新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 イアソンの死(続き)
 間もなく、フェライの街で大閲兵式が挙行された。
 テッサリア全土から集められたイアソンの兵が、街の大通りをずんずん進んでいく。その足並み揃えた行進は、彼らが鍛え抜かれた戦士であることを示していた。
 イアソンの軍勢は、アテネやテバイと異なり、傭兵だけで構成される常備軍であった。即ち、農民や市民からの徴募により動員された素人集団ではない。給与を貰って戦う、戦闘の専門家たちだ。
 彼らは、イアソンの前まで進むと大いに気勢を上げた。イアソンは、その働きに応じて給与を惜しまず支払うため、兵の間での人望は非常に高かったのだ。
 将兵の意気盛んな様子に、イアソンはたいそう御満悦だ。
「アレクサンドロスよ、このわが軍の威容はどうじゃ。スパルタの重装歩兵部隊も、テバイの神聖隊も敵うまい」
「はっ、仰せの通りかと存じます」
 イアソンは、沸き起こる兵の歓呼に応え、立ち上がり前に出た。
「勇猛果敢な将兵たちよ!余は、汝らの忠誠を称え、勇気を賞し、その労苦に必ず報いるであろう!」
 再び割れんばかりの歓声と拍手と、イアソンを称える言葉が降り注がれた。
 
 閲兵式の後、イアソンは、民衆の請願を受けた。
 久しく独裁制が敷かれているフェライでは、民衆が意見を言う場が全くなかった。だから、人々は、この時とばかりに支配者イアソンの前に行列をなした。
 イアソンは、人々の請願に対し、終始、上機嫌に耳を傾けた。
 貧困に苦しむ老夫婦には、
「それは困ったことだの。この老夫婦に、金1000ドラクマを与えてやれ」と言い、
 娘の病気に涙を流す父親には、
「それはいかんの。この娘に、治療を受けさせてやれ」と典医による治療を指示した。
 その後も、イアソンは、請願者たちに大盤振る舞いしていった。その源の財力は、彼が人々から不法に奪取した権力に基づくが、独裁統治に慣らされた人々はその点には盲目である。従って、請願者たちは、イアソンの徳を讃え、感謝して下がっていった。
 
 次に現れたのは数人の若者たちだった。なにやら、いがみ合いながらイアソンの前に現れた。
「汝らは、どうしたのじゃ」
「は。実は、父が亡くなったのですが、この兄が私をのけ者にして、財産の相続を行おうといたします。それゆえ、イアソン様に、公正な裁きをしていただきたいと思ってまいったのです」
「ふむ。そのような訴えごとは裁判所の仕事であるが、ちと待て。法典を調べてみよう」
 と、イアソンが後ろを振り返って本をとろうとした。
 その時である。
 若者たちの人相は急変し、一斉にイアソンに飛び掛った。
 まさに一瞬だった。衛兵が異変に気付いて制止しようとした時には、若者たちの懐剣はイアソンの胸を深く貫いていた。
 イアソンは、一言も発する間もなく絶命した。
 若者たちは、無我夢中に、イアソンの体を滅多刺しにした。
「親の仇を取ったぞ!思い知ったか、この独裁者め!」
 若者たちは血にまみれた顔を輝かせた。
 どうやら、イアソンの粛清により親を失った遺児たちのようだ。
「うぬ!この痴れ者どもめ!」
 若者たちは、その直後、怒り狂った衛兵たちに滅多斬りにされてしまった。
 テッサリアに君臨したイアソン。その最期はいとも呆気ないものであった。


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