話し合いや相談自体を犯罪視する共謀罪は、日本の刑法体系とまったく相容れない異質の罪です。そのため、共謀だけでやめるより実際に犯罪を実行したほうが処罰範囲が狭かったり、処罰そのものが軽かったりする現象も生じます。共謀罪はかえって犯罪の実行をあおる要因にもなるのです。
実行した方が処罰範囲が狭くなる
いつもの飲み会(団体性)で繰り返してきた上司への「殴ってやる」というグチ(傷害の目的性)がエスカレートして、「明日、朝一番に○○課長を殴ってやる」(具体性)と口走ってしまったら、直後に気がついてももう遅いのです。すでに傷害の共謀という犯罪行為は行われてしまったあとですから、冗談だと言ってもなかったことにはなりません。
政府は「準備行為」云々と言っていますからその場では逮捕されないでしょう。でも、翌日出勤(準備行為)すれば、あなたは会社の入り口で逮捕されます。飲み会にいた友人も、同様に2年以下の懲役・禁固の処罰をされます。
少しでも処罰を軽くするために何かできることはないでしょうか?
実はあります。一つの方法は自首して友人を売ることです。自首は最初の一人しかできませんから早い者勝ちです。あなただけは減刑されるでしょう。
でも、友人を売るという卑劣な方法以外にも別の方法があります。共謀罪で逮捕される前に急いで○○課長のところに行って頭など軽く殴ることです。あなたは暴行罪で2年以下の懲役・禁固になるでしょう。でも、暴行は共謀罪の対象犯罪ではありませんから友人は共謀罪の処罰から逃れることができます。友人を暴行するよう説得できれば、あなたが処罰を逃れることも可能です。
暴行には「人を傷害するに至らなかった」という結果が必要ですから、実行しないで「傷害ではなく暴行の共謀だったから、共謀罪は成立しない」と主張することはできません。
つまり、傷害の共謀を犯罪とすることは、共謀罪を問われそうな人に、問われる前に暴行を行えとあおることになるのです。これは、主体が暴力団などでも変わりません。
実行した方が処罰が軽くなる
犯罪を実行した方が処罰が軽くなるというケースすらあります。
同じような飲み会で、痴漢をテーマに猥談で盛り上がり「私もやってみたい、みようか」などと口走ってしまった場合、「強制わいせつ」の共謀が成立してしまいます。帰りの電車でたまたま近くに女性が乗っていたら、「痴漢対象である女性のいる電車に乗った」という準備行為が行われたとして、何もしなければ強制わいせつの共謀罪として2年以下の懲役・禁固、共謀罪の法の内容にもよりますが場合によっては5年以下の懲役・禁固が飲み会にいた友人も含めて科せられることになるでしょう。
ではどうするか。
酔った勢いでつい女性に服の上から触れてしまえば、痴漢として突き出され、ほとんどの場合、迷惑防止条例違反として東京都なら6か月以下の懲役か罰金が科せられます。
何もしなければ2年以下、軽い痴漢をすれば6か月以下、しかも、痴漢をすれば友人らは共謀罪に問われません。
結論は明白です。強制わいせつの共謀罪に問われそうな時は、その前に痴漢を実行するしかありません。つまり、共謀罪は、このケースでは痴漢をあおっているのです。
刑事法制は本来、犯罪を処罰することで犯罪を減らし、市民が犯罪被害者とならないようにするためにあります。しかし、共謀罪には処罰を軽くするために犯罪を実行するようあおることで犯罪を増やし、犯罪被害者を増やしてしまうという場合があるのです。
本来、犯罪とはなり得ない、誰に被害を与えるわけでもない考えや対話を犯罪に仕立て上げるムリが、このような矛盾を生み出してしまいます。犯罪やその被害者を増やさないためにも共謀罪を新設させてはなりません。
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