今週の音盤は、セルゲイ・ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番です。
古今東西の音楽のなかでも、屈指の名旋律の宝庫です。音楽を聴いて、癒されたいとか、胸がキュンとなりたいといった気分の時に聴けば、効果抜群です。例えば、道ならぬ恋にはまって切ない思いに悩んでいるとか、片思いで先方が振り向いてくれないとか、綺麗に別れたたはずだったのに、未だに引きずっていて立ち直れないとか、様々な恋愛症候群の人が聴けば、まるで自分自身が何処かの映画の(悲劇の)主人公になったような気持ちになれるはずです。
それくらい、旋律のチカラに満ちた曲です。マリリン・モンロー主演で有名な映画「7年目の浮気」や、アカデミー賞とカンヌ映画祭グランプリ受賞のデビット・リーン監督「逢いびき」でも使われて、大いに雰囲気を盛り上げたわけです。だから、クラシック音楽の得意でない人でも聴けば、きっと「ああ、これね。聴いたことがある」と思うはずです。兎に角、品の良い哀愁のメロディーが静かに、でも、確実に胸の奥のツボに触れます。
名演多数ですが、一押しは、アルチュール・ルビンシュタインのピアノとユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団の盤(写真)です。未だにルビンシュタイン盤を超える録音はない、と断言します。何故か? 理由は簡単です。ルビンシュタインのピアノのタッチがとてもエロいのです。ため息が出ます。
しかも、この名盤はルビンシュタイン84歳の時の録音です。84歳。老境にあって、あの難曲を完全に弾き倒し、かつ余人には到達できないエロスの音世界を構築してしまった。ほとんど神業です。1887年(明治20年)生まれが84歳というのは、1971年の録音とうことです。録音技術も十分に確立している時代なので、音質はもともとしっかりしていますが、最新テクノロジーによるリマスターで音質が更に向上しています。チカラ強く洗練された繊細なタッチが味わえます。
実は、ラフマニノフがこの曲を完成させたのは28歳の時です。この作曲の経緯は後で触れますが、いろいろ、本当にいろいろあって(人生いろいろですから)、生まれた世紀の名曲です。だから、若き日の悩みや葛藤や陶酔が溶け込んでいます。もちろん、過敏な恋愛中枢をこれでもかというほど刺激する若い感性がほとばしっています。
要するに蒼く瑞々しい若さに溢れた曲なのです。それを84歳のピアニストが弾いているのです。妙な例えですが、84歳の俳優が27歳の青年の役を演じることを想像してみて下さい。ルビンシュタイン恐るべし、です。人生のすべてを経験し、性愛と官能を味わい尽くし、その甘さも苦さも痛さも知っているからこそ表現できる境地に達したのです。だから、若いモンにはまだまだ負けんよ、この艶っぽい音は出せんだろう、という翁の高笑いすら聞こえて来そうです。
ルビンシュタイン盤は別格ですが、次に聴くべきは、ラフマニノフ自身が弾いた盤です
抜粋転載
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