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「いやーガソリンがないなァ。このままだと車が止まってしまうからガソリンスタンドに行かなくちゃ」 そう甲高い声で独り言をいうと彼はガソリンスタンドへ車を向けた 運転をしているのは東村友義という冴えない中年男だ。たまたま仕事の帰りでいっしょになり乗せてもらうことになった。いい年をしてモーニング娘のファンでAMのレギュラー番組をラジカセで録音しているらしい。MDでなくラジオカセットというところが人間性を表わしている。コードで機器をつなぐことを知らないらしく、ラジオを別につけて、ラジカセのマイクで録音していた 「シイーっツ!静かに」 そんな話も聞いたことがある。 「こォの番組を聴いていると幸ィあわせなんですよ〜」 (いい年をして何を聞いているんだ、このうすらハゲ) いわゆる学校秀才のタイプで行動がかなり変だ。記憶力はいいのだが人間力が決定的に欠けている典型的な例だ。スーツのズボン。そのスソも柔道着のように短くしている。こんなファッションセンスの人間もそうそういないことだろう。何とか靴流通センターのワゴンセールで陽射しを浴びて変色している靴を履いている。履き心地もデザインも無視というところか。そして今日も相変わらずカメレオンネクタイをしている。なぜカメレオンかというと茶色いシャツに茶色いネクタイ。服に同色。それで溶け込んで見えないわけだ。ちょっとでも色が濃ければいいのだが、そんなことは気にかけないらしい。 カメレオンネクタイ、すそが10センチ上がった柔道ズボン、白い安物ズック。痴的アバンギャルドの巨人といえる (写真はイメージ画像です) そんなことを思っているうちに車はガソリンスタンドについた 黄色い帆立貝マークが見える。若いアルバイト店員が車に寄ってきた 「さてはおまえ、ブラックデゥエェービルだな!」 「見事な攻撃だ、タケちゃんマン!違う、違う」東村もベタなギャグを知っている 「おまっち〜ィ!レギュラーでよろしいですか?」 「レギュラー現金で!」 相変わらずの甲高い声で東村は答えた 「あの〜給油口あけてくださいませんか?」 「あーい、わっかりましたあ」 「こーのレバーを引くんですねえ〜 せーいの!ヨイショ!ギュワー!☆グハー」 ガターン!バンっ! 隣を見るとシートを倒しこんで天井を見ている東村の姿がそこにあった 「すいません、あのー給油口なんですけど・・」 店員のあきれた表情が見て取れた。 「見ぃ〜た〜なぁ〜!あっ!おまえバカにしたな!俺が間違えてシート倒したからバカにしたな。死んでもしらんぞ〜」 「いっいえ、してません」 店員が恐縮している。鷲谷が場をつなげようと努力する。 「まあまあ、いいじゃないですか。気にしないで早くガソリン入れてよ」 「わかりました。」 だまって二人のやりとりを聞いている東村。 しかし彼はこんなたわいのないことで自分の醜態をさらしてしまって偏ったプライドに傷が入ったようだ。 そして突然車のラジオから声が聞こえた。 「店より入電!東村に告ぐ、直ちに降伏せよ!ヒャ〜ッホッホッホッ!!しっとるケおめぇー」 (なんだこれは?) 「東村さん、どうしますか?」 「バカめと言ってやれ」 「は?」 「バカめだ!」・・ 「奴らにはこの車では勝てない」 「何を言っているんだ!東村さん!」 「このままでは自滅するだけだ!撤退する!」 「東村さん、逃げるんですか?」 「進路反転180度、鷲谷、わしに続け!」 そういうと会計もしないうちに車を走らせようとした 「いいか鷲谷、今ここで全滅してしまっては、戦う者がいなくなってしまうのだ。明日の為に今日の屈辱に耐えるんだ。それが男だ!」 「東村さん、男だったら戦って戦って戦い抜いて、態度の悪いバイトを懲らしめるべきじゃありませんか!