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好きな音楽や映画、漫画、サッカーなどのことを書き綴っていこうと思います。

まばたきの季節

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まばたきの季節を読んでくださった方はありがとうございます!

読んでいない方は、お目汚しにもなりませんが目を通していただければ幸いです。



この話は以前から構想があったものをスピッツの“楓”をモチーフに加筆修正したものです。
タイトルも含めてちらほらとその要素が見られる部分もあるかと思います。

文章のボリュームも多くないですし、まだまだ表現が豊かでない部分や、掘り下げられる部分もあり、修正していく部分も多いと思うので、そういったことも含めた意見や感想をいただけたら喜びます。

最後に、素人の駄文に付き合ってくださって本当にありがとうございましたm(_ _)m





まばたきの季節(11)

「なんだか3年も眠っていたなんて信じられない。」

彩は不思議そうにつぶやいた。
そんな彩の話に浩二は“ああ”と、そっけなく相槌をうっている。

「でもね、なんとなく覚えてるの、眠っている間に私の手を握ってくれた手の感触を。」

そういうと、彩はそっと目を瞑ってその感触を思い出そうとした。

すると、なにかが胸につかえているような感覚に襲われた。なにかもやもやとしたものが彩の胸をしめつける。
そのもやもやに気をとられていると、不意に彩は立ちくらみがし、その場でよろけた。

倒れそうになった彩の手を浩二はそっととって、自分のほうへと引き寄せた。

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ありがとう。」

そう答えながら彩はドキリとして、浩二の顔を見た。


“トントン”

そのときドアをノックする音がした。
目をやるとそこには、見慣れない女性が立ってる。

「どなたですか?」

彩は尋ねた。

「ずっとあなたを担当していた、看護師の田島です。
はじめましてって言ったほうがいいのかしら?」

「そうだったんですか。それはお世話になりました。
ずっと担当してくださっていた方が最近退職されたとは聞いていたんですが、ずっと眠っていたから何も覚えていなくて。」

そういって彩はすまなそうに微笑んだ。


田島が彩が目覚めたことを知ったのは、彩が目覚めて数日してからだ。
彩が目覚めたことにも驚いたが、優一が婚約者でなかったという事実にも驚いた。
しかし、彼女を守りたいという彼の気持ちに嘘はなかったはずだと思った。
やさしく彩のことを見守る優一のことを思い出すと、そこに嘘があったとは思えなかった。

田島はできることなら目の前にいる彩に優一がどんなに献身的に彼女を支えていたか伝えたかった。

しかし、それは優一から硬く口止めされている。


「これからどうするの?」

「とりあえず当分は、彼のところでお世話になります。
今後のことは、それからゆっくり考えようと思っています。」

「そう、お元気でね。」

田島は彩に微笑みかけた。

「荷物も片付いたし、そろそろ行こうか。」

浩二は田島に会釈をすると、部屋を出て行った。
それに続くように彩も会釈をして部屋から出ようとした。

「あ、佐々木さん。」

田島は彩を呼び止めた。

「これを渡すのを忘れてたわ。
あなたの病室の前に置いてあったそうなの。
きっとあなたをお見舞いに来た人からのプレゼントよ。本当は花も一緒だったんだけどそっちは枯れちゃったみたいだから。」

そういって、小さな包みを彩に手渡した。

彩がそれをあけると、小さなハートのついたネックレスが入っていた。
よく見ると、それには何かにぶつけたように小さな傷がついている。
彩はそのネックレスに微かに見覚えがある気がした。


確か、街を歩いているときに見掛けて一目惚れしたネックレスだ。
眠ってしまう前に、店の入り口にディスプレイされているそのネックレスに目を奪われたことがあった。

しかし、その時ディスプレイの前で足を止めたわけでなく、視線を向けたまま通り過ぎただけだったはずだ。

なぜ、そのとき自分は足を止めずに通り過ぎたんだろう?

