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<これまでのあらすじ>
ローマから、ギリシアの進んだ政治を学ぶために、覇者スパルタ(ラケダイモン)にやって来た少年スキピオ。抜群の武技を発揮し、スパルタ貴族への特進と、王女ユウポリアとの結婚を約束される。
しかし、奴隷の少女アウラを深く愛するようになり、アウラと共にスパルタから逃走するも、スパルタ兵にアウラを殺されてしまう。
アテネに亡命したスキピオは理想の国を捜し求めて、プラトンの学園アカデメイアの門を叩く。学問に精進し、ついにアカデメイア大討論会で、並み居る俊秀たちを抑えて優勝する。
が、エパミノンダスらと出会い、理想を共にするよう説得される。
様々に悩んだ末に決断した。
アカデメイアで約束された将来を捨て、エパミノンダスらの決起に参加するべく、独裁者アルキアスの支配するテバイに潜入したのであった。
エウロペとカドモス
エパミノンダスらの決起から、少し時間を遡る、紀元前379年秋。
テバイがスパルタ軍に占領されて三年が経過していた。占領軍のスパルタ軍は、街の中心カドメイアの丘にあるアクロポリスに陣取り、眼下の街を睨んでいた。
『カドメイア』と呼ぶのは、テバイの国がフェニキアの王子カドモスにより建国されたという伝説に由来する。フェニキアとは、現代の地中海東岸のレバノン一帯にあった国である。
カドモスが、遠いギリシアに来てテバイを建国したのには理由があった。
フェニキアの王アゲノルには、エウロペという一人の娘がいた。その輝く美貌は神も羨むほどであった。
そんな彼女に目をつけた人がいた。いや、人に似て人ではない。それは、ギリシアの最高神ゼウスだから。
「なんと美しい乙女よ」
彼は一目惚れした。が、すぐに彼女の許に行くことはできなかった。
ゼウスは、神でありながら浮気癖甚だしく、そのため、妻の女神ヘラの厳しい警戒が注がれていたからだ。ヘラは、ゼウスを虜にした女性たちに恐るべき報復を加え、妻をないがしろにする夫に、目にもの見せてきた。
「何ものも怖れぬ私だが、ヘラだけは怖い」
そう。彼は大変な恐妻家であった。
しかし、ある日、天上から、海岸近くで花摘みをしているエウロペの姿を見ると、矢も楯もたまらなくなり、彼は、妻の目を盗み、下界に降りていった。
オリンポスに住まう最高神の彼のこと。変幻自在に、自らを美しい牡牛の姿に変えると、そっとエウロペに近付いた。
彼女は美しい牡牛が、人懐っこい様子で近付くのに気付くと、
「あら、牛さん。何か御用」と嬉しそうに話しかけた。
すると、牛は王女に戯れるように体を押し付けるなどしていたが、しばらくして背を向けてしゃがみこんだ。
「なあに、牛さん。わたくしに背中に乗れというの」
彼女が笑顔でそう聞くと、牛はいかにもそうだといわんばかりに、尾を振った。
「暴れたりしては駄目よ」といいつつ、王女は、そっと牡牛の背中に乗った。
その途端であった。
牡牛は俄かに駆け出し始め、海の中に入り、ざぶさぶと泳ぎ始めた。
王女の家臣たちは大騒ぎして、船に乗り追いかけたが、たちまち振り切られた。
驚き恐怖したエウロペは、牡牛の背にしがみつき、
「牛さん!陸に戻って!」と叫んだ。
が、牛は陸地が見えなくなるほど離れても泳ぐのをやめなかった。
「お願い!牛さん!陸に戻って!」
彼女が悲嘆に暮れて懇願すると、
「エウロペよ、心配いたすな」と牛はいった。
驚くエウロペの横顔に、
「私はゼウスだ」と牡牛は自身の正体を明かした。
「そなたはギリシアの地に参り、私の子を生み、新しい国の母となるのだ」
これほどまっすぐで率直な口説き文句もないであろう。彼は、このような手口で、何人もの娘たちを口説き落としてきた。
エウロペは、相手が最高神ゼウスと知ると観念した。
