「うん」

父の表情が暗い事から、父の問題だろうか?
何度か父がどうしても欲しいものを通販で黙って買い、小さな口喧嘩になったことを思い出す。
でも、それなら僕も呼ぶ必要は無いはずだ。

「単調直入に言うわね、私達別れようと思うの」
「え?」

自分の耳を疑った。
そして、その言葉を処理しようとした脳が今度は混乱している。

「お前ももう大学生だ……一人で生きていく力はあるだろ?」

母の次は父が口を開いた。

「え、あ、まあ……そうだね」

緊張で言葉が上手く発せられない。
呼吸が乱れる。
心臓の鼓動も早くなる。

「どうしても反対って言うなら、もう少し先送りにしてもいいんだけど……」
「言わなくても分かると思うが、できれば引き止めて欲しくはない」
「……」

言葉に詰まる。

「……何が原因だったの?」
「特に無いわ」
「強いて言うなら、お互いが飽きたんだ」

確かにネット上でも離婚の話はよく耳にする。
1/3が不満だとか言うデータも目にした事はあった。

「離婚届けも書き終えてるの。あとはいつ提出するかだけ」

テーブルの上に離婚届が置かれた。
どうする?時間を巻き戻すか……?
でも、この様子だと解決策が浮かばない。
―――そもそも何で引き留めようとしている?

本人達が合意の上でしていることだ。
口出す権利なんてないんじゃないのか?

「その様子を見ると分かってなかったのね」
「うん?」
「てっきり夜遅くまで出歩いたり、倒れた事をうやむやにしているのは気付いているからだと思ったわ」







かなり遅れましたが七話の投稿です。
本当は二週間前ほどにここまでは書いてたんですが、あまりにも短いので続きを書いてから投稿するつもりでしたが、いい話の持って行き方が浮かばないので上げました><

第六話

「ん……」

ズボンのポケットの中で、スマートフォンのバイブレーションが作動している。
頭は真っ白の状態だが反射的に取り出すと両親からの電話だった。
そのまま指でタッチして応答する。

「もしもし!?ユウヤ?」
「あ、うん……」
「こんな時間まで連絡もしないで、一体どうしたの!?」
「え?」

何が起きているのかよく理解ができない。
―――周りを見渡すと街灯の光と、静まり返った町が目に映る。
それを見て大体の事を察した。

「あ、ああ。今から帰るよ」
「何か変な事に巻き込まれてないか心配したのよ!」
「ごめんごめん、まだ頭がボーッとするから切るね」
「待ちなさい!話はまだ――――」

心配してくれてるのは嬉しいが、寝起きだからかまだ頭痛や吐き気がする。
それにしても何故道端で眠ってしまったのだろうか。
いや、壁にもたれかかるように倒れて気を失ったという方が適切か……。

「どうしちまったんだ」

殺人を食い止めたという事に達成感を感じる余裕もなく、今の出来事が気になった。
能力を使いすぎたのか?
何も考えずに使ってきたが、見えない所で何らかしらの負荷があった……?

一歩一歩と徐々に回復していく体を感じつつ、自宅へ向かってゆっくりと歩いていく。
その姿は重傷の人間にも見えるような弱々しく痛ましい歩き方だった。
見掛けた人間がいれば、救急車を必要としていないか尋ねられるかもしれない。
だが、そんな歩き方とは反対に、ユウヤの頭の中は自分の能力の事で一杯だった。

―――やっぱりこんな力は使うべきじゃ無いんじゃないか?
特別な力があるからといって、特別な事を成そうというのはとんだ自己陶酔。
得体の知れない力を無闇に使った事そのものが大罪なのではないか。

そんな事が頭に浮かんでいる。
結局、今も昔もこの力を手に入れてから、この苦悩を定期的に繰り返している。
決断できない軟弱者だと蔑視されるかもしれない。
だけど、凡人の自分には背負いきれないんだ……。

アメリカでは脳の研究機関に力を入れているという噂をネットで見掛けた事がある。
試しに行ってみようか?
そういう機関なら信じてもらえるかもしれないし、力の解明もしてくれるかもしれない。

