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東京電力福島第一原発の事故による被曝(ひばく)問題をめぐり、福島県や自治体が住民に対して進めていた内部被曝の検査結果が出始めた。健康被害が懸念される数値は現時点では出ていないが、長期的に住民への健康影響を見守る必要がある。(=大岩ゆり、林義則朝日新聞記者)
8日午前7時。福島県庁前を出発する大型バス3台は同県飯館村の子供たち約100人で満席だった。向かったのは茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構。内部被曝線量も測れる計測器ホールボディーカウンター(WBC)による検査を受けるためだ。
小学3年の長男に付き添った40歳代の母親は「あの子の被曝線量が高ければ、親として早く避難させなかった自分を責め続けることになる」と話した。一家が計画的避難区域に指定された飯館村から福島市内に避難したのは5月。それまで約2ヵ月間、毎時3〜5マイクロシーベルトの空間線量だった村内にいた。文部科学省が屋外活動時間を制限する校庭の基準、毎時3.8マイクロシーベルトと大きな差が無い数値だ。
原子力機構の検査は、福島県の原発事故の影響を見る県民健康調査の一部。夏休みに入り連日、子供を含め約90〜100人が検査を受けている。事故直後、比較的、空間線量が高かった飯館村、浪江町、川俣町の住民約2800人が今月末までに受診する予定だ。
今後数十年続く県民健康調査は6月、放射線医学総合研究所(放医研、千葉市)で予備調査が始まり、約180人がWBC検査などを受けた。
内部被曝は呼吸や飲食を通じて体内に取り込んだ放射性物質によって、体内の組織や臓器が放射線を浴び続けることだ。検査では、体内から出る放射線を測り、どれだけの放射性物質を取り込み、その影響がどれだけ続くのかを評価する。
大人は今後50年間、子供は70歳までの被曝量を推計する。放医研の内部被曝線量評価では全員1ミリ(1千マイクロ)シーベルト未満だった。半数以上は放射性物質は検出されなかった。
二本松市などが独自に実施した検査も県民健康調査と同じ評価手法で、いずれも1ミリシーベルト未満だった。通常、日本人は大地などから年平均1.5ミリシーベルト被曝している。浪江町から郡山市に避難している男性(42歳)の次男(5歳)も原子力機構の検査で生涯の内部被曝線量は1ミリシーベルト未満だった。男性は「県外避難が必要ないと確認できた。ここで生活を続けられると覚悟を決めた」と話している。
福島県の県民健康調査は今月中旬に本格化する。最も大規模なのが全県民約200万人の総被曝線量の推計だ。なかでも内部被曝の評価は大きな課題だ。予備調査を始めたのが6月下旬と遅くになってからで体内に残っていた放射性物質が少なく、推計の元になるデータが乏(とぼ)しい。
放射性物質は自然に量が半分になる期間が決まっている。その期間を半減期と呼ぶが、30年のセシウム137でも、尿や便などに混じって体から排泄(はいせつ)する分も考慮した実効半減期では31歳以上では89日になる。今後の検査を急がなければならない。
放射性ヨウ素の実効半減期は成人で7日と特に短い。6月下旬時点ですでに県民の体内から消えており、事故当時、どれぐらい被曝したのか今では評価が難しい状況だ。放射性ヨウ素が住民の体内に残っていた3月下旬に実施した検査は少ない。原子力災害現地対策本部が飯館村と川俣町、いわき市の15歳以下の約1150人を対象に実施した甲状腺被曝の検査程度だ。
今月中旬に保護者に結果が伝えられることになった。当時、原子力安全委員会が定めた基準以上に被曝した子供はいなかったと口頭で伝えられていた。ただし、低い線量の被曝の影響は未解明な部分が多い。福島県では、18歳以下の未成年36万人について、放射性ヨウ素が集まりやすい甲状腺に異常が起きないかどうか生涯にわたって調べる。
「校庭の汚染土 進む除去」
東京電力福島第一原発事故で、福島県内の公立の小中学校、養護学校、幼稚園、保育所の半数に当たる584校が、汚染された校庭や園庭の土を取り除く工事を実施したか、計画していることが朝日新聞の調査で分かった。このうち97%が夏休み中に終える見通しだ。除去で生じる土の量は約18万立方メートルにのぼるが、処理のめどは立っていない。(=東山正宣、後藤洋平、小寺陽一郎朝日新聞記者)
全59市町村に、公立の計1160校の実施状況を聞いた。土の除去を実施または計画中なのは25自治体の584校。このうち、10日までに完了したのが299校、おおむね今月末までの夏休み中に終えるめどが立っているのが268校。合わせると97.1%が2学期始業前に終える見通しだ。
土の除去を急ぐ自治体側には、子供の県外転出を防ぎ、避難している子供が2学期に戻るきっかけにしたいとの考えがある。
「放射能除染 地域一体で」
福島第一原発事故で避難している住民の帰宅に向けた課題として、飛散した放射性物質を取り除く「除染」に注目が集まっている。除染方法を試す実証実験が福島県の各地で進みつつある。