ゼウスは、彼女の身をクレタ島に運んだ。彼女は、間もなくして、その地でゼウスの子を産んだ。その子は、ミノスと名づけられ、やがてクレタの王となったのである。
一方、エウロペが連れ去られたフェニキアでは大騒ぎになっていた。
エウロペの父フェニキア王アゲノルは、エウロペの兄で息子のカドモスを呼び出した。カドモスは智略に富み、武勇優れた若者であった。
「カドモスよ。そなたの知恵と武勇で、必ずエウロペを捜してまいるのだ。それまで国に戻ることは相成らぬ」
よほど娘のことを愛していたためか、父の命令は厳しいものであった。
が、カドモスは、その命令をむしろ望むところと感じ、
「かしこまりました。必ずや、妹を捜し出して見せます」というと、勇躍して、国を出てエウロペを捜し求めて諸国を歩いた。
しかし、その彼をしても、エウロペの足取りは杳として掴めなかった。彼と共に旅に出た母も、ついに旅の途中で死んでしまった。
彼は、彼方此方さまよううち、ギリシアの地に辿り着いた。
(困った。これは、デルフィに参り、アポロンの神にお伺いを立てるしかない)
途方に暮れた彼は、聖地デルフィに赴き、そこでアポロンの神託を乞うた。
すると、太陽神アポロンは気の毒そうに、また慰めるように、言葉を告げた。
「カドモスよ。汝にはまことに気の毒であるが、エウロペは、人の手の届かぬ地に行ってしまった。が、心配いたすな。そなたの妹は幸せに過ごしておる」
とはいっても、父王の言葉もあり、カドモス、手ぶらで帰ることはできない。
「わたくしは、これからどうすればよいのでしょう」
「そなたは、これから牛に会うであろう。その牛に付き従い、その牛が足を止めた場所に国を建てよ。その国は、いずれギリシアの人々の仰ぎ見る国家となるであろう」
その言葉に従い、カドモスは、神殿を出ると、果たして牛飼いに出会った。
(これだ。この牛の後に従えばよいのだ)
彼は、そう考えると、一頭譲り受け、その牛を追い立てて、その後をついて歩いた。
やがて、牛は、ある丘の上にまで進むと、疲れ果てて止まった。
カドモスは、神託に従い、そこに国を建てた。これがテバイである。
テバイの王となったカドモスは、故郷フェニキアの文字を改良して人々に伝えた。これがアルファベットの起源といわれている。肥沃な大地に、英邁な国主を戴き、テバイはたちまち豊かな国に発展していった。
こうして、カドモスの名が、テバイの丘の名前として、人々の記憶に残ることとなった。
しかし、建国から悠久の時を経て、この由緒正しきテバイは、スパルタ占領軍の後押しを受けた人々により支配されることとなった。
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こんなとこにゼウスが出てくるとわwwww
今日から第3章又ぼちぼち楽しく読ませていただきます♪
2008/6/26(木) 午後 9:30
らんらんさんいらっしゃいませ。そんな時間までお仕事ですか。お疲れ様です。
ゼウスにまつわる話は面白いですよ。
現代に生きる男たちも、身につまされるのではないでしょうか。
2008/6/27(金) 午前 7:42
今日、書店で見かけた「古代文明」にエパミノンダスのイラストと文の掲載が有り、あ!これだこれだと思いました。DRAGONさんのおかげで、名前を覚えましたよ。ぽち!
2008/12/14(日) 午後 11:04
テノールさん、ありがとうございます
どうも、アレクサンドロス大王や
ペリクレスの名前などに隠れて、
今ひとつ目立たない感があるエパミノンダスですが…
ギリシア世界を統一しようとした英雄であると考えています。
記録が散逸してしまい、
彼の事績に関する資料が乏しいのが残念ではありますが…
2008/12/15(月) 午前 8:34