しかし、思い留まる理由も出てくる。
過ぎた力は恐れられ、何も出来ないように監禁されるかもしれない。
ひょっとしたら解剖される事になって絶命するかもしれない。
存在自体を隠蔽されて何らかしらの組織に貢献させられるようになるかもしれない……。

考え始めたらキリがない。
ただの創作物の見すぎによる無駄な心配なのかもしれない。
だが、特別な力を持ってしまったが故に慎重に慎重を重ねるようになってしまう。

こんな力があるという事は神や悪魔も存在するのだろうか。
答えが出てこない問答を一人で繰り返す内に話が逸れて行く。
無意識に逸したのかもしれない。
現実逃避は時として必要なこともある。

頼むよ神様……仏様でもいい……。
この俺をどうにか昔のように普通に戻してくれ……。
虚しい嘆きだった。
こんな事をしていても何も解決されない。

幼児が駄々をこねているのと何ら変わらない。
疲れた……今日はもうよそう。
切羽詰まった状態で良い打開案が浮かぶとは思えない事から、今日はもう考えない事にした――――



「ただいま」
「ちょっと!途中で電話を切るなんてどういうつもり!」
「ごめん、手が当たっちゃって」

さっさと自室で眠りにつきたい……気を失ってただけでは疲労は回復しないようだ。
靴を脱いで家に上がろうとする。

「待ちなさい」
「なに?」
「訳を言いなさい」
「どうして?」
「どうしてって……当然でしょ!」

鬱陶しい。
疲労仕切った表情が分からないのだろうか。
普段なら何も思わない事も、今だけは苛立ちの原因になる。

「ちょっと気を失ってただけだよ。もう疲れたから寝させて……」
「え?気を失ってた?」

母はキョトンした顔をしていた。
その隙きにさっさと階段を登り自室へ入った。

「やっと眠れる―――――――――



「よう、ユウヤ」
「……?」

気がついたら周り一面何もなく不気味なほどに真っ白な空間になっていた。
そして目の前に立っているのは……ボクだ。

「その力は面白いか?」
「何の話?」
「分かるだろ?時間を巻き戻せる力だ」

僕に話しかけている"ボク"は少し高圧的な話し方だった。

「考えなくていい事まで考えないといけないから、何一つ面白くないよ……」
「何を考える必要がある?なんだって出来るじゃないか」
「例えば?」
「一々言わないと分からないか?殺人に強姦、金も幾らでも手に入る」

絵に描いた悪役が言いそうなセリフだ。
それも、どちらかというと小物……。
そんな事を自分の姿で口にされる事に少しの怒りすら覚える。

「下らないよ」
「おいおい、善人気取りか?」

明らかに怒らえるように煽ってきている事が分かる。
だからこそ、かえって苛立ちも起きないものだ……冷静でいられる。

「世の中の腐敗具合は知ってるだろ?力がある人間がそれを最大限に活かして何が悪い?」
「それは実際に目に見た出来事じゃない。ネット上や記者が言った真偽が不明な情報」
「だが、全部が嘘だとも思わないだろ?」
「そりゃあね」

愚か者には二種類いる。
全てを信じる者と全てを疑う者……だ。
この二つは世の中を楽に生きたいなら行使する事をオススメする。

「じゃあ何故?」
「今の生活に十分満足してる」
「"つもり"が抜けてるぞ」
「僕の姿の割には随分と安っぽい煽りしかしないんだね」

こちらも適度に煽り返す。
言われてばかりなのは流石に気分が悪い。

「それじゃあ、数年前に"親を殴り飛ばしてから巻き戻した"のは?」
「……」
「記憶にないか?」
「……ある」

一瞬、背筋が寒くなった。
反省は十分にしたが、人としてやってはいけない事をしてしまった。
相手に非があるならば問題ないが、その時は完全に自分の逆上だった。

「人は時には過ちを犯す生き物って言うだろ……僕は完璧じゃないだけ」
「本当は巻き戻して何事もなかった事にした時に"快感"を感じただろ?」
「……そんな事はない」
「言葉に詰まったな?」

どうして夢の中ですら責められなければならないのか。

「悪いけど熟睡させてくれない?」
「質問に答えろよ」

実に無駄な会話だ。
付き合う気が失せてくる。
なんなら一旦起きてから、寝直したい気分になる。

「消えろよ……」
「なんだ?消えて欲しいのか?」
「消えろ!!」
「お〜怖い怖い!この調子だと殺されちまいそうだ!」

どれだけ強く消えろと念じても消えない。
これだけ意識がはっきりとしているのに操作できない明晰夢なのか?

