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「それきり彼女から電話がかかってくることはありませんでした。 そのかわりに…」 そこまで言って男は口籠った。 「そのかわりに、どうしたんですか?」 大崎はあくまで穏やかな口調で促した。 男はなにかに踏ん切りをつけたように目線を上げて続きを話し出した。 「そのかわりに、メールが届くようになりました。」 「メール…ですか?」 大崎は心の中で首を捻った。やりようによっては電話よりもメールのほうが無視することは容易いはずだ。 しかし男の話しぶりを見るとこのメールの方が厄介なように聞こえる。 そんな大崎の反応を尻目に男は話を続けた。 葛城は冴子から電話があってからは、不振な電話にはもう出るまいと思っていた。 しかし予想に反して、その後彼女から電話がかかってくることはなかった。 何も動きがないことで、逆に不気味さを感じていたころ、見知らぬアドレスから携帯にメールが入ってきた。 そこには文面はなく、画像だけが載せられている。葛城は恐る恐る携帯の画面をスクロールさせた。 すると、そこには葛城の姿が大きく映っていた。 服装からすると、昨日撮られたものらしい。 背景に写り込む建物をみると場所は駅前だろう。 つまり、昨日あの場所に冴子もいたのだ。 人ごみに紛れて葛城に近づき監視していたに違いない。 葛城は恐ろしくなった。 “いつでも私は監視している” 冴子の無言のメッセージを感じた。 それから、葛城の姿を写しただけのメールが毎日届いた。 もちろん葛城は受信拒否をしたりしたが効果はなかった。 携帯だけでなくパソコンのメールにも次々に違ったアドレスからメールは送られてくる。 時には写真だけを入れられた封筒が郵送されていることもあった。 葛城はとうとう警察に相談することにした。 しかし警察の反応は葛城が満足できるものではなかった。 「わかりました。一応あなたの家の周辺の見回りを増やすようには言っておきます。」 事情を聞いた警察官から、事務的な口調でそう言われた。 「これだけ毎日被害を受けているんですよ。彼女を逮捕とかできないんですか?」 葛城は担当の警察官に食って掛かった。 「そう言われてもね。写真が送ってくるだけでしょ?それだけで犯罪に結びつけるのは難しいんですよね。 それにそのメールだって、その彼女が送ってきているという証拠はないんでしょ? それとも、彼女があなたを撮影したところを目撃されたんですか?」 葛城は言い返す言葉がなかった。 間違いなくあのメールを送ってきているのは冴子だろう。 しかし、あれだけ毎日自分を写したメールが送られてくるのに、それを写す彼女の姿を見たことは一度もなかった。 警察が役に立たないとなると自分で何とかするしかない。 そう思い葛城は行動に出ることにした。 今の彼女と接触することは多少危険が伴うかもしれない。 思い余った彼女が何をしでかすかはわからないが、もし襲われるようなことになっても、男である自分が後れをとるようなことはないだろうという自信はあった。 それに、何かあったときに多少手傷でも負って実害が出れば警察も動かざるをえないだろう。 そう思い葛城は彼女のマンションを訪れた。 そして、オートロックの前に立ち彼女の部屋の番号を押すと呼び出しボタンを押した。 しかしそれに応答はない。 もう一度呼び出してみる。 やはり応答はない。 入り口からは、コンビニの袋をぶら下げたこのマンションの住人であろう男が入ってきた。 葛城のことを物珍しげに見るその男は、早く退けとでも言うように葛城の後ろをうろちょろしている。 葛城はもう一度彼女の部屋番号を押し呼び出してみた。 やはり応答はない。 「その部屋の人ならこないだ引っ越したよ。」 振り返ると、さっきの男が覗き込んでいた。 「え?」 葛城が驚いた表情を見せると、面倒くさそうに男は続けた。 「だから、504に住んでた人だろ? こないだ引越してったよ。俺はその隣に住んでるからさ。 間違いないよ。」 そして早く退いてくれとでも言いたそうな表情を見せた。 「あの、それはいつごろですか?」 「一ヶ月くらい前だったと思うけど。 半年もしないうちに引っ越すなんてなんか訳ありなんじゃない?」 引っ越した時期とメールが届きだした時期はちょうど一致する。 もしかしたら、近場に引っ越して監視しているのかもしれないと葛城は思った。 「彼女がどこに行ったか心当たりはない?」 「あるわけないだろ?ただの隣人だし、まともに挨拶したこともないよ。」 「ありがとう。」 葛城がそういうと、男はオートロックを開けマンションへ入ろうとした。 「あ、ちょっと待って。」 葛城は男を呼び止めた。 「さっき君、彼女は半年もしないうちに引っ越したっていったよね?」 「ああ、そうだけど。」 「それって間違いない?彼女は2年くらい前からここに住んでるはずなんだけど。」 「間違いないと思うけど。いつもスーツ姿で、綺麗な人だったから覚えてるんだよ。 確かその前はもっとダサい格好の暗そうな女の人だったと思うから。」 「ありがとう。」 もう一度礼を言うと、葛城はマンションを後にしようとした。 「あれ、ちょっと待てよ。」 そう呟いた男の言葉に葛城は足を止めた。 「そう言えば、前に住んでたダサい奴と、あのスーツの人は背格好とか良く似てたな。 全然気づかなかったけど、もしかしたら、あの二人は同じ人だったのかも知んないな。」 葛城は帰り道、男の言葉を思い返していた。 男が言うように、二人は同一人物で半年くらい前に突然イメージを変えたとする。 その時期はちょうど葛城と冴子が出会ったころだ。 つまり、冴子は葛城と会う前に、急に葛城好みの女性に変貌したことになる。 ということは、冴子は葛城の好みを知った上で、計画的に葛城に近づいてきたということだろうか? しかし、彼女が演じた理想像は葛城の頭の中だけにあった理想像だ。 それは冴子はおろか、他の誰にも知ることはできなかったはずである。 それを出会う前から冴子がしっていたとは考えにくい。 葛城の心の中に言い知れない不気味さが渦巻いた。 |
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冴子、まさかの超能力者ですかね?!
失礼、少しふざけました 笑))
しかしアレですね。
警察ってなんだかんだ言って、
結構一般市民の声に耳を貸さないこと多いですよね。
テレビドラマに出てる熱血刑事なんて、夢のまた夢な気がします。
あ、ふと思ったのですが、冴子の目的はなんなのでしょう・・・
葛城と再び付き合うこと?それとも葛城を殺したり・・・?
愛情ゆえになのか、憎しみゆえになのか、
愛情なのでしょうが、相手に伝わりにくい伝え方をあえてする、
冴子の真意がまったくもってわかりません・・・
2010/6/14(月) 午後 10:33 [ 優 ]
またまた、謎が謎を呼ぶ展開になってきましたね。楽しみです。
2010/6/15(火) 午前 1:23
>優さん
いろいろ考察していただいて、本当にありがとうございます!
徐々に冴子の真意についても明らかになってくると思うのでもう少しお付き合いいただけたらと思います。
2010/6/15(火) 午後 9:34 [ メヅ ]
>smilekazetnさん
謎が謎のままに終わらないよう、このあと少しずつ真相に近づければと思います!
2010/6/15(火) 午後 9:36 [ メヅ ]