FLOATING WEED

好きな音楽や映画、漫画、サッカーなどのことを書き綴っていこうと思います。

全体表示

[ リスト ]

視線(12)

その後の男の話からも、結局冴子が逮捕された真相はわからなかった。

正直冴子の逮捕の件など、彼の話には腑に落ちない点は多い。
彼女がハッカーだと仮定しても、どうやって彼の写真を姿を見せずに写すことができたのかも謎のままだ。

しかし、彼の視線恐怖症の根源だと思われる彼女がいなくなったということで、治療は幾分かやりやすくなることは確かだ。
大崎は好奇心を擽られながらも、その点では少し胸をなでおろした。

「葛城さん。あなたを監視していた冴子さんは、もうあなたを監視することはできません。
安心していいんですよ。」

大崎は柔らかい口調で彼に語りかけた。

「そうでしょうか…。」

男は不安そうな声を上げた。そしてまた視線を落として続けた。

「確かに彼女は逮捕され、その日から彼女の視線から開放されました。
でも、今はまた違った視線に監視されているような気がするんですが…」

「大丈夫ですよ。今は彼女に監視されていたトラウマからそう感じているだけです。
すぐに克服するのは難しいかもしれませんが、少しずつ前向きに考えて行きましょう。」

「そうですね。私も少し神経質になりすぎていたのかもしれません。」
そういって男は葛城の方を見た。

大崎は彼の表情が、ここへ来たときよりも和らいでいるのを感じ安堵した。

「では、今日はこのくらいにしましょう。
薬を出しておきますので、後で受付でもらってください。薬の説明は受付のものから直接ありますので。」

そういって大崎は立ち上がった。

男もそれに促されるように立ち上がり、軽く会釈すると、部屋を出ようとドアノブに手をかけた。



そのとき大崎は、胸のところで震えるものを感じた。
それを胸からとりだし開くと、画面は妻からの着信を告げていた。


大崎は、数日前に彼女から一方的に離婚を言い渡されていた。
再三の浮気がばれての結果だ。
そして彼女は家を出てそのまま連絡がとれなくなっていた。


慌てて大崎は電話に出た。
今まで何度も電話したが、いつも留守電だった。
この機会を逃したら、またいつ連絡できるかわからない。

「もしもし…」







扉から出かけていた葛城は、慌てて電話に出る大崎の声を聞いて、ふとそちらを振り返った。

そのとき葛城は不快な何かを感じた。

そして葛城はその正体を探ろうとあたりを見回し、大崎の手元で視線を止めた。


あの視線だ。


いつも自分に向けられているあの視線が、今また自分を静かに見つめている。

葛城は取り乱して大崎のほうに迫った。






大崎は、自分にむかってくる男に気付き驚いた。

「見るな。見るな。」

男はそう叫びながら迫ってくる。


思わず大崎は男を突き飛ばした。














どれくらいたったのだろう。
大崎は鳴り響くサイレンの音で我に返った。

傍らには頭から血を流した男が横たわっている。
運悪く、突き飛ばされた拍子にテーブルで頭を打ったのだ。

(なぜこんなことになったのだろう。)

呆然としゃがみこみながら大崎は考えた。
葛城は急に取り乱して暴れだした。
では、その原因はなんだったのだろうか?

ふと、傍らに転がる携帯電話が視線に入った。

それを見ていると葛城が襲い掛かってきたときの視線がよみがえってきた。

それは自分をとらえてはいなかった。

その視線は、その時に手に握られていたものに向かっていたのではないだろうか。


“まさか”

大崎の中で一つの考えが浮かび、それが今組みあがろうとしていた。

朦朧としていた頭がはっきりしてくる。
するともう一つ疑問が浮かんだ。

(誰が通報したのだろう?)

大崎が時計に目をやると、あれからまだ十分足らずしかたっていない。
治療中は部屋に入らないように言ってあるので、その間この部屋に入った人間はいない。
外の人間が異変に気づいたとしても、部屋も覗かずに通報することはないはずだ。


その答えは、まさに今大崎が組み上げようとしている仮説を裏付けるものだった。

“まさかそんな大掛かりな監視システムが…”

そんなことを考えていると二人組の男が入ってきた。

「大崎博文だな。葛城良介殺害容疑で逮捕する。」

大崎はそれに反応することなく力なくうなだれていた。葛城を殺してしまったことよりも、今自分が辿り着いた真実のほうが大きな衝撃だった。

そしてあとから入ってきた他の刑事に抱えられ、そのまま連れていかれた。




「早かったですね。」

制服警官が二人の刑事に尋ねた。

「ああ、被害者のほうを別件で張ってたからね。」

宮内はそう答えた。丹羽は余計なことを言うなとでもいうようにそれを睨みつけた。


制服警官が去ってから宮内が口を開いた。

「これでまた堂島冴子が盗んだデータのありかがわからなくなりましたね。」

「ああそうだな。」

丹羽はしかめ面をしている。








「私は彼を見守っていただけです。」

頑なに堂島はそういった。
逮捕されてからずっとこの調子で取調べはいっこうに進んでいない。

「だから、そのことはもういいいと言っているだろう。
ただその見守るときに使った手段が問題だ。
君がハッキングしたあのシステムは警察の中でも重要機密でね。外部に情報を漏らすわけにはいかんのだよ。そろそろ君が奪ったデータをどうしたか教えてくれないかね。」

