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人は死ぬ間際に誰かを愛したことを思い出すのか、それとも愛されたことを思い出すのか。
人生は出会いと別れの繰り返し。誰もが出会う他人に対し、いつか最初の「こんにちは」があり、
またいつか最後の「さよなら」がやってくるものです。中には挨拶だけで終わる出会いもあるでしょう。
その逆に、例えば夫婦のように死ぬまで連れ添う関係になる出会いもあるはずです。
ただし、男性と女性の出会いの場合、お互いに好意を持つことがあったとしても、
ましてやそれが恋愛関係に発展することがあっても、最初から別れざるを得ない出会いもあるのです。
結婚を数ヶ月後に控えた豊(西島秀俊)は航空会社に勤めるエリート社員。
フィアンセの光子(石田ゆり子)を日本に残し、タイの首都バンコクに出張になりました。
光子はどちらかと言えばお嬢様育ちのようで、新婚旅行までは豊に体を許すことはしないと決めており、
出張中の豊に対しても、毎日決まって夜の8時には電話をけてくる、きっちりとした性格の女性です。
光子からの電話は結婚準備のための連絡が目的でしたが、豊が電話に出ない日が増えてくると、
豊を心から信頼していた光子も、さすがに不信感を抱くようになります。
また電話の会話の中で、豊の口から、光子以外の別の女性の名前が出てきたりするのですが、
そのあたり、鋭い勘を働かせる凛とした女性像を石田ゆり子が好演しています。
実は豊は、バンコクで出会った沓子(中山美穂)に心を奪われ、逢瀬を重ねていたのです。
中山美穂はひさびさの映画出演ながら、大胆なラブシーンも臆することなくこなせる年齢になったようで、
派手なメークや肌を露出する衣装も似合っています。そんな沓子との関係を続けながらも、
結婚を控えた身の豊は、この関係を断ち切らなければいけないという想いが、ひとときも心を離れません。
苦悶しながらも、ますます沓子に惹かれていく豊。一方、できるものなら豊を奪ってしまいたい沓子。
そんな二人の関係は遊びで終わってしまうのでしょうか。それとも本当の愛なのでしょうか。
その答えが出せないままに、二人は離ればなれになる日を迎えます。別れの舞台は空港。
豊の手を握る沓子。その手を振り払われても、豊にキスをする沓子。
その二人を映し出すカメラは、二人の周りを何度も何度もぐるぐると回り続けるのです。
そして去っていく沓子。一人になって泣き崩れる豊を、やはりカメラはさらに回り続けながらとらえます。
そして今度は豊のそばに光子が駆け寄ってきます。「どうして泣いてるの」と問う光子に、
「愛してる」と答えてキスをする豊。今度はその二人を、やはりカメラは回り続けながら追いかけるという、
この長回しの、しかも回り続けるカメラでとらえた映像は、どのシーンよりも印象に残ります。
この日を迎えるにあたり、豊も沓子も、そして光子も、いろんな悩みを思い巡らせていたのだと、
まさにカメラに語らせているような、そんな映像手法と言えそうです。
その別れの日から25年。豊は幸せな結婚をし、二人の息子をもうけ、仕事でも成功を収めています。
「地球のすべての空を俺の飛行機で埋め尽くしたい」と語っていた豊の夢の実現が、
一歩ずつ近づいているようです。そんな時、豊は再び仕事でバンコクに行くことになるのですが、
滞在先となる懐かしいホテルで働いていたのは、他でもない沓子でした。
25年もの間、再び会えると信じて、沓子は豊との思い出が詰まったホテルで待っていたのですが、、、。
人は死ぬ間際に誰かを愛したことを思い出すのか、それとも愛されたことを思い出すのか。
愛するより愛されたいと願っていた沓子の、一つの愛を追い求める想いと、どんなに愛されても、
そしてどんなに心を奪われても、決して愛してるとは言えなかった豊の苦悩が交錯する、そして、
夢と現実が交錯する、どこかファンタジーにも似た切ない結末に酔いしれるラブストーリーでした。
<映画の次回作情報>
石田ゆり子
:おとうと(山田洋次監督)
現在公開中 共演:吉永小百合、笑福亭鶴瓶、蒼井優、加瀬亮、小日向文世、加藤治子 他
:死にゆく妻との旅路(塙幸成監督)
2010年公開予定 共演:三浦友和 他
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