新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 フィリッポスの日々
 テバイに連れて来られたマケドニアの王子フィリッポスは、パンメネスの家に預けられた。カロンとともにテバイの内政の任にあたる重鎮である。
「パンメネス殿こそ、テバイ人の中のテバイ人。フィリッポスもテバイ人を知ることができよう」
 エパミノンダスとペロピダスは、そう考え、カロンを介して要請したのである。
 そのパンメネスは、フィリッポスに、人質ではなく、家族として接した。
「王子よ。今日からは、ここを我が家と思って、ゆるりとお過ごしください」
 フィリッポスの顔には、常に冷ややかな暗い影が差していたが、主人パンメネスとその家族の思いやりに包まれ、次第に明るい色を取戻していった。
「ありがとう、パンメネス」
 彼は、ペラの王宮では孤独であった。
 確かに、彼には母エウリュディケと、二人の兄がいた。
 が、エウリュディケは太后という由々しき存在だし、長兄のアレクサンドロスとは年が離れ親しく語り合うこともなかった。唯一、すぐ上の兄ペルディッカスとは幼少期をともに過ごしたが、成長するにつれ、長兄アレクサンドロスが暗愚ということもあり、互いに王位継承を意識してか、どことなく疎遠になってしまった。
 そんな彼に、パンメネスの家は、家庭の温かみを教えてくれた。
 フィリッポスは、主人パンメネスやその子どもたちと食事を共にした。
(人と会話しながら食事をするのがこれほど楽しいこととは…)
 彼はそのことを初めて知った

 そして、ある客が頻繁にやってくる。
「パンメネス殿!ペロピダスでござる!」
 そう。ペロピダスが、まるで食事の時間を見計らったかのように、よくやって来る。まるで食客だった。
「はは。ペロピダス殿は、我が家の食事の時間を、よくご存知でいらっしゃる」
「いや、たまたまでござるよ」
 ペロピダスは、けろりとして答えた。
「たまたまですか?そのたまたまが何度もありますが…」
 パンメネス、にやりとした。
 ペロピダスは愛嬌たっぷりの笑みで応じた。
「いや、私が、パンメネス殿への用を思い出すのがたまたま夕食時ということで…」
「はははは」
 主人パンメネスは、恰幅の良い体を大きくゆすって笑った。
 恐らく、ペロピダスは、それとなくフィリッポスの様子を見に来ていたものであろう。それに感づいているのかいないのか、フィリッポスはぶっきらぼうに
「あなたはいやしくも天下に名の轟いたテバイの将軍。家でたっぷりご馳走を食べればいいじゃあないか」といった。
「わが国は、君の国とは違い、人々と楽しく会話をしながら食事をするのを幸せとする。家で一人寂しく食事するなどもったいない」
 ペロピダスは、肉をもぐもぐ噛みながら言い返した。
 フィリッポスは、王宮で一人寂しく摂る食事を思い出して黙ってしまった。
 ペロピダスは、機知に富んだ冗談でパンメネス一家を爆笑させ、一体どこで仕入れてくるのかと思わせる出来事を次々披露し、パンメネス家の食卓の主人公となった。いつの間にか、フィリッポスも笑って聞き入っているのが常であった。