「へへ……その調子だといつか人を殺すな」
「勝手に言ってろ」
「口調がついに冷静じゃなくなったな!」
「ああ、別に僕は聖人じゃない。お前の態度にはうんざりしてきた」

自分でも冷静じゃないのが分かる。
だけど、夢の中で位ならストレスを発散したい時もある。

「今日はこの辺にしておいてやるよ、またな」
「おい!待てよ!まだ話は終わって―――――――



朝か……あの夢は一体なんだったんだ?
ベッドから体を起こして考える。
寝起きなのに妙に頭が起きている感覚だ。

まさか夢じゃない……なんてことはないよな?
―――まあいいや。取り合えず一階に降りよう。
昨日の着たまま寝てしまった服から新しいのに着替え、一階へと階段を下った。

第五話

"戻れ"

結局戻す事にした。理由は自分が彼女と接触したことによって、自分自身がターゲットになる可能性を考慮したからだ。原因は不明なので不安要素は少しでも減らした方がいい。
それに彼女を付け回している内に自分が原因で死なせてしまうような光景を目にするのも嫌だった。

「よし!」

今度はオバサンと別れて事件が起きた"角"の前にたどり着いたときまで巻き戻す。
突然に襲ってきた疲労感に一瞬驚くが、ここまで全力疾走した事を思い出すと納得する。
てか、これって何もかもが"その時の状態"になるんだな……。

―――そんな事よりも今度はどうしようか?
下手に接触するとこっちが不審者だと疑われてしまう。それなら完璧に後を尾行した方がいいか。
しかし、それだと背後への警戒が怠って自分が危険に晒される気もする。
僕は警官でもなければ、探偵でもない……こういう時の対処法なんて幾ら考えても出てこないよ。

諦めて塀に体を預けながら、スマートフォンを取り出して気になる事をネットで調べてみる。
話の創作の参考資料として、この手の事を質問しているような人間はいる筈だ。
"尾行するのが最善策" "接触して事情を話す" "強引にでも引っ張る"
色んな情報が飛び交っている……中には自分が既に試したことも書かれていた―――――――



気がつけば被害者の女性と思われる人がやってきた。
今回は後をつける事にしたので、まずは不審に思われないようスマートフォンに夢中な振りをする。
女性が角を通過し、こちらから完全に見えなくなって数秒置いてから出る。

すると向かいから、身長が日本人男性の平均よりやや低めの少し肥えた人が歩いていた。
角へ戻ろうか悩んだが不審な動きを避ける為にそのまま知らない顔をして女性と同じ方向へ歩く。
男は立ち止まると、女性に何やら話しかけているように見えた。

―――いや、話しかけているように見えたのは間違いだった。
女性は力が抜けたようにその場に崩れるように倒れた。
恐らく正面からの刃物による刺殺。

「あ、あっ……!」

男性がこちらに気づいたようで取り乱している。
手には頑丈そうな包丁が握られていた。
先端から根本にかけて、赤い液体が垂れ流れている。
この状況で流れている赤い液体の正体なんて言うまでもないだろう。

「クソッ!」

刃物を持ったまま男はその場から逃げようとしていた。
これは好都合だ。
安心して巻き戻す事ができるのだから。

"戻れ"

今度はもっと短時間を巻き戻し、女性が角に近づきつつある状態まで戻した。
これならいけるか……?
もうユウヤに恐怖などなかった。
全ての解答が分かった状態で一から始めるだけなのだから。