日本原子力研究開発機構(JAEA)は福島県の学校や、住宅地のモデル事業として除染方法の実証実験を進めている。除染のターゲットは福島第一原発の事故で大気に放出された放射性セシウムだ。放射能が半分に下がる半減期が約2年のセシウム134と約30年のセシウム137の二つがある。どちらも土の表面に降り積もっている。実験で表面の土を50センチ下の土と入れ替えると、表面の放射線量は10分の1に下がった。
セシウムは粘土や鉱物に結び付くとなかなか離れない。土中に残るセシウムをどうするかも課題だ。農林水産省は飯館村で土壌中の放射性物質を吸収するというヒマワリやナタネの栽培の実証を進めている。栄養分を多く含む土を余りとり除かなくて済むとしている。土そのものを洗浄する研究も進みつつある。
住宅地でも除染が必要になっている。汚泥が集まる排水溝や、放射性物質が雨水で運ばれて溜(た)まっていた場所、雑草、コンクリートやレンガにセシウムなどがくっついているためだ。コンクリートやアスファルトにしみ込むと、高圧水洗浄でも落とせず、表面を削りとらないといけない。
伊達市の民家3軒とその周りでの実験では、3日かけて家の周りの土を入れ替え、屋根や雨どいを水で洗ったりした。それでも家の中の線量は4割少なくなっただけだった。JAEAの戸谷一夫理事は「近所の家などから来る放射線もある。効果を出すには、地域全体で除染に取り組むことが必要だ」と話した。
日本原子力学会で除染の分科会主査を務める井上正さんは「除染は時間との勝負。今年中にモデル事業でノウハウを積み重ね、2~3年程度がめどとなるだろう」と話す。本格的な除染は時間がかかるため、田畑が荒れたり、仕事に戻るのが難しくなったりする。まずは自宅やその周りなど生活圏の除染を優先して進めると良いという。学会として除染を一元化して加速させる「環境修復センター」の設置を国に求めている。
学会は、国内外で除染に有効とされる方法について効果や課題など情報を集めている。たとえば、福島の場合は放射性物質の汚染範囲の75%を森林が占めている。森林は降ってくる放射性物質が付着してたまりやすく除染が難しい。秋にかけて落ち葉を回収すれば、葉についていた放射性セシウムが土に吸収されるのを防げる。
ただし、落ち葉を始め除染で出てくる廃棄物は今後の課題だ。最終的な処分方法は決まっていない。伊達市の実験では75トンの土が廃棄物として出た。学校でも、200メートル四方の校庭の表土をはぎ取れば2千立方メートルの廃棄物が出る計算になるという。
「公共事業、ボランティア・・・ 国民の分担が必要」
福島県伊達市の除染に助言している元・内閣府原子力委員長代理の田中俊一さんは「伊達市での除染の目安として、年間5ミリシーベルト程度を目標に考えている」と話す。(=杉本崇朝日新聞記者)
子供は大人よりも放射線への感受性が高いとされる。大人の被曝(ひばく)の限度を年間20ミリシーベルトとして、一緒に過ごす子供は3倍ほど感受性があるとして設定した。文部科学省の校庭の利用基準では年間20ミリシーベルトは、屋内にいて外より被曝量が少ない時間があることを前提に、1時間当たりの線量を3.8マイクロシーベルトにしている。4分の1の5ミリシーベルトなら、1マイクロシーベルト程度という計算になる。
「子供の被曝を心配する親が安心できるよう、生活圏全体の除染をする必要がある」とも話す。ただ、年間1ミリシーベルトを目指して除染するというのは、費用面からも人手の面からも非常に困難だという。
なぜ、避難ではなく除染なのか。田中さんは、「避難していても自宅に戻れるという希望は必要だ。除染は避難せずに済む手段の一つだ」と話す。避難所生活を続けるのは健康面での不安もある。避難を続けることで仕事を失う心配もある。
ただし、高齢者だけの家も多く、住民だけでは除染にも限界がある。田中さんは公共事業に組み込むことやボランティアの活用を訴えている。「除染は地道な作業だ。行政の支援も必要だし、多くのボランティアの手助けや住民の協力も必要だ。国民が分かち合える仕組みが必要だ」。
「課題は廃棄物処分 政府は方針を示せ」
放射性物質で汚染された住宅や学校、農地などの除染をどうやって早く進めるのか。政府の大枠の計画や道筋が見えてこない。とりわけ、放射性物質を含む土や廃棄物の処分方法を示せていないことが深刻な障害になっている。(浅井文和朝日新聞記者)
放射性セシウムは土の表面にとどまっている。学校の校庭でも農地でも放射性物質の除去には表土をはがすのが確実な策と言うのが大方の専門家の見方だ。日本土壌肥料学会は農業環境の汚染低減について「汚染の高い土壌では速やかな表層土壌の除去が求められる」と、提言を発表した。
実際には、取り除いた表土をどこで保管するかが問題になる。今のところ、校庭ではがした表土も学校敷地内に埋めるなどして保管するしかない。セシウム137は半減期が約30年。保管中も放射線が出続ける。
農地も表土除去のほか、植物に放射性セシウムを吸収させる方法なども提案されているが、汚染した植物の処分方法が確立しないと実用化に結び付かない。森林を除染するにも、大量の落ち葉や刈り枝の処分先がないと始められない。
除染は住民が安心して住み、農業を続けるために欠かせない。土や廃棄物を処分する「出口対策」は困難だが、政府が真剣に向き合わない限り前に進めない。
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