自由ネコ通信

冤罪乱発の警察から強制捜査権を剥奪し、職業裁判官から市民の手に刑事裁判権を取り戻そう。予審制度と陪審制度の復活を求めます

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ー 喫茶店で、いつものお茶のみ友達が話している。
A「この前、コンビニで弁当を買って戻ったら、おつりを百円多くもらってた。しかたないから10分歩いて返しに行ったよ」

B「災難だったね。気がつかなければ良かったのに」

C「でも、おつりを多くもらうって時々あるよね。みんなどうしてる?」

D「多額だったら返しに行くけど、百円、二百円だったらラッキーって、気がつかないことにしとく」

B「近くだったらまだしも、遠くだったら百円返すのに交通費が二百円、三百円かかったりして。大阪で買い物して東京で気がついたら絶望的だね」

C「だいたい間違った向こうが悪いのに何でこっちが時間や余分の交通費を負担しなければいけないの」

D「まあ、千円以上だったら返しに行っても良いけどそれ以下なら私は返しに行かない」

C「そうだよね。千円以上じゃなかったら私も返しに行かないことにする」

B「私もそうする。でも、ちりも積もればっていうけど、おつりを間違うって結構あるのかな?」

C「じゃ、試しにこれから買い物のたびにおつりもらって、一か月でどれくらいたまるか確かめてみるね」

B「うん、どのくらいたまるか楽しみだね」(注1)

C「となると、お札を用意しとかなきゃ」
ー C、財布の中を覗く(注2)
注1:この段階で共謀成立、詐欺目的の犯罪集団が作られたことになる。
注2:これが「準備行為」、共謀+準備行為で詐欺の共謀罪成立、黙って聞いていただけのAも同罪。

 確かにほめられたことではないが、冗談のつもりでこんなことを話すことはないだろうか。
 おつりを多くもらって、また買い物に行った時に返せばいいと考えていて忘れたことはないだろうか。あるいはそもそも気がつかないこともあるだろう。でも、忘れた、気がつかなかったことを証明できなければ詐欺罪となるのが日本の刑事手続きの特徴。
 詐欺の法定刑は10年以下の懲役と重い。
http://horitu-soudan.jp/column.php?cid=349
 共謀罪が成立したらどのよう適用がなされるか、とくに分かりにくい「イエローカード型」適用をイメージするために、これまでの法案、政府の発言などをもとに想定ストーリーを作りました。必ずしもこのまま現実化するというわけではありません。あくまで一つのイメージと考えてください。根拠となった分析はこのブログの他の記事にありますので参考にしてください。

通告

 ある日、月1回の読書会を自宅で行っているあなたのところに、警察から通告が来る。開けてみると次のような文面。
「あなたが代表である団体○○が、○年○月○日共謀罪の対象犯罪の実行について共謀しました。再度、共謀を行った場合、共謀罪に基づく処罰を受ける可能性がありますで、共謀罪施行規則第○条に基づいて警告します。」(注1)(注2)
 確かにその日は定例の読書会の日だ。しかし、選んだ本も話の内容も犯罪にかかわるようなものではない。ただ、すべての会話を覚えているわけではないし、あなたの参加していない雑談もかなり行われた。

困惑から不安へ

 あなたは、読書会の会員に連絡して自宅に集まってもらう。
 通告文を見せながら、その日どのような話をしたかみんなで思い出すよう努力する。
 「政治的でもなく犯罪とは無関係な読書会がなぜ?」と困惑していた会員だが、互いに話し合いながら記憶をたどる。やがて、当日、全体会後の数人単位の雑談の中で、基地問題や環境問題、政府の政策などについての話題がいくつか出たことを思い出す。もちろんその詳細は思い出せないままだ。(注3)
 「それらの内のどれかで不用意な発言があり、犯罪計画と誤解されたのかもしれない」
 会員の困惑が次第に不安へと変化していく。