何か大事なことが思い出せそうな気がして、彩は順を追ってそのときのことを思い返した。


そうだ、そのとき私は一人ではなかった。彼と一緒に食事に向かう途中だった。

そして、私の視線に気づいた彼は言った。

「ああいうの好きなの?」

それを聞いて、こくりと頷いた私に彼は優しく微笑みかけ、

「彩にきっと似合うよ。」

そう言ってくれた。

彩は彼からのその一言がとても嬉しかったことを思い出した。


しかし、まだ頭の中に靄がかかったような感覚があった。
さっきから大事なことを忘れているような気がする。
その靄を振り払おうと、目を閉じもう一度彼の手のぬくもりを思い出した。

頭の中の靄が少しずつ晴れ、何か大事なものに手が届きそうな気がした。

しかし、

「彩、行くぞ。」

その声に遮られ彩は我に返った。






陽子が次にアパートを訪れたときには、もう優一の姿はなかった。
優一のいなくなった部屋の前に立ち、ノブを捻ると、施錠していなかったようで扉が開いた。

そこには元から誰もいなかったかのように、がらんとした空間が広がっている。
陽子はここで優一と最後に会ったときのことを思い出した。



全てを告白し、うなだれたままの優一を陽子は見ていられなかった。
彼の悲しみを少しでも取り除いてあげたかった。
だが、今の自分にはそっとしておくことしかできないと思った。

「あたしもう行くね。」

そういって陽子が部屋を出ようとしたとき、優一が声をかけてきた。

「さよなら。」

陽子は振り返って優一を見た。

「さよなら。」

優一はもう一度陽子の目を見てそう言った。

「さよならなんて、なんだか永遠の別れみたい。」

「そんなことないよ。
本当に別れるときはきっと、“さよなら”なんて言わない。
次また会えるから、さよならを言うんじゃないかな。」

そう言った優一の顔は少し笑顔を取り戻しているように見えた。

「そっか。そうかもね。
じゃあ…さよなら。」

そういって陽子は優一に微笑みかけた。


それが優一と交わした最後の言葉だった。
陽子は携帯を取り出し、優一の番号を開くとコールしてみた。

しかし、それに優一が答えることはもうなかった。

「嘘つき。」

誰もいない部屋で陽子はつぶやいた。




部屋を後にして階段を降りる途中、逆に昇ってくる女性がいた。
足元を確かめるようにゆっくりと昇っている。
その女性が昇るのを、隅に寄って待っているとよろめいた女性が、陽子のほうにぶつかった。

「すみません。」

その女性はそういってまっすぐな瞳で陽子を見つめた。



















朝の静寂の中、打ち寄せる波の音だけが心地よいリズムを刻んでいる。
男はまだあたりが薄暗い中、防波堤の先へと歩いていき腰を下ろした。
男はここで静かに夜明けが訪れるのを待つのが好きだった。
いつものようにしばらくそこで海を見つめていると、背後に人の気配を感じた。


