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南アフリカ全体が、人種を問わずに一つになる瞬間、国家が動き、歴史が変わる。
青年時代から反アパルトヘイト運動に精力的に取り組んだネルソン・マンデラは、
46歳になる1964年、国家反逆罪で逮捕され、終身刑を言い渡されてロベン島刑務所に収監されます。
アパルトヘイト。それは白人政府による白人以外の人種を差別する人種隔離政策。この政策により、
結果的には白人に虐げられることになったマンデラは、人生におけるいちばんの充実期を、
刑務所で過ごすことになるのです。そして27年という長い刑期を経て釈放されると、
1994年の選挙で多数の国民の支持を得て、大統領という地位に着くのです。
大統領になった彼の一つの功績が、ラグビーというスポーツを通して白人と黒人の融和をはかり、
南アフリカという国を名実ともに一つにまとめあげる努力をしたこと。ラグビーで人の心を動かし、
政治を動かし、そして国家を動かしたマンデラ大統領(モーガン・フリーマン)。
その知られざる真実を、黒人と白人とを対比しながら見せる感動作に仕上がっています。
オープニング。1990年のマンデラ釈放のシーンだけで多くを物語らせる映像に、まず注目です。
道路をはさんで、一方は色鮮やかな緑の天然芝が敷き詰められ、整備されたグランド。
白人の選手たちが、コーチの指導の下でラグビーの練習に励んでいます。もう一方は、
周囲の金網フェンスも破れかけたような、草の生い茂った原っぱで、黒人の少年たちが、
サッカーに興じています。つまりこの時代は、スポーツまで人種によって隔たりがあったのです。
そのグランドと原っぱに挟まれた道路を走っていくのは、マンデラが乗る自動車。彼はこの時、
右の窓から見える黒人少年たちと、左の窓から見えるラグビー選手を目にした瞬間に、
心に期するものがあったのかもしれません。しかし、マンデラの想いを知る由もない白人たちは、
屈辱の始まりの日だと渋い顔で不満を嘆き、一方、黒人の少年たちは「マンデラ!マンデラ!」と、
期待を込めて声高に叫んでいるのですが、その光景もまた対称的です。
とにかくマンデラ大統領は、自らを苦しめた白人たちを突き放すどころか、意欲的に受け入れます。
そんな彼の寛大なる人間性、優れた指導力に惹かれた周囲の人間たちも、少しずつ心を開き、
かつて対立していた相手を受け入れるようになっていく姿も、合わせて描かれていきます。
小さな努力(政治的戦略)の積み重ねこそ、国家を動かす波になるのです。
それを象徴するかのようなワールドカップ決勝戦の試合展開も、本作の見どころのひとつです。
やはり、この作品を語る上で避けて通れないのが、ラグビーという戦略的スポーツの面白さです。
ラグビーの醍醐味は、やはりトライでの得点なのですが、試合が接戦になればなるほど、
攻め合いよりも守り合いとなり、なかなかトライが生まれません。
そんな状況を打破するのは、数少ないチャンスを生かした得点ということになります。
それがペナルティゴールであり、ドロップゴールということになるでしょう。
トライに比べて与えられる点数は3点と少ないですが、ラグビーは点の取り合いですから、
1点でも多く点を獲った方が勝ち。地味な得点でも、積み重ねれば勝利に近づきます。
激しく攻め続けることで相手の焦りを誘ってペナルティキックのチャンスを得るのも、
咄嗟の判断でドロップゴールを狙うのも、立派な戦略と言えます。
強敵ニュージーランド相手に、主将ピナール(マット・デイモン)が率いる南アフリカチームは、
最後まで集中を切らせることなく、いちばん手強い選手の動きを完全に封じ込める戦略が功を奏し、
失点を極力抑えるとともに、数少ないチャンスを確実に得点に結び付けていきます。
小さな得点の積み重ねこそ、試合を動かすカギになるのです。
試合後、4,300万人の南アフリカ国民の声援のおかげだと感謝の気持ちを表現したピナール。
まさに国民の小さな声の積み重ねこそ、国家を動かす力になると教えてくれるのです。
これは何も南アフリカとマンデラ大統領に限ったことではありません。
こんなリーダーの登場を待ち望んでいる国が、今もどこかにあるのかもしれないのですから、、、。
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