調査・挫折・不安の増大

 会員の一人から「知り合いに弁護士がいるから相談してみては」という提案。あなたは通告文をもって弁護士に相談に行く。
 数日後、弁護士からの報告を受ける。
「通告文をもって発行した警察に行きましたが、『詳細は捜査情報なので明らかにできない。共謀しないように注意すれば良いのだから』の一点張りでした」
 あなたの「裁判所に共謀してないことを確認してもらうのは?」という提案に対する弁護士の回答は「制度としてないし、詳細が不明だと裁判所も判断できない」との答え。
 「間違って共謀しないようにしばらく会をを休むのは?どれくらい休めば良いか?」という質問に対しても「何か月たったら大丈夫という保証はない。たぶん一生ダメ」との答え。
 弁護士から「誰かが準備行為と取られる行動をすると処罰される可能性があるから、行動にも気をつけて」という警告も受ける。
 再び、会員に集まってもらって弁護士の話を報告。会員の中に広がる落胆と不安の増大。一人が「会員しかいない場の話を警察がどうやって知った?誰か話した人がいたのでは?」と発言。疑心暗鬼も広がる。

崩壊

 一人が「この話し合いも共謀したと見なされる可能性があるのでは?」と発言、全員の顔色が変わる。そそくさとみんな帰っていく。
 翌日から退会の連絡が続く。次の定例会の日、退会連絡のなかった会員も含め出席者はゼロだった。会はそのまま消滅した。
 「準備行為にも注意を」という弁護士の話が気になるあなたは家にこもりがちになり、参加していたすべてのグループを退会、仕事も辞めることになる。

真相

1年後、家にこもりきりのあなたは、前に相談に行った弁護士の訪問を受ける。義憤に駆られた弁護士は1年間、調査を進め、ようやく真相をつかんだのだった。
弁護士の話
 ある事件の容疑者となった人物(後に無関係と判明)の関係者の一人に読書会の会員がいた。
 そこで警察は定例読書会を室内盗聴。その中で「バクダンを作る」「バクダンを爆発させて」という会話を傍受し、警察は爆弾がらみの共謀が行われたと認定した。
 その盗聴データが他の裁判に出され、詳細に聞いたところ「バクダン」というのは「バクダン菓子」(穀物に圧力をかけて一気に開放して膨らませた駄菓子)であることが分かった。若くてバクダン菓子の存在自体知らない捜査員の誤解が原因だった。(注4)
 弁護士の抗議に警察は誤解は認めたが、通告文1通を出しただけで実害を与えたわけではないと謝罪は拒否した。普通の市民が爆弾を作れるわけはないという抗議に対しても、共謀罪ではできるできないは無関係だとの回答。
 あなたは、確かにその日選んだ本の中に母親にバクダン菓子をねだる子どもの話があって話題になったことを思い出す。
 しかし、あなたが募る怒りと悔しさをぶつける相手はどこにもいない。
 
注1:実際にこのような通告という形を取るかは不明。しかし法相は2月21日の発言で「1回だけ」「処罰対象」という言葉を使っているので、何らかの警告が出される可能性はある。
 「意志決定だけで」とあるので準備行為はなくても警告がくる。逆に準備行為があった場合は一回目でも処罰対象にされる可能性もある。
注2:共謀罪は実際には「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」の修正案として組み込まれるので共謀罪ではなく「組織的…」という法律名が使われる。
注3:目配せでも、うなずいても、黙認でも共謀したいと認定するのが現在の裁判所だ。グループのうちの数人の会話でも同じ室内にいた全員の共謀と認定される可能性は高い。
注4:以前Macというパソコンの機種ではエラーが発生すると爆弾のアイコンが表示された。そこでMacユーザーはエラーを「爆弾が出た」などと表現していた。
 あるMacユーザーの高校生が電話で「爆弾が…」と話していたところ、すべての電話を盗聴しているNSA(アメリカ国家安全保障局)の会話解析ソフトがこの「爆弾」の単語に反応、FBIが高校生の家に急行したという実話がある。