そうじゃありませんか!」 「鷲谷、わかってくれ」 よくわからない展開になってしまった。 こんなバカなことに付き合っていられない。信号が赤になったのを見計らってドアをあけて車外に出た。 「鷲谷が付いてこない!死ぬなよ!鷲谷」 車内からわけのわからない叫びが聞こえてくる。いったいあの男は何をいっているんだ? 「補助エンジン始動、エネルギー充填120%、フライホイール接続」 「接続!車発進!車発進しま〜す!」 東村はそう叫ぶと行ってしまった。 「右15度転換、誤差修正右1度上下角3度、自動追尾装置完了、目標、車の軸線に乗りました」 「発車準備、動力連動、発車!発車あ〜!」 東村はそう一人でつぶやくと鷲谷に向かって車を向けた。 車は鷲谷めがけて突っ込んできた。 しかし、歩道にいた鷲谷は間一髪で電柱の影に隠れた。 車を扱いきれない東村は電柱に激突した。 車のフロント部分から湯気が立ち上がっている。ラジエターが壊れたのだろうか? 電柱にめり込んで車がとまってしまったようだ。 「鷲谷は無事なのか?・・鷲谷、戦いはこれからだぞ」 「東村さん、あんた何を言っているんだ?まったく意味がわからないぞ」 車で人に突っ込んできて事故とはまったく何を考えているんだ。 「くそ!体当たり攻撃で生存者は無く・・生存者は無くか」 「オレは死んでいない!あんたアホちゃうんか?見たらわかるだろ」 「アホぉ〜?アホちゃいまんねん パーでんねん!」 「必ず帰って来るからな!鷲谷、お前もお別れを言え!」 「え?・・誰に???さ、さようなら!東村さん!」 いったい何がどうなっているんだ? 近くに商店が見える。店に誰かいれば話をきいてほしい。 そう思った鷲谷はすぐ近くに店らしい場所へ向かって走った。 車の激突した場所から和菓子の店のようなものが見えた。 和菓子の店「神羅洲」 あまり流行っていないようだ。天井からツララのように商品がぶら下がっている。何のためなのだろうか?和菓子の店の割には店の奥に電球のような輝くものが見える。 他にもパソコンがずらりと並んでいる。 まあ、そんなことはどうでもいい。早くこの現状を誰かに話したい。 3軒隣の場所ならすぐにつく。 中には店の人もいるようだ。もしかしたら事故を通報してくれるかもしれない。 店の引き戸を開けて中を見回した。すると奥から人の気配がする。やや暗めの店内。奥は何かが光っているが・・。目の前には「つきたて餅250円」という札があった。 「すいません、いっしょに車に乗っていた人が突然変なことを言い出して車をぶつけてしまったんです。」 「きみ、それは大変だったな。車のドライバーは何と言ったかね?」 「きみ」とはなんて言い様だ。そんな言い方は客に失礼じゃないか。 「は、東村ですが・・。」 「祝電を打ってくれたまえ、この店の名でな・・」 「え?祝電を打つんですか?」 「復唱はどうした!」 「は?」 「復唱だ!」 もういい。この店の主人も東村と同様おかしいようだ。 「鷲谷、俺はお前を弟の様に思ってきた。行け!・・」 「なんであんたはオレの名前を知っているんだ?」 「東村機関長に謝れ!」 「はあ?き、機関長って???」 「言い訳をするな!鷲谷!ドライバー代理を引き受けたんだろ。いいな!」 「いいかげんにして下さい」 とにかく事故が起きてしまっている。 さっきからのトンチンカンなやりとりは何だろう。 まったく話が通じない。 さて、何とか事故の処理をしなければならない。警察や保険に連絡を入れなければ。 それに東村さんは精神をわずらっているのだろうか。救急車も呼ばねばならない。 店の外に出ると車が見えた。 見ると車から湯気が立ち上っていた。 車の中をのぞくと東村がぶつかった衝撃でハンドルにもたれかかっている。 「東村さん、大丈夫ですか」 声をかけると気がついたらしくウウッ・・といいながら顔を上げた。 