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波濤の快進撃
総勢一万のテバイ軍は北上を開始した。総司令官にペロピダス、神聖隊の司令官にスキピオ、副司令官をイオライダス、騎兵部隊はダイファントスが指揮をとり、イスメニアスが重装歩兵部隊の将として続いた。
諸国の軍勢が、続々、途中で合流した。見る見る膨れ上がり、ファルサロスに近付く頃には、その兵力は三万の大軍勢となっていた。
そのテバイ軍を、手ぐすねひいて待っている男がいた。
フェライのアレクサンドロスだ。
彼は、イフィクラテスの要請を受け、テバイの側面を衝くつもりで、スコトッサの街に二万の大軍を進めていた。そして、今、さらに西に向かって兵馬を進めていた。
「このたびこそ、テバイに一泡吹かせてやろうぞ」
イフィクラテスの書状には、マケドニアだけでなく、アテネもスパルタも一斉に立ち上がるとあった。そのため、彼は大いに勇気付けられ、怨み重なるテバイに大鉄槌を下すつもりで、全兵力を動員して出撃してきたものだ。
「テバイの軍勢がマケドニアに向かう途上を狙って、側面から総攻撃をかける。さしものペロピダスもどうしようもあるまい」
が、彼のそんな思惑を吹き飛ばすが知らせが飛び込んできた。
テバイの様子を窺うために、国境に出していた物見が慌てて帰ってきたのだ。
「申し上げます!」
「どうした」
「テバイとテッサリア諸国の連合軍三万が、こちらに殺到してまいります!」
「な、なに!」
アレクサンドロスは愕然とした。
と同時に、本営の幕舎も騒然となった。フェライの将たちは、猛獣を待ち伏せた猟師が、その猛獣に襲われたように狼狽した。
ペロピダスは、アレクサンドロスの裏をかき、全兵力をもって攻めかかってきたのだ。
「むう…。てっきり、一路マケドニアを目指し、北上するものと思うておったが…」
「閣下!味方の士気も、これでは奮いませぬ。いったん、スコトッサの街に退却しましょう。ここを襲われては大混乱となります!」
アガトクレスが吼えるように進言すると、アレクサンドロスは我に帰り、
「おう、そうじゃ。直ちに退却じゃ」と慌てて命じた。
フェライ軍は総退却に取り掛かった。
が、テバイ軍の進撃の速さは、彼らの予想を遥かに超えていた。
退却する背後から、兵の絶叫に近い声が敵軍の接近を知らせた。
「テバイ軍の先鋒が背後に迫っております!」
「なに!もう現れたのか!」
アレクサンドロスが後方を振り返ると、ダイファントス率いるテバイの騎兵部隊が、土煙をもうもう上げて、みるみる追いついてくる。
「いかん、ここで追いつかれては大変だ。急げ!急いでスコトッサに入るのだ!」
アレクサンドロスをはじめ、フェライの将たちは、もう誇りも見栄もなく、ひたすら馬に鞭当てて逃げた。その恐怖は全軍に伝わり、戦わずしてフェライ軍は敗走を始めた。
フェライ軍は、なんとか、スコトッサの街まで辿りついた。
しかし、そこでも、驚く事態が待っていた。
「ややっ!街から煙が上がっておるぞ!」
彼が城門に近づくと、城壁の上に一人の将が現れた。
「これはこれは、アレクサンドロス殿。お待ち申しておりました」
「何奴だっ!」
「テバイの神聖隊司令官スキピオにございます」
「げっ!」
アレクサンドロスは絶句した。
スキピオは、テッサリア騎兵を率いて間道を駆け抜け、空き家同然のスコトッサを奪ったものであった。
「この街は、我らが頂戴いたしました。もはや閣下に勝ち目はありませぬ。速やかに我らの軍門に降ることをお勧めいたします」
物言いこそ丁重だが、無条件降伏を迫るものに他ならない。
アレクサンドロスは赫怒した。
「黙れ!こそこそ兵を動かし、人の領土に入り込みおって!」
「ははは。我らの隙を窺って、背後から攻撃しようとしていたのは誰か」
スキピオの表情は、みるみる怒りのものに変わり、口調も一変した。
「盗人猛々しいとは汝のことだっ!さあ、勇敢なるテッサリアの将兵よ、門前に立つ盗人に、たっぷり投槍の馳走をして差し上げろ!」
次の瞬間、無数の投槍がアレクサンドロスの周りに雨あられと降り注いだ。たちまち、フェライ兵がばたばたと倒れた。
そして、城門が開き、スキピオを先頭に出撃してきた。
打って出てきたのはテバイ兵だけではない。スコトッサの市民も多く混じっていた。彼らも、アレクサンドロスの暴政を心底憎悪していたのだ。
その軍勢の先頭を駆けるスキピオが、
「乱賊アレクサンドロス覚悟!」と槍を上段に構えて迫ってくる。
「わあ」
アレクサンドロスは仰天した。
「閣下!逃げてください。ここは我らが防ぎます」
アガトクレスが叫んだ。そして、主を後方に下がらせると、
「閣下をお守りするのだ!槍衾を作れ!」と命じた。
フェライ兵がスキピオを取り囲んだ。
「雑魚はどけ!」
スキピオが、彼らの槍衾に囲まれている間に、アレクサンドロスは逃げ出した。
が、待ち伏せていたのはスキピオだけではなかった。主な道全てにテバイ兵が陣取り、待ち構えていた。
「おお、ここにも!」
そう。またしても前方にテバイ兵が現れた。将らしき男は、アレクサンドロスの姿を見ると小躍りした。
「お、そこに来るはアレクサンドロスだな」
「誰だ!」
「神聖隊副司令官イオライダスだ!いくぞ!」
ギリシア世界最強の神聖隊の兵士が、喚声をあげて突進してくる。
「あわわ」
アレクサンドロスは、慌てて馬首を向き変えて逃げ出した。
「待て!逃げるな!」
背後から絶叫が迫ってくる。アレクサンドロスは、生きた心地もなくなった。
彼は、その後、ダイファントスやイスメニアスにも追い掛け回され、済んでのところで討ち取られるところであった。
が、彼の悪運はまだ尽きていなかった。辛うじてフェライの城に逃げ込むことができたのだ。
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