FLOATING WEED

好きな音楽や映画、漫画、サッカーなどのことを書き綴っていこうと思います。

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視線(2)

葛城が冴子と出会ったのは漫画喫茶だった。


当時葛城はそこで店員として働いており、冴子はそこの常連客だった。

端正な顔立ちで長い黒髪を靡かせ、きっちりとしたパンツスーツ姿で現れる冴子は、常連客の中でも際立って知性を感じさせた。
葛城は自然とそんな彼女のことをよく記憶していた。


彼女はいつも同じ個室を利用していた。
個室といっても完全に仕切られたわけではなく、外から覗けない程度の壁で仕切られている一畳程度の空間だ。そこにはパソコンも一台備えつけられている。

彼女がそこを利用する日が特に決まっているわけではなかったが、夜に利用することが多かったようだ。


彼女はそこで、漫画や雑誌を読むことは少なく、おそらくパソコンを利用していたのだろうと葛城は想像していた。
葛城が知る限り、彼女がトイレやドリンクを取りに個室から出ることはあっても、本を物色して部屋に持ち込んでいるところを見たことがなかったからだ。


葛城がそこまで彼女の動きを知っていたのには理由がある。

常連客の中でも目を引く存在だった彼女が気になっていたことも事実だが、彼女のいつも使っている個室が受付から常に目に入る場所にあったことが最たる理由だ。

その部屋は受付の正面から奥へと続く通路の突き当たりにあるので、その扉が開かれるたびに嫌でも目に入ってしまう。
客のほうも、そこが受付から目に入りやすい場所だとわかっているのか、わざわざその部屋を指定して使うのは彼女くらいしかいなかった。


ある日、いつものように受付をしていると彼女のいる個室のドアが開かれた。
葛城が反射的にそちらのほうに目を向けると冴子もこちらを見ていた。

目が合うと、彼女は微笑んでから軽く会釈をしてきた。
それに対して、慌てて葛城も会釈し返した。
次第にそれは決まりごとのように毎回繰り返されるようになった。

そのころから二人は受付でも言葉を交わすようになった。
とはいっても、それは会話と呼べるようなものではなく、

「今日は寒いわね。」
とか、

「今日は忙しいみたいね。」
とか当たり障りのないものだった。

葛城は、少しずつ冴子は自分に気があるのではないかと思い始めていた。
正直葛城は自分の容姿には自信がある。
その甘いマスクに惹かれて寄ってくる女性も少なくなかった。

しかし、冴子のような女性が自分を相手にするだろうかという思いもあった。
彼女からは、自分の付き合った女性にはないものを感じる。
大げさに言うと住む世界が違う人間だと思っていた。
葛城は、そんな女性が漫画喫茶の受付の自分を相手にしないだろうとも思っていた。


それから特に冴子からアクションがあるわけでもなく、しばらくそんな状態が続いた。
葛城も、冴子が自分に気があるというのはやはり気のせいだと思っていた。
そんなある日、いつものように彼女は受付に現れた。そして受付を済ませ部屋へ向かおうと数歩進んだ後に、思い出したようにもう一度葛城のほうを向きなおした。