政府は「共謀は犯罪実行に結びつかない」と認識

 共謀罪を表現するのに、重大犯罪を実行のはるか前、予備(準備)の前の計画段階で取り締まるものと説明されることが多い。共謀罪の推進派からも反対派からも。
 しかし、共謀罪はそのようなものではないことが、金田法相が2月21日に行った記者会見の発言で明白になった。
 報道された発言は次のようなものだ。
「正当な団体が特定の重大犯罪を1回だけ実行することを意思決定したとしても、そのことだけで直ちに処罰対象にはならない」(時事ドットコム)
 もし、重大犯罪の共謀が将来の犯罪実行のための計画段階を意味するなら、主体が「正当な団体」であろうと犯罪組織であろうと、一回目であろうと二回目であろうと、それを見逃せば重大犯罪の実行を黙認することになる。とくに、共謀罪対象犯罪の多くが予備の処罰規定を持っていないから、計画段階を見逃せば次に摘発できるのは未遂つまり犯罪に着手してからということになる。知っていながら犯罪実行まで待つなどということがありうるのか。
 しかも、いわゆる泳がせ捜査は麻薬特例法や銃刀法で認められているだけだから、共謀した団体を合法的に監視下に置くわけにもいかない。
 また、金田法相が「1回だけ」は「処罰対象にならない」と言っているのは、二回目以降の共謀があると考えていることを示している。最初の共謀が犯罪実行まで進めばそこで摘発されるから、二回目の共謀など問題にもならない。
 このことは、政府自身が共謀という行為が必ず犯罪実行と結びつくわけではないこと、とくに「正当な団体」の共謀は犯罪の実行とは無関係と認識していることを示している。

重大犯罪の計画そのものの犯罪化

それでは共謀罪とはいかなるものか。それは、
重大犯罪の共謀・計画の策定という話し合いそのもの、思想の表現行為自体を犯罪とする
ということだ。中にはそのごく一部が犯罪の実行まで進んでしまうかもしれない。しかし進むか進まないかは共謀罪とは無関係だ。
 これは共謀罪が、米国の共謀罪とほぼ同じものだということだ。
 したがって、「準備行為」というものも将来の犯罪実行のための準備ではない。単に話し合いがあったという事実の証明を行動から補強するものでしかない。米国での顕示行為(オーバート・アクト、overt act)と呼ばれる「何らかの合意内容の具体化を示す行為」(国立国会図書館・調査及び立法考査局 「共謀罪をめぐる議論」)と同様のものだ。だから、共謀した者なら絶対やらない行為以外のあらゆる行為が「準備行為」と見なされ、犯罪実行のためかどうかという目的は問題にされない。