今度は女性よりも前を歩いて先に男性に話しかける事にした―――――――――――



「すみません」
「え、な、なんでしょう……」

刃物を隠し持ってるという後ろめたい気持ちがあるからか、少し挙動不審なように目に映る。
もしかしたら、先を知ってるからそう思い込んでるのかもしれない。

「女性とのトラブルがあったように思いますが……その隠しているモノは使わないでください」
「!!」

男性は何故知っていると言いたげな表情をした。
ユウヤは不安を抱きながらも、平静を装って会話を続けた。

「僕でよければ相談相手になりますよ?」
「お前もアイツに騙されたのか?」
「え?」

予想外な上に意図がよく分からない返答がきた。

「と、いいますと……?」
「今お前の後ろから歩いてきている女にだよ」

チラッと一瞬だけ振り返ると被害者の女性がこちらへ近づいてきていた。

「彼女が何か?」
「自分が刺されるような事をしているから、お前のような男を使って警護させてるのかと思ってな」

話が見えてこない。
一体どういうことなのだろうか。

「すみません、本当に無関係でよく分かりません。ただ偶然あなたの凶器を見てしまっただけで」

苦しい嘘かもしれないが、少なくとも言い当てた事は事実だから信じてもらえる事に賭けた。

「そうか?なら教えてやる。あの悪女は俺の全財産を掻っ攫いやがった。口車に乗せられた俺にも責任はあるが、だからといって詐欺師である加害者が許される道理はないだろ?」
「そうなんですか……」

この男性が言ってる事が真実かは分からない。
ひょっとしたら妄想癖や自分にある物事の原因を伏せて話してるかもしれない。
しかし、先に起きる事が分かっているとどうしても女性の肩を持ちたくはなる。

「お前はまだ若いから経験ないかもしれないが、世の中には罪に問われないギリギリのラインで悪どい事をする人間がごまんといる。そういった人間に引っ掛かれば泣き寝入りしかない」

確かにネット上でも証拠が不十分で立証できずに、訴えることすら困難な人が大勢いるとは聞いたことがある。この人もまたその一人なのだろうか。それでも殺人は犯してはいけないだろう……。
自分の中で考えがまとまったので、刺激しないように発言することにした。

「それでも、殺人をしたら相手を責めれなくなりますよ」
「第三者だからこそ言えるセリフだな、俺の立場になったらその考えも変わるだろうさ」
「否定はしません……」
「認めるのか?なんだ、思ったより賢いじゃないか」

話している最中だが、女性の場所が気になって少し視線を男性から逸らす。
少なくとも近くにはもういないようだ。

「心配しなくてもやる気は失せたよ。あんたと話してたらな」
「それならよかったです」
「ああ、なんだか何もかもが馬鹿馬鹿しくなってきた」

少し引っ掛かりのある言葉があるが、これで一件落着だろうか?

「自殺とかもやめて下さいよ」
「それは俺の勝手だ。そこまでは口出ししないでくれ」

釘を刺そうと思ったが、返されてしまった。
その後何も言わずに男性は背を向けて去っていく。

「お気をつけて」

返事はなかった。
男性の中ではまだ憎悪か自殺の選択を迫られているのだろうか。
他人事だからこそ出てくる事かもしれないが、いい方向に人生をやり直してほしいと願うばかりだ。

そして、自分の未熟さも反省しなければならないと思う。
殺人を犯した未来を知ってるからといって、加害者になるような人間として接してしまった事に。
今後はもっと慎重に……慎重に……あれ。

なんだか酷く頭痛がしてきた。
思考が正常に働かない。
視界もボヤけていきドンドン暗くなっていくような―――――――――――――









閲覧ありがとうございます。
ネタが浮かぶ時、浮かない時の差が激しいので二日に一話上げる時もあれば、一週間以上間が開く時もあります(苦笑)出来る限りは安定して投稿したいとは思っているのですが……;

あと来週から少しの間はパソコンに触れられない生活が始まってしまうので、すみませんが投稿も出来なくなると思います。いい案が浮かべばメモを取って、パソコンが触れる時に一気に書き上げれるような状態にはしたいと思っていますね。

第四話

"戻れ!!"