「やっぱりここにいたのね?」

その声に男は振り返った。
和服をきちんと着こなした女性がそこには立っている。

「すみません女将さん。」

そういって男は立ち上がろうとしたが、女将と呼ばれた女性はそれを手で制した。

「いいのよ、別に今は勤務時間じゃないんだから。」

そういうとその女性は男の横にたたずんだ。

「また海を見ていたの?」

「はい、この海から昇る朝日が好きなんです。」

和服の女性は少しの間男の横で海を眺めてから思い出したように言った。


「そうそう、ゆうさんにお客さんなのよ。」

そういってその女性は去っていき、入れ替わるように一人の若い女が近づいてきた。


「探したんだから。」

そういって女は男の隣に腰を下ろした。

「何で?」

男は女の顔を見て驚いた。

「私を見くびらないで。
私だって3年間ただ眠ってたわけじゃないんだから。
ずっと見守ってくれていた人が誰かぐらいわかるわ。」

彩は微笑みながら言った。

優一は言葉を失い、ただ茫然と彩を見つめていた。

「でもどうしてここが?」

優一はここにいることを家族にさえ告げていなかった。

「陽子さんって人に聞いたの。」

「えっ?」

「あなたのことを探して住んでたアパートに行ったとき、偶然彼女に出会ったの。
それで優一なら、朝日の綺麗なところにいるだろうって教えてくれた。

でも、それだけを手がかりにずいぶん探したんだから。」

そういうとこちらを見てまた微笑んだ。

「何で朝日の綺麗なところなのか、その理由も聞いたわ。」

彩は意地悪そうにいった。
優一は海を見ながらばつがわるそうにしている。



「ねえ、本当にあの時二人で朝日を見ることができてたら、私たちの関係が変わってたと思ったの?」

彩はからかうように言った。

「いいだろ、昔のことなんだし。」

そういうと優一は恥ずかしさを隠すように立ち上がった。そして朝日を見に行ったときの話を陽子にしてしまったことを少し後悔していた。


「あのときはどうだったかわからないけど。」

そういうと彩は優一のほうに手を伸ばした。

優一と彩の目が合った。あのころと変わらないまっすぐな瞳だ。

優一は、何も言わず吸い込まれるように自分の手を彩の手に伸ばし、そっと握り締めた。

彩は目を閉じて、その手の感触を確かめた。
自然と涙が込み上げてくる。

そして、目をあけるともう一度優一を見つめてささやいた。


「今度は何か始まるかもしれない。」



今生まれたばかりの太陽が二人を赤く染めていった。

                        〈了〉



















まばたきの季節(10)

病院に着くと高史や義徳、香織に梨香にまじって、彩の元彼も集まっていた。

なんでお前がいるんだ。そんな目で優一はその男を睨みつけた。

そんな状況に気づいた香織は二人の間に入ると、

「私が連絡したの、だって彩は浩二さんのことをまだ…」

そこまで言って泣き崩れた。

優一は向き直り、

「どんな状況なんだ。」

高史に問い詰めた。すると泣きながら香織がそれに答えた。

「彩の家族が乗った車が交通事故にあったらしいの。両親は即死だって。
それで彩も強く頭を打って危ない状態だって今お医者さんが。」

そういってまた泣き崩れた。



優一は、処置室の前で彩のことを考えていた。
しかし考えれば考えるほど、“さよなら”そう言ったときの彩の瞳ばかりが浮かんでくる。
優一はそれを振り切るように壁に頭を打ちつけた。
そんな優一に高史はつかみ掛かり怒鳴った。

「お前がそんなことしたってどうなるもんでもないだろ。」

優一は嗚咽しながら、力なく頭を抱えてしゃがみこんだ。



処置は夜通し続き、朝方になってやっと医師がでてきた。
その医師の口から、命は繋いだがおそらく意識は戻らないだろうと優一たちに告げられた。
そこにいた誰もが、その結果をどうとらえていいのか分からずに、ただただ黙っていた。



それからどのくらいその場にいたか分からない。

「優一、ここにいたって仕方がない。もう帰ろう。
お前までまいっちまう。」

そう高史は声をかけたが、優一は動こうとはしなかった。

まだ残っていた浩二は、

「じゃあ俺は帰るから。」

そういってその場を去っていった。
それから他のメンバーも優一を気にしながら各々病院を後にした。




しばらくして優一が失意にくれたまま車に戻ると、後部座席には彩に渡すはずだった花束とプレゼントの包みが置いてあった。
優一はそれを乱暴に取り出すと、搾り出すような叫び声をあげて投げ捨てた。

