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アレクサンドロスの帰服
フェライの支配者アレクサンドロスは、妻テベから、テバイが和議に応じたこと聞かされ、狐につままれた顔をした。
「まことか、それは」
「はい。エパミノンダス殿は和睦に応じました。その条件は弟から…」
テベは弟ペイトラオスを振り返った。彼は姉に代わり、和議の条件を説明した。
「エパミノンダス殿は、領土をフェライとその周辺の地域に限ること、パガサイの港の管理権はボイオティア同盟に移行すること、フェライはボイオティア同盟に加盟すること、これが和議の条件であると申されました」
城を枕に討ち死にを覚悟していたのだ。国の存続が許されただけでよしとしなければならない。アレクサンドロスに否やのあろう筈がなかった。
「あなた。テバイは、フェライの叛乱を恐れています。そのため、エパミノンダス殿は、諸国の前で、あなたが不戦の誓いをなすことを求めております」
「ああ、分かった。何でもいうとおりにしよう」
テベは、夫があまりにも素直に頷くので薄気味悪くなった。
「本当に大丈夫?」
「なんだ。疑い深い奴だな」
アレクサンドロスは苦笑した。
「当たり前じゃないの。あなたは三度もテバイに敵対しているのよ。いえ、その間の策動も数え上げれば、もっと多く…。エパミノンダスじゃなくても、あなたを疑うわ」
「馬鹿だな、お前は」
「え」
「余がテバイに戦いを挑んできたのは天下を奪るため。エパミノンダスやペロピダスが憎いためではないわ。この一連の戦いで、テバイに勝ち目がないことが明白となった。ならば、あとは国の存続を図るのが指導者として当然の務め。そなたの言うとおりに、そしてエパミノンダスのいうとおりに唯々諾々と帰服する覚悟だ」
テベは、初めて夫の心底を覗くことができた面持ちだった。策謀ばかり張り巡らして、何を考えているか分からない夫、そうとばかり思っていた。しかし、アレクサンドロスにも、野心家なりの信念があったのだ。
それからしばらくして、アレクサンドロスは、僅かな従者を伴いフェライの城外のテバイの本陣に出向き、エパミノンダスの前で、無条件降伏を受け容れた。そして、テッサリアの人々の前で不戦を誓った。
儀式の後、形ばかりの宴が催された。が、それは緊迫した空気の中で行われた。テバイの将兵は、皆、ペロピダスを死に追いやった乱賊め、と憎悪の目で彼を見ていたからだ。自然と饗応役を命じられたフェイリダスただ一人が、アレクサンドロスの接待に当たる形となった。
アレクサンドロスは、そのような針のムシロを特に気にすることもなく、黙々と食事を摂り、酒を飲んだ。淡々とした様子だ。
エパミノンダスは感心した。
(ここまで肝の太い男も珍しい)
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