「今日は各地で、今シーズン一番の暑さを記録するでしょう」
お天気おネエさんたちが、口々に言っていた。
確かに食指は動いたが、まだ決断するには至らなかった。
今日もいわゆる休日出勤。
3〜4時間ほど職場に滞在して、それからジムへと向かう計画だった。
ジムでは一時間ちょいかけて、胸と背中の筋肉をいじめ抜き、30分の休憩を挟んで、90分間ランニングマシンと格闘する。
終了予定時間は夕方の6時過ぎ。
涸沼へ行く時間は、残っていないはずだった。
ちょうどキリのいいところまで仕事を終えた。
顔を上げて正面の壁を見ると、午後1時ちょうどだった。
「今日はこれで終わりにしよう。また明日がある」
新たな仕事に取り掛かっても、集中できないことは見え見えだった。
最大4時間予定していたところを、3時間で切り上げた。
「1時間前倒しで予定を消化できている」
この時点で、本日の涸沼行きを決断した。
ミミズが調達できなかったので、シーズン前に立てた戦略に反して、愛車ウィッシュを涸沼本湖へと走らせた。
大多数の釣り人は先の10連休で完全燃焼したのであろう。
湖畔には数えるほどしか、車が停まっていなかった。
ほぼ無風で、湖面には波ひとつ立っていなかった。
ボラが跳ねる音と、カエルの合唱が聞こえるのみ。
とても静かな夜だった。
静寂を破ることが躊躇われたわけでもあるまい。
竿先につけた鈴を、うなぎが鳴らすことはなかった。
それにしても静かだ。
雲に隠れているのか、月も見えなかった。
静かで真っ暗な湖畔。
このまま終わるものと誰もが思ったとき、左端の竿が微かに音を立てた。
「チビうなぎよ、また会おう」
カエルはずっと泣き続けていた。
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