包みから飛び出した、ハートのネックレスがアスファルトに跳ねて転がっていった。






それから何日かたって、優一は初めて彩の見舞いに行った。
どうしても彩の事故のことが認められず、なかなか病院に足が向かわなかったのだ。

優一が、彩の病室に入ると、彩はものものしい機械に繋がれていた。
それを見てやはり彩の事故が現実のことだと思い知らされた。

「なんで、彩が…」

ただ眠っているようにしか見えない彼女の顔を見て、優一はやりきれない気持ちになった。



優一が病室をあとにし、病院をとぼとぼと歩いていると、ふいに看護師の話し声が聞こえた。

「こないだ事故にあった女の子、生命維持装置を外されるらしいわよ。事故で両親とも亡くなってしまって、親しい親戚もいなかったみたいだから…。」

優一はその看護師に詰め寄った。

「さっきの話本当ですか。」

「さあ私は担当ではないので。」

優一の剣幕に驚いた看護師は、そういうとそそくさと去っていった。


優一はあの日の担当医を探し出し、ことの真相を問い詰めた。

「彩の生命維持装置を外すって本当ですか。」

医師は少し考えてから口を開いた。

「彩さんは両親も亡くなられて、他に親しい親類の方もいないようですので、申し上げにくいんですが、そうせざるを得ない状況です。
我々も助けたいのは山々ですが慈善事業じゃないんで。」

その医師はすまなそうに言った。
それを聞いた優一はたまらずにいった。

「僕が、払います。
僕が彩の治療費を払います。」

「失礼ですがあなたは?」

医師は驚いたようにきいた。

「僕は…」

優一は少し考えてから静かに答えた。

「彩の婚約者です。だから彩の治療費を僕に払わせてください。」











「だから嘘なんだ、婚約者ってのも全部。
本当は俺は婚約者どころか恋人ですらなかった。ただあの時はそうでも言わなきゃ信用されないと思った。
ただの友達が、いつまで続くかも分からない治療の費用を負担するなんて信じられるわけないだろ?」

陽子は、あきらめたように全てをさらけ出した優一の話を静かに聞いていた。

「それからは、大学もやめて俺は働いた。だけどいくら彩を支えていてもそれは俺が勝手にやってることだ。
彩が目覚めても、彼女が求めるのは俺じゃない。
それを考えると毎日不安だった。いっそ目覚めなければいいと思うことさえあった。
そして俺はできるだけ人と関わらないように生きてきた。誰かに依存すれば、彩を支えていることから逃げてしまいそうで怖かったんだ。」

「そのあとはさっきも言ったとおりだ。
彼女は奇跡的に目覚め、眠る前に好きだった人と幸せに暮らしてる。」


話をそこまで聞いて、陽子は自分の抱いていた違和感の理由を理解した。

陽子は彩に会った日から違和感を抱いていた。

まず、優一の部屋は婚約者がいたにしては殺風景過ぎた。
まだ眠る前の彩の写真の一つでもあるのが自然ではないかと陽子は考えた。
それに、最初に優一が婚約者がいることを告げなかったのも疑問だった。
婚約者がいながらも、その存在を隠して自分を口説くつもりなのかとも思ったが、優一がそんな不誠実な人間には思えなかった。

きっと優一は自分のついた嘘と、彩を守りたい気持ちの間で押しつぶされそうだったのだろうと陽子は思った。
そして、嘘をつきながら眠ったままの彩を支え続けた優一の気持ちを考えるとつらかった。


「優一はそれでいいの?」


「いいわけないだろ?」

優一は小さく答えた。そして力なく下を向いている。
陽子がなんて声をかけようか思案していると、急に優一が声を荒げた。

「いいわけないだろ。」

優一は、いままで閉じ込めてきた感情を爆発させた。

「俺はずっと彩のことが好きだった。ああやって眠ってしまう前からずっと。でも俺が3年間、どんなに彼女を思い続けようと、それは彼女にとっては一眠りしている間の、ほんの一瞬の出来事なんだ。眠りから覚めたときに昔と同じように大好きだった人がそばにいる、そんな彼女の幸せを邪魔できるわけないだろ。」

