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身代わり
ペロピダス戦死。その報はギリシア全土を駆け巡った。
「なにっ!ペロピダスが戦死したと!」
アテネ政府は、驚愕と共に、大いなる喜びをもって受け止めた。
ティモテオス率いるアテネ海軍が、マウソロス軍を撃破し、サモス島を占領するという大戦果に沸いていたときに、さらにこの報である。
「今こそ、テバイから覇権を奪還する時」
カブリアスやイフィクラテスら首脳は、大いに喜んだ。
が、総帥ティモテオスは、一切喜ばなかった。敵と思い定めたものの、若きペロピダスは、彼の屋敷に逗留し、共に明日のギリシアの理想を語り合ったのだ。無邪気に喜ぶ気持ちになれよう筈がなかった。
さすが、カブリアスは、人の心の機微を心得ている。ティモテオスの許に近寄ると、
「華々しい働きの末の最期、さぞ英雄として本望だったことでしょう」といった。
「…うむ。彼の若き頃を知っておるが、智略に富んだ果敢な人物であった。惜しい人物を失った」
ティモテオスは、懐かしげな眼差しを浮かべた。が、すぐにきっとなった。
「が、それはあくまでも私情に過ぎん。この機を逃さずテバイに攻め込み、一気にテバイの優位を崩す。そして、アテネを旗頭とする新しいギリシアをつくるのだ」
「それでこそティモテオス殿でございます」
直ちに動員令が発せられ、たちまち大軍がアテネの街に集結した。
数日後、総司令官にカブリアス、副司令官にイフィクラテス、先鋒をフォキオン、カレスとする一万五千の大軍が出陣した。ティモテオスは、帰還したばかりということで、アテネの守備に回った。
アテネの大軍は北部の要害デケレイアに入り、そこからテバイを窺った。
カブリアスは、テバイ国内に放っていた物見から、つぶさに敵情を聞き取った。
「エパミノンダスは、味方を救援するため北方に進軍し、テバイにはカロンやゴルギアスらが留守を固めております」
「そうか。よく分かった」
物見の兵が下がっていくと、
「カブリアスよ」
イフィクラテスが声をかけた。
「なんじゃ、イフィクラテス」
二人は、傭兵隊長として、また、政治家として、時には反目しつつ、長く競い合ってきた。その二人が、はじめて行動を共にしていた。
「今こそテバイを討つときぞ。テバイが強大なのは、ひとえにエパミノンダスとペロピダス二人の力による。ペロピダス亡く、今や恐るべきはエパミノンダスただ一人。アレクサンドロスでは、エパミノンダスには敵うまい。エパミノンダスは、いずれフェライを平定して引き返してこよう。ならば、主力を率いて国を空けている今が唯一の絶好の機会」
そんなこと、カブリアスも分かりすぎるほどに分かっていたが、大きく頷いた。
幾度となくエパミノンダスにしてやられている。雪辱の思いが、そういう言葉となって現れたものだということが、痛いほどに伝わってきたからだ。
「どのように進路をとる。東のオロポス、西のキタイロンはテバイが押さえておる」
カブリアスが訊いた。
アテネとテバイの国境地帯を見渡すと、西のキタイロン山、東の港湾都市オロポスという要所には、テバイ兵が守りを固めていた。
イフィクラテスは、机の上におかれた地図を指し示して、
「今回の作戦は迅速を尊ぶ。まっすぐ北に進みアソフォス川を渡河して、一挙にテバイに迫るべきではないか」というと、カブリアスも頷いた。
「俺もそう考えていた」
「ふふ。珍しく意見の一致を見たようだな」
イフィクラテスがにやりと笑うと、カブリアスも笑った。
「たまにはそういうこともあってよかろう」
アテネ軍は直ちに北上を開始した。パルネス山脈を越えて、アソフォス川を渡り、タナグラを落とし、テバイにまっすぐ迫る進路である。
イフィクラテスの言うとおり、テバイの守備は薄く、アテネ軍は遭遇する小部隊を次々と撃破し、アソフォス川の南岸に進んだ。ここを越えれば、テバイまで僅かである。
カブリアスは、テバイに戻るエパミノンダスの進軍の速度を計算していた。
(いかに速くとも、エパミノンダスは、まだフェライであろう。仮に、直ちに攻略できたとしても戻ってくるのに…そう、十日はかかろう。その間にテバイを攻め落としてしまうのだ)
その時、斥候が戻ってきた。
「閣下!前方に敵軍が現れました。総勢三千。大将はカロンです!」
(留守部隊の主力だな。我が軍は一万五千で敵の五倍…。もらった!)
カブリアスは勝利を確信した。
「カロンなど物の数ではない。一気に蹴散らせ!」
アテネ軍は、テバイ軍に向かって殺到した。
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珍しく意見の一致を見たようだな ← のような武将がいるということは、アテネのバランス感覚の素晴らしさを見せますね
2008/10/2(木) 午後 6:34 [ hana ]
様々な人物が、アテネには登場しています。
政治制度の詳しい紹介は、本文ではしていませんが、最高官職は10人のストラテゴス(将軍)です。カブリアスもイフィクラテスもこれになっています。
ただ、「将軍」とはいっても、文官のような人もいたようで。
10人もいるので、今日の内閣に似たものともいえるかも知れませんね。
有権者であるアテネ市民は、ある程度のバランス感覚を働かせることもできたのではないでしょうか
2008/10/3(金) 午前 7:12