「そうだ、友達にライブのチケットを貰ったんだけど、一緒にどうかしら?」

葛城はあまりにも急な彼女からの誘いに驚いた。
そして返事に困っていると、

「このライブなんだけど。」

そういって、冴子はカバンからチケットを二枚取り出して葛城に見せた。

葛城はまた驚いた。
それは葛城が最も好きな“コールドアイズ”というバンドのライブだったからだ。

葛城もそのチケットを手に入れようとしたのだが、チケット販売からわずか一時間にも満たないうちに完売し、悔しい思いをしたのを思い出した。


そのあともネットオークションでだいぶ探したのだが結局それを手にすることはできなかった。


そのチケットが今、目の前にある。
葛城は迷わずに誘いを受け入れた。





ライブの当日、葛城は正直緊張していた。
店では何度も顔を合わせているものの、冴子とまともに会話をするのは初めてだし、ほとんど初対面のようなものだ。


緊張の面持ちで待ち合わせ場所につくと、すでに彼女はその場に待っていた。

「すみません。待ちましたか?」

「いいえ。私も今来たところだから。」

そういって、冴子は微笑みかけてきた。
葛城はそんな冴子にどことなく、店で見るときよりも女性的な雰囲気を感じた。


ライブ会場へと向かう途中葛城は思い切って尋ねてみた。

「なんで僕を誘ってくれたんですか?」

「せっかくライブチケットが手に入ったんだけど。なかなか一緒に行く人がいなくてね。
ほら、音楽って趣味があわないとつまらないじゃない?
そう思っているときに、あなたがあのバンドのTシャツを着ていたから思い切って誘ってみたの。」

「そうだったんですか。」

そういいながら葛城は、

(あのバンドのTシャツは確かに持っているし、店でも着たことがあったが、あの日着ていただろうか?)

ふとそう思った。

しかし、あの日着ていなかったという確かな記憶はないし、以前着ていたのを記憶してくれていたのかもしれないと思いそれ以上深くは考えなかった。

「堂島さんも好きなんですか?コールドアイズ。」

「堂島さんなんて、他人行儀なこと言わないで、冴子って呼んで。」

「じゃあ…冴子さんも好きなんですか?コールドアイズ。」

冴子は一瞬“さん”もつけずに呼び捨てにしてほしそうな表情をしたが、さすがにいきなり年上の女性を呼び捨てにできないと思った。

「そうね。いろいろ好きな曲はあるけど、一番好きなのは“真夜中の行進”かな?」

葛城は驚いた。その曲は葛城がもっとも好きな曲だ。
ここのところヘビーローテーションで聴いているのもこの曲だった。
ライブへ備えて、昨日も何度となくパソコンから流れるこの曲を聴いた。

冴子がこの曲を口にしたことに驚いた理由はもう一つある。
最初、冴子は大して好きでもないバンドのライブチケットを友人から譲り受けたのだろうと思った。

このコールドアイズは激しく縦ノリするようなバンドだ。
なんとなく冴子のような女性が好んで聴くものではないような気がしていた。

しかし、冴子が口にした“真夜中の行進”はシングル化された曲ではなく、アルバムにしか入っていない曲で、いわゆる隠れた名曲というやつだ。
それを知っているということは、彼女も間違いなくコールドアイズのファンなのだろう。

意外な共通点に葛城は急に親近感を覚えた。



ライブ会場では葛城は大いに盛り上がった。
横にいる冴子はというと、湧き上がる会場の乗りに乗ることなく、どちらかというと静かに曲を聴いている。
しかしライブの楽しみ方は自由だと思い、葛城はさして気にもとめなかった。
なによりライブに夢中で冴子のことなど気にしていられなかった。



ライブ後は冴子に誘われそのまま二人で飲みに行った。
そのときの葛城はライブの興奮が覚めやらず、高いテンションのままだった。
酒の力もあって葛城は、好きな音楽のこと、好きな映画のことなど、いろいろなことを冴子に語った。

冴子はそんな葛城の会話を受け止めるように聞いていた。

しかも、冴子はただ聞き役に徹するだけではなかった。葛城のするどの話題にも的確な相槌を打ち、時には葛城以上の知識を披露することさえあった。

葛城は彼女にずっと自分のことを知ってくれているような安心感を抱き、次第に冴子に心を許していた。


その日どちらがどう誘ったのかは覚えていない、気づくとホテルの一室で二人は一夜をともにしていた。


それから、葛城は冴子と付き合い始めた。









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待望の更新!!
文章が綺麗で読みやすかったです。
続きが楽しみです♪

2010/4/27(火) 午後 9:22 [ ]

>ありがとうございます!
読みやすいように、推敲した上でまたアップします。

2010/4/28(水) 午後 7:45 [ メヅ ]


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