そういうと優一はその場に崩れた。

「本当にそうなの?優一の3年間の想いは無駄だったの?私はそうは思わない。
そんなの間違ってるよ。」

そういった陽子の瞳からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。

「現に今、彩は何も知らずに幸せに暮らしてるはずだ。これでいいんだよ。」

優一は落ち着きを取り戻し、力なくそうつぶやいた。その瞳は悲しみに満ちていた。



それからしばらく二人の間に沈黙が続いた。

「これからどうするの?」

その沈黙を破り陽子は尋ねた。

「実家に帰って、それから考えるよ。」

そう優一がいったあと、また沈黙が続いた。
陽子もなんて声をかけたらいいのかわからず、ただ立ちすくんでいた。

すると、そんな陽子の肩越しに陽の光が差し込み、優一の顔を照らした。

「朝日。」

優一は思いついたように呟いた。

「えっ?」

「次行くとしたら、朝日が綺麗なところがいいな。」

「なにそれ?」

「何かが始まる感じがするだろ?」







まばたきの季節(9)

その日優一は出かける前に、タンスの引き出しの奥にしまったものを取り出した。
包装された小さな箱だ。
今年こそはこれを渡そうと優一は心に決めていた。


病院に向かう途中いつもの花屋に寄った。
花屋の店員は優一の顔を見ると、いつものように花束を作ろうとしたが、優一がそれを止めた。

「今日は誕生日なんです。」

店員は、

「もうそんな時期ですか。」

そういうと、手慣れた様子で誕生日用の花束を作ってくれた。
優一はいつもより豪華な花束と、今日のために用意したプレゼントの箱を携えて病院へと向かった。








浩二は苛立っていた。
浮気がばれて彼女の家を追い出されたばかりだったからだ。
自分の女癖の悪さには我ながらあきれたが、どうもこういう癖は治らない。
行くあてもなく街を歩きながら、適当な相手はいないかと携帯のアドレスを次々と流した。
そのとき浩二は、出てくる女性の名前の中にふと彩の名前を見つけた。

「まだ消してなかったか。」

そうつぶやくと、浩二はそのデータを消去しようとした。

(そういや、あいつにはつらい思いさせてばかりだったな。)

そのとき浩二はふとそう思った。
そして、いまさらそんなことを思う自分に苦笑した。
消去のボタンに手がかかったときに浩二はもうひとつ大事なことを思い出した。
今日が彩の誕生日であるということを。








優一が病院に入ると、どこかいつもと雰囲気が違うことに気がついた。

(なにか大きな事件でもあったのだろうか。)

そう思いながら優一は彩の病室へと向かった。


彩の病室の近くまで行くと、入口のあたりで人が忙しなく動いている。
優一が部屋のほうへ近づくと、不意に彩の声が聞こえた気がした。


そのとき優一の胸が高鳴った。彩が目覚めたのかもしれない。

なにかあったのかと入り口に群がる野次馬を掻き分けて、優一は病室へ急いだ。

部屋のほうを覗き込むと、群がる人の肩越しに上半身を起こした彩の姿が見えた。
優一は大声で呼びかけたかようとした。しかし息が詰まって思うように言葉が出ない。

一度息を整えてもう一度呼びかけようとしたとき、優一は絶望的な気分になった。


ちょうど彩は傍らに立つ男に力なく抱きついたところだった。



優一は手に持っていた、花束と包みをその場に落とすとなにも言わず病院を後にした。


ふらふらと力なく病院を出ると、空からなにかゆっくりと降ってきて優一の肩に落ちた。
振り返ると、すっかり紅葉しきった木が風に揺られ、はらはらとその赤い葉を落としていた。








陽子が店から帰る途中、ふと優一のアパートに目をやると、そこには引越しの車が停まっていた。
アパートの誰かが引っ越すのだろうと大して気にも留めなかったが、よく見ると荷物を運ぶ中に優一の姿がある。
陽子は驚いて優一のほうへ歩み寄った。