二重処罰の可能性

 米国と同様の共謀罪ということになると、これまで私自身も前提としてきた、犯罪が実行されれば共謀・計画は処罰されなくなるという想定が違っていたことになる。
 犯罪実行の可能性がなくても話し合いだけで処罰されるだけではない。何らかの犯罪行為が実行されて摘発された場合、事前に共謀していたということになれば、米国のようにその犯罪の刑罰に共謀罪の刑罰が加算され、より重い刑に処せられるということだ。
 これまでも市民運動は様々な口実で弾圧されてきた。共謀罪は、そうした弾圧をさらに重罰化する効果も持っているのだ。
 共謀罪が「テロ」対策でも、組織犯罪対策でもなく、政府に反対の声を上げ、行動する市民を対象とした思想・表現活動鎮圧法であることはもはや誰の目にも明白となった。
 これまでの政府の説明を聞いていると、共謀罪適用には次の3つの要素を必要とするようだ。
 1) 犯罪組織または普通団体から「犯罪行為を反復継続して行うよう性質が一変」(金田勝年法相、2.3衆院予算委)したものなど主体の条件。
 2) 長期4年以上の犯罪の中から指定した277の犯罪の実行を内容とする共謀。
 3) 「準備行為」が行われること。
 特に、1)によって一般市民が共謀罪の対象になることはあり得ない、3)によって話し合っただけで処罰されることはない、だから廃案になった共謀罪とは別物で安全だと政府は主張している。本当だろうか。
 犯罪組織が凶悪犯罪を計画した段階で取り締まる。それも念を入れて計画に一歩踏み出し準備行為を行ったところで検挙する。それ自体聞けば問題ないように思える。実際、共謀罪の推進を訴えている人びとはそれを論拠にしているようだ。
 しかし、法律が問題になるのはそのような典型例ではない。どこまで適用されるのかという限界事例だ。麻薬取り締まりが必要だとしても、次から次へ出てくる危険ドラッグを指定しきれないと酒やたばこ、ハーブティーまで規制対象にしたり、薬用麻薬の生産まで禁止すれば問題だろう。
 そこでまず、共謀罪規制の3要素から典型例の構造を解明し、同じ構造がどのような限界まで適用可能か考えることにする。この3要素は、一般市民を規制対象から外す保証となっているのか?
 注目しなければならないのは、反復される犯罪に長期4年以上の重大犯罪という限定がないことだ。
 1)の主体条件について、政府は共謀罪適用対象集団の二つのタイプを明らかにしてきた。一つは普通団体から性質が一変したものによるもので、もう一つは犯罪組織によるである。ここで犯罪組織とは犯罪の実行を目的に作られた組織と定義しておこう。
 前者を「暴力団型共謀」、後者を「詐欺集団型共謀」と名付けよう。
 暴力団とは犯罪を目的に作られた組織ではない。その目的は地域制圧(なわばり)による特定業界の仕事の独占、あるいは麻薬売買など法によって禁止された産業の仕事による莫大な独占利益の獲得という利益追求を目的とした組織だ。通常、平均より高い利潤が得られる産業には新たな資本が流入し競争により利潤が下がる。しかし、地域制圧や法の規制により新たな資本の流入がとめられ独占利潤は維持される。そして、地域独占をめぐる他の暴力団の抗争や麻薬製造などの違法行為を繰り返す中で現在見るような犯罪集団になってきた。まさに、普通団体から「犯罪行為を反復継続して行うよう性質が一変」した典型が暴力団だ。
 ちなみに、山口組は沖仲仕の派遣業として出発したという。
 これに対して、詐欺集団は、目的はやはり利益追求であるが詐欺による利益追求を直接の目的としている点で結成当初から犯罪を目的とした犯罪集団と呼んで良いだろう。

暴力団型共謀

まず、典型例から始めよう

【典型例】

組織:暴力団
共謀:他の暴力団との抗争を計画
準備行為:相手暴力団を偵察
 これだけみれば、問題ないように思える。

 では、次に同じ構造が市民運動などに向けられるとどうなるか。

【市民運動】

組織:環境保護団体が公害企業前の抗議集会(道交法違反)、公害排出の停止の要求(強要罪)などを繰り返すよう性質が一変
共謀:企業幹部を呼び出して反省するまで徹底的に話し合おうと計画(逮捕監禁罪)
準備行為:企業に話し合いを要求

 市民運動などと無縁の日常生活でも共謀罪は無縁ではない。

【日常生活】

組織:飲み会が次第に大声で会社の上司などの悪口を言って憂さを晴らす(侮辱罪)場に変化(侮辱罪を繰り返すよう性質が一変)
共謀:ある日、悪口がエスカレートして上司を殴ってやろうと一致。酒の勢いで詳細までつめる
準備行為:飲み会の一人がいつもどおり出勤

詐欺集団型共謀

【典型例】

組織:知り合い数人の間で詐欺をやってもうけようという話しがまとまる(犯罪目的の集団結成)
共謀:詐欺の種類、必要な道具のリスト化など具体的計画を策定
準備行為:必要な道具などを購入

【市民運動】

組織:公害に悩む地域住民が、会社前での抗議集会(道交法違反)などを行うために実行委員会を結成(犯罪目的の集団結成)
共謀:企業幹部を呼び出して反省するまで徹底的に話し合おうと計画(逮捕監禁罪)
準備行為:企業に話し合いを要求

【日常生活】

組織:飲み屋で大声で上司の悪口を言っていたら、たまたまいた同僚と意気投合して、悪口で憂さを晴らそう(侮辱罪)と飲み会をつくる(犯罪目的の集団結成)
共謀:ある日、悪口がエスカレートして上司を殴ってやろうと一致。酒の勢いで詳細までつめる
準備行為:飲み会の一人がいつもどおり出勤
 この型の特徴は、ある「犯罪」のために団体が新設されるということにある。前節では既存の団体が新たにある「犯罪」を行った。両者の違いは団体結成と「犯罪」のどちらが先かというだけだ。

