新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 故郷の犬
 メッセニアを三百年の隷従から解き放ち、宿敵スパルタを滅亡寸前に追い詰め、コリントスで立ちふさがるアテネ軍を撃破する。
 凱旋するテバイ軍の、目前に広がるその光景は、一変していた。
 沿道の民は歓呼してテバイ軍の将兵を迎え、諸国はこぞってテバイの威風になびき、先を争ってボイオティア同盟に加盟してきた。
 スパルタの覇権は崩壊し、テバイが名実ともにギリシア世界の覇者となったのだ。
 それは、テバイの歴史にとって特筆すべきこと。その空前の戦果に、テバイの人々は興奮し、熱気にうなされた。
 
 が、一時の熱狂が覚めると、一部の市民が騒ぎ始めた。遠征中のエパミノンダスの行為が国法に抵触するというのだ。
 その中心にいたのが、マギスという人物であった。
 彼は、アルキアス政権下、親スパルタ派の政治家として重きをなしたが、エパミノンダスやカロンらが政権を掌握すると、完全に蚊帳の外に置かれてしまった。彼は、それに強い不満を抱いていたのだ。
 その彼は、遠征中から、エパミノンダスをしきりに非難していた。
「遠征は冬に入ってはならぬこと、一年を超える場合には指揮権を更新しなければならぬこと、いずれも国法で定められておる。にもかかわらず、エパミノンダスは冬に入っても遠征を続行し、民会での指揮権更新の手続も怠った。彼の国法抵触は明らかである。彼を召還し、よろしく処罰すべきである」
 当初、その言は全く市民に相手にされなかった。
「スパルタの犬だったマギスがまた不平をこぼしている」
「犬は吠え続けるのが仕事よ」
 笑いものにされていた。
 ところが、城外に住む農民たちの間で、マギスに同調する声が大きくなっていった。
 ボイオティア平原を耕す農民は、戦時には重装歩兵や騎兵となり、頑強に戦い抜くことで有名であった。が、農民にとって、降水量の多い冬は、畑仕事に精を出さねばならない大切な時期である。それゆえ、冬に従軍を強いられないよう、法により、将軍の指揮権が制限されていたのだ。
 それなのに、冬の間ずっと従軍を強いられ、農民の間に不満がくすぶっていたのだ。
「息子が兵として駆り出されてしまったために、畑を満足に耕すこともできぬ」
「このままでは、実入りは期待できぬではないか」
 凱旋後、しばらくは沈黙を守っていたマギスは、こういう農民の声に力を得て、再び声高にエパミノンダスを非難し始め、ついに、裁判所に告発した。
 
 カロンは苦慮した。いや、彼も、エパミノンダスの行動が法に触れることに、とうに気付いていた。ために、遠征途上のエパミノンダスに帰国をしきりに勧めていた。
 が、そのたびに
『大事な戦機を前に退却することはできぬ。よきように取り計らってもらいたい』との返事が戻ってきた。
 やむを得ず、カロンは、問題が公にならないよう奔走し、人々の不満を鎮めていたのだ。幸いにも遠征が大勝利に終わり、彼は密かに安堵していたのだ。
(これで農民の不満も爆発することはあるまい。これほどの戦果を前に、誰もマギスの言に左右されることもないであろう)
 そう思っていた矢先の告発である。彼は慌てた。
 が、無視することもできない。彼は、マギスを招いて説得を試みた。
「エパミノンダス殿は国家の英雄。それを罪人として告発するのは、いかがなものか」
 カロンが諭しても、マギスは聞くところではなかった。むしろ、農民の支持を背景に強気になっていた彼は、激しく反発した。
「これは公正無比なカロン殿のお言葉とも思えぬ。法の前では何人も平等。英雄だからといって、法が曲げられるようなことを許せば、それは独裁にほかならぬ。貴殿は、アルキアスの独裁を倒した御仁。なのに、エパミノンダスの独裁ならばよいと申されるか!」
 マギスの主張は、それ自体は正論だ。英雄だから、国家指導者だからといって、法の適用を拒むのは、まさしく独裁。
 カロンは反駁できなかった。告発状を受理せざるを得なかった。
 
 やがて、裁判の日がやってきた。
 エパミノンダスは、出廷前に、彼と共に訴えられた他の被告、スパルタ遠征に将軍として付き従ったペロピダス、メロン、ゴルギアスに言い含めた。
「私に考えがあるゆえ、今回のことは、全てこのエパミノンダスに命令されてしたこと、と主張するのだ」
 ペロピダスは、エパミノンダスの心中を察していたため逆らわなかった。
 が、メロンとゴルギアスは血相を変えた。
「そのような卑怯なことはできません!」
 二人は、エパミノンダスが何と言っても首を縦に振らない。士たる者のなすべきことではないというのだ。
 見かねて、ペロピダスが口を挟んだ。
「大丈夫だ。このテバイに、エパミノンダスを有罪にできるほどの人間はいないさ」
 二人は、不承不承頷いた。
 間もなく四人が出廷し被告席に着くと、異様なざわめきが起きた。マギス派からは歓声が、支持者からはうなり声にも似た抗議の声である。
 スキピオとダイファントスも傍聴席にあって成り行きを見守っていた。
 スキピオは、体を硬くして、目を大きく見開いて法廷を凝視していた。
(これは異常だ。祖国の危機を救った英雄を罪人として裁くなど)
 隣のダイファントスも大いに憤慨していた。
「エパミノンダス殿を有罪にすれば、俺様がただじゃおかん」

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農民は雨の多い冬に畑を耕やすので従軍を禁止し将軍の指揮権を制限した法律を作っていたのですか!元老院の知恵でしょうか?ギリシャ政治の片隅を覗いた気分で感心していました!お元気でね!

2008/1/27(日) 午後 11:55 HIROKYO

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地中海性気候のギリシア・ローマは、冬に降水量が多かったことから、自然と休戦期に入ったとの記述があります。
エパミノンダスが告発されたことは多くの記事が残っておりますので、はっきりした条文は分かりませんが、法があったことは確かなようです。

2008/1/28(月) 午前 8:04 Dragon


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