引越し業者は、優一と一言二言交わすと、荷物を積み終わったトラックに乗って走り出していった。
優一はそれを見送るとまた部屋に戻っていった。

陽子はそれを追い、部屋に押しかけると、

「どういうこと?」

優一に問いただした。

「どういうことって、引っ越すんだよ。」

「だって彼女は?」

「ああ彼女か。
彼女はもう病院にはいない。奇跡的に植物状態から回復して、今は家で療養してるよ。」

「じゃあ優一もそっちに引っ越すのね。」

「いや。
彩は今、他の人と幸せに暮らしてるはずだよ。
もう、俺には関係ないんだ。」

陽子には状況が飲み込めなかった。

「だってあなたが婚約者なんでしょう。」

優一は寂しそうな顔で陽子をみた。
そして静かに口を開いた。

「君にも迷惑をかけたね。いろいろ振り回してしまってすまなかった。」

「だからどういうことなの?」

陽子は語気を強めた。
優一は一つ大きくため息をついて諦めたように語りだした。
彼女と出会った日のことから、あの事故の日のことまで全てを。












誕生日の当日、優一は彩からの電話を待っていた。
彩の両親は車で来ていて、彩と食事をしてからこちらをたつ予定らしい。
両親を見送ったあと、彩のほうから連絡してくれることになっていた。


連絡を待ちながら、優一は後部座席に目をやった。
そこには花束と、今日のために用意したプレゼントが置かれている。



急に誕生日を祝えることになったときに優一は正直悩んだ。
彩が喜ぶプレゼントはなんだろう。優一は必死で考えたが、いい物が思い浮かばなかった。
いっそのこと、高史にでも助言を頼もうかと思ったが、やはりそれは気恥ずかしい。

あてもないままブラブラと店をまわっていると、小さなハートのついた銀のネックレスが目にとまった。
優一はどこかでそのネックレスを見かけた気がして、必死で自分の記憶を手繰り寄せた。
そしてしばらく考えて、ふとあることを思い出した。

優一は迷わずそのネックレスを選び、それを大事そうにしながら店を後にした。


これを受け取ったときに、彩はどんな顔をするだろう。
そう考えるだけで、優一の顔は綻んだ。



そんなことを思いながら優一が携帯とにらめっこをしていると10時を回った頃、やっと携帯がなった。
しかし、それは彩ではなく高史からだ。

こんなときに何の用だと無視しようかとも思ったが、電話のベルは切れることなくなり続ける。
ついに根負けして優一は電話を取った。

「もしもし。悪いけど今忙しいんだ。」

そう口にしようとする優一を遮るように、高史は電話口で叫んだ。

「優一大変だ、早く病院に来てくれ。」







まばたきの季節(8)