第三の型・イエローカード型

 以上のように整理すると、共謀を行う主体には第三の型があることがわかる。正当な目的を持った団体が、犯罪を繰り返さずに正当な団体のまま共謀するケースだ。
 この点について、タイミング良く法相の見解表明があった。
「正当な団体が特定の重大な犯罪を1回だけ実行すると意思決定しても直ちに『組織的犯罪集団』にはあたらない」(2.21記者会見)
 第三の型も共謀罪の対象であることを明言し、その適用の条件を述べたのがこの記者会見だ。
「一回だけ」とあるのに注目して欲しい。
 この発言の特徴は、
第一に、犯罪行為を実行していない「正当な団体」も共謀罪の対象であることを明言したことだ。
第二に、犯罪の繰り返しがなくても共謀の一回目で「性質が一変」と認定するということだ。そして、二回目で共謀罪を適用する。
 一種の猶予制度を導入するということだろう。米国には三度目は終身刑という「三振制度」があるが、日本ではサッカー並みにイエローカードで「犯罪組織に一変したと認定」し、次はレッドカードで共謀罪適用ということにするようだ。イエローカード型と名付けよう。
 この型のすさまじさは、暴力団型、詐欺集団型ともに具体的な犯罪行為が行われることで犯罪集団の認定が行われたが、この型では何の犯罪行為もなしに犯罪集団の認定が行われることだ。
具体例で考えて見よう。

【典型例】

なし。

【市民運動】

組織:環境団体がある公害事件を取り上げ、公害企業の幹部を呼び出して徹底的に追及することを計画、企業に話し合いを申し入れたが断られる(一回目の共謀で性質一変)
共謀:再度、日時を変えて追及することを計画(二回目の共謀)
準備行為:企業へ話し合いを要求

【日常生活】

組織:飲み会の一回目で、会社の上司の悪口がエスカレートして「殴ってやれ」と殴打計画をはなしあうが、翌日以降は通常に出社(一回目の共謀)
共謀:何回目かの飲み会で今度は「社長を殴ろう」という話になる(二回目の共謀)
準備行為:いつも通り出社する

言い換えで市民が対象であることが鮮明に

 以上の分析から明らかなように「犯罪組織」「性質が一変」などの言葉は廃案になった「団体」の言い換えに過ぎない。決して対象を絞ったとか一般市民を対象から外したというものではない。
 ただ、この言い換えによって、「正当な団体」も共謀罪の対象であることが鮮明に示された。それまで何の犯罪行為も行っていない善良な市民や善良な団体も共謀罪の対象なのだ。
 共謀罪が市民の思想と表現を抑圧する法律である。グチでも冗談でも、法に触れるような行為をやろうと話し合っただけで犯罪組織と決めつけ検挙する。治安維持法でもできなかったグチや冗談も禁止するスーパー治安維持法、これが共謀罪だ。
 共謀罪は犯罪実行のはるか以前の計画段階で取り締まる法律と表現されている。
 つまり、犯罪には計画(共謀)、準備(予備)、実行開始(未遂)、実行終了(既遂)の各段階がある。これまでは実行の終了によって現実の被害が生じた段階(既遂)を処罰するのが原則であり、社会に危険を及ぼす度合いの高い重大犯罪については実行を開始した段階(未遂)でも処罰する。そして内乱罪のような特に重大な危険を生じる場合に限って準備段階(予備)でも処罰する。
 共謀罪はその前の計画段階(共謀)を一律に処罰する。だから、予備も未遂も処罰されないような危険度の低い犯罪まで一律に共謀を処罰するのは間違いだ、という批判が出てくる。私もそうした視点から共謀罪を批判してきた。
 しかし、共謀罪は犯罪の計画段階を処罰するものという解釈しかできないのだろうか。多くの優れた法律家がそのように述べているのに対して、法律の素人が異を唱えるのは、「相対性理論の誤りを証明した」というよくあるトンデモ本の作者と同じことをしているのではないかという危惧に駆られるが、疑問を疑問のままにしてもおけないので以下はそうした問題意識からの一試論である。