「それでは1つだけ言わせてもらおうか。車に火をつけるんだよ」 「は?何を言っているんですか?そんなことをしたら車が燃えてしまいますよ!」 「5分や10分で無くなるものでもあるまい。燃えきる前に和菓子の店に車で突っ込め!」 「和菓子の店といいますと?」 「そこの和菓子の店だ。私はあそこからの毒電波でコントロールされ自分の意思を失ったんだ。汚い店といえども、元は美しい店だったに違いない。和菓子の和三盆を強酸糖に変えたのものはおそらく、店内部の左翼のシンパだろう。そいつらを撃ち抜いて、店の内部に民主主義を誘発させるのだ。反撃の機会を掴むには、それしかないと思うのだが。忘れるなよ、燃える前にやるんだぞ」・・・」 「やるわけないだろ。だいたい毒電波って何だよ、あんた、人をひき殺そうとしてそんな言い訳はないだろ!謝れ!」 「鷲谷くん、きみが信じてくれないなら私がやる。たかが車のラジエターをやられただけだ。」 そういうと車のエンジンをかけて動かそうとした。 (あっ!動いた!あんなにぶつかっているのにまだ動くなんて!) 車は電柱から離れるとラジエターをふさいでいたものが取れたせいかもわっと白い湯気があがった。 車は湯気が出たままゆっくりと和菓子の店に向かっていった。 店入り口の引き戸が真横にとび、柱がバキッと音を立てる。バりーン!ガラスの割れた音がする。 車は店の中の陳列ショーケースに当たった。車は止まったがまたゆっくりと前進し始めた! 和菓子屋の店主は店の奥で叫んだ。 「東村め、やりおったか」 店主の妻が報告を行う。 「東村車、店内に突入しました!」 「音量攻撃に切り替えろ。天井の全スピーカーの大音量を東村の頭上から見舞うのだ」 「あなた、お願いよ、もうお止めに下さい。まだお気付きになりませんか。和菓子の老舗店といえども敗れる事はあったのです。これ以上の戦いはこの店の自殺行為です。お止めて下さい。そして遅まきながら東村さんとの和平を!話し合いによる東村さんとの共存の道を」・・・ 「きみはバカかね?・・・こうなったら東村の乗った車をバックさせるしかない!」 冷たく言い放つと決意したようだった。 店主は店の中でショーケースを押しながらゆっくりと押し入ってくる車を見るとすばやく 助手席側のドアをあけようとした。 「いかん!店のおやじは自爆する気だ!」 東村は助手席ドアを手で押さえて開けられないようにした。 間一髪間に合った。 「フフフ・・・圧倒的じゃないかこの車は」 東村はドアをロックしてほくそ笑んだ。 しかしそれもつかの間、後部の荷台から店主が乗り込んできた。 「意外と東村も甘いようだな・・こう近づけば後方からの攻撃は無理じゃな」 「ヌウッ!神羅洲の店名を語る不届き者をたたっ斬るぜ!!斬り捨てだーっ!!」 鷲谷は店の中にめり込んだ車の後部を見ていた。彼らはいったい何をやっているんだろう。 車のめり込んだ店。脇から入ると車内で東村が店の爺ィに首を絞められているところだった。 「安心しろ、鷲谷!こんな事もあろうかと自爆装置を開発しておいた!こんな爺ィに殺されてたまるか。」 「もういいです。あななたちはどうかしている。もう係わり合いになりたくない。勝手に自爆でも何でもして下さい。おかしいですよ、東村さん!」 店主は東村の首をしめながら鷲谷に言った。 「それにしてもいい度胸だ。ますます気に入ったよ。しかし、店の外で会ったらこうはいかんぞ。がんばれよ、自分の力で勝ったのではないぞ!ん〜もはやこれまで、こうなれば、鷲谷様とて、お手向かい致しますぞ!!」」 次の日、鷲谷は一軒の店が死んだことを悟った これで良かったのか・・・。
行き当たりばったりの話は続く・・。 |
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