彩と元彼がよりを戻してから数日後、大学に行くと優一を見つけた高史が食いかかってきた。

「おい香織から聞いたぞ。
彩ちゃんが元彼とよりを戻したってどういうことだよ?」

「そのとおりだよ。何か問題でもあるのか?」

優一は目を合わさずに答えた。

「だからあれほど、しっかり捕まえとけって言っただろうが。
なにやってんだよ。」

「関係ないだろ。」

優一は声を荒げる高史に、あくまで冷静に答えた。

「香織たちも応援してたんだぞ。
やっと彩ちゃんが元彼から解放されるかもしれないって。それなのになんだよ。」

他人事のように振舞う優一に痺れをきらし、高史は優一の襟首をつかんだ。

「そんなこと知るかよ。俺の勝手だろ。」

優一は静かに高史をにらみつけた。

「もういい。」

そう言って高史は去っていった。




それから、彩と連絡を取ることはなかった。
おまけに高史との関係も気まずくなっていた。
そのころの優一は、ただ淡々と時間が過ぎていくのに身を任せていた。


そうして彩のことを忘れかけたころ、いや、正確に言うと彩のことを考えないふりが板についてきたころ、大学の教室にいると高史が隣に腰を下ろした。

「なあ、お前まだ彩ちゃんのこと好きか。」

高史は優一の顔を見ずに、ただそう一言呟いた。
優一はドキリとしたが、できるだけ素っ気ないふりをした。

「なんで急にそんなこと聞くんだよ。」

「また彩ちゃん彼氏と別れたみたいだぜ。」

優一は精一杯関心のないふりをしたつもりだったが動揺を隠せなかった。

「やっぱりな。まだ好きなんだろ?
実はな、もうすぐ彩ちゃんの誕生日らしいんだ。
彼氏と別れたばっかで女一人の誕生日なんて寂しいだろ?お前が祝ってあげたらどうだ?」

優一は動揺して、その言葉にうまく反応することができなかった。
そんな優一をちらりとみて高史は、

「ま、ちゃんと伝えたからな。あとどうするかはお前しだいだ。」

そういって去っていった。

優一はちょっと考えてから、

「ありがとう。」

と、高史の背中に投げかけた。
高史は振り向かずに“がんばれよ”と手を振って去っていった。





その後、優一は意を決して彩に電話した。

「久しぶり。」

「久しぶり。」

お互いにぎこちなく、少しの間沈黙が続く。

「何か用?」

その彩のことばを聞いた後、優一は受話器を口から放し、一度深呼吸をした。

「もうすぐ誕生日だろ。」

「知ってたんだ。」

「香織ちゃんたちに聞いてね。」

「そう、じゃあ彼のことも聞いたんだ?」

「ああ」

「そっか」

また少し沈黙が続いた。

「それで、

もしよかったら俺に祝わせてくれないかな、夕飯でもいっしょにどう?」

彩は少し考えているようだった。

「ごめんなさい。

その日は両親が田舎から出てくるの。それで夕食も一緒に食べることになってるから。」

(やはり駄目か…)

優一は落胆した。

数秒の沈黙のあと彩が口を開いた。

「でも、そのあとなら。

もちろん優一がよければだけど。」

「いいに決まってるだろ、じゃあまた連絡するよ。」

一度断られたと思っただけに、優一はまた彩と会える喜びを隠せなかった。
その後もしばらくもう切れている電話を、大事そうに眺めていた。










その日も病院に着くと、優一は傍らの木に目をやった。
もうかなり紅葉してきている。
こうして、病院へ通うようになってから、3度目の紅葉だ。
優一は、あと何度この紅葉を眺めることになるのだろうかとふと考えた。


病室につくと優一は部屋の窓を開けた。
冷たい風が部屋に吹き込み、彩の髪を揺らす。
優一はその髪をそっと撫ぜた。
そして彼女の白い頬に触れた。

「彩。」

そう呼びかけると、優一は彼女の唇にそっと顔を近づけた。
しかし、その唇には触れることはできなかった。

「彩。俺は君が目覚めることを望んでいるんだろうか。それとも俺は…。」

優一は何も言わぬ彩に力なく問いかけた。



病院からの帰り道、優一は見覚えのある顔を見かけたが、そのままやりすごそうと下を向いた。
しかし、すれ違う瞬間女連れのその男は優一に気づいたらしく、声をかけてきた。

「あんた確か…、やっぱりそうだ。」

男は優一の顔をまじまじと覗き込んだ。

「あんたまだ、彩のところに通ってるらしいじゃん。いい加減彼女に関わるのやめたら?彩もそんなこと望んじゃいないよ。もっと自分の人生大切にしなよ。」

優一はにらみ返した。なにか言い返そうと思ったが、言い返す言葉はなかった。

そのまま立ち去ろうと2、3歩進んだところで思い出したように優一は言った。

「もうすぐ。」

「え?」

「もうすぐ彩の誕生日だ。たまには見舞いに行ってやれよ。」

それを聞いた男は、あきれたようにため息をつくとそのまま去っていった。










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