共謀罪=計画段階の処罰、から生じている矛盾

 共謀罪を犯罪の計画段階での処罰と理解すると、いくつかの矛盾が生じる。
 その第一は、いわゆる中抜け問題だ。
 犯罪を計画、準備、実行開始、実行終了という段階論でとらえると、次の段階に移った時点で以前の段階を理由にした処罰は適用されなくなる。殺人罪を例にすれば、人を殺してしまった人間は殺人罪(既遂)で処罰されるが、当然その前にあった殺人未遂、殺人予備で処罰されることはない。共謀罪もそのように理解されている。殺人の共謀をしても殺人予備、未遂、既遂段階にすすめば、それぞれの段階の処罰がなされ、殺人共謀で処罰されることはない、と考えられている。
 この原則を適用すると、このブログの別の記事でも指摘したが、犯罪計画を進めて次の段階に移った方が処罰されなくなったり、処罰が軽くなるという矛盾が生じる。
 繰り返しになるが、痴漢を計画すれば「強制わいせつの共謀罪」で最高2年または5年の懲役・禁固が科せられる。しかし例えば痴漢の場所選びなど準備段階(予備)にすすめば、強制わいせつの予備は不処罰などで処罰されない。電車に乗って女性を見つけて手を伸ばしたが混雑で手が届かなかった。強制わいせつの未遂として処罰できないこともないが多くは迷惑防止条例違反の未遂と見なされ処罰されないだろう。そして、女性の体に触ったところで女性に手をつかまれ、駅員に突き出される。ほとんどの場合、迷惑防止条例違反の既遂で東京都なら最高6か月の懲役・禁固。実行した方が処罰が軽い。
 この矛盾を解消する一つの方法は、共謀罪の対象罪種のうち予備、未遂の処罰規定のない罪種に一律に予備、未遂の処罰規定を加えることだが、共謀罪法案にはそのような規定はない。
 もう一つの方法は、共謀、予備、未遂、既遂について、処罰の重い方の段階にあるとみなすというみなし規定の導入だろう。暗黙的にこのみなし規定を適用するのかもしれないが、明文の規定もなしに共謀のみにそうしたみなし規定を導入するというのは無理がある。
 その第二は、いわゆる中止犯問題だ。
 第一の対策を取って中抜け問題を解決したとしても、その結果、共謀、予備、未遂が同一の処罰になった場合、未遂まで進んで自らの意志でやめれば必ず刑の減免を受けられるが、共謀、予備段階で中止しても減免は受けられない。どうせやめるなら着手してからやめた方が良い、と法が犯罪の着手を推奨することになる。
 その第三は、危険性、蓋然性の問題だ。
 第一、第二の問題は、私自身も共謀罪批判の根拠にしてきた問題だ。しかし、この間の国会審議で新たな問題が浮上した。それが、危険性、蓋然性の問題だ。
 予備や未遂が処罰されるのは、その段階ではまだ現実の被害は発生していないが、放置すれば必ず既遂まで進行し(蓋然性)、現実の被害を生じさせる(危険性)と考えられるからだ。だから共謀を処罰するなら共謀に同様の蓋然性と危険性が存在しなければならない。
 ところが、安倍総理は、1月30日の参議院予算委の国会答弁で、ハイジャック防止法に絡んで次のような趣旨を述べた。
 ハイジャックを計画した集団が航空チケットを予約した場合、「危険性が証明」できれば防止法の予備罪で摘発できるが、そうでなければ摘発できない。しかし、共謀罪は文句なく適用できる。
 この答弁についての詳細な分析はまだだが、共謀罪の性格を一変させる決定的な答弁ではないかと考えている。
 放置すればハイジャックが実行されるという危険性の証明は予備という性格上当然だが、一段階前の共謀であっても放置すれば最終的にハイジャックが実行されるという危険性の証明が必要なことに変わりはない。しかし、安倍首相はそれを否定した。この発言は直接には「準備行為」についてだが、「準備行為」も共謀罪の要件ならば証明不要というのは共謀罪全体にも当てはまることになる。
 そうした視点から改めて検討してみると、廃案になった共謀罪法案では「団体の活動」から「遂行」までは共謀つまり犯罪計画の内容を示したもので目的ではない。実行の意志がなくても、事実上実行が不可能でも共謀罪は成立する。
 政府が共謀罪制定の理由としているパレルモ条約についての説明でも、「(共謀段階の)処罰化」ではなく「(共謀=犯罪計画策定の)犯罪化」という用語が使われている。
 つまり、共謀罪とは、
犯罪の共謀段階(計画段階)を処罰化するのではなく、犯罪の共謀(犯罪計画の策定)という思想・表現行為そのものを新たな犯罪の種類とするもの
ということだ。こうした性格は米国のRICO法に類似するが、同法が犯罪の実行を目的にした共謀を対象にしているのに対し、共謀罪は犯罪計画を内容とする共謀という犯罪実行とは直接結びつかない表現行為自体を対象にすることで思想・表現規制という性格の強いものとなっている。
 殺人罪と殺人共謀罪(殺人計画策定罪)とは直接のつながりはないから、第一から第三の矛盾は生じない。しかし同時にこの定義によって、共謀罪とは犯罪者をいつ取り締まるかの問題だという誤った考えが払拭され、犯罪そのものとは無関係な市民をその思想・表現によって取り締まるという共謀罪の性格が明確になる。
 では、共謀罪(犯罪計画策定罪)とはどのような性格を持つ罪種なのか、それが次の問題だ。