覚悟を決めた。
他人の命を左右する出来事……それに干渉する。
綺麗事だけじゃない、それを目撃した自分を居なかった事にすることも兼ねている。

「あらユウヤくんじゃないの!」

落ち着いて巻き戻さなかったのもあり、どのタイミングから再スタートするのか分からなくて一瞬困惑した。だが、おばさんが最初に話しかけてきた時と同じ事を尋ねられているので大凡の時間を把握する。

「あ、あの、こ、こんばんは」
「どうしたの?凄い汗……それに顔色も悪いわよ?」

さっきまでの感覚がまだ抜けきっていない。
まだ目の前で倒れている女性の姿がフラッシュバックしている。
人生において一番の大事件なので無理もないが、そんな事を考えている余裕もない。

「すみません!ちょっと用事があるので!」
「え、ええ……」

心配そうな顔をしながらも、必死さが伝わったようで引き止められる事もなく離れた。
傍からジロジロと見られる位に取り乱しながら走って、あの角へと向かう。
本気で走った事があまりなかった為に、到着する頃には息切れに近い状態にあった。

「確かこの辺の筈……!」

小さな声で口にした。
心身をリラックスさせる為に深呼吸しながら辺りをゆっくりと見渡す。
まだ日が沈みきってはいないので人気は多少あった。

時間がある間に対策を練ることにしよう……どうしたら殺人を防げる?
そもそも、死体はうつ伏せだった為に顔が確認できていない。
しまった……思えば何一つ分かっていない……。

パニックに陥っていたとはいえ、何一つとして手がかりがない現状に自己嫌悪する。
しかし、場所は分かっているので多少は関与できるかもしれない。
同じ場所は自分が立っている為、ここでは起きないだろう。
ん?待てよ……。

"同じ場所"に引っかかった。
ひょっとしたらターゲットは自分になってしまう可能性はないか?
理由がある殺人だと何故決めつけていたのだろうか。
ただの通り魔だったら関係がない。
調度いい場所にいた人間を刺すだけだ。

背筋が凍るような感覚になる。
直ぐ様この場から立ち去りたくなった。
何もかもが危険なものに見えてくる。
通行人、古びた家の瓦、偶に通過する車……疑ったらキリがない。

どうしちまったんだ俺は……。
まるで右も左も分からなくなったような幼児のような気持ちだ。
何をすればいいか一切分からない。
ただひたすらに時間を浪費している。

タイムリミットまでそう遠くはないだろう。
道を照らしているのは前回と同じく、街灯と建造物から漏れている光だけだ。
いや、この路地に関しては街灯だけか。

あれか……?
一人で夜道を歩く女性が目に映る。
確証はないが、そろそろの筈だ。
自分がこの場にいる事から、未来が変わったのだろうか?少なくとも悲鳴は聞こえていない。

しかし、この後も何も起きないとは思えない。
追跡した方がいいだろうか。
考えている内にも女性はどんどんと遠ざかっていき、追うのも困難になっていく。

決めた筈の覚悟も時間の経過と共に揺らぎ始める。
こんなのは警察の仕事じゃないのか……なんで僕が……。
嫌気がさしてくる。今までの疲労は無かったことにはできない。
冷静な判断力が出来なくなっていく。

「ああもう……!」

一人で苛立ちに襲われつつ女性を追いかける事にした。

「あの!すみません」
「?」

女性は不思議そうな顔をして振り返った。
声を掛けたものの、どういう対応をするか全く考えていなかった。
最悪の場合は巻き戻せばいいし危険を仄めかす内容でいいか……。

「誰かに恨みを買うような事はしました?」
「え?」
「いや、あの……その……」

いきなり見知らぬ人間にそんな質問をされても困るだけだというのは尋ねてから思った。
そして予想通りの反応である。

「不審な男性が貴方を尾行しているように見えたので……」
「すみません、そういうの無理なんで」

どうやらナンパか何かの勧誘にでも見えたのか会話を拒まれてしまった。
このまま後をつけるのも気が引けるがどうしようか……。

第三話

残りの講義を全て受け終え、帰りのバスに乗る。
時間帯のせいか乗っているのは同じ大学の学生ばかりだ。
だが、友人らしき人物は見当たらないので席に腰掛け、鞄から本を取り出して開いた。
何事もなく平穏そのものの一日だったな。
本を読みながら、頭の中でそんな事を考えていた。

