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スーサ条約締結後の顛末
スーサ和平条約締結。
ペロピダスらテバイ使節団が、輝かしい栄光に包まれ、市民の歓呼に迎えられたのとは対照的に、アテネ・スパルタ両国には深刻な衝撃が走っていた。
テバイの覇権承認。港湾都市オロポスのテバイへの割譲。
憤激したアテネの民衆は、民会議場に押し寄せた。
「なぜ、こんな条約を締結した!」
「条約を破棄しろ!」
テバイの覇権承認は、既成事実の追認にほかならないから、それほど苦ではない。が、オロポス割譲となると話は別である。
オロポスは港湾都市。海への出口を得たテバイが、アテネの独壇場であるエーゲ海に進出するであろうことが予測されたからであった。
テバイと僅か五十キロメートルしか離れていない地に位置するアテネが、独力で覇者テバイに対抗し得たのは、このエーゲ海を支配していたからだ。
従って、それを脅かすような取り決めは容認できるものではなかったのだ。
が、市民にも冷静な人物も少なくない。
「ならば、ペルシアと敵対するのか。北にテバイという大敵が控えるなか、さらに帝国ペルシアと戦うというのか」
その反論に、条約の批准拒絶を主張する声は次第に小さくなった。
そこで、非難の矛先は、交渉にあたったティマゴラス、対テバイ戦を指揮したカブリアスやカリストラトスらに向けられた。
まず、つるし上げられたのはティマゴラスであった。
彼は、告発されて、民衆裁判所に出頭を命じられた。
「ティマゴラスは、ペルシア王より莫大な贈り物を受け取り、任務を怠り、アテネの国益を著しく損なう条約を締結した。その罪、国家に対する反逆に等しい。厳罰に処すべきだ」
告発人の訴状朗読に、民衆は喝采した。
被告人席のティマゴラスは真っ青になった。
「被告人は、何か弁明がありますか?」
裁判官が尋ねた。
「あ、あります」
窮地に追い詰められてはいるが、自慢の雄弁がある。そのため、彼は、顔を青ざめさせつつも、どこか高をくくっているところがあった。
(アテネの市民は気まぐれ。腰低く弁明に努め、市民を讃えれば、何とかなる筈)
ティマゴラスは演台に上がった。
「今回の条約は、ペルシア宮廷内部の政争が絡み、私の力の及ばぬところで決まってしまいました。従って、ペルシア王の裁定に抗することは不可能。ただ、この条約により、テバイがわが国を侵すことはできなくなります。そう考え、苦渋を呑んで条約締結を決断した次第。英邁なる市民諸氏よ、どうか、私の苦衷をご理解いただきたい」
「贈り物を受け取ったのは?」
「それは儀礼上のものに過ぎません。スパルタのアンタルキダス、テバイのペロピダスも受け取っており、賄賂のような性質のものではありません」
涼やかな弁明に終始するティマゴラスに、一転、同情する空気が漂い始めた。
(ほ…。なんとかなったか)
ふうっと息を吐いたティマゴラスであったが、告発人は、にやとわらった。
「裁判長、本日証人を同道しております。尋問したいのですが」
「よろしい」
裁判官が傍らの役人に合図を送ると、廷吏が扉を開けて証人を法廷に導く。
証人が入ってきた。
その証人の姿を見ると、ティマゴラスは
「あっ!」と絶句した。
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