犯罪版わいせつ規制

 犯罪計画を立てたからといってそれ自身で何らかの具体的な危険や被害が生じるわけではない。ではそれを犯罪化する論理はどのようなものだろうか。
 同様に、具体的な危険や被害が生じるわけではないのに人の思想・表現活動を規制するものにわいせつ規制がある。チャタレー事件の最高裁判決は、わいせつ物について次のように定義している。
徒に性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの
 共謀罪における犯罪計画策定を次のように定義する時、わいせつ規制と共謀罪が同一の論理を持ちうることを示している。
 徒に脱法意識を刺激せしめ、且つ普通人の尊法精神を害し、善良な法的動議観念に反するもの
 つまり、共謀=犯罪計画策定は将来的に犯罪が実行される危険があるから規制するのではなく、利益などのために法を逸脱してもかまわないという脱法意識を強め、法律は必ず守るべきという普通人の尊法精神を害するから規制するということだ。犯罪組織は犯罪それ自体を目的とする組織ではない。利益などのためには法を逸脱してもかまわないという組織だ。だからこの定義となる。
 しかし同時にこの定義は、人権や生命、生活を守るためには法を逸脱してもしかたがないという、原発や基地に反対する市民、政府の非道に体を張って抗議する市民を犯罪組織と同列におくことになる。
 共謀罪は犯罪者を取り締まるための法律ではない。右翼も左翼も関係ない。無神論者と信仰者との違いもない。
共謀罪とは、人生と社会には法を守る以上に大切なことがあると考え行動する人を、その思想と表現ゆえにとりしまる法律だ。

グチも冗談も言えない共謀罪

 人はなぜ、行いもしない「犯罪計画」をたてるのか。なぜやる気もないのに「社長を殴ってやる」とくだを巻くのか。貧困、差別、抑圧に対する不満のはけ口として、「こんなに給料が安くては銀行強盗でもしなければ生活できない」と叫ぶのだ。こうした不満の吐露としてのグチや冗談が横につながり、一つの運動、一つの組織となって政府の権力基盤を揺るがす、それに対する恐怖が共謀罪制定の動機だ。
 共謀罪は現代の治安維持法と言われることがある。しかし、治安維持法ができなかったことを実現するのが共謀罪だ。
 敗戦直前、特高警察が最も恐れたのが、生活不安や厭戦気分からくるグチや噂、「ぜいたくは(素)敵だ」などの揶揄だった。もし、敗戦がなければ治安維持法の次の改訂はこうしたグチや噂を取り締まるためのものとなったかもしれない。
 共謀罪はこの治安維持法ができなかった、人びとの怒りと不満からくるグチや噂を規制し、処罰しようとする法律である。権力の前にひれ伏し、愚痴を言うことすら恐れる奴隷のような人間を作るための法律だ。

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