彼女はそれにまったく答えようとはせず、一点をみつめたまま動こうとしない。
丹羽は経験から、この女に自供させることは難しいだろうと思った。







冴子は焦っていた。
こんなことをしている場合ではない。私はここを出て良介のことを守らなければならないのだ。
どうにかしてここから出られないものか。
冴子はずっと考えていた。

そしてふと思いついた。ここから出られない間は他の人に監視してもらえばいいのだ。

冴子は重い口を開いた。


「あのシステムについてのデータはある場所に保管してあります。」

丹羽の顔色が変わった。

「それはどこなんだ?」

冴子は表情を変えずに答えた。

「それは、良介が知っています。」

「良介?葛城良介のことか。」

冴子はそれに答えることなくたんたんと続ける。

「ただし、彼はそのデータのことは何も知りません。ただいつか彼が見つけてくれるように、彼が生活している中でいつかたどり着く場所に隠しておきました。
だから彼を問い詰めても無駄です。」

「それはどこなんだ。」
丹羽は怒鳴ったが、それ以上彼女が口を開くことはなかった。








それから葛城の周辺を探したが、例のデータは出てこなかった。
そして仕方なく葛城を監視していた矢先にこの事件が起きた。
これでまた手がかりがなくなる。
上司に怒鳴られることを思うと丹羽は頭が痛かった。


「とにかく、あの情報は絶対外部に漏らしちゃならん。
せっかく民間企業とともに何年もかけて作り上げた監視システムが水の泡になるからな。」

丹羽は険しい顔をした。

このままだと企業のほうにも事態を説明せねばならないかもしれない。
そう考えると憂鬱だった。

今や100%に迫る普及率のあの製品が、国の監視システムに組み込まれていることが世間に知れたらどんな影響があるか計り知れない。


「それにしても怖い時代になりましたね。」

そういうと、宮内は床に転がった大崎の携帯を拾い上げ、それをまじまじと見つめた。




大崎が警官に連れられて表へでると、警察に交じって野次馬が集まっていた。

彼が顔を上げると、パシャパシャという音とフラッシュの光が容赦なく彼に襲い掛かってくる。

大崎はその野次馬の集団を見た。

その集団は誰一人大崎の方を見ていない。ただ、手に持った物体の画面を凝視している。



そして、その物体から放たれる冷たい視線だけが、静かにこちらをとらえていた。
     


                           <了>






閉じる コメント(7)

顔アイコン

コレって・・・
携帯電話に国の監視システムが組み込まれていたコトですか?
まさか、冴子はそれをハッキングして?
うわー・・・
この解釈であっているのかは謎だとして、
ものスゴイエンディングでした・・・
私は実を言うと大崎もグルだと思っていたんです。
なんか怪しいなーって。
あ、ってか結局葛城の恐れていた視線って携帯電話だったって
ことですよね?
便利な時代になっていくのはいいことですが、
本当にこんな事件がおきてしまいそうで恐ろしくなりました・・・
しかし!!
今回も傑作でしたねー!!
流石です!!
もっのすごい面白かったです!!
読み応えもあって・・・
羨ましいほどの文才をお持ちでいらっしゃいますね。
次の作品は何か予定されているのですか?
かかれるときは言ってください!
また、絶対に読ませていただくので!!
ずばらしい作品をありがとうございました。

2010/7/12(月) 午後 11:12 [ ]

>長い間駄文にお付き合いいただきありがとうございました!
ありがたい意見をいただきうれしい限りです!
またなにか書く機会がありましたらよろしくおねがいします。

2010/7/14(水) 午前 0:15 [ メヅ ]

顔アイコン

どんな展開になるのか楽しみに読ませていただきました。
(11)から冴子サイドからに移ったので、真相が解るのかと思っていたら、以外な結果でした。
冴子は曲がった純愛だったのでしょうか。どうにも解明できない昔からの人間の深い心の闇と、現代社会のクールな犯罪が対照的でした。
ありがとうございました。

「まばたきの季節」はゲスブに感じたことを書いています。

2010/8/15(日) 午後 4:26 まこちゃん

顔アイコン

あ、ポチ(^o^)丿☆を!

2010/8/15(日) 午後 4:27 まこちゃん

顔アイコン

はじめまして♪
古い記事からいくつか読ませていただきました♪
私には無い感じで「ふむふむ」と感じました♪
今年小1の娘と2歳の娘の話ばっかりですが遊びに来て下さいね♪待ってます!

2015/4/23(木) 午後 5:09 [ ゆうこ ]

顔アイコン

2児のママです♪って初ではないので、知ってますかね♪
在宅ワークの合間にいつも更新確認しちゃったりしてます(笑)
私も文字の選び方や着眼点が上手になるとイイのですが(笑)
ここはこうすれば見易いんじゃない?なんてアドバイス下さい♪

2015/10/14(水) 午後 1:32 [ ゆうこ ]

顔アイコン

メヅさん初めまして♪d(´▽`)b♪
ランダム検索からお邪魔しブログ読みました(◎>∀<◎)
…もし良かったらでいいんですけど今後書き方の参考にしたいので、私のブログを読んで感想など聞かせて貰えませんか?(見て頂けるだけでも嬉しいです)

今メッセージの設定してないので
saki-hanamizuki@i.softbank.jpまで連絡お願い致しますヽ(*’-^*)。

2016/1/30(土) 午後 2:40 [ pla***** ]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!
数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事