|
https://www.blogmura.com/ にほんブログ村
↑
ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)
イアソンの死(続き)
間もなく、フェライの街で大閲兵式が挙行された。
テッサリア全土から集められたイアソンの兵が、街の大通りをずんずん進んでいく。その足並み揃えた行進は、彼らが鍛え抜かれた戦士であることを示していた。
イアソンの軍勢は、アテネやテバイと異なり、傭兵だけで構成される常備軍であった。即ち、農民や市民からの徴募により動員された素人集団ではない。給与を貰って戦う、戦闘の専門家たちだ。
彼らは、イアソンの前まで進むと大いに気勢を上げた。イアソンは、その働きに応じて給与を惜しまず支払うため、兵の間での人望は非常に高かったのだ。
将兵の意気盛んな様子に、イアソンはたいそう御満悦だ。
「アレクサンドロスよ、このわが軍の威容はどうじゃ。スパルタの重装歩兵部隊も、テバイの神聖隊も敵うまい」
「はっ、仰せの通りかと存じます」
イアソンは、沸き起こる兵の歓呼に応え、立ち上がり前に出た。
「勇猛果敢な将兵たちよ!余は、汝らの忠誠を称え、勇気を賞し、その労苦に必ず報いるであろう!」
再び割れんばかりの歓声と拍手と、イアソンを称える言葉が降り注がれた。
閲兵式の後、イアソンは、民衆の請願を受けた。
久しく独裁制が敷かれているフェライでは、民衆が意見を言う場が全くなかった。だから、人々は、この時とばかりに支配者イアソンの前に行列をなした。
イアソンは、人々の請願に対し、終始、上機嫌に耳を傾けた。
貧困に苦しむ老夫婦には、
「それは困ったことだの。この老夫婦に、金1000ドラクマを与えてやれ」と言い、
娘の病気に涙を流す父親には、
「それはいかんの。この娘に、治療を受けさせてやれ」と典医による治療を指示した。
その後も、イアソンは、請願者たちに大盤振る舞いしていった。その源の財力は、彼が人々から不法に奪取した権力に基づくが、独裁統治に慣らされた人々はその点には盲目である。従って、請願者たちは、イアソンの徳を讃え、感謝して下がっていった。
次に現れたのは数人の若者たちだった。なにやら、いがみ合いながらイアソンの前に現れた。
「汝らは、どうしたのじゃ」
「は。実は、父が亡くなったのですが、この兄が私をのけ者にして、財産の相続を行おうといたします。それゆえ、イアソン様に、公正な裁きをしていただきたいと思ってまいったのです」
「ふむ。そのような訴えごとは裁判所の仕事であるが、ちと待て。法典を調べてみよう」
と、イアソンが後ろを振り返って本をとろうとした。
その時である。
若者たちの人相は急変し、一斉にイアソンに飛び掛った。
まさに一瞬だった。衛兵が異変に気付いて制止しようとした時には、若者たちの懐剣はイアソンの胸を深く貫いていた。
イアソンは、一言も発する間もなく絶命した。
若者たちは、無我夢中に、イアソンの体を滅多刺しにした。
「親の仇を取ったぞ!思い知ったか、この独裁者め!」
若者たちは血にまみれた顔を輝かせた。
どうやら、イアソンの粛清により親を失った遺児たちのようだ。
「うぬ!この痴れ者どもめ!」
若者たちは、その直後、怒り狂った衛兵たちに滅多斬りにされてしまった。
テッサリアに君臨したイアソン。その最期はいとも呆気ないものであった。
|