 フィリッポスはテバイで無為に時を過ごしていたわけではない。彼は、エパミノンダスやペロピダスもかつて通った学問所で、哲学や法律を学んだ。
 テバイはギリシア世界の覇者。学問を志す者も多く集まってきていた。ここで頭角を現せばテバイ国家で、またはテバイと同盟する自分の国に帰って出世できるからだ。
 テバイに連れて来られたのは彼だけではない。数十人の貴族の子弟も、フィリッポスに従ってやって来ていた。彼らも、フィリッポス同様、テバイの有力者に家に寄宿し、学問所に通っていた。
 とある日、その一人パルメニオンは、学問所の机の上で、うつらうつら居眠りをしていた。ほかの学生は、パピルス(古代の紙)の上に、熱心にペンを走らせていたのだが。
 教室に入ってきたフィリッポス、それを見ると、にっと笑った。
「パルメニオン、何をしているっ!」と体をゆさゆさ揺さぶった。
「えっ!」
 かわいそうに、パルメニオンは、狼に寝込みを襲われた兎のように仰天した。
 テバイに救援を求める使者としてやって来た、あの近衛将校パルメニオンだ。将来を嘱望されていることを知ったペロピダスが、『人質』の名簿に書き加えたものであった。
 フィリッポスは、手を打って笑った。
「ははは、そんなに慌てることないじゃないか」
「あ、王子でしたか。…まったく人の悪い」
「油断したお前が悪いのだ」
「ひどいなぁ。…が、王子は、よく欠かさず学問所に御通いなされますなあ」
「仕方がないさ。学問所に通わないと、居候先のパンメネス殿からテバイ政府に報告が上がり、たちまちペロピダスがやってきて説教するんだ。『王者たるもの、学問を積まねばならぬ』とな。だから渋々通っているのさ」
 といって、彼は、パルメニオンの隣の机に座り書物を広げた。
 が、その様子は、学問を嫌う子どもの姿ではなかった。生き生きとした表情だ。
(ふーむ)
 パルメニオンは、神妙な顔をして本に向かう王子を見て密かに感心した。
(いつも冷ややかな表情しか見せなかった王子が…。変われば変わるものよ)
 そう。学問に励むだけでなく、フィリッポスは、すっかり学問所の人気者になって、他の学生たちともいつも談笑していたからだ。

 やがて、仙人の如き学者が現れ、滔々と講義を始めた。
 フィリッポス、はじめは熱心に講義に耳を傾けていたが、学者がピュタゴラス学派の哲学を講じ始めると、たまらず、こくりこくりとやり始めた。ピュタゴラス派は、天地の原理を、数を基礎として説明するもの。眠くならない方が不思議だ。
 隣に座るパンメネスの瞼も落ちかかっていた。
「おい」
「は。なんですか、王子」
「もういいや、外に出よう」
「え、でも…」
「いいから。行くんだよ」
 フィリッポスは、ためらうパルメニオンを誘い、学問所をこっそり抜け出した。

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ゲストブックがありませんので、ここへ
いつも拝読させて頂いております。
お体ご自愛下さい。

2008/4/11(金) 午前 0:44 瑠

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こんばんは。
昔、児童文学でハムレットを読みました。
今、思い起こすと、それが様々なインスピレーションを自分に与えてくれたように思います。
読書嫌いの私に、懸命に勧めてくれた母親に、大変感謝しております。

ゲストブック、別に閉じていないんですけどね…

2008/4/11(金) 午前 1:44 Dragon

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フィリッポスがどのように活躍するのかが、今後を占いますね?傑作ぽち!

2008/4/11(金) 午後 11:35 テノール

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テノールさん、ありがとうございます。
フィリッポスは、誰もが知っている、あの…の父親でございます。
その名声に隠れていますが、フィリッポスも、マケドニア興隆の名君でございました。

2008/4/12(土) 午前 1:29 Dragon

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ストーリー共々画像を楽しませていただいております。
昨日かなりの画像を拝見しましたが、すばらしいですね。

2008/4/16(水) 午後 11:59 [ hana ]

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hanaさん、いらっしゃいませ。そして、いつもありがとうございます。
画像は、半分自前、半分借り物でございます(^_^)

2008/4/17(木) 午前 0:15 Dragon

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最初から読んでいます。

王子も人の子ですね^^授業中に眠くなるのですね(笑)

同じく私も草取りで疲れて眠くなりました^^

2008/5/14(水) 午後 5:25 jakki

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ジャッキーさん、ありがとうございます。
広そうな畑ですもんね。少しご同情、そして、大いにうらやましいです

2008/5/14(水) 午後 6:32 Dragon

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あ。ジャッキーさん、念のために申し添えますと、ここは第七章のはじめですので(もちろん、ここからでもかまいませんよ)。
もし、序章からお読みいただくときには、「総目次」の書庫をご参照ください。

2008/5/14(水) 午後 6:48 Dragon

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分りました^^今日ここに来てどれにコメントをしたのか
探しました(笑)

2008/5/15(木) 午後 4:05 jakki

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ジャッキーさん、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします

2008/5/16(金) 午前 4:04 Dragon


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