粒焼次郎の落書夜話

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弾丸列車

私が小さい頃に読んだ未来図鑑の類では、1980年代半ばにはリニアモーターカーが実現しており、東京〜大阪間は1時間で結ばれているはずだった。既に21世紀になって久しいが、リニア新幹線は一向に実用化される様子がない。JR東海だけが熱心で、政府の後ろ向きな姿勢に業を煮やしたのか、自腹で開通させてみせるという計画をぶち上げている。確かに、リニアは最高速度581/hを記録した“夢の高速鉄道”だ。しかし、建設コストが莫大になりそうな上、大きな電力を消費するため、環境負荷が大きいというデメリットがある。さらに、強い磁気を伴うことから、有害な電磁波を発生させる危険が懸念されている。この電磁波が乗客や線路周辺に悪影響を与えないよう、磁気シールドも必要とするのである。

リニアより格段に速い高速鉄道としては、1959年から10年以上にわたり、名城大学理工学部の小沢久之丞教授が、ロケットを推力として真空チューブ内を走らせるロケット列車(真空チューブ鉄道)を実験していた。ロケットエンジンの燃料は、ダイナマイトにも使われるニトログリセリンである。1970年の実験では、ミドリガメとカエルを乗せて1600mを3秒で滑走、(計算上だが)2500/hという驚異的な速度を記録した。これは、東京〜大阪間を14分で走り抜けるスピードである。

しかし、この列車には最大で約30Gというものすごい加速度がかかると言われており、実際に人間にこのGがかかると内臓破裂で死亡するらしい。また、あまりの高速で安全に止まれないという致命的な問題もあった。実際、1回目の実験では止まり切れずに脱線して分解、“乗客”のミドリガメが「殉職」している。結局、これらの課題への対策が未解決のまま、小沢教授が死去したために開発は終了してしまった。この構想も、子供の頃に未来図鑑で読んだ記憶があるが、当時の私でさえ「無理だろ」と一笑に付したくらい、荒唐無稽なプロジェクトだった(フジテレビ系「トリビアの泉」でも紹介されたことがある)。

ちなみに、同じ真空チューブ鉄道でも、線路に高低差をつけ、ジェットコースターのように重力を利用する方法も研究されている。真空チューブにするのは、下りの反動で昇る際、極力摩擦を減らすためだ。但し、昇り切るには反動の力だけでは足りないため、リニアモーターによる補助動力を利用する案が出ている。使用するエネルギーは少ないが、軌道の建設コストは高くつくと見られること、途中で事故などのため停止した場合、事後対策がややこしいなどの問題があって、あまり真剣に開発が行われている気配はない。

超高速鉄道の夢は戦前からあり、「弾丸列車」の名称で壮大な計画が検討されていたこともある。船舶航路と繋ぎ合わせ、東京と北京や上海を結ぶという大スケールな構想だが、当時の鉄道としては一般的な蒸気機関車を動力に想定していた。今の感覚からすれば、とても「弾丸」と呼べるような代物ではない。

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これらのプロジェクトは非現実的な要素が多く、コストも膨大である。しかし、ここに紹介する「エアロ・トレイン」という研究は、なかなか興味深い。リニアとロケット列車の中間的な発想ではないかと思う(なお、エアロ・トレインという名称は、国によっては都心と空港を結ぶ鉄道という意味でも使われているので、少々紛らわしい)。

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エアロ・トレインは、車両の両脇についたプロペラで加速、翼に発生した揚力で空中(高度10僉砲防眈して、超高速で走る。列車というより、飛行機と同じ仕組みだ。地上スレスレに浮上走行すると、翼と地面の間に空気が入り、それが高速で流れる。そうすると「地面効果」と呼ばれる反発力(エアクッション作用)が生まれ、揚力に加えて、この作用でスピードがさらに速くなるのだという(飛行機より効率がいいらしい)。理論上の最高速度は新幹線の約2倍、リニア並みの500/hで、すごいのは消費電力が新幹線の3分の1以下であること。飛行機のように空まで飛び上がらなくていいので、電力モーターで充分なのだろう。

リニアと同じく車体を浮上させる方式ながら、空気揚力で浮かせるので有害電磁波のリスクがなく、安全だ。また、リニアは軌道上に無数の電磁コイルを埋設しなければならないが、エアロ・トレインは翼を安定させるガイドウェーの建設だけで済む。左右の垂直翼も、壁との間に反発力を生むので、どちらかに偏ったりフラフラしたりすることもない。つまり駅の前後の低速走行部分を除き、安定走行中はレールすら要らない(但し、電力を供給する架線は必要)。ガイドウェーだけなら、普通の高架線路を敷設するのと大差ない。従って、建設費もリニアより格段に安く抑えられる。

もっとすごいのは、消費エネルギーが少ないため、ガイドウェー上に設置した太陽電池パネルと風力発電だけで賄えるということだ。外部からの電力や燃料の供給が、全く必要ないのである(ゼロ・エミッション)。通常の状態では、発電量よりも使用電力の方が少ないので、余ったエネルギーを貯蔵しておいて、雨天の日や風のない日、夜間などに使える。100%自然エネルギーでもあり、エネルギー問題にも環境問題にも対応できる夢のような列車だ。但し現状では、複数の自然エネルギーを収集・貯蔵・安定供給するための新システムを開発することが課題だとか。

エアロ・トレインを開発したのは、東北大学工学部・流体科学研究所の小濱泰昭(こはま・やすあき)教授の研究チームである。1986年にこの列車の概念を発想し、基礎研究を開始したという。1996年には、ラジコン模型による走行実験を始める。2000年、当時の小渕内閣が立案した「ミレニアム・プロジェクト」で、近未来計画のひとつに採用され、本格的な研究がスタートした。研究予算は1億2300万円だそうだ。宮崎県日向市に、実験線も持っている。鉄道総合技術研究所が所有するリニア実験線「浮上式鉄道宮崎実験センター」(山梨に実験線ができる前に使われていた施設)の跡地である。ここで、全長8.5mの無人機体を使った実走行試験が行われている。

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当初は電力源や操作装置を積んだ車を後ろに引いて走っていたが、2002年からは自立走行が可能になり、150〜300/hの速度を達成しているという。小濱教授らは、2020年までに350人乗りで500/h出せる有人機体の完成を目指している。この実験線は凹型のガイドウェーだが、軌道と翼の形状がUの字やVの字になっているタイプも研究されているそうだ。

本当に夢みたいな話ばかりのようだが、もちろん課題はいくつもある。まず、駅のホームから列車に乗り込むには、どうしたらいいのか。翼が張り出しているため、一般的なホームからでは、列車の入口に届かない。空港などにあるような、伸び縮みする通路で繋ぐしかなさそうだ。また、他の高速鉄道のように何両も連結して走らせるのには向いていない(構想では3両連結)ようで、大量輸送面で新幹線に劣るという欠点もある。さらに、プロペラ推進であるため、大きな騒音が発生するのだという。もうひとつ、実験映像を見ると、停止するのにパラシュートを使っている。実際の鉄道では距離が長くなるから必要ないのかもしれないが、応用の際にはそこを解決しないといけないだろう。

ただ、いずれにしてもデメリットよりメリットの方がはるかに大きいシステムであり、早く開発が進んで、実用化されてくれればと願うものである。

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