「次は―――――」

バスの運転手が次の停車場所をアナウンスする。
その場所でユウヤは降りるので停車ボタンを押した―――――――――



「ありがとうございます。またのご利用をお待ちしております」
「ありがとうございますー」

バスの運転手と挨拶を交わしてバスから降りる頃には日が沈み始めていた。
そういや近場で事件が起きたんだっけ?なら、さっさと帰った方がよさそうだな。
朝に友人とした会話をふと思い返す。

「あらユウヤくんじゃないの!」
「あ、こんばんは」

偶然にも近所のおばさんに声を掛けられた。
バス停近くにスーパーがあるので何ら不思議な話ではない。

「今日も大学?」
「はい、そうです」
「大変ねー」
「そんな事もないですよ」

おばさん特有の長い立ち話に付き合わされそうだ。
でも、今は急いでる訳でもなくこれといった用事もないので付き合うことにした。
ご近所付き合いもしておいた方が何かと助けられる時もある――――――――



「あら!もうこんな時間!ごめんねー付き合わせちゃって」
「いえいえ、お構いなく。楽しかったですよ」
「そう言ってくれると嬉しいわ〜それじゃあ、お母さんとお父さんにも宜しく伝えておいて」
「はい!それでは」

日は沈みきっていた。道を照らすのは街灯と建造物から漏れている光だけになっている。
家までそこまで遠い訳でもないので、やや早歩きになって向おうとした瞬間、遠くから人の悲鳴のような声が聞こえてきた。

「今のは?」

おばさんにも聞こえたか尋ねようと後ろを振り返ると居なかった。
もう帰ってしまったのか?―――まあ考えても仕方ない。
気になる事には違いないので声がした方に行ってみる事にした。

普段よりも慎重に歩いて近づいていく。
万が一の時は巻き戻せばいいだけだ……。
進んでいる内に気づいたが、どんどん視界の悪い路地になっている。

やっぱり辞めた方がいいだろうか?
トラブルに巻き込まれる危険性は大いにある上に、自分の力も意表を突かれれば戻しようがない。
前にも言ったように力を過信する事だけは避けている。

しかし、本当に退いてしまっていいのだろうか?
この力を珍しく他人の役に立つ事に活かせれるのではないだろうか。
少々の出来事なら大きな出来事への繋がりを生み出すことも無いだろうか。

心臓の鼓動が早まっているのが自分でも分かる。
嫌な予感もする。
このまま進むのが恐怖になってくる。

も、もしも……人が死んでいたら……。
最悪のケースが脳裏に浮かぶ。
だが、尚更そうだとしたら"巻き戻す"事に意義が出て来る。
今まで他人に使ってこなかった力を。
大きな出来事に干渉はしないというポリシーにも引っかからない。

よし……そこの角を曲がった先に何もなかったら引き返そう。
自分の中のゴールラインを設定した。
覚悟を決めてあとは前に進むだけだ。

そうだ……この国は平和なんだ……自分の身の回り……少なくとも目の前で起きる筈がない。
根拠のない事を繰り返して自分を元気づける。
目の前にある角に近づき、頭だけを出して覗き込むように左右を確認すると――――――――

マジかよ……。
運が悪い事に最悪のケースが的中してしまっていた。
倒れている女性。

恐怖で足が動かなくなった。
心臓の鼓動も更に早くなっていた。
何もかも忘れて家に帰りたい。

え、えっと……取り合えず警察に……。
スマートフォンを取り出そうとポケットに手を入れたが、上手く力が入らない。
あまりの目の前の非現実的な光景に脳が拒んでいる。
いや、非現実なんて事はない。毎日どこかで起きている出来事だ。
今まで"偶々"遭遇する事がなかった。それだけの事である。

今こそ力を使うべきなのか……?
いつも使っている訳ではないので先に一般的な通報が頭を過ぎったが、自分には力があった。
"時間を巻き戻せる"
これこそ本当の非現実的なものだ。

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